特別レポート 

マレーシアの第7次5カ年計画 (マレーシア・プラン) −今後の農業・畜産の方向−

シンガポール長期出張者 末國富雄、 山田 理

はじめに


 東南アジアは、 低成長が続く世界経済にあって、 高成長を続ける数少ない地域 の一つである。 同地域は、 東アジアと並び、 世界経済の牽引車となっている。 な かでも、 マレーシアの発展は、 目を見張るものがある。 86年10月に投資促進法を 発表後、 輸出志向型製造業への免税、 資本出資比率の大幅自由化などを実施し、 外国資本の直接投資を導いた。  80年代半ばからの工業化の推進は、 ゴムやスズなどの一次産品を中心とした輸 出国であったマレーシアを大きく変えていくこととなった。 今や、 マレーシアは、 エアコン、 VTRや半導体の世界有数の輸出国となっている。  GDPの成長率も、 95年は9. 5%となり、 非常に高い成長率を誇っている。 これ で、 8年連続で7%以上の成長率を記録したこととなった。 1人当たりのGDPは、 およそ4千米ドルに達し、 ASEAN諸国の中ではシンガポールに次ぐ高いものとな っている。 シンガポールが、 非常に小さい国土しか持たず、 ほとんど農業生産を 行っていない特殊な国であることを勘案すると、 マレーシアのような成長は意義 が大きい。  高度経済成長が続く中で、 マレーシアは国としての自信を深めており、 2020年 までに先進国入りすることを目標の1つとしている。 また、 世界でも有数の超高 層のオフィスビルや新国際空港、 アジア最大の規模を誇る水力発電所の建設など、 こうしたマレーシア国民の自信に裏打ちされた大型プロジェクトが、 目白押しと なっている。  しかし、 マレーシアにも問題がないわけではない。 人口は、 ここ5年間で年 2.7%増加し、 やっと2千万を超えたところである。 しかし、 急速な工業化を図 って以来続いている労働力不足の問題は、 一層深刻なものになっている。 また、 経常収支とくに貿易外収支の赤字が拡大し、 問題となっている。  こうした中で、 政府は、 今年5月に、 マレーシアの発展の基本的な指針となる 第7次5カ年計画 (マレーシア・プラン) を発表した。 これは、 第6次計画が95 年に終了したことを受けて、 2000年までの期間における農業を含む全産業、 教育 及び通信など社会全般にわたるものとなっている。  本レポートでは、 第7次5カ年計画 (マレーシア・プラン) の具体的な内容を、 畜産を中心に農業全般について紹介するとともに、 マレーシアの畜産の現状と今 後の方向について報告する。

マレーシアにおける畜産の現状


 最初に、 マレーシアにおける畜産の現状を整理しておきたい。 畜産物の消費動向
 畜産物の消費動向を示すものとして、 「国民一人当たりの消費量」 (表1−1)、 「畜産物の消費量」 (表1−2) を掲げた。  食肉の消費は、 鶏肉が中心となって おり、 一人当たりの消費量は、 94年で32キロと既に日本の2倍以上の水準に達し ている。 以下、 牛肉、 羊肉の順となるが、 いずれも消費量は少なく、 鶏肉の消費 量との格差は非常に大きい。 豚肉の消費は、 国民の多くが信仰するイスラム教で 禁じられており、 中国系など一部の人々に限られている。 なお、 豚肉の一人当た りの消費量は、 マレー系の住民を除いて算出している。  畜産物の一人当たりの消費量は、 総じて経済成長による所得の向上を反映して、 年々増加している。 特に、 牛肉の伸びが著しい。 また、 既に高い消費水準にある 鶏肉も、 他の食肉と比較して安価であるとはいえ、 なお増加傾向を維持している ことは、 マレーシアの食肉消費の特殊性を示すものである。  一方、 鶏卵については、 既に日本とほぼ同水準の年間329個となっており、 こ こ数年横ばいとなっている。 また、 飲用乳についても、 近年、 LL牛乳などの流通 が増加しているものの、 粉乳が消費の中心となっており、 低い水準に留まってい る。 表1−1 国民一人当たりの消費量 ─────────────────────────────── 牛 肉 羊 肉 豚 肉 鶏 肉 ─────────────────────────────── 消費量 前年比 消費量 前年比 消費量 前年比 消費量 前年比 ─────────────────────────────── 90年 3.5 102.3 0.5 108.7 24.6 N.A. 20.3 91.9 91年 3.8 109.5 0.5 100.0 24.4 99.5 21.9 108.0 92年 3.9 100.8 0.6 118.0 25.9 105.8 28.3 129.1 93年 4.0 103.4 0.6 96.6 25.9 100.2 30.4 107.4 94年 4.4 109.5 0.6 105.3 31.8 122.5 32.6 107.1 ─────────────────────────────── ─────────────── 鶏 卵 牛乳・乳製品 ─────────────── 消費量 前年比 消費量 前年比 ─────────────── 310.6 116.5 38.5 94.5 397.4 127.9 55.6 144.6 338.9 85.3 52.0 93.5 326.0 96.2 46.9 90.1 329.0 100.9 33.7 71.8 ─────────────── 単位:鶏卵は個、その他はキロ 資料:農業省獣医局(DVS) 注1:輸入畜産物を含む 注2:牛乳・乳製品は、生乳換算ベース 注3:豚肉の一人当たりの消費量は、マレー系国民を除き算出 表1−2 畜産物の消費量 ───────────────────────────────── 牛 肉 羊 肉 豚 肉 鶏 肉 鶏 卵 牛乳・乳製品 ───────────────────────────────── 90年 50,874 7,283 150,093 296,240 4,532 561.1 91年 56,942 7,437 151,299 327,000 4,434 829.2 92年 58,619 9,035 162,282 431,600 5,165 792.4 93年 62,006 8,836 164,853 486,880 5,070 729.9 94年 69,317 9,509 178,872 518,450 5,237 535.7 ───────────────────────────────── 単位:鶏卵は百万個、牛乳・乳製品は百万リットル、その他はトン 資料:農業省獣医局(DVS) 注1:輸入畜産物を含む 注2:牛乳・乳製品は、生乳換算ベース 国内生産
 次に、 家畜の飼養頭数 (表1−3)、 畜産物の生産量 (表1−4) を掲げた。 飼養頭数、 生産量の推移は、 明確に2つのグループに分けることができる。  肉用鶏、 採卵鶏、 肉豚は、 規模拡大により生産性を向上させ、 所得水準に比し て消費量が多いマレーシア国内市場のほか、 シンガポールという大きな市場を得 て、 生産を伸ばしている。  一方、 水牛、 山羊などは大幅に減少している。 水牛は、 肉用牛とともに牛肉生 産に用いられ、 90年には牛肉生産の約20%が水牛の肉であった。 しかし、 94年に は、 15%まで減少している。  肉用牛の飼養頭数及び牛肉生産量は、 政府主導による振興策と91年から実施さ れた段階的な飼料関税の引き下げにより、 年4%程度の伸びで順調に増加してい る。 近年では、 民間資本によるフィードロットもみられるようになっている。  だが、 急激な水牛の減少は、 これらの生産増加を吸収し、 肉用牛生産全体の伸 びを鈍化させている。 水牛や山羊は、 プランテーション労働者が副業的に飼育し ている場合が多く、 生産基盤は、 非常に脆弱であり、 今後も減少していくものと 思われる。 表1−3 家畜の飼養頭数 ────────────────────────────────── 牛 水牛 山羊 羊 豚 肉用種鶏 卵用種鶏 ────────────────────────────────── 90年 614,498 129,517 281,759 199,909 2,242,055 2.2 278.8 91年 637,461 127,850 284,257 234,901 2,257,462 2.7 293.8 92年 654,358 122,259 279,365 242,958 2,246,189 2.9 303.0 93年 689,288 110,149 277,065 244,023 2,362,000 2.9 313.4 94年 671,546 107,181 258,239 227,866 2,517,959 3.3 339.9 ────────────────────────────────── 単位:頭、百万羽 資料:農業省獣医局(DVS) 表1−4 畜産物の生産量 ───────────────────────────────── 牛 肉 羊 肉 豚 肉 鶏 肉 鶏 卵 牛 乳 ───────────────────────────────── 90年 15,472 658 197,301 348.5 5,029 26.2 91年 16,362 672 204,823 391.0 5,030 26.8 92年 16,974 658 222,373 497.3 5,780 27.7 93年 16,889 607 231,140 560.7 5,688 29.2 94年 15,915 616 249,278 594.4 5,921 30.9 ───────────────────────────────── 単位:鶏肉は千トン、鶏卵は百万個、牛乳は百万リットル、その他はトン 資料:農業省獣医局(DVS) 注:牛肉は、水牛肉を含む 輸出と輸入
 畜産物の自給率は、 表1−5のとおりである。 鶏肉、 鶏卵、 豚肉の自給率は、 100%を超えており、 生産量の10%以上が輸出される。 主に、 隣国のシンガポー ルへ輸出されており、 豚や鶏については、 生体のまま輸出され、 シンガポール国 内で、 と畜・解体されている。 シンガポールと隣接し、 陸路で繋がっているジョ ホール州は、 さながらシンガポールの食料生産基地の様相を呈している。  一方、 牛肉については、 生産量は増加しているものの、 需要の伸びに追いつか ず、 90年には3割ほどであった自給率は、 年々その割合を減少させ、 94年には2 割にまで落ち込んでいる。 このため、 国内需要を賄うため、 インドやオーストラ リアから冷凍牛肉の輸入が増加している。 特に、 インドからは、 政府間協定によ り、 安価な牛肉が大量に輸入されている。 これらの牛肉は、 市中では、 国内産牛 肉のほぼ半値で販売されている。  牛乳・乳製品では、 自給率は年々増加しているものの、 未だ5%前後の低い水 準にとどまっている。 脱脂粉乳などをニュージーランド、 オーストラリアから大 量に輸入している。  以上のように、 マレーシアの畜産は、 5%から100%を超える自給率の差が示 すように、 各畜種で生産状況は大きく異なっている。 表1−5 畜産物の自給率 ───────────────────────────────── 牛 肉 羊 肉 豚 肉 ブロイラー 鶏 卵 牛乳・乳製品 ───────────────────────────────── 90年 30.4 9.0 131.5 117.6 111.0 4.7 91年 28.7 9.0 135.4 119.6 113.4 3.2 92年 29.0 7.3 137.0 115.2 111.9 3.5 93年 27.2 6.9 140.2 115.2 112.7 4.0 94年 23.0 6.5 139.4 114.7 113.1 5.8 ───────────────────────────────── 輸出先 シンガポール シンガポール シンガポール シンガポール ───────────────────────────────── 輸入元 インド 豪州 ニュージーランド 豪州 豪州 ───────────────────────────────── 単位:% 資料:農業省獣医局(DVS)

第7次5カ年計画 (マレーシア・プラン)


第7次5カ年計画の概要
 第7次5カ年計画の基本思想は、 首相在職20年を経過したマハティールの既存 路線を踏襲するものとなっている。  第1に、 インフレを抑制しつつ、 高成長を維持すること。 第2に、 経常収支の 赤字の縮小を図り、 2000年までに黒字に転換すること。 第3に、 多民族国家のマ レーシアにおいて、 すべての国民の生活水準の向上を図ることを目指している。  経済面では、 2000年のGDPを1, 766億RM (約7兆7千億円) まで引き上げるこ ととしている。 目標達成のためには、 年平均でおよそ8. 0%の経済成長が必要と なる。 ここ数年、 9%前後の高成長を続ける同国にとっては、 これは、 単に理想 とする値ではなく、 かなり実現性の高いものと思われる。 経済成長の原動力とし ては、 電気機器などの製造業の高成長を見込んでおり、 引き続き年平均10. 7% の成長を維持するとしている。 しかし、 最近、 主要輸出品の1つである半導体の 出荷数量が大きく落ち込んでいるなど、 一部では経済成長の減速が懸念されてい る。  農業分野については、 全体で年平均2. 4%の成長を見込んでおり、 総生産額 は、 約185億RM (約8千億円) としている。 これは、 他の産業の伸び率と比較し て非常に低いものとなっている。 結果としては、 農業分野のGDPに対する寄与率 は、 95年の13. 6%から2000年には10. 5%に低下する (表2−1参照)。 表2−1 産業別GDP寄与率 ─────────────────────────────── 1990年 1995年 2000年 年平均成長率 ───────────────────────── 金額 割合 金額 割合 金額 割合 1995-2000年 ─────────────────────────────── 農林水産業 148 18.7 164 13.6 185 10.5 2.4 鉱業 77 9.7 89 7.4 101 5.7 2.6 製造業 214 27.0 398 33.1 666 37.5 10.7 建設業 28 3.5 53 4.4 85 4.8 9.8 サービス業 335 42.3 532 44.2 812 45.7 8.8 GDP 791 1,203 1,776 8.0 ─────────────────────────────── 単位:億RM、% 資料:第7次マレーシア・プラン 注1:銀行手数料及び輸入関税等が勘案されていないため、割合の合計は100%を超える 注2:産業別の金額は、割合から割り戻し算出したもの 注3:金額は、1978年時の価格により算出されたもの  農業分野の成長が低く見込まれている要因は、 第1に、 農業生産額の約7割を 占めている一次産品のうち、 生産拡大が見込まれるパームオイルを除いて、 ゴム やココアなどは、 需要が低迷し価格水準が比較的低いため、 今後も生産が減少し、 マイナス成長になること (表2−2参照)、 第2に、 製造業、 サービス業の発展 に伴い、 農業分野が他産業への労働力の供給源となり、 労働力不足から思うよう に生産の増加が図れないことが挙げられる。 表2−2 農業分野の2000年目標値 ─────────────────────────────────────── 1990年 1995年 2000年 年平均成長率 ───────────────────────────────── 金額 割合 金額 割合 金額 割合 6次目標 6次実績 7次目標 ─────────────────────────────────────── 一次産品 10,900 73.5 11,241 68.5 11,958 64.8 ゴム 2,043 13.8 1,745 10.6 1,601 8,7 -1.0 -3.1 -1.7 パームオイル 5,312 35.8 6,801 41.5 7,948 43.1 4.0 5.1 3.2 木材 2,315 15.6 1,876 11.4 1,569 8.5 -3.6 -4.1 -3.5 ココア 1,230 8.3 819 5.0 840 4.5 -1.4 -7.8 0.5 食料 2,738 18.4 3,502 21.4 4,004 21.7 耕作物 600 4.0 666 4.1 599 3.2 -1.4 2.1 -2.1 畜産物 604 4.1 838 5.1 1,011 5.5 10.5 6.8 3.8 水産物 1,534 10.3 1,998 12.2 2,394 13.0 5.2 5.4 3.7 その他 1,189 8.1 1,663 10.1 2,498 13.5 合計 14,827 100 16,406 100 18,460 100 2.1 2.0 2.4 ─────────────────────────────────────── 単位:百万RM、% 資料:第7次マレーシア・プラン 注1:金額は、1978年時の価格により算出されたもの 注2:第6次計画の農業分野の当初目標は3.5%であったが、93年に見直された  結果として、 経済成長による所得の向上に伴い国内需要が急速に増大している 畜産、 水産を中心に農業生産を伸ばして行かざるを得ない状況にある。 農業分野の基本政策
 マレーシアでは、 製造業中心の経済成長が続く中で、 国内の産業構造が大きく 変化している。 かつて、 高度経済成長時に日本も経験したこの急激な変化は、 社 会構造の変化も伴い、 結果として農業分野から労働力を流失させている。  また、 国際貿易機関 (WTO) が主導する自由化の推進に伴う、 新たな国際貿易 に関する環境の変化も安易な輸入制限による国内農業の保護・育成を難しいもの にしている。  こうした状況の下で、 第7次5カ年計画では、 農業分野の生産性の向上を第一 の目標とし、 一次産品については、 国際競争力の強化のための生産コストの削減 を、 米、 畜産物などの食料生産については、 拡大する需要に応えるため、 生産量 の増大を目指している。  さらに、 農業の振興を図るため、 以下のような方策を打ち出している。 1) 農業分野における民間の大規模経営者数の増加を推進する。 特に、 食料生産 を振興するため、 政府により必要な補助を行う。 2) 市場自由化が求められる昨今の状況に対応し、 競争力を改善するため、 生産 方式の再検討を行う。 3) 地元の農業関連産業のニーズに合致するよう、 生産地域の見直しを行い、 ゴ ム、 パームオイル、 カカオの生産地域を整理・統合する。 4) 外国人労働者への依存から脱却するため、 自動化・機械化による省力化・合 理化を進める。 5) 深海漁業を振興し、 港湾及び加工の複合施設の整備を進め、 また、 養殖漁業 の発展を推進する。 6) 研究開発を進め、 ゴムなどの農業関連産業において、 より最終製品に近い製 品の生産の増加を図る。 7) 補助金を徐々に減少させ、 国内市場を整備しながら、 農産物に課せられてい る関税の見直しを行う。 8) すべての農業関連機関の見直しを行い、 合理化と効率化を図るため、 再編・ 整備を行う。 畜産部門の目標
 畜産物生産の各品目の2000年における目標は、 表2−3のとおりである。 表2−3 畜案物の2000年目標値 ──────────────────────────────────── 1990年 1995年 2000年 年平均成長率 ───────────────────────────── 6次目標 6次実績 7次目標 ──────────────────────────────────── 牛 肉 12.8 15.6 18.7 1.3 4.1 3.6 羊 肉 0.8 1.1 1.3 6.8 6.5 4.2 鶏 肉 385.9 647.0 840.0 24.1 10.9 5.4 豚 肉 227.9 305.0 320.0 4.5 6.0 1.0 鶏 肉 5,505.0 7,750.0 9,150.0 5.9 7.1 3.4 牛 乳 28.9 33.8 37.5 3.2 3.2 2.1 畜産物 10.5 6.8 3.8 ──────────────────────────────────── 単位:鶏卵は百万個、牛乳は百万リットル、その他はトン、% 資料:第7次マレーシア・プラン 注:牛肉には、水牛肉を含まない  畜産物の消費は、 所得の向上に伴って急激に増加することが見込まれることか ら、 畜産物全体では、 年平均3. 8%の成長を目標としている。 これは、 農業部門 の中で最も高い目標値となっている。  個別の品目についてみると、 牛肉 (水牛肉を除く) は、 年3. 6%増の1万9千 トン、 羊肉は、 年4. 2%増の1千3百トンを目標とする。 牛肉、 羊肉生産につい ては、 放牧適地が不足していることから、 フィードロットなどで主に行わざるを 得ないとしている。 この目標が達成されれば、 低下傾向が続いていた自給率に、 歯止めをかけることができる。  しかし、 依然として、 急増が予想される需要の増加を賄うことができないため に、 引き続き不足分は輸入せざるを得ない。 この輸入量は、 牛肉で7万3千トン、 羊肉で2万トンに上る見込みである。  また、 畜産部門への民間投資は盛んになるとしており、 公営の牧場及びと畜場 の民間への払い下げは引き続き実施される。  鶏肉、 鶏卵、 豚肉については、 近代化と大規模化を更に押し進め、 それぞれ年 5. 4%、 1. 6%、 2. 1%の生産増加を目標とし、 国内需要を賄うだけでなく、 シ ンガポールなどへの輸出も継続する。  なお、 生産基盤の確立した感のある、 ブロイラー産業については、 国の補助を 徐々に削減するとしている。

今後のマレーシア畜産の行方 (まとめ)


 国の政策の中での重要度において、 製造業を中心に経済発展を続けるマレーシ アにとって、 農業の位置付けは決して高いものとは言えない。 第7次計画では、 食料品の生産増加を目標の1つとしている。 しかし、 これとて農産物の輸入増加 を食い止め、 経常収支の赤字を少しでも少なくしようとの意味合いが強い。  国の優先課題となっている商工業の開発・振興ではなく、 農産物の生産拡大、 自給率増加のために、 政府が多額の補助金を農業分野へ投入する状況にはない。  また、 慢性的な労働力不足のしわ寄せは、 農業分野にまず厳しく降りかかって きており、 農業分野への就労人口は、 減少の一途をたどっている。 このことが、 第7次計画において、 農業分野の成長を低くおいている要因の一つとなっている。  こうした厳しい状況の中で、 現在の段階において、 自給率の低い牛肉、 羊肉生 産や酪農については、 今後の飛躍的成長は、 まず期待できない。  一方、 鶏肉、 豚肉、 鶏卵の生産については、 民間を中心に発展し、 既に産業と して確立している。 この発展の要因は、 自国だけでなく、 シンガポールという市 場と隣接しており、 さらに、 シンガポールが鶏卵生産と酪農を除き畜産物の生産 をほとんど行っていないことが、 第一に挙げられる。 特に、 豚肉の生産は、 国民 の多くが信仰するイスラム教が摂食を禁止しており、 自国内の消費がそれほど多 くないことから、 シンガポール市場のもつ意義は更に大きいものになっている。  今後もシンガポールの生鮮物志向が変わらなければ、 生体で出荷できるマレー シアの独占状態は続くものとみられている。  マレーシアの畜産は、 立ち上がりこそ政府の援助を受けたものの、 民間の努力 により産業として確立された鶏肉や鶏卵、 豚肉生産の部門が中心となって、 更に 発展していくものと思われる。  しかし、 このことは、 飼料作物の生産基盤の微弱なマレーシアにおいて、 飼料 原料の輸入増加を意味するものである。
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