米国・EU間の牛肉貿易摩擦、 WTOへ





米国、 EUを正式に提訴

 米国は、 1月26日、 EUが肉牛に対するホルモン剤の使用を理由に米国産牛肉の 輸入を禁止している問題について、 世界貿易機関 (WTO) に対し正式に提訴した。  EUは、 88年に、 牛などの肥育効率を高める効果のあるホルモン剤の域内におけ る使用を原則的に禁止し、 89年1月には、 ホルモン剤を使用している生産国から の牛肉輸入を禁止した。 これに対し、 米国政府は、 全米肉牛生産者協会、 米国食 肉輸出連合会などの牛肉業界団体とともに、 同措置は科学的根拠に欠ける非関税 障壁であると主張して、 EUにその撤廃を求める一方、 これに対する報復措置とし て、 年間1億ドル規模の貿易制裁を実施している。

残留基準の承認がきっかけ

 今回、 米国がWTO提訴に踏み切った背景には、 昨年7月、 食品の残留物質の基 準に関する国際規格の設定などを行っている国連のコーデックス委員会が、 ホル モン剤の食肉への残留に関する一定の基準を初めて定めたことがある。  EUは、 これを受けて、 11月に科学者や消費者代表による特別会議を開催し、 こ の問題について検討したところ、 同会議では、 特定のホルモン剤の使用について は人体に影響を及ぼす危険性はほとんどないとの結論が出された。 しかし、 EUは、 ホルモン剤の使用禁止がEUのほとんどの国及び域内の消費者団体から強く支持さ れていることを考慮し、 1月下旬のEU農相理事会で、 ホルモン剤の使用禁止等を 継続することを確認した。

牛肉需給への影響を懸念

 EUがホルモン剤の域内使用及びホルモン剤使用国からの牛肉輸入を禁止してい る背景には、 域内の牛肉需給に及ぼす影響への懸念がある。 これを解禁した場合 には、 以下のような影響があると考えられている。 1) 域外からの牛肉輸入が大 幅に増加すること。 2) EUでは、 ホルモン剤使用に対する消費者の不信感が依然 として根強いため、 減少傾向にある域内の牛肉消費がさらに低下すること。 3) 域内でのホルモン剤の使用は、 域内の牛肉生産を増加させ、 生産過剰につながり 得ること。

WTOのパネル裁定へ

 昨年11月のEU特別会議における科学者の結論を考慮すると、 この輸入禁止問題 がこのままWTOの裁定に委ねられれば、 米国の主張が認められ、 EUは敗訴すると の見方が一般的である。  今後の展開としては、 まず、 60日以内に米国・EU間でこの問題に関する協議が 行われ、 これが不調に終われば、 米国はWTOにパネルの設置を要求することにな る。 そして、 WTOのパネルによる裁定の手続きは、 早ければ今年5月8日に始まり、 1年から1年半の間に結論が出されることになる。
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