駐在員レポート 

米国における食肉検査制度改革

デンバー駐在員 堀口 明、 藤野哲也
 クリントン大統領は、 今年7月6日、 食肉検査制度の創設以来90年間にわたっ
て実施されてきた、 検査官の視覚や臭覚などに頼る従来の米国の食肉検査制度を、 
危害分析重要管理点監視 (HACCP) 制度を採り入れた科学的な制度に改めるとの
発表を行った。 この発表を受け、 米国農務省 (USDA) は、 食肉検査制度改革につ
いての最終規則を7月25日付け官報に掲載し、 同日付けで施行した。 食肉加工処
理業界を始め、 生産者、 消費者などからも待望されていた食肉検査制度の改革は、 
ようやく実施段階へと歩を進めることとなった。 

 今月は、 今回の検査制度改革が実現されるまでの経緯と発表された新しい検査
制度の概要について報告する。

1. 食肉検査制度改革の経緯


(1) 科学的な検査制度実施の検討
 米国において、 従来の検査制度に替え、 科学的な考え方に基づいた食肉検査制 度への改革をすすめることの検討が開始されたのは、 80年代に入ってからのこと である。 USDAの食肉検査関係部門の担当部署である食品安全検査局 (FSIS) は、 83年に 「全米科学アカデミー (NAS) 」 に科学的見地からの食肉検査制度に対す る評価と検査制度の近代化への提言を諮問した。 NASはこれに対して、 85年に「科 学的方法による食肉検査事業」 と題する報告を行い、 米国において最初に、 科学 を基礎とした食肉検査制度についての体系的な考え方が示された。 NASはこの中 で、 HACCP制度に基づき病原菌やその他の危害要因を削減させる方向の食肉検査 制度改革の実施を推奨した。 農務長官は、 88年に、 USDAや保健社会福祉省 (HHS) に 「食品における微生物に関する安全性基準」 に関して助言する機関として、 「食品における微生物基準についての諮問委員会 (NACMCF)」 を設置した。 NACMCF は、 89年にHACCP制度の開発と導入に関する数種類の報告を行い、 89年11月に「食 品製造とHACCP」 を提出した。 その後も、 NACMCFは、 HACCP制度についての技術面 での研究を進めるとともに、 その導入を推奨した。 (2) 食中毒の発生と検査制度改革
 食肉検査制度改革の検討が進められる中で、 米国では、 93年の始めに西海岸の ハンバーガー・チェーン店において、 病原性大腸菌 (E. Coli O157:H7) を原因 とする食中毒が発生した。 4人の死者を含め、 700人以上の被害を生んだ食中毒 の発生原因が、 調理の不十分なハンバーガー・パテによるものであったことから、 食肉の検査制度改革の必要性と改革の早期実施を求める声が高まり、 食肉検査制 度の改革の問題は、 行政府、 関係業界のみならず一般消費者の関心事項ともなっ た。 FSISは、 病原菌に汚染された食肉による食中毒の再発を防止する意味からも、 HACCP制度に基づく科学的な方法による食肉検査制度改革に向けて本格的な検討 を急ぐこととなった。 (3) 食中毒防止対策の実施
 USDAは、 食肉を原因として発生する食中毒を減少させるための最良の対策は、 HACCP制度を基本とした検査制度改革の実施であると考えていたが、 これを早急 に実現することは、 現実問題として不可能であったため、 この検討と並行して、 病気の予防対策として、 実施可能な次のような対策を漸次実施していった。 ア. 食肉の安全対策 ・食肉加工処理工場に対する汚物による食肉汚染の抜き打ち検査実施。 ・食肉による食中毒の防止対策として、 食肉の保存や調理方法などの取り扱い注 意事項などを記載する 「食肉の安全取り扱い表示」 の義務化。 ・病原性大腸菌 (E. Coli O157:H7) に汚染された牛ひき肉を販売不適格品とし 販売を禁止するとともに、 連邦政府認定の食肉加工処理工場及び食肉販売小売 店において抽出検査を実施。 イ. 調査・研究・知識普及事業の強化 ・食品の安全対策研究に対する予算の増強。 ・食品由来の病気の発生状況の把握と原因の究明及び予防対策を担当する連邦政 府機関である疾病管理センター (CDC) 及び州の食品衛生問題担当部署との協 力により、 食中毒の発生状況などを把握するための緊急疫病対策事業を実施。 ・雑誌編集者、 食品・健康問題を担当する記者向けに、 食品の安全性問題につい ての情報冊子を提供する事業を実施 ウ. 組織・制度改革等の実施 ・食品由来の病気の発生状況の把握やその原因の究明を行うために、 CDCとの情 報交換を担当する部門を創設。 ・食肉以外の食品に関する安全問題を担当する保健社会福祉省食品医薬品局(FDA) やCDCとの協力により、 食品由来の病気の発生に関する情報収集体制を確立。 ・食肉の安全性問題を農務次官の直接の担当部門とした。 ・食肉検査官や食肉加工処理企業が食肉の安全性対策に力を注げるように不要と なった規則の改廃を実施。 (4) 規則改正提案
 食肉検査制度の改革に向けて規則改正の準備を進めていたFSISは、 95年2月3 日付けの官報にHACCP制度を基本とした食肉検査制度改革についての規則改正を 掲載した。 FSISは、 規則改正の手続規定に従って関係者の意見を求めたが、 この 規則改正提案に対しては、 旧来の制度とと重複して実施する部分があるとの意見 や、 中小食肉加工処理企業に対する配慮が不足しているとの強い反対意見が多く 寄せられた。 このため、 FSISは意見聴取期限を2度にわたって延長し、 また、 全 国数カ所で公聴会や説明会を開催し、 関係者の意見聴取を行い、 当初の改正提案 に必要な改訂を加えて今回の最終規則提示に至った。 規則提案から最終規則の公 示までに1年半近くを要したことは、 今回の検査制度改革が様々な面で影響の大 きなものであることを物語っているといえる。

2. 米国における食品由来の病気の発生状況


(1) 食品由来の病気の発生状況
 米国全体における食品由来の病気の発生状況を、 統一的に把握している組織は ないため、 病気の発生状況は、 各種の調査報告などによる推計数字から全体像を 想像する以外に方法がないのが現状である。 米国会計検査院 (GAO) の今年5月 に発表した報告書は、 過去の各種推計から、 米国では年間650万人から8, 100万 人が食品由来の病気に罹り、 最大9, 100人までの死者が出ているとしている。 こ の内の半数以上が、 食肉などの動物性食品が原因になっているとの推察が示され ており、 食肉検査制度改革の必要性を示唆する内容となっている。 (2) 調査体制の強化
 米国では、 食品由来の病気の発生状況、 原因などについての情報が、 州政府な どの地方公共団体から連邦政府に対して、 すべて報告されている訳ではないため、 全国的な病気の発生状況などについて正確な情報を把握するのは困難な状況とな っている。 病気の発生状況とその原因を正しく把握することは、 予防対策実施の 面から非常に重要であるといえる。 このため、 1の (3) のイにあるように、 食 中毒予防対策の一環として、 FSISは95年7月に、 FDAやCDCとの協力の下に食品由 来の病気に対する調査・監視体制の強化を行った。 この試みは、 関係官庁が共同 で、 州政府の食品衛生担当部局などの協力の下に、 全米5箇所 (カリフォルニア 州、 オレゴン州、 ミネソタ州、 コネチカット州、 ジョージア州) に調査拠点を設 けて、 全国を対象として、 食品由来の病気の発生状況などをより正確に把握しよ うとするものである。 この調査では特に、 サルモネラ菌と病原性大腸菌 (E.Coli O157:H7) による病気について、 重点的な調査を行うこととされている。 調査結 果は、 現状の把握とともに、 食品の安全性対策として実施される事業の効果を測 定することや、 食肉、 鶏卵、 乳製品、 野菜、 果物といった食品からの病原菌削減 対策実施の検討資料としても利用される。

3. 食肉検査制度改革実施


 USDAが発表した今回の食肉検査制度改革は、 食肉加工処理行程をHACCP制度の 考え方に基づき管理することにより、 食肉の安全性の向上を図ろうというもので ある。 またこれと併せて、 基準を定めて病原菌の削減を行うことなどが定められ ている。 FSISは、 今回の規則改正により、 病原菌による食肉汚染を削減し、 食肉 由来の病気に罹る危険性を大きく減らすことができるものと考えている。  今回の規則改正により、 新制度に対応した設備の整備などで、 食肉加工処理企 業全体が必要とする事業費は、 HACCP制度の実施までの4年間の合計で、 3億5 百万ドル (約320億円) から3億5千7百万ドル (約386億円) と推計されている。 また、 その後の年間の運営経費は、 9千960万ドル (約108億円) から1億1千 980万ドル (約129億円) と推計されている。 一方、 これにより一般国民の受ける 医療費、 労働時間、 などを含めた健康面の利益は、 9億9千万ドル (約1,069億 円) から37億ドル (約3,996億円) に上ると推計されており、 国民経済的には、 大きな利益がもたらされるとされている。  今回の規則改正の具体的内容としては、 次の項目が挙げられる。  なお、 米国政府は、 今回の改定内容の適用について、 連邦政府の認定工場の他 に、 州の認定工場と米国に食肉を輸出している国の食肉加工処理工場についても、 適用が及ぶものとしており、 改正された検査制度と同等の制度の下で加工処理を 実施することが求められている。 (1) HACCP制度の導入
 HACCP制度は、 食肉のと畜・加工処理工場における各処理行程において、 食品 の安全性の面から危害となる可能性のある要因を特定し、 これを除外または削減 するという生産行程の管理方法である。 今回の規則改正では、 すべてのと畜・食 肉加工処理工場において、 HACCP制度に基づく生産管理を行うことが規定され、 FSISが実施状況を継続的に検証することとされている。 ア. HACCP制度の概要  HACCP制度は、 食肉の安全性を確保するため、 次の7つの原則の下に各製造行 程を管理するものである。 1) 危害の分析  食肉加工処理工場は、 加工処理の行程において発生する可能性のある危害要因 を分析・決定し、 当該危害要因を抑制する方法を明らかにする。 この危害要因に は、 工場における加工処理の前段階、 その過程、 終了後の取り扱いを含むものと されている。 食品の安全性に関する危害要因としては、 天然毒物、 微生物汚染、 化学物質汚染、 農薬汚染、 薬品残留、 動物原性感染症、 腐敗、 寄生虫、 未許可食 品、 未許可食品添加剤、 危害物質の混入などが考えられる。 2) 重要管理点の特定  列挙された危害要因制御の重要管理点を特定する。 重要管理点設定の対象は、 製品製造の準備過程、 実際の加工・製造行程、 製造後の保管などを含むものとす る。 3) 危害許容限度の設定  各重要管理点ごとに守られるべき危害許容限度を設定する。 この基準は、 一般 的な基準からみて適当な目標であり、 かつ、 FSISが基準を設定している場合には、 これに適合するものである必要がある。 今回の改正における一般大腸菌検出基準 やサルモネラ菌の検出基準がこれに当たる。 4) 監視方法の決定  限度基準が守られ、 それぞれの重要管理点の管理状況を監視するための方法を 決定する。 5) 改善措置の決定  重要管理点において限度基準からの逸脱があった場合における改善対策を確立 する。 6) 記録保管体制の確立  重要管理点の監視結果を記録保管する制度を確立する。 7) 検証方法の確立  手続きが適正に実施されていることを検証する方法を確立するとともにその実 施頻度を決定する。  次のような事例については、 HACCP制度が適正なものでないと判断され、 改善 が求められることになる。 ・HACCPの計画内容が法令の基準を満たすものとなっていない。 ・担当職員がHACCP計画で定められた業務を実施していない。 ・工場が必要な修正を実施していない。 ・HACCP計画の記録が保管されていない。 ・不良製品が製造または出荷されている。 イ. HACCP制度の導入期限  HACCP制度の導入については、 施設の改造、 従業員の訓練などが必要なことな どから、 USDAは、 中小企業対策として制度の導入期限を従業員等に基づき、 次の とおり定めている。 (ア) 従業員500人以上の大規模施設については18カ月以内 (イ) 従業員10人以上500人未満の施設については30カ月以内 (ウ) 従業員10人未満または年間売上高250万ドル (約2億7千万円) 未満の小   規模施設については42カ月以内 ウ. HACCP制度と食肉検査官  HACCP制度の実施は、 従来の 「命令と監督」 による検査制度から、 病原菌検出 基準など一定の衛生基準を設定し、 HACCP制度の下で、 企業の主体的責任により この基準を順守する方式への変更を意味する。 制度の基本的考え方の変化により、 USDAの食肉検査官の役割も当然に変わることになる。 改正された規則の下におけ る食肉検査官の役割は、 1) 審査 (各工場の衛生管理基準やHACCP計画が法令に適 合するものであるかの審査) 2) 確認 (各工場の衛生管理基準やHACCP計画が適正 に実行されていることの確認) 3) 書類作成 (法令に反する事項が認められた場 合に、 当該事項についての書類作成) 4) 指導 (法令に適さない事項があった場 合における必要な指導) とされている。 今回の規則改正では、 従来実施していた 個々の枝肉についての検査は、 継続して実施されることになっているが、 人的資 源の有効な利用の観点から、 食肉検査官の職務内容については引き続き検討され ることになっている。 (2) 一般大腸菌検査の実施
 汚物による枝肉汚染の制御が有効に機能しているかの判断基準として、 すべて のと畜工場において定期的に枝肉に付着する一般大腸菌の検査を実施する。  FSISは、 一般大腸菌検査の結果がサルモネラ菌、 カンピロバクター菌、 病原性 大腸菌 (E. Coli O157:H7) などによる汚染状況の指標になるとしている。 一般 大腸菌を検査対象に選んだ理由としては、 検査実施が比較的容易であるからであ ると説明している。 ア. 検査の実施  FSISは、 検査の頻度など、 一般大腸菌検査の実施に関する技術的手続き事項を、 規則に基づく検査実施の30日前までに最終的に決定するとしている。 現時点では、 過去のデータなどから、 ガイドラインとして次のような検査手続き等を提示して いる。 (ア) 検体抽出手続書面の作成  と畜工場ごとに、 1) 検体収集担当職員、 2) 検体の抽出場所、 3) 検査実施方 法などの検体抽出手続を書面により作成する。 (イ) 検査頻度  畜種別に、 処理された枝肉の数ごとに1検体を抽出して行う。 (表1) ただし、 年間の処理頭数等が牛で6,000頭、 豚で20,000頭、 家きんのブロイラーで440,000 羽または、 七面鳥で60,000羽以下の小規模工場にあっては、 6月から8月の間は、 毎週1検体の検査を行うこととされている。 また、 HACCP制度が適切に実施され ていると認められる工場にあっては、 FSISが検査実施頻度を不適当としない限り、 現在の検査頻度で継続して実施することができる。 (表1)畜種別検体抽出枝肉処理数 ───────────── 牛 300 豚 1,000 鶏 22,000 七面鳥 3,000 ───────────── (ウ) 検体採取方法 牛       冷蔵室において、 枝肉のフランク、 ランプ、 ブリスケットの部位からスポンジ で採取 豚       冷蔵室において、 枝肉のハム、 ベリー、 ジョウルズの部位からスポンジで採取 鶏・七面鳥   中抜き後、 丸と体を洗浄し、 洗浄液を採取 (エ) 検査方法  検査方法は、 公認分析化学者協会 (AOAC) により認定された方法で実施しなけ ればならない。 また、 これらの結果を収集し、 単位面積または単位体積当たりの 細菌数を記録しておかなければならない。 (オ) 検査結果  検査結果は、 すべての検査において、 表2の検出最大許容値 (M) を超えるも のがあってはならず、 直近13回の検査において、 検出許容数 (m) を超えるもの が3以下でなければならない。 (表2)大腸菌検出基準(ガイドライン) ─────────────────────────── 検出許容(m) 検出許容最大数(M) ─────────────────────────── 去勢牛・未経産牛 陰性 100cfu/cu 老廃牛・種雄牛 陰性 100cfu/cu 肥育豚 10cfu/cu 10,000cfu/cu 鶏 100cfu/ml 10,000cfu/ml 七面鳥 該当なし 該当なし ─────────────────────────── 注:1 陰性は、5cfu/cuまでを許容する。 2 七面鳥の基準値は、基礎データの収集後に設定する。 イ. 実施時期  規則施行の6カ月後 ウ. 検査結果と措置  一般大腸菌検査の結果は、 食肉検査官がと畜、 加工処理の行程が適当に運営さ れているかを判断する基準とされる。 1回の違反によって、 直ちに不適当な操業 や不適格な製品製造が行われているとの判断がされる訳ではないが、 衛生管理や 製造された製品について、 より綿密な検査が実施されることになる。 検査の結果 が基準を上回っている場合には、 サルモネラ菌についての集中検査計画の対象と され、 また、 当該工場が牛ひき肉の製造を行っている場合には、 病原性大腸菌 (E. Coli O157:H7) の検査計画の対象とされる。 繰り返して検査基準を上回る場 合は、 工場の操業方法が不適当であると判断され、 食肉検査が中止または停止さ れることがある。 (3) サルモネラ菌検査の実施
 FSISは、 HACCP制度が病原菌の削減に効果を発揮しているかを判定するため、と 畜工場及びひき肉を製造する加工処理工場において、 抜き打ち的に、 枝肉と生鮮 のひき肉を対象として、 サルモネラ菌検査を実施する。 検査結果は、 FSISが過去 の検査データに基づいて制定した表3の検出基準値を超えてはならないものとさ れている。 各工場においては、 この基準値の順守が求められることになる。 FSIS は、 現存の生産設備・技術の下でこの基準値を達成することは容易であり、 今回 の規則改正によりHACCP制度とSOPsを実施することにより、 サルモネラ菌の削減 のために特別の経費をかけることなく基準値を達成することが可能であるとして いる。 FSISは、 現実にHACCP制度を導入している多くの工場で、 すでにこの基準 を達成していると説明している。  FSISは、 サルモネラ菌をHACCP制度の有効性の判断基準として検査対象とした ことについて、 サルモネラ菌が食中毒の第1位の原因となっていること、 と畜、 加工処理工場でサルモネラ菌の削減対策をとることにより他の病原菌の数を減ら すこともできることを理由として挙げている。 (表3)サルモネラ菌検出基準 ─────────────────────────── 種 類 サルモネラ菌検出率 検体数 陽性許容数 ─────────────────────────── 去勢牛・未経産牛 1.0(%) 82 1 老廃牛・種雄牛 2.7(%) 58 2 牛ひき肉 7.6(%) 53 5 生鮮豚肉ソーセージ 該当無し 該当無し 該当無し ブロイラー   20.0(%) 51 12 肥育豚   8.7(%) 55 6 七面鳥ひき肉   49.9(%) 53 29 鶏ひき肉   44.6(%) 53 26 七面鳥   該当無し 該当無し 該当無し ─────────────────────────── 注:「該当無し」は、現時点においては、数値が設定されていないものである。 ア. 検査の実施 (ア) 検査頻度  当該工場の過去の検査結果と衛生基準の順守状況に基づき決定される。 (イ) 検査結果と措置  検査の結果が検出基準を上回った場合には、 工場に対して、 次の措置が求めら れる。 1) 基準に適合するよう改善を図る 2) その後、 更に検査結果が基準に適合しない場合には、 HACCPの再検討を行い、 必要な改善を行う。  上記 2)の措置がとられない場合、 または3回目の検査においても基準に適合 しない場合には、 FSISは、 当該工場から細菌数を削減するためにとられた改善対 策の詳細を説明した書面の提出があるまで、 食肉検査の実施を差し止める。 イ. 実施時期  HACCP制度の導入と同時に実施 ウ. 病原菌検出基準の設定  FSISは、 当初においては、 食中毒の第1原因となっている病原菌であるサルモ ネラ菌のみについて基準値を設定しているが、 将来的には有害な病原菌それぞれ について削減の目標基準値を設定することを検討している。  また、 FSISは、 今後様々なデータが得られれば、 サルモネラ菌についての基準 値も見直すこととしており、 規則実施の約15カ月後に、 この間に得られたサルモ ネラ菌に関するデータについての説明や検出基準値の見直しなどについて検討す るための公聴会を開催することとしている。 (4) 衛生管理基準 (SOPs)
 食肉加工処理工場において施設・設備などを清潔に保つことは、 食肉の汚染を 防ぐ基本であるが、 FSISの検査の結果によれば、 多くの工場において、 この基本 原則が守られていない例がみられる。 工場において、 衛生的環境が保たれていな いということは、 加工処理される食肉製品の汚染につながることになる。 このよ うな観点から、 今回の改正においては、 衛生管理基準の作成と実行が規定される こととなった。 ア. 衛生管理基準の作成 ・HACCP制度に基づき、 書面により、 いかにして、 毎日、 各工場の施設設備の衛 生状態を良好に保つかを記録した衛生管理基準 (SOPs) を作成し、 これを実行 する。 ・SOPs には、 汚染防止のため、 加工処理作業の前行程を含む加工処理作業につ いての作業手順を規定するものとし、 その実行と検証について毎日記録する。 イ. 実施状況の確認と問題発生時の措置 ・FSISは、 SOPsの計画内容を検討するとともに、 SOPsの実施状況やその改善状況 の記録を検査し、 また、 直接これらの実施状況や改善状況を視察し、 SOPsの実 施状況を確認する。 ・FSISは、 それぞれの工場のSOPsに問題点があることを発見した場合には、 直ち に、 汚染された製品の処分、 衛生的な状態への復旧、 汚染の防止対策を実施す るとともに、 必要なSOPsの改善などを図る。 ウ. 実施時期  規則施行の6カ月後 (5) 農場から食卓までの安全性確保
 今回の食肉検査制度改革の主体は、 と畜、 加工処理工場に関する規則改正であ ったが、 FSISは、 食肉の安全性を確保するためには、 農場から食卓までのすべて の流通過程で安全性確保のための対策を講じる必要があるとしている。  FSISは、 現時点で家畜の生産・流通段階について義務的な管理規程などを制定 する考えはないとしているが、 HACCP制度の考え方を取り入れて生産・流通段階 における家畜管理を行うことが、 この段階における危害要因の削減の面からも有 効な手段であるとの見方を示している。  FSISはまた、 FDAと協力して、 加工処理工場を離れた後の輸送中または保管中 の有害な細菌の増殖を防ぐ方法についても、 HACCP制度の考え方に基づく一般的 な管理方法の研究するとしている。 また、 小売り段階の管理の問題については、 州政府も加えて、 衛生面での管理方法の研究を行うとしている。  消費段階については、 検査制度の改革と併せて、 最終的に食品に由来する病気 から消費者を守るためには、 食品の保存や調理などにおいて、 消費者自身が注意 を怠らないことが重要であるとして、 食品の正しい取り扱いを励行するよう呼び かけるなど、 消費者教育にも力を入れていくとしている。

4. 関係業界等の反応


 クリントン大統領の発表した改革について、 食肉の加工処理業者の団体である 米国食肉協会 (AMI) は、 HACCP制度を採り入れた検査制度の改革が行われること は、 食肉の安全性の向上に結びつくものであるとして歓迎の意を表わすとともに、 今後の改革の実施過程については、 業界と行政の協力が不可欠である旨の声明を 発表している。 また、 食肉生産者団体である全国肉牛生産者・牛肉協議会 (NCBA) や食品の安全性問題に取り組んでいる消費者団体からも大統領の発表を歓迎する 意見が述べられている。  業界団体はまた、 それぞれの団体の主催により、 従来からも実施してきた各企 業の従業員に対する制度普及のための研修会を実施するなどして新制度への対応 準備を進めている。

5. 新制度の普及、 定着、 改善のための対策


 今回の食肉検査制度改正が、 HACCP制度という新しい考え方を導入した大きな 改革であることから、 USDAは規則改正の内容の普及などのため、 全国各地で各種 の会議等を開催することを予定している。 制度の基本枠組みは示されたものの、 業界関係者はこれらの説明会などから制度の実際の運用面の諸問題について確認 して行きたいと考えている。 USDAの計画内容は、 次のとおりである。 (1) 制度内容及び知識普及対策
ア. 全国会議等の開催  新規則施行の約2カ月後にワシントンにおいて会議を開催し、 以下のような事 項について説明及び検討を行う。 ・USDAによるHACCPシステムの一般モデルの紹介 ・新規則施行の付属関係資料の解説 ・HACCPシステム導入の諸問題 ・HACCPシステム導入スケジュール  USDAは、 会議に引き続き、 全国6地域において同様の会議を開催する予定であ る。 イ. HACCP制度の一般モデル公表  製造する品目等の違いに対応した13種類のHACCP制度の一般モデルを作成し、 実際に制度を計画・導入する企業の参考にしてもらう。 ウ. 参考資料の配布  HACCP制度全般について解説した出版物、 危害とその防止対策について解説し た出版物、 最終規則について解説した出版物などを作成し、 配布する。 (2) 技術対策 ア. 一般大腸菌検査に関する会議  規則施行の約45日後に、 一般大腸菌検査制度に関して、 検査実施頻度、 検体抽 出方法などの技術面について検討する会議を開催する。 FSISは、 検査制度が実施 に移される30日前までに必要な改訂を行う考えである。  また、 第2回目の会議を規則施行の約9カ月後に開催し、 FSISの3カ月間の検 査実施結果と評価を関係者と論議したいとしている。 イ. サルモネラ菌検査に関する会議  規則施行の約15か月後にサルモネラ菌検査に関するデータを集積し、 会議開催 に先立って当該データを公表した上で、 その基準が適当であるかを検討する。 ウ. 温度管理に関する会議  FSISは、 FDAとの共催で、 工場から出荷された後の輸送、 保管及び小売店販売 中における食肉、 鶏卵、 乳製品などの生鮮食品の温度管理の問題を検討するため の会議を開催する。 FSISはまた、 これとは別に、 食肉に関しての温度管理の問題 を検討するための会議を開催することを予定している。 (3) 小規模企業対策
 FSISは、 HACCPシステムは工場の規模には関係なく食品の安全性向上に役立つ 制度であるとしているが、 この制度の考え方にあまり慣れていないと思われる小 企業向けに、 HACCPシステムの実証展示事業による普及対策を計画している。  FSISの計画している小規模工場向けのHACCPシステムの実証展示事業は、 規則 施行後2年間、 モデルとなるHACCPシステムの展示を全国数カ所で実施するもの である。 この目的は、 一方で小規模工場においてもモデルにできるような一般的 なHACCPシステムを開発するとともに、 現実的な諸条件の下で、 どのような状況 でもHACCPシステムを採り入れた製造工程の管理が行えることを示すことにある。 実証展示事業は、 小規模工場のHACCPシステム導入期限の前に終了することにな るが、 これによって得られたデータは、 必要な規則の変更や一般的HACCPシステ ムのモデル作成の参考資料とされるとともに、 FSISの定める様々な指標の作成や 規則改正の資料としても利用されることになる。 (4) その他
 FSISは、 この他に、 新しい検査制度の導入に関する問題を話し合うため、 州の 食肉検査制度関係問題の担当者や米国が食肉を輸入している国の政府関係者との 会議を開催する予定にしている。

おわりに


 今回の食肉検査制度改革は、 これまで90年間にわたって実施されてきた従来の 食肉検査制度を抜本的に改正したものだけに、 新制度への移行は、 一定の歳月を かけ、 必要な修正を行いながら実施されていくものと考えられる。 しかしながら、 この改正によるHACCP制度を基本とした科学的な考え方に基づいた食肉検査体系 の整備により、 食品由来の病気の削減という制度改革の目的が着実に達成されて いくことが見込まれる。
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