動物愛護の観点からクレーツ使用禁止を提案 (EU)



 欧州委員会は、 子牛肉 (ヴィール) 生産用クレーツ (子牛を1頭ごとに飼養す

るための囲い) の使用を禁止する提案を行った。 今回の提案によると、 8週齢以

降の子牛をクレーツで飼養することは、 新築施設の場合は98年から、 既存施設の

場合は、 2008年から、 それぞれ禁止される。 また、 それにより週齢の若い子牛を

飼養するためには、 クレーツの大きさを拡大しなければならないことになる。 



動物愛護運動の高まりが背景

 EUでは、 91年に制定された 「子牛の保護に関する裁定基準」 において、 畜舎や 飼養管理に関する基準が定められ、 さらに97年9月末までに、 良好な子牛の飼養 管理方式に関する報告書の提出とそれに基づく提案がなされることとなっていた。 しかし、 動物愛護運動の高まりを受けた農相理事会は、 95年1月、 この報告書を できるだけ早く提出するよう欧州委員会に要求したため、 今回の提案がなされる こととなった。

ヴィール生産国は、 強く反発

 この提案に対し、 主要なヴィール生産国であるフランス、 イタリア、 オランダ などは、 動物愛護の名の下にヴィール生産を犠牲にするものだとして強く反発し ている。 中でも、 EU全体の約3分の1に相当する年間2百万頭のヴィール用子牛を生産 しているフランスは、 95%をクレーツで飼養しており、 その影響が最も大きいと みられている。 今回の提案に反対している側の主な理由は、 以下の3点である。 1 1頭当たりの飼養スペースの拡大に伴い、 生産コストがかなり増加すること。 2 クレーツの禁止措置によってヴィール生産が縮小すれば、 飼料となる脱脂粉 乳 (年間約60万トン) の販路を失う酪農産業にとって大きな打撃となること。 3 子牛が肥育に回された場合には、 牛肉生産の大幅な増加 (最大約85万トン) により牛肉需給の緩和につながる懸念があること。

今後の進展は、 こう着化する模様

 これに対し、 欧州委員会は、 動物愛護を目的とする畜舎の改築または新築に対 しては、 加盟国が一定期間農家に資金的援助を行うことが認められていることを 指摘しつつ、 この提案は、 動物愛護とヴィール生産とのバランスを保つものであ るとしている。  今後、 この問題は、 農相理事会に諮られることとなるが、 動物愛護団体は、 一 般の関心を高めるためのキャンペーンを開始するなどして今回の提案を後押しす る構えである。 しかし、 農相理事会の現議長国イタリアは、 主要なヴィール生産 国であることから、 今回の提案に対して消極的な姿勢を取ることが予想され、 決 着にはかなり時間がかかるとみられている。
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