マレーシアの食料品価格安定政策の動向



● 価格管理でインフレ抑制に成功


 マレーシア政府は、 急速な高度経済成長を実現する一方で、 「ゼロインフレ」を 旗印に食料品を中心とした価格管理を行い、 インフレの抑制に努めてきた。 94年 の消費者物価上昇指数 (CPI) は3.7%、 95年は3.4%で、 96年についても今のと ころ4%以下になると見込まれている。 これは、 他の東南アジア諸国と比較して、 非常に低い率となっている。  ただし、 CPIへの影響が大きい主要食料品価格の多くが政府によって管理され ていることから、 このインフレ率はあくまでも表面的なものであり、 実際にはこ の数字以上にインフレが進行しているとの見方もある。

● 鶏肉価格暴落で価格政策の弱点を露呈


 ちなみに、 同国の畜産物の中で最も消費量が多い鶏肉は、 政府による主要な価 格管理品目の1つになっている。 一方、 家きん肉の1人当たりの消費量は、 既に 27キロ (骨付ベース) にも達しており、 消費量の大幅な拡大は見込めない中で、 需給のバランスが崩れやすく、 価格は大幅な変動を繰り返している。  今年に入ってからも、 鶏肉の最大の需要期である2月下旬 (フェスティバルシ ーズン) に、 需要の増加を見込んだ過度の生産拡大が行われ、 併せてタイからの 冷凍鶏肉の輸入が増加したため、 需給バランスが大幅に崩れて、 鶏肉価格が大暴 落した。  その後、 鶏肉価格は、 生産調整と政府の鶏肉輸入禁止措置等によって、 4月上 旬には、 ようやく生産コスト見合いの価格に回復したが、 この間の政府の鶏肉価 格管理政策は、 価格上昇を抑制することが主眼であって、 暴落を防止する面では 十分でなかったことを露呈する結果となった。

● 価格政策の抜本的な見直しが必要か


 一方、 政府は、 最近、 首都クアラルンプールで食料品の価格高騰が顕著となっ ていることから、 価格安定対策の強化を検討していることを明らかにした。  しかし、 食料品価格の上昇の背景には、 需要の急激な増加と、 それに追いつか ない生産、 流通網の不備に起因する食料供給の停滞等、 構造的な問題があること が明らかであるため、 対症療法的な価格調整対策は、 ブラックマーケットの成長 を助長し、 正規の流通システムを攪乱することになりかねないと懸念する向きも ある。  さらに、 政府は、 国内食料品価格を効果的にコントロールするため、 外国から の輸入も併せて管理する必要にも迫られており、 歪みが目立つ現行の食料品価格 安定政策の全般について、 近い将来、 抜本的な見直しを迫られることになると見 られている。
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