世界の飼料穀物の需給動向


◇絵でみる需給動向◇

○トウモロコシの作付面積は13%拡大 (米国)



● 本年2回目の作付面積調査を実施


 米国農務省 (USDA) の最新の穀物需給予測 (6月公表) では、 米国の今年8月 末のトウモロコシ在庫数量は、 前年の約22%にしか満たない約9百万トンの記録 的な低水準となることが見込まれている。 このため、 穀物取引関係者は、 現時点 で作付けが概ね完了したとされている、 今秋収穫分トウモロコシの生育状況に、 最大の関心を注いでいる。  こうした中で、 USDAは、 6月28日、 本年3月に続く第2回目の穀物作付面積調 査の結果を公表した。 今回の調査は、 全米のサンプル農家を対象に、 6月1日時 点における作付面積 (及び作付意向面積) について、 5月末から6月中旬にかけ て実際に聞き取りを行い、 この結果を取りまとめたものである。  USDAのこの調査は、 例えば、 トウモロコシに関して過去20年間の実績を見ても、 調査結果に基づく作付面積と実際の作付面積との乖離が2%を超える確率がわず か10分の1にすぎない (平均乖離面積は全米合計で40万エーカーとなっている) など、 かなり信頼性が高いものである。 このため、 この調査結果に対する関係者 の関心も、 非常に高いものとなっている。

● トウモロコシの作付面積は13%増


 これによると、 96年のトウモロコシの作付面積は、 前年比13%増加の80百万エ ーカーが見込まれており、 前回調査 (3月時点) の79百万エーカー (前年比12% 増) をさらに上回る結果となった。  これは、 85年以来の約10年ふりの高水準であり、 穀物価格高騰を背景として、 生産者の生産拡大意欲が高まっていることが窺われる。 また、 青刈り用を除く収 穫予想面積は74百万エーカーと見込まれ、 同じく85年以来の高い水準となってい る。  ちなみに、 トウモロコシ生産の主要7州 (イリノイ、 インディアナ、 アイオワ、 ミネソタ、 ネブラスカ、 オハイオ、 ウィスコンシン) では、 作付面積が合計53百 万エーカー (前年比8%増)、 収穫予想面積は50百万エーカー (前年比9%増) になると見込まれている。  作付面積増加率の全米平均が主要7州の平均を上回ったのは、 主要7州以外に も、 北部平原のサウスダコタ、 ミズーリの両州でともに1百万エーカーを超える 大幅な作付面積の拡大が見込まれているほか、 ルイジアナ、 アラバマ、 南北カロ ライナ等の南東部諸州で、 面積はさほど多くないもののかなり高い増加率を示し たこと等によっている。

● 作付面積は天候不順でやや遅れ気味


 一方、 調査時点におけるトウモロコシ作付完了率は、 全米平均で91%であり、 過去8年平均の96%を下回る結果となった。 主要7州の中では、 コーンベルト東 部のオハイオ、 インディアナの作付完了率が、 ともに72%と、 極めて低い値とな っている。  これは、 5月から6月にかけて、 中西部を中心に長期にわたる天候不順 (多雨、 低気温) が続き、 耕作地をぬかるませると同時に、 土壌温度の上昇を妨げ、 作付 作業を大幅に遅れさせたためである。 ちなみに、 中西部諸州の5月の平均気温は 平年より5度 (華氏) 低く、 降雨量は平年の約2倍に達したと報告されている。  こうしたことから、 一部には、 天候不順が大幅な収穫の減少を招いた昨年の二 の舞になるのではないかとの懸念も出されていた。 しかしながら、 その後は作付 作業が進展を見せ、 全体の作付面積が増加しているという調査結果が出されたこ ともあって、 関係者は少し胸をなでおろしたところである。  ただし、 オハイオ、 インディアナ州等の作付けが遅れた地域については、 トウ モロコシから大豆への作付転換が進められるとの見方もあり、 また、 全般的な作 付時期の遅れが単収に及ぼす影響についても未知数であることから、 今秋の収穫 見込みに関しては、 予断を許さない状況が続いている。  ちなみに、 昨年は、 同時点の作付完了率が89%という低率であり、 その後も、 断続的に干ばつ、 病虫害等に見舞われて、 トウモロコシの収穫が激減した。 本年 においても、 今後のトウモロコシの生育状況には、 引き続き十分な注意を払うこ とが必要と思われる。

● 南部諸州では干ばつ非常事態宣言発令


 ところで、 国土の広い米国では、 今春以来、 極めて勢力の強いジェット気流が 緯度的に国の中心付近に居座って東西に流れたため、 これを境に南北で全く対照 的な気象状況に見舞われた。  つまり、 この気流の北側に当たる中西部から北東部にかけての諸州が多雨と低 気温に悩まされたのとは対照的に、 南側に当たるアリゾナ州等の南西部諸州では 極端な乾燥と高温に見舞われ、 干ばつによる農作物の被害が発生する事態となっ たのである。  これらの南西部諸州は、 主要な穀物生産地ではないものの、 2カ月以上に及ぶ 干ばつによって、 畜産を含む多くの農場が多大な被害を受けたため、 クリントン 大統領は、 7月1日、 これらの地域に干ばつ非常事態宣言を発令した。  これを受けたUSDAは、 商品金融公社 (CCC) が災害対策用として備蓄している 4千5百万ブッシェル (約111万トン) の飼料穀物の中から、 1千6百万ブッシ ェル (約40万トン) を限度として緊急の放出を行い、 これによって見込まれる4 千万ドル (約44億円) の収入を財源として、 被災した畜産農家に対する飼料経費 の補助を行うことを決定した。  なお、 USDAは、 今回の緊急放出数量をCCCの災害対策用備蓄の3分の1程度に とどめたが、 その理由は、 今後の災害に備えて一定の備蓄を確保するためとして いる。 従って、 今後、 干ばつの被害状況の推移いかんでは、 新たな追加措置が講 じられることも予想されるが、 今回の放出が比較的小規模であったことから、 実 際上の救済効果は薄く、 むしろ、 干ばつ被害が甚大であることを一層強く印象付 ける結果となった、 との指摘もなされている。

夏季の穀物類収穫は史上最高の見込み (中国)



● 史上最高となった93年を上回る見込み


 国家統計局は、 6月初旬、 今年夏に収穫する糧食 (飼料穀物や一部のマメ、 イ モ類を含む。 なお、 夏季に収穫する糧食の大部分は、 前年の秋蒔きの冬小麦であ る) の生産量が、 前年実績を2%上回る約1億900万トンに達するとの見通しを 発表した。 これは、 夏季収穫の史上最高を記録した93年の1億842万トンを上回 る豊作である。  この見通しは、 11の主要生産省の生産状況を分析した結果に基づくもので、 中 心となる小麦については、 河北、 山東、 四川の3省で減収の可能性があるものの、 湖北、 浙江、 江蘇、 安徽、 河南、 山西、 陜西、 甘粛の8省ではいずれも増収が見 込まれている。 なお、 実際の収穫は、 6月から7月にかけて行われる。

● 天候要因や農業てこ入れ政策が背景に


 今夏の増産要因としては、 作付け面積が前年より70万ヘクタール (2%) 増加 したことや、 昨年秋の播種時期に天候に恵まれたことが挙げられる。 このほかに は、 旺盛な需要により、 自由市場での取引価格が好調であることに加え、 政府が 穀物の買上価格を引き上げるのではないかとの期待から、 生産者の増産意欲が高 まったこと、 また、 政府が、 農業振興のために資本投入や化学肥料、 資材の供給 に積極的に取り組んだことなどが考えられる。  なお、 夏季に生産される糧食は、 年間の糧食生産量の20〜25%を占めるにすぎ ないが、 その収穫の好不調は、 物価動向を占うバロメーターとして、 重要な意味 を持っている。 これは、 消費支出における食料品のウェイトが大きい中国では、 穀物値上がりの物価上昇率への跳ね返りが大きいため、 まず出される夏季の収穫 見込みの善し悪しが、 その後の物価動向に大きなインパクトを与えることなどに よるものである。

● トウモロコシ輸入は急減、 小麦はなお継続


 次に、 昨年来、 注目の的となっている穀物の輸入動向についてみると、 96年第 1四半期には、 前年同期比55%増と急増したが、 その後、 1−5月期の累計では、 逆に同5. 2%の減少に転じた (443万トン)。  これは、 第1四半期に前年同期比140%増と急増したトウモロコシ輸入量が、 4月、 5月と急減し、 1−5月期の累計では、 同56%の減少 (40万トン) となっ たことが大きな理由である (なお、 第1四半期に、 前年同期比110%増と、 トウ モロコシに次ぐ急増をみせた小麦は、 1−5月期には321万トン、 同36%増とな った)。  このように、 中国の穀物輸入は、 4月以降、 減少傾向にあるものの、 依然とし て、 小麦を中心に継続している。 これは、 小麦の収穫が6月から7月に集中する ことから、 5月は端境期にあたることが主な原因である。 したがって、 新穀が出 回り始める7月以降、 穀物の輸入がどのような展開を示すのかが注目される。

● 中・南部でのトウモロコシ作付けが拡大


 トウモロコシの輸入には歯止めがかかったかにみえる一方で、 畜産物需要の伸 びはあまり衰えをみせず、 飼料向けの穀物需要が依然として根強いことから、 農 業部をはじめとする政府当局は、 トウモロコシの生産拡大に積極的に取り組んで いる。 その一環として、 政府は、 年間1千万トン以上の飼料用トウモロコシを北 部から移送している中部および南部の米作地帯で、 低収量農地での作付けをコメ からトウモロコシに転換する計画を進めている。  現地報道によると、 同計画の下で、 南部8省・自治区 (湖北、 湖南、 江西、 広 東、 江蘇、 浙江、 福建、 広西) が、 トウモロコシ生産に対して資金的な援助を受 けている。 このうち、 湖北、 湖南、 江西の各省のトウモロコシ作付け面積は、 96 年1−5月期に、 前年同期比で約8万6千ヘクタール拡大したという。 計画では、 97年までに、 中部および南部でのトウモロコシ作付け面積を約16万6千ヘクター ル拡大し、 年間収量を157万トン増加させることを最終的な目標としている。

● 華中・華南地方で洪水による被害が多発


 なお、 中国の糧食生産の大宗を占める春蒔き糧食 (夏以降に収穫) の、 今春の 作付け面積は、 前年比1%増の1億1千万ヘクタール (うち、 穀物の作付け面積 は前年比1. 5%増) となっており、 秋蒔きに続いて高い増産意欲が示されている。  畑作を中心とした北部の主要穀物地帯では、 播種後、 少雨の影響が心配されて いたが、 現地報道によれば、 6月下旬の雨で、 干ばつ状態は一時緩和された模様 であり、 今後の順調な生育が期待されている。  これに対して、 大河川の流域にある華中・華南地方では、 最近に至るまで大雨 による洪水が多発しており、 広東、 江西、 湖南、 浙江などの各省で被害が広がっ ている。 7月始め、 江西省、 浙江省などを襲った水害の被害は特に甚大で、 1千 万人以上が被災し、 コメやトウモロコシにも大きな被害が出たと報じられている。  華中・華南地方は、 主として米作地帯であることから、 現時点では、 中国全体 の小麦やトウモロコシの生産に多大な影響が及ぶとは考えにくいが、 前述のとお り、 最近ではこの地方でトウモロコシの増産が奨励されており、 また、 洪水の被 害によりコメが不足すれば、 トウモロコシの食用需要も増えると考えられること から、 この地方の気象状況や作柄についても注視する必要がある。
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