シンガポールの農業生産



 シンガポールは、 国内で消費する食糧の90%以上を国外からの輸入に依存して
いる。 しかし、 国内の農業生産を全く放棄したわけではなく、 逆に、 最近では、 
農業生産の拡大を目指す動きが目立っている。

● 限られた農業団地で特殊な作目を生産


 シンガポールの農業施設が一般の目に触れることは少ない。 全面積が620平方 キロメートルと、 東京都とほぼ同じ広さの島に約300万人が住むシンガポールで は、 東京ほど過密ではないとはいえ、 居住、 産業スペースを除くと、 農地として 使える土地はほとんどない状況である。  このため、 農業は、 主に政府が区割した期限付有料借地の農業団地で集中的に 行われている。 シンガポール島の北西部を中心に、 全部で6カ所ある農業団地は、 生産する作目の特殊性と政府の開発意図を反映して、 「アグロ・テクノロジー・ パーク (ATP) 」 と呼ばれている。 ここでの作目は、 野菜、 鶏卵、 牛乳、 観葉植 物、 養殖魚、 ワニや観賞魚 (錦鯉など)、 熱帯の鳥類等、 やや特殊なものまであ り、 かつ、 マレーシア等からの輸入品との競争に耐えるべく高度な生産技術をも ったものに限定されている。  ATPの農業生産額は2億3千万Sドル (約184億円、 95年)。 同国の食料消費額 (輸入額−輸出額) が約16億ドル (約1280億円) であることから見ると、 その額 は決して少なくはない。

● 食料輸入肯定から生産重視へシフト


 シンガポールは、 貿易、 金融、 観光などの産業が中心で、 いわば日常的に他国 との交流のなかで成り立っている国である。 従って、 過去においては、 国家経済 運営への自信から 「必要な食料は輸入すればよい」 という国際分業論が主流を占 めてきた。 しかし、 最近では、 国内の農業に対する相応の財政支出を積極的に肯 定する意見も多い。 この背景には、 一般産業と比べて生産性の低い農業に対して も、 安全、 高品質な農産物の供給という面で一定の理解が得られつつあることと、 農業を有望なビジネスの一分野とする見方が相半ばしていると考えられる。

● 国会議員が農業への投資を推奨


 7月中旬、 国家開発省第一産品局 (PPD) の案内で、 国会議員団が国内の獣医 公衆衛生研究所、 ATPの養魚場および採卵養鶏場を視察した。 この際、 国家開発 委員会のコク委員長は、 参加議員を代表し、 ATPが国内の限られた農地で食糧生 産を行っていると賞賛し、 「わが国は、 食料生産に対する投資を積極的に行うべ きである」 と述べた。  同委員長は、 その具体例として、 マレーシア等、 国外における食糧生産に対す る投資を呼びかけている。 これは、 「国内で培った高度な生産技術と国外の安価 な農地、 労働力を併せて利用できる」 という経済的な理由とともに、 「自分の卵 を1つのカゴだけに入れておくべきでない」 という供給ソースの多様化という観 点も、 その背景にあるものと思われる。

● 食料の開発輸入を既に実施


 シンガポールは、 既に、 ショウガ、 バナナなどの開発輸入型の海外投資を実施 している。 これは、 組織培養技術を近隣諸国の合弁企業へ導入し、 その生産物を 輸入する方式であり、 最近では養殖稚魚のふ化飼育技術開発にも力を注いでいる。  ちなみに、 PPDでは、 国内のATPの生産額を、 2000年には現在の倍の4億5千万 Sドル (約360億円) に拡大し、 500の農場と6千人の雇用を抱えることを目標に している。
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