特別レポート 

世界の酪農乳業:変動の25年 (国際酪農連盟年次総会レポート)

ブラッセル駐在員 池田一樹

I はじめに


 国際酪農連盟 (International Dairy Federation:IDF) は、 国際的な酪農乳業 分野における科学的、 技術的および経済的発展を推進することを目的として、 1 903年に設立された酪農乳業分野で唯一の国際団体である。 本部はベルギーの ブラッセルにあり、 加盟国は33カ国 (1996年12月11日現在) となって いる。 主な活動としては、 分野別に6つの専門委員会を設置し (注1) 、 様々な 会議や出版物を通じて意見交換や情報提供を図るとともに、 コーデックス (FAO・ WHO合同食品規格計画)委員会等の他の国際的な組織に専門的立場からの協力を行 っている。 加盟国はそれぞれ国内委員会を設置しており、 日本は1962年に加 盟し、 社団法人日本国際酪農連盟が設立されている。  IDFの最大の会議は、 年次会議であり、 全加盟国が参加して開催される。本年は 10月21日から24日にかけて、 南アフリカ共和国で510名が参加して開催 された。 年次会議では各専門委員会の会議等が開かれるが、 このうち、 販売、 経 済等を担当する委員会では、 “酪農乳業、 変動の25年”と題して、 1984年 から現在までの動き、 現状および2010年までの見通しについて報告がなされ た。 筆者は、 この委員会に出席する機会を得たので、 以下その概要についてレポ ートしたい。

II 1984年〜1994年の国際乳製品貿易 (注2)


1 生乳生産量 (牛乳) は同水準で推移
 世界の生乳生産量 (牛乳) は、 過去10年間あまり大きな変動なく、 ほぼ4億 6千万トン前後で推移してきている (図1) 。 ただし、 地域的にみると、 EUでは 生乳生産クオータによる生産抑制のため実質的に減少しており、 また、 旧ソ連を 含む中・東欧諸国では体制改革に伴う影響により減少している。 一方、 オセアニ アや米国などでは増加している。 図1 世界の生乳生産量の推移  また、 この期間における乳製品貿易量は、 生乳換算で2千4百万トン前後、 生 乳生産量の約5%程度で推移しており、 生乳生産量に比べて決して大きいとはい えない。 この乳製品の国際市場は、 EU、 オセアニアおよび米国で92%のシェア を占めている。 2 市場獲得競争の勝者はオセアニア
 オーストラリアとニュージーランドは、 乳製品の国際市場のシェアを1984 年の22%から1994年には36%に拡大している。 地域的にみても、 全市場 でシェアを拡大しているが、 なかでもアジアおよび中南米での拡大が大きい (図 2) 。 特にアジアでのシェアは53%に達しており、 市場別にみた場合、 オセア ニアがEUのシェア (43%) を上回っている唯一の市場となった。 このような市 場シェアの移行傾向から見ると、 ガット・ウルグアイラウンド農業合意 (以下 「ガット合意」 という) は貿易の変化の分岐点というよりも、これまでの傾向を助 長するものとみることができる。 図2 乳製品貿易シェア(アジア地域)    乳製品貿易シェア(中南米地域)    乳製品貿易シェア(EU地域)    乳製品貿易シェア(EU以外の欧州地域)    乳製品貿易シェア(北アメリカ地域)    乳製品貿易シェア(アフリカ地域)  EU (旧EU12カ国) もアジアを除く地域ではシェアを拡大している。 しかしな がら、 今後はオセアニアだけでなく、 アルゼンチンやウルグアイとの競争が予想 されるなかで、 中南米市場でのシェア維持は困難になるものと見込まれる。 北米 市場については、 チーズに関する限り、 消費者は、 ピザのトッピング用を除いて 多様化を求めており、 高価格・高品質の需要が予想されることから、 今後とも有 望な市場とみられている。  EUやオセアニアの市場拡大に対して、 米国はほぼ世界全域で市場シェアを失っ た。 これは、 80年代前半に盛んに行われた乳製品輸出奨励計画 (DEIP) 等によ る脱脂粉乳の輸出が、 大幅な国内在庫低下に伴って減少したことが大きな原因と なっている。 DEIPは、 本来、 EUの補助金付乳製品輸出に対抗する措置だったが、 現在は市場開拓の意味合いが強く、 特にアフリカ市場が注目されてきている。 3 チーズ等高価値製品の市場が好調
 製品別の貿易市場動向をみると、 チーズや全脂粉乳といった価値の高い製品が 好調である。 一方、 伝統的なバターや脱脂粉乳貿易は不安定、 または減少傾向に あるだけでなく、 買い手市場となっている。 こういったことから、 もはや乳製品 貿易は余剰品の輸出といった意味合いは薄れつつある。 4 国際市場は今後ますます不安定化
 今後、 輸出国はますます限定されてくるとみられる。 このため、 乳製品の国際 価格は、 国際市場の需給動向に左右されやすく、 輸入国にとっては不安定性の増 大につながってくるものと思われる。 表1 乳製品の貿易状況

III ガット合意実施後1年の世界の酪農乳業事情 (注3)


1 今後、  国際乳製品市場価格は上昇
 生乳生産量 (牛乳) は、 1990年前半に、 EUなどの生産クオータ制度による 生産制限、 中・東欧諸国の体制改革による生産減などにより減少した後、 ほぼ同 水準で推移している。 今後は増加が見込まれるが、 その割合は緩やかなものにな ると思われる。 こういった状況のなかで、 輸出量は生産量の5%程度と少量にと どまる。  一方、 輸入需要は1995年から2000年にかけて12%の増加が見込まれ るなかで、 輸出補助金の削減が進行することとなる。  以上から、 今後数年間の乳製品の国際市場価格は上昇するものと予測される。 2 2001年には80万トンの生乳不足
 デンマーク・デイリーボードの予測によれば、 2001年には乳製品需要は生 乳換算で680万トンの増加が見込まれている。 この追加需要のうち、 600万 トンはオーストラリア、 ニュージーランドおよび米国の輸出増で賄えると予測す れば、 残り80万トンの供給不足が生ずる。  この供給不足分をEUが供給可能かどうかが注目されるが、 EUの輸出量は今後の 補助金削減の影響がどのように反映されるか計り知れないなど不確定である。 こ のため、 EUの方向性次第で、 世界需給は次のように予測することができる。 (1)  ガット合意によるEUの補助金付輸出の減少分が、 そのまま減少する場合
 
     EUの輸出減少分   ▲250万トン
     供給不足      ▲ 80万トン
    ───────────────────
     需給ギャップ合計  ▲330万トン
(2)  EUの輸出量に変化がない場合 (EUが補助金なしで250万トンを輸出)
 
     需給ギャップ合計  ▲ 80万トン
(3)  EUの輸出量は、 補助金削減に関わらず、 市場志向で推移する場合     (需給ギャップなし)
     補助金なし輸出    250万トン
     供給不足分をEUが輸出  80万トン
    ───────────────────
     EUの輸出量合計    330万トン
3 地域別の状況
(1)  EU ア ガット合意により、 輸出シェアは今後とも引き続き減少  EUは、 依然として世界の乳製品貿易で優位を占めているが、 市場シェアは19 90年の56%から、 94年には49%に減少している。 この減少傾向は、 ガッ ト合意の実施が進むことにより、 継続するものと見込まれる。 イ ガット合意の影響は大  ガット合意による補助金削減約束を履行するため、 EU委員会は、 輸出補助金の 度重なる削減を実施してきている。 この結果、 輸出業者には、 長期的販売計画の 設定や輸出契約の締結に支障が生じている。 また、 補助金付き輸出の減少と輸入 の増加により、 今後、 生乳生産の過剰が生じる恐れがある。 ガット合意の影響を 試算してみると、 生乳生産クオータの4%の減少、 10%の価格低下効果がある と推定される。 ウ 酪農政策は板挟み  EUは、 今後、 中・東欧諸国の加盟問題を抱えている。 また、 次期WTOラウンド では現行のガット合意による農業支持の削減が継続されると伴に、 輸出補助金が 撤廃される可能性が高いと予想される。 このため、 EUでは酪農政策の改革が必要 となっている。 ただし、 たとえば生乳生産クオータを廃止すれば、 バター、 脱脂 粉乳といった主要乳製品の生産増加を招き、 介入買い入れや輸出増加を余儀なく されるばかりでなく、 生産者間の公平性が損なわれるといった問題が予想され、 改革は多難である。  いずれにせよ、 改革の必要性を背景として、 EUは、 今後乳製品貿易における現 状の地位を維持、 拡大するのか、 あるいは中・東欧諸国の加盟により拡大する域 内市場向けの供給に絞った生産を行うのかという選択を迫られる。 (2)  米国 ア 好調な生乳生産    1994年と95年の生産量は従来に比べて高い伸びを示しており、 今後も、 増加率の低下こそあれ、 増加傾向で推移するものとみられる。 今後の米国の競争 力強化の推進には、 バイオテクノロジーの導入や、 経営の大規模化が挙げられる。 イ 新農業法とDEIP  96年新農業法により、 今後牛乳乳製品の価格支持は漸減され、 2000年以 降は撤廃されることとなった。  一方、 DEIPについては2002年までの継続が決定した。 ガット合意下で許さ れる最大限の範囲でこの制度が利用されることとなった。 95年には、 主にアジ ア市場向け脱脂粉乳を対象にDEIPによる輸出補助金が増額されている。 こういっ た輸出は今後の国際価格に影響力を持つと考えられる。 (3)  欧州自由貿易連合諸国 ア ノルウエーは既に乳製品関税率削減約束を実施済み  ノルウエーでは、 95年7月1日までに、 ガット合意に基づく乳製品の関税率 削減約束を実施している。 輸出に関しては、 国内価格と国際価格との差額を輸出 補助金としているが、 国内価格の低下により、 輸出補助金レベルの超過はみられ ていない。  国内措置としては主要乳製品に指標価格を設定し、 市場価格が指標価格を超え た場合は関税率が自動的に引き下げられることとなった。 現在の政策では、 生乳 生産は国内需要向けに収れんする方向にあり、 特にチーズ輸出は減少すると見込 まれる。 イ スイスは、 今後、 市場措置関連支出を50%削減  スイスは、 ガット合意調印後間もなく、 2003年に向けて、 市場措置関連へ の財政支出を50%削減することを議会で決定した。 削減後の残り4億1千万US ドルは、 市場の自由化措置導入の核となる。 (4)  オーストラリア ア 輸出は10億USドル  94/95年度の乳製品の輸出額は約10億USドルに達し、 特に中東や南米へ の市場拡大が顕著である。 95/96年度の生産は好調であり、 輸出の増加傾向 は今後も継続するものとみられる。 イ ガット合意の実行には支障なし  乳製品輸入に当たっての関税障壁はなく、 また、 生産者に対する補助も行って いないため、 ガット合意の実行に当たっての支障はない。 ウ マーケットアクセスの恩恵なし  ガット合意に基づくマーケットアクセスに関しては、 主要輸出国における輸入 量が既に基準年よりも高い状況にあることから、 あまり恩恵は受けていない。 エ 増産の可能性大  価格の保証さえあれば、 乳牛の増頭は極めて容易に達成できる。 ただし、 支障 になっているのは加工、 販売経費が高いことである。 (5)  ニュージーランド ア ガット合意に伴う酪農政策の変更の必要なし  酪農分野では価格支持やその他の補助金政策も行われていない。 また、 乳製品 の輸入に当たっての非関税障壁もない。 バターとチーズの輸入については関税は 課せられておらず、 その他の乳製品についても低率である。 また、 輸出補助金も 存在しない。 したがって、 ガット合意に伴う直接的な影響はない。 イ 補助金削減等が追い風  乳製品の90%以上を輸出しており、 主たる競争相手は輸入制限や輸出補助金 を採用している北半球の国々である。 このため、 ガット合意に伴い、 国際価格の 形成が市場原理に基づくようになれば、 国際価格の上昇も予測され、 酪農乳業に は追い風となる。 ただし、 生産拡大に当たっては、 酪農用に転換できる良好な土 地が足りないことが障害になる可能性がある。 ウ 生産者価格は20%増加  94/95年度に比べると、 95/96年度は、 生産者価格は20%、 生産量 は7%増加している。 また、 生産品目については、 途上国向けの粉乳に焦点が定 めれている。 (6)  中東欧諸国 ア 生乳生産量の減少  生産手段の私有化が開始されてから、 主に一人当たり収入の減少に伴う需要減 により、 生乳生産量の激減が見られている。 ただし、 情報不足などから統計数字 には注意が必要である。 統計上は処分されたとみられる乳牛も、 その多くは存在 しており、 商業ベースで販売されない生乳を生産しているものとみられる。 イ 短期間での酪農の再建は困難  低生産性や生産量の減少は、 逆に将来の可能性を示すものでもあるが、 新規投 資へ資金不足や構造問題の深刻さによって、 短期間での酪農の再建は困難と見ら れる。 ウ ガット合意は大きな意味を持たない  生乳価格が国際的に安価であること、 旧ソ連の国々の間で乳製品が依然として バーター取り引きされていること、 また、 ほとんどの国は輸出補助金を採用して いないことから、 ガット合意は酪農にとって問題とはなっていない。

IV 2010年に向かっての酪農乳業 (注4)


1 世界は急速に変化
 今日、 世界は、 社会、 経済、 技術等々、 さまざまな分野で急速な変化にさらさ れており、 これらの変化は酪農、 乳業に対しても少なからず影響を与えている。 こういった変化には次のようなものが挙げられる。 (1)  社会、 経済の国際化  経済は、 特にガット合意によって国際化が促進されており、 また、 社会も国際 化し、 世界はますます一つの村になってきている。 (2)  リアルタイムの情報交換  ファックス、 E-mail、 インターネット、 その他もろもろのコンピューター化に より、 情報交換が目覚しい発展を遂げ、 瞬時に世界各地での出来事を知ることが できるようになった。 また、 空路の発達により、 24時間以内に世界中どこにで も移動可能となった。 (3)  企業の巨大化  世界の製造業トップ5社の売り上げは、 88年には3千3百億USドルだったが、 94年には8千3百億USドルに増えており、 トップ1社の売り上げを見ても、 こ の間に1千2百億USドルから1千8百USドルに増加している。 (4)  南半球での人口増加  世界の人口は92年の53億人から、 2010年までには70億人に増加し、 40年までにはほぼ2倍になるものと見られている。 また、 2010年までの増 加人口の94%は開発途上国における増加と見込まれている。 (5)  中東欧諸国の体制改革  90年初頭からの中東欧諸国における体制改革により、 75年には世界経済の 60%を占めていた計画経済が、 自由経済に移行することとなった。 2 2010年に向かってのトレンド
(1)  農家戸数は急速に減少  酪農経営は、 大規模化の方向を歩むものと考えられる。 地域的にみた場合は次 のとおりである (表2) 。 表2 各国酪農の概要 注:オーストラリア、 ドイツは1994年 ア EU  旧EC10カ国では、 84年に生乳生産クオータ制度を導入して以来、 95年ま でに農家戸数は半減している。 なかでも比較的小規模経営が多いベルギー (▲4 8%) 、 デンマーク (▲55%) 、 フランス (▲53%) 、 イタリア (▲47%) といった国においては、 農家戸数の減少が顕著である。 一方、 比較的大規模経営 の多い英国 (▲26%) 、 オランダ (▲36%) では、 減少幅は小さい。  旧EU12カ国でみた場合、 100頭以上を飼養する農家は、 83年の16,0 00戸から、 93年には20, 600戸に増加している。 20, 600戸のう ち、 約44%、 9,100戸は英国の農家であり、 これらは英国内の生乳生産量 の約半分を生産している。  今後、 WTOの次期ラウンドやEUの中・東欧への拡大といったさらなる国際化の 進展により、 小規模から中規模農家は一層減少するものとみられ、 2005年ま でには少なくとも半減するものと見込まれる。 しかしながら、 平均経営規模は、 それほど拡大せず、 2010年でも概ね40頭程度と見込まれる。 イ 米国  平均飼養規模は既に大きく (85年40頭/戸、 95年62頭/戸) 、 農家戸 数の減少幅はEUに比べて小さい (84年27万戸、 94年15万戸) 。 小規模経 営も依然として多いものの、 農家総数の13.6%に過ぎない100頭以上の大 規模経営農家が生乳生産量の半分を生産している。  生産地帯の移動も特徴的である。 伝統的な生産地域であるウイスコンシン州や ミネソタ州から、 カリフォルニア州、 ワシントン州、 テキサス州への移動がみら れ、 93年には、 カリフォルニア州が初めてウイスコンシン州の生産量を超えて いる。  1000頭から3000頭という巨大な飼養農家が存在する中、 今後は、 数百 頭の飼養規模の経営が平均的になるものと予想される。 ウ オセアニア  酪農経営は既に大規模化しており、 オーストラリアで135頭/戸、 ニュージ ーランドで195頭/戸となっている。 生乳生産量の増加、 草地主体の飼養形態、 経営の大規模化といった理由で、 EUや米国ほどの飼養戸数の減少は見られない (オーストラリア;85年19,200戸、 95年14,200戸、 ニュージー ランド:85年15,900戸、 95年14,600戸) 。 ニュージーランドで はむしろ過去5年の間に増加している。 FAOでは、 93年から2000年にかけ て生乳生産量は20%増加すると見込んでいる。 (2) 酪農経営は、 専業と複合経営の二つの流れ  先進国の酪農経営は今後も家族経営が主体となると見込まれる。 この中で、 経 営構造は、 生乳生産以外の収入 (農業以外のパートタイム、 乳製品の直販、 環境 保全補助金等) を得ながらの小規模経営と、 飼養頭数100頭以上の大規模専業 経営の二つの流れが今後とも継続するものと見込まれる。 (3) 酪農は環境保全の役割が高まる  人口密度の高い国 (ドイツやオランダ) のみならず、 カナダでも、 酪農は農村 地域の向上や自然の管理に貢献しているとの認識が高まってきている。 農村や自 然の保護、 改善における酪農の役割が増すこととなり、 世界中で、 生産は環境に 優しい手法で行われることが限りなく求められることになる。 (4) 技術革新は望み薄  技術は進歩し続けるが、 しばらくの間は、 革命的な技術は出現しない。 しかし、 1頭当たりの平均乳量が7千〜8千キロという国は増加する。 バイオテクノロジ ーの世界では、 BST (泌乳促進ホルモン) 以外は大きな変化はないと思われる。 (5) 乳業は巨大化  乳業も規模拡大と合理化の道を歩んでおり、 特に西欧では、 集約化が急速に進 んでいる。 こういった集約化は輸出志向型の酪農国である、 オランダ、 ニュージ ーランド、 デンマーク、 オーストリラアで進んでいるが、 フランスやスエーデン も追随している (表3, 4) 。 表3 EUにおける各国トップ3の乳業会社の生乳加工シェア  注:オランダは1994年 表4 世界の集乳量トップ10の乳業会社  注:集乳量は他国の傘下企業分も含む可能性が高い  フランスでは、 乳業トップ3社の国内加工シェアが数年前までは22%しかな かったものが、 95年には45%にまで増加している (具体的には、 1995年 のフランス・ディリー・ボードの発表によると、 Besnier社が4百万t、 Bongrain 社が3百万トン, Sodiaal社 (農プラ系) が2百50万トンを集乳している。 こ れは、 94年のフランスの生乳出荷量2千3百万トンに対して、 4割を上まわる 数値となる) 。  スウエーデンやデンマークでは、 最大の乳業会社が国全体の生産量の7割を処 理している (具体的には、 95年のスウエーデンの生乳出荷量324万トンに対 して、 ARLA社 (農プラ系) が215万トンを集乳している。 デンマークでは、 生 乳出荷量448万トンに対して、 MD Foods (農プラ系) が297万トンを集乳し ている。 なお、 MDFoodsの集乳量は、 デンマーク以外の欧州における関係会社の 分を含めると、 350万トンに達する) 。  これらの乳業会社は、 また、 国際化の一歩を踏み出しており、 各国で事業を展 開している (具体的には、 フランスのBesnier社は、 米国で第6位のチーズメー カーとなっている他、 欧州では、 スペイン、 ベルギー、 ウクライナなどで事業を 展開しており、 Bongrain社は、 スペイン、 イタリア、 英国、 オランダなどの欧州 を始め、 米国、 ブラジル、 オーストラリアなどで事業を展開している。 また、 オ ランダのCampina Melkunieは、 傘下にベルギー第2位の乳業メーカーであるCome lco社を抱える他、 ドイツなどで事業展開しており、 デンマークのMDFoods社は英 国において、 60万トンの生乳を処理している) 。  今後、 乳業の集約化は一層のスピードで進み、 生乳生産量の比較的小さな国で は、 単一の農協プラントが組織され、 より多くの生乳を処理することとなり、 大 きな国では、 2、 3の大規模企業がより多くの生乳を処理するようになるものと みられる。 年間処理量が1千万トン以上の乳業会社が出現する可能性もある。  一方、 小規模乳業者も市場の中で適所を満たしながら存続すると思われる。 (6) 協同組合は地位を保持  協同組合の地位が徐々に弱まっていくのではないかとの見方がここ数年あった が、 現在のところ、 主要生産国ではそういった傾向は認められない。 例えば、 デ ンマークでは依然として93%のシェアを有しており (95年) 、 2000年に は95%に拡大すると予測されている。  しかしながら、 事業拡大のための資本確保をより容易にするため、 現行の組合 持ち株制の改善が検討されていたり、 また、 フランスでは農系と商系の合併が行 われたりしているように、 協同組合の今後の役割や影響力についての見通しには 不確定な要素がある。 (7) 消費動向に影響する7つの要因  消費動向に影響する要因として、 1) 高齢化、 2) 世帯人数の減少、 3) 伝統的 な食習慣の消失傾向 (就業時間の多様化、 余暇の増加、 外食の増加等が原因) 、 4) 食事時間の減少、 5) 多民族社会化、 6) 女性就業の増加による家庭内労働の 省力化、 7) 失業率の増加、 社会保障の弱体化等による貧困層の拡大、 が挙げら れる。  以上を背景として、 現在のところ消費者トレンドは次の製品に流れている。 1) 純粋性、 自然性、 新鮮さ、 環境や自然に優しい方法で生産されたものであること、 2) 健康に良く、 安全であること、 3) 簡便性、 4) 高品質、 高風味、 5) 政策的に 正しい製品、 6) 新しさ、 7) 嗜好が変わり易い消費者の登場 (“カメレオン”消 費者) 。  これらのトレンドのうち、 特に乳製品については、 絶対安全であり、 健康に良 く、 風味に富み、 純粋であり (副作用がない) 、 なおかつ簡便である一方、 手ご ろな価格で提供されるべきものである。 (8)  好調なチーズ、 伸び悩む飲用乳  現在の乳製品の特徴的な消費傾向は、 チーズ消費の増加、 飲用乳消費の停滞あ るいはわずかな減少、 バター消費の減少である。  チーズ消費は、 近年、 ほぼ全世界的に伸びており、 過去10年間では、 EUでは 年率1. 8%、 米国では2%の伸びを示している。 特に、 ソフト系のチーズが 好調である。 西側諸国では生乳出荷量の40%がチーズ生産に仕向けられている が、 今後数年間で50%程度に増加する見込みが強い。  飲用乳は、 一人当たり消費量が100kg以下の国々では消費量の増加がみられ ているが、 その他の国では減少している。  ここ最近、 乳脂肪の健康面での悪いイメージはかなり解消されてきている。 以 前考えられてきた乳脂肪と心臓障害との関係については最近の研究で否定されて きており、 例えばバターはコレステロール値に悪影響は及ぼさないといったこと がわかってきた。 ただし、 こういった事実が、 乳脂肪の摂取に対する前向きなイ ンパクトにつながっていない国もあり、 過去20年間続けられてきた反バター消 費に対抗するキャンペーンが今後必要である。  今後の見込みとしては、 最も有望な市場は、 チーズ、 乳飲料、 バイオヨーグル ト、 フレッシュ物、 機能食品、 低脂肪乳や低脂肪チーズ等の低脂肪ものである。 バターも関係者の努力次第では消費を回復する可能性がある。 ただし、 飲用乳市 場は、 横ばいまたはわずかに減少が見込まれる。 (9)  販売分野では乳業会社の地位は低下  食品販売店の規模の拡大がより急速に進んでいる結果として、 製品販売分野に おける乳業会社の立場はより弱くなってきている (表5) 。 表5 EUにおける各国トップ3の量販店のマーケットシェア  注:ドイツ、 ポルトガル、 イタリアは1994年  このため、 量販店のプライベート・ブランド製品が伸びており、 乳業会社のナ ショナル・ブランドの維持は困難になってきている。 乳業が地位の強化を図らな い限り、 他製品との競争、 販売店と乳業との競争がますます激化する。 (10) 途上国では購買力が増加  30年間で世界の食料供給は18%増加しており、 90年から2010年まで には10%増加するものとみられている。 今後、 世界の食料事情は改善すると思 われるが、 現在8億人に達するとされる食料供給の不足人口は、 2010年でも 6億5千万人は存在するとみられる。 食糧援助は必要性は大きいが、 ますます減 少する。  また、 今後、 途上国における購買力の増加の結果、 食料需要、 特に牛乳や食肉 といった付加価値製品への需要は先進国よりも増加し、 この結果、 輸入需要は増 加する。 注  (1) A委員会:乳の生産、 衛生及び品質      B委員会:技術及び工学      C委員会:販売、 経済及び政策      D委員会:法規、 企画、 分類及び用語      E委員会:分析標準法及び実験技術      F委員会:科学及び教育   (2) 1984年〜1994年の世界の乳製品貿易:       A. Krijger, JD. Gottschall, P. Voorbergen (オランダ)    (3) GATT後1年の世界の酪農乳業事情:       P. Jachnik (フランス) , P. Mikkelsen (デンマーク)   (4) 2010年に向かっての酪農乳業:Harm Schelhaas (オランダ)    (5) 各レポートは、 基本的に、 IDFの加盟国からの情報に基づいて取りま      とめられたものである。
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