牛肉市場の動向 (中国)



主要食肉の中で最も急増した牛肉生産


 近年の経済発展による、 需要の急拡大がもたらした食肉生産の急増傾向の中で も、 牛肉生産の伸び率は、 最も目覚ましいものである。 伝統的な食文化との関係 から、 近年に至るまで、 豚肉が食肉全体の4分の3前後を占める状況の下で、 か って牛肉は、 重要な地位を占めるものではなかった (86年までは、 豚、 鶏、 羊、 牛の主要4品目中最低の地位) 。 しかしながら、 経済が急成長し始めた90年代 初頭からは、 生産の急増傾向が続き、 特に改革・開放が急展開し始めた92年以 降は、 めざましい急増を示している。 <近年の牛肉生産動向> ─────────────────────────────────         95年(92/95比)  92年(89/92比)  89年 ───────────────────────────────── 牛  肉   415.4 ( +130% ) 180.3 ( +68% ) 107.2 (牛肉のシェア)  ( 7.9%) ( 5.3%) ( 4.1%) ───────────────────────────────── 食肉合計  5,260.1 ( +53 ) 3,430.7 ( +31 )  2,628.5 ───────────────────────────────── (注) 1 資料 中国統計年鑑  2 単位 万トン  95年の総食肉生産量は前年比16.9%増となり、 ここ5年間で初めて、 生 産量の年間伸び率が停滞 (94年の伸び率は17.1%) を示した。 そうした状 況下で、 牛肉は前年比27.0%増と、 総生産量の伸び率を大幅に上回る伸びを 記録し、 主要4品目では最も高い伸び率となった。 もっとも、 牛肉生産は、 94 年に約40%と 「激増」 しており、 95年は、 表面的には、 伸び率が大幅に低下 したことになる。 しかしながら、 「激増」 の反動が加味されても、 なお最高の伸 び率を示したことは、 生産現場では、 依然として強い増産傾向が続いていること を窺わせるものである。 なお、 関係者によれば、 生産量は96年に入ってからも、 順調な伸び率を維持して推移しているとのことである。 <牛肉のシェア、 生産伸び率> ──────────────────────────── 生産量 シェア 対前年比 ──────────────────────────── 牛   肉 415.4   7.9 +27.0 豚   肉 3,648.4 69.4 +13.8 家きん 肉 934.7 17.8 +23.7 羊   肉 201.5 3.8 +25.2 主要4品目 5,200.0 98.9 +16.9 ──────────────────────────── 食 肉 合 計 5,260.1 100.0 +16.9 ──────────────────────────── (注) 1 資料 中国統計年鑑 2 単位 万トン、 %

生産の中心は華北東部、 東北地方


 次に、 牛肉生産を地域的にみると、 比重が高いのは華北と東北地方となってお り、 この地域に属する上位6省のシェアは年々上昇し、 95年には全体の3分の 2近くまで高まっている。 特にシェアが高いのは華北地方東部であり、 この地域 が生産の中心を占めているといってさしつかえない。 中でも、 第三位の河北省は、 95年の生産量が93年の2.8倍に達しており、 6省のうちで最大の伸び率を 示していることから大いに注目される。 <主要牛肉生産省の生産動向> ────────────────────────────── 95年(前年比) 94年(前年比) 93年 ────────────────────────────── 山東省  68.4 (+10.3) 62.0 (+57.8) 39.3 河南省 64.4 (+46.4) 44.0 (+35.0) 32.6 河北省 54.6 (+50.8) 36.2 (+87.6) 19.3 遼寧省 29.7 (+43.5) 20.7 (+81.6) 11.4 安徽省 23.8 (+31.5) 18.1 (+29.3) 14.0 黒龍江省 23.7 (+31.7) 18.0 (+62.2) 11.1 ────────────────────────────── 上位6省合計 264.6 <64%> 199.0<61%> 127.7<55%> ────────────────────────────── 全国合計 415.4 (+27.0) 327.0 (+40.0) 233.6 ────────────────────────────── (注) 1 資料 中国統計年鑑  2 単位 万トン、 %    3 < >内は、 上位6省生産量の全国合計に対する割合

牛肉産業発展の要素が揃った河北省


 河北省は、 1) 大消費地である北京、 天津の両市 (省級特別市) に隣接し、 か つ、 2) 素牛供給のうえで重要な内蒙古との交通が便利であるという地の利を得 ていることが、 全国一の急成長を支える要素と考えられる。 さらに、 3) 在来種 黄牛の伝統的飼育地帯でかつ穀作地帯であることから、 生産基盤が整っているこ とも重要な要素である。 また、 牛肉、 羊肉の流通業が多い回族 (回教徒) の人口 が比較的多いことも、 牛肉産業を発展させている遠因と考えられる。  次に、 注目すべきは、 山東省、 河南省や東北地方であるが、 この地域は、 いず れも飼料穀物の大宗を占めるトウモロコシの主要生産地であり、 牛肉のみならず、 豚肉、 鶏肉においても、 近年、 生産が順調に伸びていることから、 今後の発展に 注目すべきである。

堅調な価格を支える新しい需要の伸び


 生産が急増しているとはいえ、 牛肉は食肉全体の中では依然として流通量が少 ないことから、 代表的な卸売市場での価格の補足が困難である。 しかしながら、 いくつかの価格データをみると、 高水準の生産増傾向が続いているにもかかわら ず、 今年夏までの市場価格の動向は、 引き続き概ね安定した傾向を示している。 <牛肉の価格 (6、 7月平均) > ────────────────────────────────── 96年6、7月 95年6、7月 ────────────────────────────────── 農業部調べ 全国平均 15.5 15.6 ────────────────────────────────── 国内貿易部調べ市中価格全国平均 16.1 対照データなし ────────────────────────────────── (注) 1 単位:元/kg  2 1元=約13.5円 (参考:16元=約220円)  こうした、 生産の急増にもかかわらず価格の安定が続いてる背景は、 生産増に 見合って需要も伸びていることを示すものである。 その原因としては、 所得の向 上により、 かっては豚肉 「一辺倒」 だった消費パターンが多様化し、 過少消費で あった牛肉が増えたことが先ず挙げられる。 さらに、 経済成長の中心である沿海 部の都市を中心に、 ハンバーガーや焼き肉といった、 「外来」 の外食需要が急増 しており、 この点も見逃せない点である。
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