昨年に引き続き農業重視を打ち出した全人代 (中国)





● マクロ経済政策では引き締め基調と格差是正策を継続

中国は、 3月5日から18日までの2週間、 北京で全国人民代表大会 (全人代: 中国の国会に相当) を開催したが、 96年が第9次5カ年計画の初年度に当たるこ とから、 例年以上に注目を集めた。  マクロ経済政策の面では、 ここ数年の課題となっている、 インフレ (サービス を除く小売物価の上昇率で計測) の抑制については、 年率10%前後 (95年実績は 14. 8%)、 また、 経済成長率 (国内総生産 (GDP) 伸び率で計測) については、 年率8% (95年実績は10. 2%) と、 引き続き抑制型の政策が打ち出された。  また、 経済発展が進んだ沿海部と、 成長の遅れた内陸部との経済格差是正が打 ち出されるなどして、 国民の不満を解消しようとする努力も窺える。  なお、 前例がないことから注目されたのは、 同時に掲げられた、 2010年までに 国民総生産 (GNP) を2000年水準の2倍にするとの 「努力目標」 である。 これは、 これからの15年間に、 改革・開放と近代的社会主義市場経済を完成に近づける強 い意志を、 前面に打ち出したものと言えよう。

● 2年連続の農業重視政策

 農業関係の主要計画目標としては、 糧食 (穀物 (食用+飼料用) と一部のイモ・ マメ類) の生産量が、 95年実績と同じ4億6千5百万トンとされた。  食料品の値上がりが激しいことや、 95年には、 かっての大手穀物供給国から、 トウモロコシを中心に2千万トンの輸入国に転じたことから、 また、 都市と農村 の所得格差に対する農民の不満に応える意味からも、 農業部門は昨年に引き続い て、 重点分野として位置付けられている。  マクロ農業政策の枠組みを定めたの は、 昨年9月の中国共産党中央委員会全国会議で採択された、 「2010年目標の提 言」 である。 同提言の指導方針では、 「農業を国民経済発展の首位に置く」 こと が明示されている。 また、 農業強化の重点事項として、 (1) 糧食、 油脂を中心とした生産力向上と農民収入の増加 (2) 農業科学技術の振興、 農業投資・投入の拡大 (3) 価格体系、 流通体系、 備蓄制度の整備 などの、 8項目の重要課題を挙げている。

● 農地確保、 効率向上、 投資拡大、 価格見直しが今年の課題

 これを受けて、 第9次5カ年計画第一年目の今年の重要項目が、 1月の中央農 村工作会議で既に決定されている。 それらの概要は次のとおりである。 (1) 農地基盤整備、 水利用体系の整備 (2) 糧食1億1千万ha、 綿花6百万haの作付け面積の確保 (3) 生産効率を高める栽培技術・品種の普及、 化学肥料の供給方法の改善 (4) 農業資本投入の拡大、 特別資金の設定、 農村金融体制の改革 (5) 糧食の買上価格の見直し、 共同販売組織の改革、 農民負担の軽減 全人代期間中、 中央政府農業当局者は、 糧食の国家買上価格を20%引き上げる予 定であると述べた。 中国では、 地方行政単位ごとに一定数量の糧食を生産し、 国 家に売り渡す義務がある。 この買上価格の大幅な引き上げは、 農民の生産意欲を 高めることが目的であるが、 一方では売渡価格に転嫁されることから、 食料品の 小売価格を押し上げて、 インフレ進行の元凶となるものである。 当局者は、 この インフレ要素は、 マクロ計画の10%前後に折り込み済みであると強調しているが、 インフレの危険を冒しても糧食増産と農民の不満に応えようとする点に、 中央政 府の強い決意が窺える。
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