穀物在庫の回復に向けて提言



 米国のワールドウォッチ研究所 (レスター・ブラウン所長) は、 1昨年、 中国

の食料不足が世界の穀物需給に深刻な影響を及ぼすとの見通しを発表して話題と

なったが、 1月25日、 今度は、 当面の穀物在庫不足を解消するために、 今年は昨

年より1億5千万トン多くの穀物を生産する必要があるとのレポートを発表した。 



在庫回復のシナリオを試算

 このレポートは米国農務省の需給予測を基に作成されたものであるが、 当該予 測によると、 95/96年度末の穀物在庫は、 主要国の異常気象等による生産の低下 とアジアを中心とする需要の拡大により、 約2億2千万トン (在庫率23.2%、 48 日分) という記録的な低水準になるとされている。 レポートでは、 この在庫を最 低必要水準とされる60日分に回復するには、 在庫を直接補充するための5千8百 万トンだけでなく、 前年からの繰越不足分を賄うための6千5百万トン、 それに 世界の人口増加による需要増加分2千8百万トンを加えて、 合計1億5千万トン の穀物の増産が必要になるとしている。

在庫回復への障害を指摘

 世界の穀物在庫は、 70年代の半ばにも危機的な水準に低下し、 回復するまでに 約3年を要した。 しかし、 レポートは、 今回の状況が当時と異なる点として、 主 要な生産地域で灌漑への投資及び化学肥料の多給による増産が既に限界に達して いること、 穀物不足時に代替品となるべき水産資源が世界的に枯渇しつつあるこ と、 アジア諸国の経済成長と工業化に伴い、 食用及び飼料用の穀物需要が大幅に 増加していること、 さらには地球の温暖化に伴い、 世界各地で異常高温気象によ る被害が予想されることをあげ、 90年代後半における適正在庫の回復は、 70年代 の場合よりもはるかに困難であると指摘している。 さらに、 EU及び米国が穀物の 生産調整を解除又は緩和することにより、 併せて4万5百トンの増産を行うこと が可能であるとし、 世界的な穀物不足の危機を回避するために、 両国がこの政策 を再考するべき旨を示唆している。
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