急増を続ける鶏肉輸出と今後の課題 (中国)



95年の輸出量、 前年比51.3%の急増

 95年の中国の家きん肉 (輸出のほとんどを占める冷凍品) 輸出量は、 過去最高 の24万9千トン (速報値) となり、 前年比51.3%の急増を記録した。  近年、 所得増による家きん肉の国内消費の伸びに刺激されて、 ブロイラー産業 が特に急成長したが、 ブロイラーは輸出面でも好調に数量を伸ばしてきた。  次に、 家きん肉の輸出構造についてみると、 日本向け (ほとんどがブロイラー) が7割以上と、 圧倒的なシェアを占めている。 こうした状況下で、 94年には対日 輸出量 (日本側通関実績) が前年比で52.0%も急増した。 このため、 95年の輸出 動向を予測するに当たっては、 前年急増の反動の折り込みをめぐって、 対日輸出 の状況が大いに注目された。  結果的には、 95年のわが国の中国からの輸入 (1−11月の合計) は18万2千ト ンとなり、 前年比で62.2%もの増加を記録して、 一昨年を上回る高い伸び率を示 している。

駆け込み輸出だけが原因でない輸出増

 最近では、 中国産ブロイラーの競争力低下が取りざたされる中、 この好調さが 維持された背景は、 高い生産の伸びを反映して、 高度な輸出意欲が持続している ことにある (ちなみに、 95年1〜9月の家きん肉の生産量は、 前年比26%増とな っている)。 競争力の低下の原因は、 穀物需給逼迫がもたらした飼料価格急騰に よる生産コストの急上昇である。 しかしながら、 そうした状況下においても、 連 続して高い輸出数量の伸びが達成された。 これについては、 輸出に係る付加価値 税の払い戻し停止 (95年7月から;後に一部修正) 発表に伴う、 上半期における 駆け込み輸出の急増が要因とされるが、 本質的には必ずしもそれだけが原因では なさそうだ。 これについて、 経済・経営面で分析してみると、 中国の鶏肉産業 (特に輸出志向型の大手企業) に、 こうした経営圧迫要因を克服できる力が、 次 第に備わりつつあることを示唆するものがある。

国内販売重視や飼料の自己調達力が強み

 中国の競争力の源泉は低廉な賃金であるといわれてきた。 しかしながら、 中国 の鶏肉産業では、 生産コストに占める労働費のシェアが僅かである (ある調査で は3%以下)。 したがって、 実際には、 コストの7割前後を占める飼料価格の変 動が、 競争力に最も影響を与える要素となる。 このことから、 今日的課題は、 飼 料の大部分を占めるトウモロコシ価格上昇の影響を、 どううまく処理できるかが 競争力維持のポイントとなる。  飼料価格は、 昨年が豊作であったことや、 国家備蓄放出や流通指導、 また2千 万トンの輸入が行われたことから昨今では安定化してきている。 しかしながら、 トウモロコシの価格は1, 400元 (約17, 000円)/トン前後と、 2年前の約2倍で 高止り傾向にある。 これに対して、 引き締め基調の経済政策により、 鶏肉の国内 価格は横ばい傾向で、 以前のような伸びはみられない。 また、 輸出価格は、 大部 分を占める対日輸出が、 競争激化と円安傾向から弱含みとなっている。 このため、 鶏肉産業は、 製造・販売の両面で必ずしも順境下にはない。 こうした状況下にお いても、 鶏肉産業がこれまで好調を維持できた背景としては、 (1) 輸出企業でも、 内蔵・副生物を含めて、 全体の6割前後を国内販売に仕向 ける傾向があり、 輸出価格低下の影響を全体としては吸収しやすいこと。 (2) 大手企業では、 飼料部門を持つケースがあり、 同部門の調達力や販売を通 じての収益性が、 自己の安定的飼料調達やコスト削減に貢献すること。 (3) 多角化している大手企業では、 有精卵や原種鶏の国内販売を通じての収益 の道があり、 企業体力の強化に役立てることができること。 などの諸要素が考えられる。

業界の対応能力と構造適応力を試す96年

 さらに、 より現実的にみると、 ここ3年余りのブロイラーブームが企業にもた らした 「蓄積」 により、 当面の 「好調」 が維持されてきた面も少なくないと考え られる。 一方、 コスト高の下での製品価格横ばい (輸出価格は低迷傾向) という、 製造・販売両面での困難な状況は、 当面は、 96年に入っても余り変化しないもの と考えられる。 したがって、 96年は、 厳しい経済的環境への対応能力を高め、 さ らに産業構造の変化等を通じて、 中国鶏肉産業が生産、 輸出面での好調を、 今後 も持続できるかどうかを試す意味で重要な年になりそうだ。
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