好調を持続する牛肉部門 (中国)



● 改革・開放にともない生産が急増


 中国では、 牛肉は主要な食肉ではあるものの、 圧倒的なシェアを占める豚肉や、 かつては、 食材として特別な地位 (祝い事や寄り合いどの機会) を占めた家きん 肉に比べると、 伝統的には 「やや影が薄い」 存在であった。 しかしながら、 経済 の改革・開放がもたらした食生活の変化や消費者嗜好の多様化などにより、 近年、 その生産が他の食肉を上回る勢いで急増している。  なお、 中国では、 牧畜が基本産業の一つである北部・西部の辺境省・自治区だ けでなく、 その他の地域でも役牛として、 ほぼ、 中国全土で牛 (及びその系統品 種) が飼養されてきた伝統がある。 したがって、 辺境山岳地方のヤクや中・南部 の水牛も含めて、 地域の気候風土や飼養目的によって、 飼育されている品種やそ の飼養形態は、 複雑な様相を見せている。 <食肉生産量の推移>                 (単位:万トン) ──────────────────────────────────── 94年 93年 92年 生産量(シェア 増加率) 生産量(シェア 増加) 生産量(シェア 増加率) ──────────────────────────────────── 牛 肉 327.0 ( 7 +40 ) 233.6 ( 6 +30 ) 180.3 ( 5 +17 ) 豚 肉 3204.8 ( 71 +12 ) 2854.4 ( 74 + 8 ) 2635.3 ( 77 + 7 ) 家きん肉 755.2 ( 17 +32 ) 573.6 ( 15 +26 ) 454.2 ( 13 +15 ) 羊 肉 160.9 ( 4 +17 ) 137.3 ( 4 +10 ) 125.0 ( 4 + 6 ) ──────────────────────────────────── 食肉合計 4499.3 (100% +17%) 3841.5 (100% +12%) 3430.7 (100% + 9%) ──────────────────────────────────── (注)資料 国家統計年鑑

● 肉牛としての注目が高まる


 そうした、 自然発生的な牛群構成の状況下においても、 肉資源として、 また牛 乳供給を重視してきた一部の地域では、 行政当局の主導により牛群改良目的で、 シンメンタールやホルスタイン種などの導入が行われてきた。 したがって、 現実 には、 それらの牛や在来種との交雑種の牛を多くみかけることがある。 なお、 中 国の在来種で、 その起源は役牛であったと考えられるが、 肉質がよいことから 「銘柄」 牛的に取り上げられてきたものとしては、 「草原紅牛」 や 「魯西黄牛」 な どの品種が挙げられる。  全体として食材が極めて多様な中国では、 量的な多寡を別にすれば、 牛肉もポ ピュラーな食肉といえる。 なかでも、 牛肉が最もポピュラーなのは、 伝統的には、 遊牧民の多い辺境省・自治区や、 信仰上の伝統から牛肉消費が多い人々 (回教徒) が多く住む地域であったと考えられる。 また、 最近では、 改革・開放と高成長が 続く沿海部では、 欧風食習慣の流入や食生活の多様化により、 消費が急増してい るとされる。 北京や上海の大消費地に近い、 河北省や山東省などでは、 近年の 「牛肉ブーム」 を反映して、 フィードロット形式による牛の肥育経営が興りつつ ある。 <地域別牛飼養の状況(94年)>   (単位:万頭) ───────────────────────────────────── 牛飼養頭数 人口1人当 牛飼養頭数<シェア%> 人口一人当 (うち乳牛頭数) たり頭数 (うち乳牛頭数<シェア%>) たり頭数 ───────────────────────────────────── 山 東 1159 ( 6.3) 0.13 内蒙古 365 ( 58.7 ) 0.16 河 南 1150 ( 2.1) 0.13 甘 粛 357 ( 16.3 ) 0.15 安 徽 619 ( 2.2) 0.10 新 彊 337 ( 67.1 ) 0.21 青 海 524 ( 7.4) 1.11 吉 林 310 ( 5.2 ) 0.12 河 北 465 (43.8) 0.07 陜 西 265 ( 7.5 ) 0.08 黒竜江 402 (73.2) 0.11 12省自治区計 6326< 51%>(292.0 < 76%>) 0.12 江 西 373 ( 2.2) 0.09 全 国 12332<100%>(384.3 <100%>) 0.10 ───────────────────────────────────── (注)1 水牛が多く含まれることから揚子江以南を、また、ヤクが多いと考え られることからチベットを除いて、上位12省・自治区を選定した。 2 資料 国家統計年鑑

● 生産急増にもかかわらず市況は安定


 牛肉生産は、 近年、 群を抜く増加率を記録したが、 価格動向からみる限り、 今 までのところ供給過剰感は出ていない。 これは、 元来、 主要食肉の中では一人当 たり供給量が低水準であったこともあって、 現在でも供給増に見合って需要が伸 びていることを示唆するものである。 なお、 このことは、 食肉の約7割のシェア を有する豚肉の市況動向とは対照的である。 すなわち、 豚肉市場では、 消費増に 反応した供給過剰により、 過去1年あまりの長期にわたり、 価格の低迷に見舞わ れている。 <牛肉の価格比較/96:95年>     単位:元(約13.5円)/KG ──────────────────────────────────── 価 格 サ ン プ ル <96年6月> <95年6月> ──────────────────────────────────── 農業部調べ全国平均(価格の定義は不明) 15.48 15.54   <96年7月12-20日><95年7月24-28日> 成都食肉類卸売市場 12.00 11.00 (産地/中国商報/四分体/冷凍脱骨) ────────────────────────────────────

● 政府は 「グラスフェッド」 推進キャンペーン


 一方、 穀物需給が逼迫する中で、 急増する沿海部大消費地の需要に合わせて、 穀物を給与するフィードロット形式の肥育形態が興りつつあることから、 中央政 府は、 肉畜生産に作物茎などの粗飼料源を十分に活用するよう、 キャンペーンに 力を入れている。 これは、 元来、 草食である牛部門を中心に、 的を絞ったキャン ペーンと考えられる。 しかしながら、 大都市のホテルや上級レストランを中心に、 食材調達に関し品質志向傾向が起こり始めていること、 また、 それに応える商品 は付加価値が高いことから、 政府のキャンペーンが、 今後、 どのように浸透して 行くかが注目される。  こうした中、 内蒙古からの素牛調達が概ね容易な河北省や、 伝統的に役牛・肉 牛が多い山東省では、 いずれも各種飼料原料の供給基盤が良好で、 かつ、 大消費 地に近いことから、 前述のとおり、 肉牛の集中的穀物肥育が拡大しつつあるよう である。 また、 トウモロコシの大生産地であり、 かつ、 北京や沿海部に比較的近 いこともあって、 近年、 地元での畜産業の開発に熱心に取り組んでいる遼寧省で は、 養豚産業に加えて、 大規模な肉牛生産 「基地」 の建設に、 外国の投資を奨め ている。
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