NAFTAの紛争処理パネル、 カナダを支持



● 米国、 カナダの関税化措置をNAFTAに提訴


 カナダは、 ガット・ウルグアイラウンド (UR) 合意により、 長い間米・加間の 紛争の種となってきた乳製品や鶏肉などの輸入割当制度を廃止し、 これを関税化 した。 具体的には、 一定量の低率関税枠を設定し、 これを超える輸入については、 実質的に輸入禁止ともいえる、 290〜350%前後の高率関税を賦課する方式をとっ ている。  これに対し、 米国は、 カナダのこの措置を、 新たな関税の賦課または関税の引 き上げを禁止したNAFTAの規定に反するものとし、 これを撤廃することを求めて NAFTAの紛争処理パネルに提訴していた。

● カナダの現行輸入制度を認める暫定裁定


 紛争処理パネルは、 今年3月に両国の主張を聞き、 さらに4月に書面による追 加説明資料の提出を受けて裁定内容の検討を行ってきた。 この結果、 7月15日に 暫定裁定が示されたが、 その内容は、 カナダの現行輸入制度を認めるものであっ た。 米国側は、 これを全く予想外の裁定と受けとっているが、 パネル委員は、 米 国が現在のカナダの輸入制度に不満であるとすれば、 UR交渉の過程において問題 の解決を図っておくべきであったとしている。 なお、 この暫定裁定は、 5人の委 員全員の一致した意見として示されている。 暫定裁定に対する両国からのコメン ト受け付け期間が2週間設けられているため、 最終裁定は、 8月の下旬ごろにな るとみられるが、 暫定裁定から内容が大きく変更されることはないものと考えら れている。

● 米国内にショックとNAFTAへの失望感


 米国は、 今回のパネル裁定で、 その主張が認められることに自信を持っており、 少なくとも、 現在のカナダの輸入制度に何らかの変化をもたらす裁定がなされる と確信していた。 したがって、 暫定裁定は、 米国政府や関係畜産団体に、 大きな ショックを与えた。 全国生乳生産者連盟 (NMPF) のバー会長は、 「パネルの暫定 裁定が、 自由で公正なNAFTAの見本であるとすれば、 NAFTA自体が偽物にすぎない。 」 と厳しく批判している。 また、 下院農業委員会のガンダーソン委員長は、 9月中 旬に、 カナダとの乳製品等の貿易紛争についての公聴会を開催するとし、 この問 題を議会の場で取り上げると発表した。  米国政府は、 最終的な裁定結果が出た後に、 二国間交渉により問題の解決に 取り組むことが必要となったが、 今回の結果は、 NAFTAを自由貿易地域拡大の中 核と位置付け、 その実現に努力してきたクリントン政権には、 大きな痛手になる ものと考えられる。
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