調査レポート 

ニュージーランドにおけるシェアミルカー制度

シドニ−駐在員 鈴木 念、 石橋 隆

はじめに

 ニュージーランドの酪農は、 世界で最も生産コストが低いことで知られている。  国内的にみても、 酪農は、 ニュージーランドの農業総生産額の25%を占め、 さ らに、 乳製品輸出額は輸出総額の約20%を占めるなど、 ニュージーランドの産業 の中でも花形と言えるものとなっている。  その要因はと言えば、 温暖な気候と 安定した降雨に恵まれ、 ほぼ通年放牧が可能なこと。 このため、 牛舎を必要とし ないことから、 設備投資額、 飼料費も少なく、 また、 主たる作業は搾乳のみで、 飼料給与、 畜舎作業、 飼料生産などに関する労働はごくわずかで済むこと。 さら に、 生乳生産量の9割以上が加工向けであることから、 季節生産が可能であるこ と (通常、 南半球の春先にあたる7月末から8月に分娩、 搾乳開始。 10月〜11月 が生産のピーク、 その後漸減し、 5月には乾乳。 6月〜7月中旬は、 生乳生産は ほとんどゼロとなる。 )。 このように、 資金、 労力、 生産条件、 さらに土地条件 的にも大規模経営が可能となっていること等々、 ニュージーランド酪農の低コス ト生産を可能としている要因は枚挙にいとまがない。  しかし、 これらの物理的な要因だけで片づけられないような気もする。 農業に 限らず、 どのような産業も物理的条件、 物的資源に恵まれていても、 それを生か すのは人であり、 人的資源、 すなわち優秀な担い手の育成・確保が図られている ことが、 産業を維持・発展させる重要な要因の1つであると考えられる。  この点、 ニュージーランドの酪農経営には、 シェアミルキングという一種の農 場経営分配制度があり、 このシェアミルキングを行うシェアミルカーが酪農産業 を人的資源の側面から支えていると言われている。  わが国でも酪農の担い手問題が深刻化してきている中、 本レポートではニュー ジーランドにおける酪農担い手育成制度とも言えるシェアミルカー制度の概要、 機能について紹介する。

1 酪農の経営形態 (シェアミルカーとは)

 ニュージーランドでの酪農の経営形態は、 基本的にはオーナー経営、 コントラ クトミルカー、 シェアミルカーの3つに分けられ、 その概要は次のとおりである。 (1) オーナー経営  オーナー経営とは、 農場 (土地) の所有者自らが酪農経営を行うか、 あるいは 農場管理のためのマネージャーを一定賃金で雇用し、 酪農を行う経営と定義され る。 農場運営に要する費用は全て自分自身の負担となり、 マネージャーを雇用し た場合には、 さらに賃金支出が必要となるが、 農場での収入の全てを受け取る形 態の経営である。  ニュージーランドの酪農経営の形態としては最も多く、 現在、 全酪農家戸数の 約3分の2を占めている。 (2) コントラクトミルカー  コントラクトミルカーとは、 農場オーナーとの契約 (コントラクト) により搾 乳等の作業を代行する者であるが、 受け取る報酬は、 (乳固形分1キロ当たりの 契約単価)×(乳固形分生産量) という形で計算される。  なお、 契約単価は農場での作業量に応じて交渉、 設定される。 コントラクトミルカーは、 近年減少傾向にあり、 現在では1%以下となっている。 (3) シェアミルカー  シェアミルカーとは、 コントラクトミルカーと同様に契約により農場オーナー に代り搾乳などの作業を行う者であるが、 コントラクトミルカーと相違する点は、 農場作業代行の報酬として、 オーナーと合意した比率 (シェア) で農場収入を受 け取るところにある。  この収入シェアは伝統的なものとしては29%、 39%、 50%があるが、 最近では 様々なシェアが採用されている。  シェアミルカーの場合、 オーナー経営農場で一定賃金で雇用されるマネージャ ーと異なり、 収入は歩合制であるが、 これはシェアミルカーが農場経営の中で生 産部門の責任分担者であり、 自己の営農技術に責任を負うことを意味する。 すな わち、 自己の酪農技術いかんにより、 農場の生産性が左右され、 それが直接自身 とオーナーの収入に反映される仕組みとなっている。  また、 農場運営に要する費用の一部を負担し、 さらに50%契約の場合には自己 の牛群や管理機械などを所有しなければならないことが、 単なる作業下請けのコ ントラクトミルカーと異なるところである。  このように、 シェアミルカーとは自己の農場 (土地) を持たない、 いわば 「酪 農小作人」 ではあるが、 わが国の戦前の小作制度とは異なり、 ニュージーランド では、 伝統的にシェアミルカーが農場のオーナーとなる最初のステップとなって いる。  すなわち、 シェアミルカー制度とは、 資金はないが、 やる気のある酪農を志す 青年にとっては、 ごく少ない資本で酪農に新規参入でき、 自己の技術を磨きつつ、 将来の農場オーナーを目指して、 必要な資金を貯えることのできる制度となって いる。  シェアミルカーは、 現在、 全酪農家戸数の約3の1を占めている。

2 シェアミルキングの歴史

 ニュージーランドにおけるシェアミルキングは、 1880年代にスコットランドか らの酪農開拓者によって始められた。 おそらく、 当時スコットランドにおいて伝 統的にシェアミルキングが行われていたためと考えられる。 (なお、 シェアミルカー制度自体はニュージーランド固有のものではなく、 豪州 にも存在しており、 おそらく、 世界的には細部は異なっても同様の制度はいくつ かの国で存在していると考えられる。 )  前述したように、 シェアミルカー制度は伝統的に農場主となるための第一段階 となっているが、 この制度が始められた背景はいささか興味深い。 すなわち、 い かに牛が好きな酪農家といえども、 一生涯を搾乳に費やすことを望まない、 「歳 をとれば酪農作業を 『引退』 し、 (町で) のんびりと暮らしたいから。 」 と いう極めて人間的で単純明解な理由が本制度開始のきっかけとなっている。  しかし、 この制度が始められた理由はともかく、 今日、 ニュージーランドにお けるシェアミルカー制度は、 農場主がいつでも酪農から引退することを可能とす る一方、 将来の自立的酪農経営に意欲を燃やす若者の新規就農を容易にするとと もに、 酪農技術の習得及び資金蓄積の機会となり、 さらには、 農場の資産価値の 適正評価にも寄与していると言える。

3 シェアミルカー制度の関係法令

 初期のシェアミルキング契約は個別に雇用主と雇用者との間の合意に基づいて いた。 しかしながら、 この制度は基本的には労働契約であることから、 その後制 度が拡大し、 複雑化してくる中で、 一定のルールに従い雇用主と雇用者双方の利 害調整などを図る必要が生じてきたことから、 1937年にシェアミルキング契約に 関する法律が制定された。  このシェアミルキングに関する最初の法令は、 1937年シェアミルキング契約法 (Sharemilking Agreements Act 1937)であり、 この法律は伝統的な固定シェア契 約 (29%契約及び39%契約) について規定したものであった。 (個々の契約形態 については後述)  その後、 幾度かの改正が加えられ、 現在は1990年シェアミルキング契約法 (Sharemilking Agreements Order 1990) が根拠法令となっている。  90年の改正は、 実態的に伝統的な29%、 39%といった固定シェアでの契約が少 なくなり、 法律で規定されていない様々なシェアでの契約が行われる中で、 法的 にもより柔軟な契約形態に対応できるようにすることが必要とされていたことか ら実施されたものであり、 主として 「可変シェア契約」 に焦点をあてた改正とな っている。

4 シェアミルキングの契約形態

(1) 契約形態の変遷  今世紀初頭まで、 契約形態として一般的には25%契約のみであった。 これは農 場主が全ての農場の資産を所有し、 シェアミルカーは搾乳と農場での作業を全て 行う報酬として乳代及び副産物収入の25%を受け取るというものであった。  その後、 第一次世界大戦の勃発により、 乳製品需要の高まりとともに労働力の 需要も高まり、 労働提供及び資産保有形態は25%契約とほぼ同様ながら、 シェア ミルカーが収入の3分の1を対価として受け取る契約形態も生まれた。  さらに、 1930年頃までに50%契約も加わり、 一般的には25%契約、 3分の1契 約、 50%契約の3形態が行われるようになった。  そして、 1937年、 大恐慌の余波さめやらぬ中、 当時の労働党政権によってシェ アミルカーの賃金と労働条件を法的に規定する目的で前述の1937年シェアミルキ ング契約法が制定された。  この1937年法はシェアミルカーの (労働) 義務を2つのカテゴリーに規定し、 各カテゴリーの義務を履行した時に得られる収入をそれぞれ乳代 (正確には乳脂 肪代金) の25%と33%と定めたものであった。 (なお、 副産物収入については、 シェアミルカーはその50%を得られる。 )  その後、 1944年にこれら2つのカテゴリーの収入シェアは約10%アップされ、 それぞれ27%と36%と定められた。 さらに1946年にも収入シェアは29%と39%に アップされ、 これが今日に至り、 いわゆる伝統的な固定シェア契約と呼ばれるも のとなっている。  このように、 1937年法はその後何度かの改正は実施されたものの、 基本的には 29%と39%という2つの固定シェア契約のみをカバーするもので50%契約は法律 に基づかない個別契約として実施されてきた。 さらに近年、 法律に基づく固定シ ェアでの契約形態が少なくなる一方、 法律で規定されていない様々なシェアでの 契約が行われるようになり、 法律もより柔軟な契約形態に対応させる必要があっ たことから、 1990年に新たに1990年シェアミルキング契約法 (Sharemilking Agreements Order 1990)が制定された。  この1990年法の下で結ばれるシェアミルキング契約は、 一般的には 「可変契約 (Variable Agreement)」 あるいは 「交渉可能契約 (Negotiable Agreement)」 と して知られている。 (2) 主な契約の概要  今日、 シェアミルキング契約の形態は多様なものとなっているが、 主な契約形 態である29%、 39%、 50%契約について、 その概要を次に示す。 1) 29%契約  基本的にはこの契約は、 大規模な牛群を有し、 農作業に追われ搾乳作業まで手 が回らない、 あるいは搾乳作業からは開放されたいと考える農場主が求める契約 形態であり、 シェアミルカーは搾乳以外の農作業は行わない。  一方、 シェアミルカーにとっては、 酪農家の第一段階としての搾乳の経験を得 るための機会であり、 通常、 この後39%契約、 50%契約へと移行していく。 2) 39%契約  29%契約と39%契約の主な相違は、 39%契約ではシェアミルカーが搾乳作業以 外の農作業も全て行うところにある。  また、 乾草生産に要する費用、 トラクター等の維持経費の半分を負担するなど、 シェアミルカーには一定の費用負担が義務として課せられる。  39%契約は搾乳作業やその他の農作業にも一応の経験を有する若いシェアミル カーが農場管理の経験を積むための機会を与えるものと位置付けられるが、 同時 にさらに50%契約へと移行する上で必要となる資金を貯える期間ともなっている。 3) 50%契約  50%契約と39%契約の決定的な違いは、 50%契約ではシェアミルカーが牛群と 農場の運営に必要な機械・器材などを自らが所有することである。  50%契約では、 オーナーは 「不在地主」 となり、 酪農を行うための土地と搾乳 場などの施設をシェアミルカーに提供するだけとなり、 シェアミルカーは酪農場 を借り受けて、 自分の牛を飼い、 酪農経営を行う形となる。  このタイプの契約では、 通常、 搾乳、 牛群管理に要する費用はシェアミルカー の全額負担、 農場、 搾乳場の維持管理に要する費用はオーナーの全額負担、 飼料 生産、 購入などの費用がオーナーとシェアミルカーの折半となる。  現在、 50%契約が最も広く行われており、 シェアは50%が一般的ではあるが、 45%〜55%まで幅がある。  (なお、 参考までに本レポートの最後に、 標準的な50%契約におけるオーナー とシェアミルカーの権利と義務、 収入と費用分配の方法を示した。 )

5 酪農産業における位置付け

 これまで、 シェアミルカー制度の歴史、 概要に触れてきたが、 次にこの制度が ニュージーランド酪農でどのような位置付けになっているかを統計データを用い て説明することとしたい。 (1) 経営形態別酪農家戸数  ニュージーランドにおける経営形態別の酪農家戸数及びその割合を表1、 表2 に示した。  酪農家戸数は長期的に見ればゆるやかな減少傾向を示してきたが、 1980年台末 からはほぼ14, 500戸前後と横ばいで推移している。  経営形態別の酪農家戸数の推移は、 集計方法の変更などから、 統計が連続して いないことから一概には言えないが、 最新時点 (94/95年度) では、 大まかには、 オーナー経営が約3分の2、 シェアミルカーが約3分の1となっている。  なお、 シェアミルカーの内訳を見ると、 近年、 伝統的な29%、 39%契約の割合 が減少傾向にある一方、 1990年シェアミルキング契約法の施行を背景に、 契約形 態が多様化し、 それ以外のシェア契約の割合が増加していることが注目される。 表1. 形態別の酪農家戸数の推移 単位:戸 ──────────────────────────           1998/89 1989/90 1990/91 1991/92 ────────────────────────── オーナー経営 9,316 9,349 99,220 ────────────────────────── シェアミルカー等 28%以下 52 93 174 未 29%契約 354 314 322 30−38%契約 48 67 156 39%契約 401 363 146 調 40−49%契約(注1) 63 60 137 50%契約(注2) 3,079 2,667 3,140 リース 156 − − 査 コントラクト 290 444 130 ────────────────────────── 小計 4,443 4,008 4,205 14,452 ────────────────────────── ────────────────────────── 形態不明 985 1,238 1,233 14,452 ────────────────────────── ────────────────────────── 全酪農家戸数 14,744 14,595 14,658 ────────────────────────── ──────────────────────           1992/93 1993/94 1994/95 ────────────────────── オーナー経営 8,201 8,344 9,627 ────────────────────── シェアミルカー等 28%以下 313 337 643 29%契約 130 118 158 30−38%契約 157 171 245 39%契約 126 108 138 40−49%契約(注1) 102 75 106 50%契約(注2) 2,803 2,714 3,642 リース − − − コントラクト − 97 84 ────────────────────── 小計 3,631 3,620 5,016 ────────────────────── ────────────────────── 形態不明 2,626 2,633 6 ────────────────────── ────────────────────── 全酪農家戸数 14,458 14,597 14,649 ────────────────────── 資料:家畜改良公社、一部推計 注:1. 88/89年度は、51-60%契約を含む。93/94年度以降は、40-44%契約。 2. 93/94年度以降は、45-55%契約。 表2.形態別の酪農家戸数(割合)の推移 単位:戸 ───────────────────────────            1988/89 1989/90 1990/91 1991/92 ────────────────────────── オーナー経営 63.2% 64.1% 62.9% ────────────────────────── シェアミルカー等 28%以下 0.4% 0.6% 1.2% 未 29%契約 2.4% 2.2% 2.2% 30−38%契約 0.3% 0.5% 1.1% 39%契約 2.7% 2.5% 1.0% 調 40−49%契約(注1) 0.4% 0.4% 0.9% 50%契約(注2) 20.9% 18.3% 21.4% リース 1.1% − − 査 コントラクト 2.0% 3.0% 0.9% ────────────────────────── 小計 30.1% 27.5% 28.7% ────────────────────────── ────────────────────────── 形態不明 6.7% 8.5% 8.4% 100.0% ────────────────────────── ────────────────────────── 全 体      100.0% 100.0% 100.0% 100.0% ──────────────────────────?コ ───────────────────────            1992/93 1993/94 1994/95 ────────────────────── オーナー経営 56.7% 57.2% 65.7% ────────────────────── シェアミルカー等 28%以下 2.2% 2.3% 4.4% 29%契約 0.9% 0.8% 1.1% 30−38%契約 1.1% 1.2% 1.7% 39%契約 0.9% 0.7% 0.9% 40−49%契約(注1) 0.7% 0.5% 0.7% 50%契約(注2) 19.4% 18.6% 24.9% リース −  − − コントラクト − 0.7% 0.6% ────────────────────── 小計 25.1% 24.8% 34.2% ────────────────────── ────────────────────── 形態不明 18.2% 18.0% 0.0% ────────────────────── ────────────────────── 全 体   100.0% 100.0% 100.0% ──────────────────────?コ 資料:家畜改良公社、一部推計 注:1. 88/89年度は、51-60%契約を含む。93/94年度以降は、40-44%契約。 2. 93/94年度以降は、45-55%契約。 (2) 経営規模・生産性  表3に、 94/95年度における農場の経営形態別の規模を示した。  経営規模は、 飼養頭数、 農場面積ともにオーナー経営に比べ、 シェアミルカー、 コントラクトミルカーが大きい。 特に、 契約シェアが28%以下のシェアミルカー とコントラクトミルカーでその規模が大きいが、 このことは、 前述のとおり、 こ れらのシェアミルカー、 コントラクトミルカーは大規模牧場における搾乳作業の 代行という性格が強いことを数字的に裏付けるものであろう。  しかしながら、 農場作業の全てをシェアミルカーが行い、 オーナーは作業にタ ッチしない50%契約でも、 オーナー経営と比較すれば、 平均では15ヘクタール広 い牧場で約50頭ほど多く牛を飼養している。  さらに、 表4に94/95年度における経営形態別の農場生産性を示したが、 1頭 当たり生産量は、 シェアミルカーもオーナー経営もほとんど差はないが、 表3に あるように、 シェアミルカーの方がオーナー経営よりも1ヘクタール当たり飼養 頭数が0. 2頭多いことが大きく影響し、 農場1ヘクタール当たりでみれば、 乳脂 肪、 乳たんぱくともにシェアミルカーが6%強も高い生産を上げている。  ニュージーランドでは、 ミルクも畑作物と同様、 土地と良好な気候がもたらす 「大地の恵み」 的な発想でとらえられており、 通常、 酪農家は1頭当たりの生産 量ではなく、 農地1ヘクタール当たりの生産量を生産性の尺度としている。  したがって、 このニュージーランド流の尺度によれば、 シェアミルカーは広い 牧場で、 しかも土地を上手 (集約的) に使ってたくさんの牛を飼い、 搾乳も頑張 り、 オーナー経営者よりもかなり高い生産性を達成していると言える。  この相違の要因としては、 一言で言えば 「ハングリー精神」 の差であろうか。 すなわち、 イメージ的には、 シェアミルカーは牧場のオーナーになることを人生 の目標としてひたすら働く比較的若い酪農家。 一方のオーナー経営者は、 すでに 自分の牧場を所有し、 牧場購入時の借金は残っているとしても、 精神的にはリラ ックスし、 悠々自適の生活 (?) を送り、 中には歳もとってきたし、 そろそろ酪 農作業は引退し、 シェアミルカーに牧場を任せようかと考えている者もいるであ ろう。  基本的には、 このような立場の差が、 生産性に反映されていると考えら れる。 表3.形態別の農場規模の比較(1994/95年度)        単位:頭、ヘクタール ────────────────────────────────           平均飼養頭数 平均農場面積 ヘクタール当              たり飼養頭数 ─────────────────────────────── オーナー経営 177 75 2.4 ─────────────────────────────── コントラクトミルカー 298 124 2.6 ─────────────────────────────── シェアミルカー: 20%未満 268 106 2.6 20−28% 246 97 2.7 2%契約 214 90 2.5 30−38%契約 208 86 2.5 39%契約 164 71 2.4 40−44%契約 192 79 2.5 50%契約(45−55%) 224 90 2.6 ─────────────────────────────── シェアミルカー全体 224 90 2.6 ─────────────────────────────── 形態不明 201 88 2.3 ─────────────────────────────── 全酪農家平均 193 80 2.5 ─────────────────────────────── 資料:家畜改良公社 表4.形態別の農場生産性の比較(1994/95年度) 単位:リットル、Kg ─────────────────────────              農場当たり平均生産量   ─────────────────────────            生 乳 乳脂肪  たんぱく ───────────────────────── オーナー経営 561,600 27,263 20,187 ───────────────────────── コントラクトミルカー 952,479 45,109 34,255 ───────────────────────── シェアミルカー: 20%未満 841,772 42,109 30,791 20−28% 781,477 38,242 28,247 29%契約 679,204 33,103 24,553 30−38%契約 660,446 32,216 23,781 39%契約 515,111 25,992 19,015 40−44%契約 605,738 30,061 22,080 50%契約(45−55%) 712,568 34,727 25,698 シェアミルカー全体 711,088 34,729 25,676 形態不明 640,999 31,119 23,101 全酪農家平均 614,203 29,885 22,117 ───────────────────────── ───────────────────────────────            1ヘクタール当たり生産量 1頭当たり生産量 ──────────────────────────────            乳脂肪 乳たんぱく 乳脂肪 乳たんぱく ────────────────────────────── オーナー経営 378 279 156 115 ────────────────────────────── コントラクトミルカー 397 293 157 116 ────────────────────────────── シェアミルカー: 20%未満 403 294 158 115 20−28% 417 307 157 116 29%契約 393 291 157 116 30−38%契約 391 288 156 115 39%契約 384 280 160 117 40−44%契約 389 285 157 115 50%契約(45−55%) 402 297 156 115 シェアミルカー全体 402 296 157 115 形態不明 354 263 155 115 全酪農家平均 386 285 156 115 ────────────────────────────── 資料:家畜改良公社 (3) 経営内容  表5は、 92/93年度における酪農経営の動向について、 オーナー経営と50%シ ェアミルカーを対比させたものである。  収入については、 当然のことながらオーナー経営者の方が多いが、 前述のとお り50%シェアミルカーの経営規模がオーナー経営よりも大きいこともあり、 シェ アミルカーの収入はオーナー経営の約57%となっており、 収入シェアどおりの 50%とはなっていない。  支出については、 直接経費はシェアミルカーの場合、 搾乳、 繁殖等の農場作業 に関わる費用は基本的にはシェアミルカーの負担となるが、 飼料費、 草地管理に 要する費用等は農場のオーナーとの分担となることから、 総額でみればオーナー 経営の支出額の60%程度となっている。  なお、 直接経費のうち、 賃金については、 シェアミルカーの100%負担となる が、 その額は、 オーナー経営と比べかなり少なくなっている。 シェアミルカーの 場合、 オーナー経営より規模も大きく、 多くの雇用労力を必要とすると考えられ るが、 一般にシェアミルカーはオーナー経営者より若く、 また牧場購入のための 資金を貯えていく必要があることから、 これはシェアミルカーは自分で働くこと により賃金支出をできるだけ抑えていることを意味していると考えられる。  支出のうち、 間接経費は最もオーナー経営とシェアミルカーで差が大きく、 シ ェアミルカーの支出額はオーナー経営の43%に過ぎない。 支出額の差が大きい費 目は、 維持・修繕費、 固定経費、 利子の3つであるが、 特にオーナー経営では利 子負担が非常に重くなっている。 おそらく、 これは牧場購入時の借入金が大きい ためと考えられる。 牧場を所有し、 維持することがいかに、 多額の費用を要する かをこれらの数字は示している。  以上のように、 シェアミルカーの収入はオーナー経営の6割弱であるが、 一方、 支出は直接経費が6割程度、 間接経費が4割強であることから、 現金所得ではオ ーナー経営の68%、 純利益 (税引前、 労働報酬控除後) では75%を確保している。  資産額 (期首) は、 牧場 (土地) を持つと持たないとでは大きな差となり、 オ ーナー経営57万ニュージーランド・ドルに対し、 シェアミルカーは8万3千ニュ ージーランド・ドルであり、 オーナー経営者の資産額の約15%に過ぎない。  しかしながら、 利益率 (期首資産額に対する純利益の割合) でみれば、 オーナ ー経営5.67%に対し、 シェアミルカーは29.35%となっており、 シェアミルカー 制度が少ない資金・資本で高い収益性を上げる営農を可能としていることを示し ている。 表5.酪農経営の動向(1992/93年度) 単位:ドル ───────────────────────────────                オーナー経営  50%シェアミルカー ────────────────────────────── 収 入 乳代 169,939 102,000 家畜販売 24,830 10,722 その他 914 1,985 酪農経営収入計 195,683 114,707 酪農外収入 7,405 940 合計 203,088 115,647 ────────────────────────────── 支 出 賃金 15,206 9,313 衛生費 7,522 8,476 繁殖・牛群検定 3,550 4,032 搾乳経費 2,709 2,208 電気 2,965 2,818 補助飼料・草地管理費 17,697 12,452 肥料 19,783 2,631 輸送費 1,317 923 雑草等防除費 1,763 378 その他 857 818  酪農経営支出計 73,369 44,049  酪農外支出 2,181 218  間接経費 維持・修繕費 13,980 3,803 車両維持費 8,477 7,337 固定経費 9,526 3,745 利子 24,485 7,915 管理費 4,990 3,620 間接経費計 61,458 26,420 総支出額 137,008 70,687 ────────────────────────────── 現金所得 66,080 44,960 減価償却 11,045 6,317 その他 1,151 1,062 家畜評価額(増価額) 3,944 14,423 ────────────────────────────── 農業利益(税引前) 57,829 52,014 純農外収入 5,789 3,664 総利益(税引前) 63,617 55,678 労働報酬 31,275 31,275 純利益(税引前、労働報酬控除後) 32,342 24,403 ────────────────────────────── 期首資産額 570,045 83,152 利益率(%) 5.67 29.35 ────────────────────────────── 資料:Statistics New Zealand 「Agriculture 1993」

6 シェアミルカー制度の意義

 以上のように、 シェアミルカーは、 牧場オーナーをめざし、 ひたすら働く活力 ある若い酪農家という一般論及びシェアミルカー制度が少ない資本での酪農経営 を可能にしているということが経営規模や生産性、 経営動向から数値的にも裏付 けられる。  また、 表6に農業分野別の農業従事者の平均年齢を示したが、 酪農以外の分野 はいずれも40台半ば以上となっているのに対し、 酪農従事者は男性で41.8才、 女 性では39.9才 (いずれも1991年) と40才前後となっている。 特に、 同じ畜産分野 でも肉用牛経営の男性53. 6才、 女性49. 8才とは平均10才余りの開きとなってい る。  酪農は重労働であることが、 従事者平均年齢が他分野との比較で若い要因 の1つとなっていようが、 さらにシェアミルカー制度が、 ニュージーランド農業 の中でも酪農を若い世代によって担われた活気ある産業としているように考えら れる。  ここで、 改めてシェアミルカー制度の意義を整理しておきたい。 1) 農外、 農業他分野を含め、 酪農への新規参入を容易にする。 2) 特に、 少ない資本 (あるいは資本ゼロ) で就農できることから、 ごく若い世 代からの新規参入を促進する。 (逆に言えば、 就農時の負債が少ないことから、 自身の能力等を考えて、 容易に酪農をやめることもできる。 ) 3) 牧場オーナーを志す者に、 経験と貯蓄を積む期間を与える。 (通常、 20才前後 にシェアミルカーとなり、 徐々に経験、 資金を蓄え、 40才位までにはオーナーと なる。 ) 4) 目的意識のある若い世代が中心であることから、 酪農全体に活気を生む。 5) 酪農経営の委譲を容易にする。 表6.農業分野別の就業者平均年齢の推移 単位:才 ───────────────────── 女 性 男 性 1981 1986 1991 1981 1986 1991 ───────────────────── 酪 農 37.0 38.2 39.9 40.7 40.9 41.8 羊 42.3 42.9 44.8 44.4 45.3 47.4 肉用牛 47.8 49.2 49.8 51.4 52.9 53.6 畜産複合 43.2 43.2 45.2 44.8 45.0 47.3 園 芸 41.1 42.4 43.9 43.4 44.1 45.3 穀 物 43.9 42.4 45.8 41.9 44.1 46.1 果 樹 41.6 43.4 46.2 44.4 45.2 47.8 その他 43.0 41.8 46.8 45.8 44.2 48.6 ───────────────────── 資料:Statistics New Zeaiand

7 人は何故、 酪農家をめざすのか

 これまでから、 ニュージーランドのシェアミルカー制度は、 酪農への新規参入 を容易とし、 酪農に活力を与える大きな要因となっている (あるいは可能性を秘 めている) ことは理解できるが、 しかし、 (酪農への) 門戸は広く開放されてい ても、 門をくぐろうとする人間がいなければ制度は何の意味を持たないのも事実 である。  このような意味で、 本レポートを計画した時点から抱いてきた、 「どんな人が、 どんな動機で酪農家になろうとするのか?」 という素朴な疑問はいまだに解決さ れていない。  それは、 経済的理由 (=儲かる) からなのか、 それとも経済と違う価値観 (ラ イフスタイル等) からなのか、 それともその双方なのか?  言い方を変えれば、 一般論として 「産業が魅力的であれば後継者は育つ」 とい うのは事実であろうが、 「では、 その魅力 (価値) とは何か?」 ということであ るが、 結局、 「価値観」 が多様化する中で、 明解な解答はないようである。  しかし、 この疑問への答えを探していくうちに、 参考となる興味ある事例がい くつか見つかったので、 それを紹介することとしたい。 その1:某専門学校 (日本で言えば農業大学校のような組織) の生徒案内のカバ ーより (見出し) 農業は君自身のパンとなり、 バターとなる! ―― もし、 君がアウトドアライフを楽しみ、 君自身のボスになりたいと望むなら ――  スティーブン・ルーカス君は学校で社会で必要とされる資格をほとんどとらず に卒業したけれど、 今、 彼はシェアミルカーとなり、 200頭の牛を所有している。 あと5年のうちに、 彼は自分の牧場を持ち、 400頭の牛のオーナーとなることを 目指している。 「僕は、 19の時から今までずっと自分自身のボスだし、 決して職捜しすることな んかなかった。 いつも仕事はむこうからやってきたよ。 」 その2:酪農雑誌の記事 ( 「シェアミルカーの出世物語」 ) の要約  地方の銀行の一事務員が、 銀行業界再編の中で将来に不安を感じ、 紆余曲折を 経て酪農の世界に飛び込んだのが5年前。  それが25才の今、 銀行の同僚だった奥さんとともに430頭 (うち、 半分は自己 所有) を搾乳するシェアミルカーに。  これまでの道のりはと言えば、 20才の時、 280頭を飼養する牧場の手伝いとな り、 ここで2年間酪農作業を経験し、 さらにこの間、 専門学校等で学び、22才で 330頭を搾乳する29%シェアミルカーに。  ところが、 この牧場が売却されたため、 再び、 マネージャー、 コントラクトミ ルカーへと。 資金を蓄えるには大規模牧場で働くのが一番と考えて、 530頭搾乳 の牧場で勤務したものの、 町に住むオーナーの牧場で酪農への転換後間もないこ ともあり、 農場整備等が不十分で作業は毎日午前4時から夜9時まで。 やがて体 力も限界に達し、 12キロも痩せ、 生産性も低下して解雇される。  このような厳しい体験もあったが、 理解あるオーナーと出会い、 1年前から現 在の農場で50%シェアミルカーとして215頭を自己所有して搾乳し、 20%契約で オーナー所有の215頭を搾乳。 来シーズンは480頭搾乳へと規模拡大を計画。  奥さんいわく、 「働けば働くほど、 幸福になれるわ。 」 その3:酪農雑誌の記事 (各地域の年度最優秀シェアミルカーの紹介記事) の要 約 ・ノースランド地区  授賞者 (夫) は31才、 奥さんはロンドン生まれ。  昨シーズンは130ヘクタールの牧場で、 352頭搾乳。 今シーズンは別の農場に移 り、 当初430頭搾乳、 最終的には500頭搾乳の計画。 ・オークランド地区  授賞者夫妻 (夫38才) は4年半前にオランダより移住。 シェアミルカーとして 2シーズン目。 175頭搾乳。 ・セントラルプラトー地区  授賞者 (夫40才) は、 13年間オークランドで救急車の医療補助員として勤務。 奥さんは元銀行員。 酪農経験5年。 3年前にシェアミルカーとなり、 初年度は 180頭搾乳。 現在、 搾乳頭数は2倍の360頭に。 ・ワイカト地区  授賞者 (夫36才) は、 長距離トラックの運転手から5年前にシェアミルカーに。 2農場とシェアミルキング契約を結び、 480頭を搾乳。 この他にリース農場で150 頭を搾乳。 「できるだけ早いうちに300頭以上の規模の牧場を持つのが希望。 」 ・カンタベリー地区  授賞者は、 タスマン・アグリカルチャー社 (注) の農場の50%シェアミルカー であり、 162ヘクタールの農場で480頭を搾乳。 ・オタゴ地区  授賞者は、 2つの農場のシェアミルカーとして活動。 1つはタスマン・アグリ カルチャー社の143ヘクタールの農場で385頭を搾乳、 もう1つの農場 (210ヘク タール) では430頭を搾乳。  特に、 タスマン・アグリカルチャー社の農場での成績が優秀であったことが授 賞理由。 授賞者は、 同社の様々なサポートも成績向上の要因と語る。 ・サウスランド地区  授賞者夫妻は、 タスマン・アグリカルチャー社の農場の50%シェアミルカーと して現契約3年目となる今シーズン430頭を搾乳 (契約初年度は315頭)。 今シー ズン末のシェアミルキング契約満了を機に、 来シーズンには175へクタールの農 場オーナーとなる予定。 (注) タスマン・アグリカルチャー社は、 酪農専門の農業投資株式会社であり、 この6年間に急拡大し、 現在、 ニュージーランド南島に61の酪農場を所有。 1996 年度の計画では、 南島全体で総農場面積約9,900ヘクタールで、 26,000頭を搾乳 予定。 (90年には19農場、 5, 000ヘクタール)  特徴として、 農場の運営は全て独自の50%シェアミルキング契約によりシェア ミルカーが実施する点にある。  また、 最近の酪農ブームの中で、 ニュージーランドでは羊、 肉用牛牧場から酪 農場への転換が進みつつあるが、 同社は、 羊、 肉用牛牧場の近代的な酪農場への 転換のエキスパートとなりつつある。

おわりに

 最近、 農業関係新聞だけでなく一般紙にも、 よく脱サラ農民の記事が取り上げ られているが、 これまでみてきたように、 ニュージーランドでもシェアミルカー 制度をうまく利用して脱サラ酪農家が活躍しているようである。 このようにシェ アミルカー制度は酪農担い手の育成・確保手段として有効に機能していると考え られるが、 ニュージーランドに酪農後継者問題がないわけではない。  ニュージーランドでもオーナー経営かつ家族経営が主体であることには変わり なく、 次世代への経営継承という意味での 「あとつぎ」 問題はわが国と同様にあ る。  先日、 ニュージーランドのある酪農協を訪問した際、 そこの相当年配の組合長 さんも、 「子供達は都会で会社勤めしていて、 後を継ぐ気はないよ。 」 と語って いた。 しかし、 そう語る表情に諦めに似たものはあっても、 深刻さはなかったと の印象がある。 いつでもシェアミルカーに牧場を任し、 酪農作業を 「引退」 する ことは可能だし、 また、 牧場を売却して、 町でも、 あるいは都会に住む息子のそ ばにでも住宅を購入して悠々と余生を楽しむことができると考えているからであ ろうか。  伝統的に世襲制となっているわが国農業も、 そろそろその限界が見えてきたよ うな感がある一方、 大学の農業系学部、 農業大学校などでもサラリーマン家庭に 育った若者が増え、 また、 この中には就農を希望する者も増えてきている。 さら に価値観が多様化する中、 脱サラ・農村回帰志向も高まりつつある。  農業の歴史、 農業に対する考え方、 農地所有、 農業条件、 その他諸々の問題か ら、 シェアミルカー制度がわが国酪農にこのまま応用できるとは思わない。 しか し、 酪農の担い手、 活力を広く農外分野からも求められる時代、 いや、 求めなけ ればいけない時代となった今、 多額の資金を必要とせず、 若い意欲ある者の酪農 への新規参入を容易にしている点は大いに参考になるのではないだろうか。  わが国でも、 酪農ヘルパー制度が、 単に個別酪農家が困った時、 休みたい時の お手伝いとしてのものだけでなく、 若い優秀な担い手を育成・確保する上でも活 用されているが、 この制度は本来の主旨からしても、 新規就農希望者の酪農技術 習得という観点では活用できるが、 新規就農する場合必要となる資金の蓄積を可 能とするものではない。  最近、 農業全般における新規就農対策が充実され、 いろいろな形で新規就農が 容易となりつつあり、 さらに一部地域で新規就農者に対するリース牧場等がうま く活用されている事例もあると聞くが、 今まではどちらかというと新規就農の場 合でも、 実際の経営能力が未知数ながら 「はじめに農場所有ありき。 」 のスタイ ルであり、 補助金と低利の制度資金を活用しても相当の負債 (と精神的負担・不 安) を抱えての営農開始となり、 「借金に追われた」 農業の感があったような気 がする。 実際、 今でも当初に多額の資金、 借入金を必要とする点が新規就農の大 きな障害の1つとなっている。  これに対し、 ニュージーランドのシェアミルカーは、 (借金はするにせよ) 実 力と資金を貯えた最終結果として牧場オーナーとなる点が逆である。 この点では、 わが国の都会で働くサラリーマンがマイホームを持つことを夢に企業戦士として ひたすら働き、 貯蓄をし、 退職金払いの借金をして家を建てるのと過程は極めて 似ている。 また、 どれだけ実力を蓄え (企業で出世し)、 その結果得られる収入 からの貯蓄及び信用度に応じた借入金により、 購入できる牧場 (家) の程度が決 まるという、 実力相応の原則も同じである。  ニュージーランドのシェアミルカー制度は、 わが国でもサラリーマン等、 農業 関係者以外の人がみれば、 資産形成という点では、 ごく当たり前のものとしか思 われないかもしれない。 このごく当たり前のようなことが、 わが国の農業ではむ ずかしいことはよく理解できるが、 多額の借入金なしで新規就農が可能となるよ うな仕組みを考えられれば、 酪農の担い手はまだまだやってくるのではないだろ うか。 (参考) 標準的な50%契約における義務・権利、 収入・費用分配の概要 1 権利と義務 (1) オーナー ・ 酪農を営む土地を提供すること ・ シェアミルカー、 その家族及び雇用者に対し、 無償で (良好に修繕された) 住居を提供すること ・ 良好に稼動可能な状態で搾乳場 (電気モーター、 冷却施設、 水の供給を含む) を提供、 維持すること ・ 高圧洗浄施設を提供、 維持管理すること ・ 搾乳場等からの汚水の廃棄のための装置 (手段) を提供、 維持すること ・ 子牛の飼育施設を提供すること ・ 全ての施設、 フェンス、 ゲート、 ヤードなどを契約開始時に良好適切な状態 としておくこと ・ 全ての通路、 排水、 隔障物、 集乳タンカー道路、 飲水場周辺、 搾乳場を良好 適切な状態としておくこと ・ 施設、 フェンス、 水道、 ゲート、 通路、 飲水場周辺、 集乳タンカー道路の修 繕作業のための全ての資材を提供すること ・ 農場で使用する水のポンプアップに要した燃料費を負担すること (あるいは、 初生牛の販売収入で相殺) ・ 契約農場の管理運営方法の指示、 作業をコントロールする権利を有する ・ (初生牛の販売収入で相殺しない場合) 鼓脹症、 顔面湿疹、 グラステタニーの 防除のための資材費の半額を負担すること ・ 契約に規定した数量の肥料及び石灰を提供すること ・ 補助飼料作物生産に要する種子及び肥料代の半額を負担すること ・ 新播草地の種子及び肥料代の全額を負担すること ・ 補助飼料 (乾草を含む) 購入費、 預託放牧料、 窒素肥料代の半額を負担する こと ・ 雑草防除のための除草剤を提供すること ・ 農場に貯蔵された乾草に保険をかけること、 飼料として不適となった乾草は 迅速に処理すること ・ シェアミルカーに対し、 毎月20日に乳代の50%相当全額が乳業会社より自動 的に支払われるようにすること (注:通常、 ニュージーランドでは毎月20日に 前月の生産に基づいて乳業会社より生産者に乳代が支払われる) ・ 契約に基づく農場運営の結果生じたシェアミルカー負担分の費用で、 オーナ ーが立替えた額を乳代から控除する権利を有する ・ シェアミルカーに対し、 農場運営で不備の点を改善するよう書面で求めた後 においても、 シェアミルカーが改善を怠った場合には契約を解除する権利を有 する ・ 契約終了日前に修繕作業を行う場合には、 シェアミルカーに対し、 契約終了 の3か月前に書面で通知すること ・ 契約に関するシェアミルカーとの紛争については、 当該搾乳シーズン終了後 28日以内あるいはシェアミルカーからのクレームを受けた場合には、 その後20 日以内に申立て書を提出すること (2) シェアミルカー ・ 牛群 (搾乳牛、 更新牛、 種雄牛) を提供し、 契約頭数を下回らない頭数の搾 乳を行うこと ・ オーナーと契約した 「その他の家畜」 を飼養管理すること、 管理経費は等分 で負担すること ・ 契約農場で飼養される全ての家畜に責任を有し、 適切に管理しなければなら ない ・ 搾乳、 交配、 飼料給与及び衛生管理に全ての責任を有する ・ 人工授精料、 牛群検定費用を負担すること ・ 契約に規定された頭数まで更新用雌牛を飼育する権利を有する ・ オーナーの書面での了承なしに契約以上の家畜を飼育してはならない ・ 契約開始時及び契約期間中は、 自費で搾乳に要するゴム資材を供給、 設置す ること (ただし、 契約終了時に新しいものに交換する必要はない) ・ 洗浄機のホース、 ノズルを提供、 維持すること ・ 電力、 潤滑油を含む搾乳場の運営経費を負担し、 ブラシ、 バケツ、 ほうきな どの消耗資材を提供すること ・ 乳質に責任を有し、 抗生物質、 農薬、 化学物質などの残留あるいは搾乳場、 搾乳中の衛生管理の不備に起因した乳質低下が生じ、 ペナルティーが課せられ た場合 (=収入減)、 オーナーへの補償の責任を有す (ただし、 水の供給の不 備 (温度や水量など) あるいは冷蔵装置の故障に起因するペナルティーに対し ては免責) ・ 契約した範囲内の農場器具・器材を自費で供給、 維持すること ・ 全ての一般農場作業、 維持作業に責任を有する (ただし、 オーナーは資材を 提供しなければならない) ・ 一般的な農場の維持・改善作業に応分の時間と労働力を費やすこと ・ 契約農場に現存する、 あるいは繁茂しつつある雑草の防除を行うこと ・ 鼓脹症、 顔面湿疹、 グラステタニーの予防、 治療に責任を有し、 (初生牛の 販売収入で相殺しない場合) そのための資材費の半額を負担しなければならない ・ 契約規定に従い (雇用) 労力を提供すること、 この場合、 事故補償法の規定 に従い保険加入すること ・ サイレージ、 乾草を適切に収穫、 貯蔵すること、 これに要する費用を全額負担 すること ・ 肥料、 石灰撒布を行うこと (自己で、 あるいは費用負担の上で作業委託) ・ 補助飼料作物及び新播草地の耕作、 播種作業の全てを行うこと (自己で、 あ るいは費用負担の上で作業委託) ・ 補助飼料作物の種子、 肥料代の半額を負担すること ・ オーナーの農場管理運営方法の指示、 作業をコントロールする権利を尊重す ること ・ 全ての時間と注意を契約農場の効率的管理に費やすこと、 農場外の雇用労働 に従事してはならない ・ 休暇その他の理由で不在となる場合には、 農場作業の義務を履行するために 費用自己負担の上、 適切な作業代理人を置くこと ・ オーナーの書面による同意なしに自己のシェアミルカーとしての権利、 利益 を他の者に譲渡してはならない ・ 公的機関等から派遣された調査員が調査のために農場に立ち入るのを妨げて はならない ・ オーナーからの指示がない場合には、 最大の利益が得られるように農場を管 理しなければならない 2 収入と費用の分配 (1) 収入分配  1) オーナー ・ 延べ払い金を含む全生乳販売収入の50% (注:ニュージーランドでは生産シーズンの初めに 「暫定乳価」 が公表され、 こ れと生産量に基づき毎月仮乳代が支払われるが、 最終的にはシーズン終了後に 清算の上、 次の生産シーズンの初め (通常7〜8月) に延べ払い金が支払われる。 ) ・ 初生牛の純販売収入の50% (別に合意がない場合) ・ 合意された 「その他の家畜」 及びその生産物の販売で得られた純収入の50%  2) シェアミルカー ・ 延べ払い金を含む全生乳販売収入の50% ・ 初生牛の純販売収入の50% (別に合意がない場合) ・ 合意された 「その他の家畜」 及びその生産物の販売で得られた純収入の50% ・ 老廃牛 (種雄牛を含む) の販売純収入の100% (2) 費用分配 ──────────────────────────────    項     目    オ ー ナ ー  シェアミルカー ────────────────────────────── 賃金             −       100 % 衛生    −予防    注1参照     注1参照       −治療      −       100 % 搾乳用ゴム資材      契約終了時     100 %                      (契約終了時を除く) ブラシ、 洗剤等消耗品     −       100 % 電力    −搾乳場     −       100 %       −冷蔵庫     −       100 %       −汚泥ポンプ   −       100 %       −水      注1参照    注1参照       −灌がい    注2参照    注2参照 集乳             50 %       50 % 人工授精・牛群検定      −       100 % 飼料             50 %       50 % 輸送費   −農場器材   注3参照    注3参照       −家畜     注3参照    注3参照 肥料・石灰 −供給      100 %      − (窒素除く) −撒布       50 %       50 % 窒素肥料  −供給      50 %       50 %       −撒布      50 %       50 % 収穫              −      100 % 乾草購入            50 %       50 % 放牧料             50 %       50 % 補助飼料生産用種子・肥料   50 %      50 % 新播草地用種子・肥料     100 %      − 維持・修繕 −家屋      100 %      −       −農場施設   資材提供    労力提供       −フェンス   資材提供    労力提供       −搾乳場    100 %       −       −トラクター等  −       100 % 農薬・除草剤        100 %       − 税金            100 %       − 保険    −建物     100 %       −       −機械     自己所有分   自己所有分       −家畜       −      100 %       −事故補償保険   −      100 % ────────────────────────────── (注) 1:シェアミルカーが初生牛販売収入の全額を受け取る契約の場合、 シェア ミルカーが全ての予防費、 水の汲み上げポンプの電気代を支払う。 2:夏季に飼料確保のために灌がいが必要となる場合、 通常電力コストは折 半とする。 3:自己所有物の輸送費はそれぞれが負担。 初生牛を販売する際の輸送費は 折半、 あるいは販売諸経費を差し引いた純収入を折半とする。 預託放牧 のための輸送費は折半。
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