調査レポート 

EUの家きん肉産業について

ブラッセル駐在員 池田一樹、 東郷行雄

はじめに


 EUの家きん肉産業の政策上の位置づけは、 牛肉、 豚肉と比べると従来から極め て低く、 さらにガット・ウルグアイラウンド合意の実施により、 輸入課徴金制度 が廃止されたこともあり、 共通農業政策との関わりは輸出補助金制度を主とした 国境措置として残すのみとなっている。  一方、 EU15カ国の家きん肉の総生産量は、 1995年には780万トンを超えたもの とみられており、 これは同年の日本の生産量128万トンの6倍強であるほか、 ア メリカに次いで世界第2の生産地域でもあり、 食肉産業に占めるウエイトは決し て小さいものではない。  しかし、 EUの家きん肉産業は日本との貿易も非常に小さく、 牛肉や豚肉に比べ てこれまであまり話題としてとりあげられなかった面がある。 そこで本レポート では、 EUの家きん肉産業にスポットを当てその全体像を探ってみることにしたい。

1 EUの家きん肉産業


(1) 生産
 94年の世界の家きん肉生産量は、 4, 210万トンで、 このうちEU (旧12カ国) の 生産量は、 アメリカの1, 321万トンに次いで719万トンと世界の生産量の約17% のシェアを占め、 世界第2の生産規模を誇っている。 表1:世界の家きん肉生産量(94年) (単位:千トン、%) ─────────────────── アメリカ 13,207 (31.4) ブラジル 3,468 (8.2) 中 国 6,600 (15.7) 日 本 1,320 (3.1) 旧ソ連 1,200 (2.9) 旧EU12 7,194 (17.1) その他 9,113 (21.6) ─────────────────── 合 計 42,102 (100) ─────────────────── 資料:EUROPEAN COMMISSION "Year book '95"  世界の家きん肉生産量は順調に拡大しており、 特に中国やブラジルでは年間10 %を超える急激な伸びもみられている。 EUの生産量も年々安定した伸びを示して おり、 加盟国が12カ国となった86年に544万トンであった生産量は、 94年には7 百万トンを超え、 この間約3割の増加となった。  しかし、 95年における世界の家きん肉生産量の見込みによれば、 中国が前年に 比べ約2割増の740万トンに達したことから、 旧EU12カ国の生産量をわずかなが ら上回ったものとみられている (EU15カ国の生産量は、 依然中国を上回っている が、 両者の伸びがこのままとすれば、 遅かれ早かれ同じ結果となるであろう)。  EUの家きん肉生産は、 ブロイラー、 七面鳥、 アヒル、 がちょう、 廃鶏に大別さ れ、 このうち、 ブロイラーが全体の70%、 七面鳥が約18%を占めている。 86年か ら94年における生産量の推移をみると、 量的には少ないもののアヒルが78%増と 最も高い伸びを示し、 次いで七面鳥の58%増、 ブロイラーの34%増となっている。 下表の主要国の推移を見てもわかるように、 量的には少ないものの総じて七面鳥、 アヒルの生産の伸びがブロイラーの伸び率を上回っており、 特に家きん肉の最大 の生産国であるフランスにおいてその傾向は顕著である。 表2:フランス、オランダ及びドイツの種類別家きん肉生産量の推移 (単位:千トン) ────────────────────────────────── 区 分 1985 1990 1995 95/85(%) ────────────────────────────────── フランス ブロイラー 773(61) 958(58) 1,080(53) 139.7 七面鳥 249(20) 439(26) 622(30) 249.8 アヒル 71(6) 110(7) 176(9) 247.9 その他 174(14) 158(9) 173(8) 99.4 ────────────────────────────────── 小 計 1,267(100) 1,665(100) 2,051(100) 161.9 ────────────────────────────────── オランダ ブロイラー 348(82) 433(83) 546(88) 156.9 七面鳥 18(4) 30(6) 33(5) 183.3 その他 59(14) 61(12) 45(7) 76.3 ────────────────────────────────── 小 計 425(100) 524(100) 624(100) 146.8 ────────────────────────────────── ドイツ ブロイラー 215(60) 234(52) 348(54) 161.9 七面鳥 60(17) 131(29) 198(31) 330.0 その他 82(23) 84(19) 102(16) 124.4 ────────────────────────────────── 小 計 357(100) 449(100) 648(100) 181.5 ────────────────────────────────── 旧EU12カ国 (1986) (1994) ブロイラー 3,843(70) 4,479(70) 5,150(70) 134.0 七面鳥 847(15) 1,141(18) 1,334(18) 157.5 アヒル 147(3) 186(3) 262(4) 178.2 廃鶏、ガチョウ 633(12) 616(10) 615(8) 97.2 ──────────────────────────────────  合 計 5,470(100) 6,422(100) 7,361(100) 134.6 ────────────────────────────────── 注:( )内は、構成比 資料:EUROSTATに基づく試算  EUの家きん肉生産の中で7割を占めるブロイラー生産は、 93年12月時点の調査 によれば、 飼養農家戸数101万6千戸、 飼養羽数5億4百万羽により行われてい る。 農家戸数が最も多いのは、 イタリアで約37万戸、 次いでポルトガル20万戸、 フランス17万戸、 ギリシャ12万戸と南部の地中海沿岸諸国を中心にして農家戸数 が多くなっている。  また、 飼養羽数は、 フランス1億2千万羽、 イタリア9千万羽、 イギリス8千 万羽、 スペイン6千万羽と続いている。 1戸当たりの飼養規模は、 オランダ3万 2千羽、 イギリス3万1千羽と旧EU12カ国の中で、 この2カ国が3万羽を上回っ て大規模化が進んでいる。  しかし、 95年の新規加盟3カ国を加えてみると、 EU15カ国で1戸当たり飼養規 模が最も大きいのは意外にもスウェーデンであり、 わずか100戸の農家が平均3 万8千羽のブロイラーを飼養している。 次いでフィンランドの1万8千羽、 デン マークの1万4千羽となり、 この5カ国がEUの中で1万羽を超えた国となってい る。
◇図1:EU旧12ヶ国の家きん肉生産量(単位:千トン)◇
表3:EU15カ国の家きん及びブロイラー飼養農家戸数、羽数、1戸当たり飼養羽数 ─────────────────────────────────────── 区 分  ベルギー デンマーク ドイツ ギリシャ スペイン フランス アイルランド ─────────────────────────────────────── 家きん 農家戸数(千戸) 10.5 11.0 212.8 422.3 335.2 383.6 20.1 飼養羽数(千羽) 28,592 19,816 86,230 31,853 104,409 263,613 12,973 1戸当たり(羽) 2,723 1,801 405 75 311 687 645 ─────────────────────────────────────── ブロイラー 農家戸数(千戸) 1.8 1.0 43.8 123.7 105.4 167.6 2.3 飼養羽数(千羽) 15,902 13,399 29,220 20,353 61,903 117,617 9,068 1戸当たり(羽) 8,949 13,603 668 165 587 702 3,943 ─────────────────────────────────────── ─────────────────────────────────────── イタリア ルクセンブルク オランダ オーストリア ポルトガル フィンランド スウェーデン イギリス ─────────────────────────────────────── 606.4 1.2 5.6 117.8 322.9 17.0 11.1 44.5 149,828 65 98,433 13,589 32,858 9,601 11,467 144,914 247 54 17,577 115 102 565 1,033 3,256 368.6 0.1 1.4 2.8 197.4 0.2 0.1 2.6 89,740 7 45,781 5,281 20,105 2,993 3,794 80,822 244 57 31,660 1,871 102 17,710 37,940 30,813 ─────────────────────────────────────── ─────────────────── 旧EU12合計 EU15合計 ─────────────────── 家きん 農家戸数(千戸) 2,375.9 2,521.8 飼養羽数(千羽) 973,584 1,008,240 1戸当たり(羽) 410 400 ─────────────────── ブロイラー 農家戸数(千戸) 1,015.7 1,018.8 飼養羽数(千羽) 503,917 515,985 1戸当たり(羽) 496 507 ─────────────────── 資料:EUROSTAT (2) 輸出入
 旧EU12カ国の94年における家きん肉の域外貿易の状況は、 輸入量が17万8千ト ン、 輸出量が67万7千トンであり輸出が輸入を上回っている。 また、 域内生産量 も域内需要を上回っており、 94年の自給率は106. 9%となっている。 輸出の3分の2はカットされてない冷凍肉で、 残りのほとんどはカットされた 骨付き冷凍肉となっている。 冷蔵品は数パーセントにしかすぎない。 輸出先は、 中東諸国が全体の4割強を占めており、 国別にみるとサウジアラビ アが最も多く (約23%)、 旧ソ連 (約14%)、 香港 (約8%) が続く。 輸出国別には、 フランスが全体の54%と過半数を占め、 次いでオランダ17%、 デンマーク14%となっている。 輸出は増加傾向にあり、 94年は86年に比してほぼ2倍強となっている。 輸入は、 ブラジルやハンガリーからのブロイラーや七面鳥肉が中心となってお り、 94年は86年に比べて2.5倍と増加している。 表4:EUの家きん肉需給表(94年) (単位:千トン) ───────────────────────────── 区 分  EU12合計 フランス オランダ ドイツ ───────────────────────────── 生産 7,361 1,963 593 641 内ブロイラー 5,150 1,082 521 362 七面鳥 1,334 572 32 183 ───────────────────────────── 消費 6,887 1,288 307 1,065 ───────────────────────────── 輸入 178 102 217 520 内ブロイラー 97 − − 295 七面鳥 28 − − 131 ───────────────────────────── 輸出 677 806 498 96 内ブロイラー 546 517 392 − 七面鳥 109 255 47 − ───────────────────────────── 自給率(%) 106.9 154.2 193.2 60.2 ───────────────────────────── 注:旧EU12カ国の輸出入は、域内貿易量を含まない(国別には域内貿易量 を含む) 資料:EUROSTATに基づく試算 (3) 消費
 EUにおける食肉消費は、 牛肉が減少し豚肉が伸び悩む中で、 家きん肉は年々順 調な伸びを続けている。 95年のEUにおける家きん肉消費のデータは、 二つの大き な通過点があったことを表している。 一つは、 家きん肉の一人当たり年間消費量が初めて20kgを超えたということで ある。 食肉全体の消費量が停滞している中で、 家きん肉の消費が順調に伸びてい るのは、 ヘルシーという健康面でのイメージや、 価格面での他の食肉と比較して の割安感等の利点が考えられる。 もう一つは、 減少傾向が続いている牛肉の年間 消費量をわずかではあるものの、 初めて上回ったということである。  これらの傾向は、 今年になって英国政府の発表により再燃した牛海綿状脳症 (BSE) 問題により、 牛肉消費がEU全体で大きく影響を受けていることもあって、 家きん肉と牛肉の消費量の差は今後ますます拡大してゆくものとみられる。 表5:EUの年間一人当たり食肉消費量の推移 (単位:s) ────────────────────── 区 分 1985 1990 1995 ────────────────────── 牛肉(+子牛肉) 23.0 21.9 20.1 羊肉 3.8 4.2 3.9 豚肉 36.9 40.3 40.5 家きん肉 16.1 18.3 20.2 ────────────────────── 合 計 79.8 84.7 84.7 ────────────────────── 資料:EUROSTAT
◇図2:旧EU12ヶ国の年間一人当たりの食肉消費量◇
(4) 価格
ブロイラーの卸売価格は、 長期的な低落傾向にある。 最近10年間の価格動向を みてみると、 オランダ、 ドイツはともに3割程度の低下を示しているのに対し、 EU最大の生産国であり、 かつ輸出国でもあるフランスの低下率は1割弱にとどま っている。 表6:ブロイラー(と体)卸売価格の推移 (単位:各国通貨/kg) ─────────────────────────────────────── 区 分 85 90 91 92 93 94 95 参考:円 ─────────────────────────────────────── フランス(EF) 8.48 8.00 7.36 7.32 7.56 7.98 7.89 166円/s オランダ(FL) 3.69 3.32 3.30 3.21 3.07 2.99 2.70 160円/s ドイツ (DM) 3.58 3.26 3.20 3.09 2.98 2.88 2.61 173円/s ─────────────────────────────────────── 資料:EUROSTAT (5) 生産コスト
 ブロイラー生産の場合、 性格上、 生産コストに占める変動費の割合及び変動費 に占める飼料費の割合が、 養豚経営や酪農経営に比べ高い傾向にある。  限定的な調査結果であるが、 イギリス、 フランス、 ドイツ及びオランダの4カ 国の事例をみてみると、 変動費に占める飼料費の割合は、 83〜89% (肉豚生産71 〜87%、 生乳生産64〜75%) を占めている。 また、 ブロイラー経営における販売 高に占める粗利益の割合は、 養豚経営や酪農経営より低い18〜22% (養豚経営22 〜28%、 酪農経営63〜75%) となっている (しかし、 酪農経営の場合、 機械や土 地代、 労働費等、 この調査に含まれていない固定費が、 ブロイラー経営に比べか なり高いことを考慮する必要がある)。 表7:ブロイラーの生産費に関する事例調査 (( )内は、養豚経営の事例) ────────────────────────────── 区 分  イギリス フランス ドイツ オランダ ────────────────────────────── 変動費に占める 89(87) −(82) 83(71) 88(82) 飼料費の割合(%) 販売高に占める 80(77) 79(78) 78(72) 82(77) 変動費の割合(%) 販売高に占める 20(23) 21(22) 22(28) 18(23) 粗利益の割合(%) ────────────────────────────── 資料:BER

2 家きん肉の共通市場制度


(1) 政策の内容
 EUにおける共通農業政策として、 家きん肉が対象となったのは、75年の理事会 規則 (2777/75) 「家きん肉市場の共通組織について」 においてである。  この規則は、 EUにおける家きん肉の単一市場を形成することを最優先の課題と しているほか、 第三国との貿易に当たって、 輸入課徴金や輸出補助金を組み入れ た域内単一の貿易システムの導入を規定している。 これらの仕組みは、家きん肉 生産が穀物を大量に消費する産業であることから、 輸入課徴金の算出方法等基本 的なものは、穀物の共通農業政策と極めて密接な関係を有したものとなっていた。  家きん肉には、 共通農業政策上、乳製品や牛肉に見られる直接介入制度や、価格 支持制度は存在していない。 したがって、輸入課徴金によって保護されている以 外、 家きん肉の市場価格は、 域内の需給事情に直接影響を受けているのが実状で ある。 ガット・ウルグアイラウンド (UR) 交渉の結果、 25年以上続いた堰き止め価格 (最低輸入価格) や輸入課徴金は姿を消し、 共通農業政策上機能しているのは、輸 入課徴金から置き換わった関税、 輸出補助金及び特恵輸入枠、 そして新たに導入 されたミニマムアクセス及び特別セーフガードである。 いずれも国境措置として 分類されるものであり、 域内家きん肉産業に対する価格支持制度が存在しないこ とは従前と同様である。 (1) 制度の対象となる家きん肉とは
理事会規則 「2777/75」 は、 共通農業政策の対象となる家きん類 (製品) につ いて次のとおり定めている。 1) 家きん生体 (鶏、アヒル、 ガチョウ、 七面鳥、ホロホロチョウ) 2) 家きんと体 (同上) 及びそれらの可食内臓(レバーを除く) (生鮮、冷蔵、冷凍) 3) 家きんレバー (生鮮、冷蔵、冷凍、塩蔵、 塩水蔵) 4) 家きん脂 (未精製、 生鮮、 冷蔵、 冷凍、 塩蔵、 塩水蔵、 乾燥、 薫製) 5) 家きん脂 (精製) 6) その他の保存加工された家きん肉、 家きん内臓 (2) EU委員会と家きん肉産業の政策上の関わり
また、 同理事会規則 「2777/75」 は、 EU委員会が家きん肉産業に対してとるべ き措置を次のように定めている。 1) 生産、 加工、 取引体制の向上に係る措置 2) 品質改良のための措置 3) 需要に見合うことを前提とした短期及び長期的な生産予測の確立のための措置 4) 市場の価格動向を記録するための措置 (3) UR合意後の輸出補助金
EUの輸出補助金が、 第三国への家きん肉輸出に対して貢献した度合いは大きい ものがある。  UR合意は、 この輸出補助金について、 総額で36%、 数量で21%の削減の達成を 2000年までに求めている。 この削減のベースとなる水準は、 86年から90年の5年 間の輸出実績である。 輸出が増大した93年には、 既に数量で約60万トン、 輸出補 助金額で3億ECUに達していたことから、 2000年における補助金付き家きん肉輸 出量は、 93年水準の50%、 29万1千トンまで削減しなければならない。 95年度 (95年7月〜96年6月) の補助金付き輸出数量の限度は44万トンである。 表8:UR合意による家きん肉の補助金付き輸出の削減約束 ───────────────────────────────────── 年 度  ベース 1995 96 97 98 99 2000 ───────────────────────────────────── 数量(千トン) 367.8 440.1 410.2 380.3 350.4 320.5 290.6 補助金(百万ECU) 143.2 137.8 128.5 119.3 110.1 100.8 91.6 ─────────────────────────────────────  こうした状況の中で、 96年に入ってから家きん肉の輸出補助金単価は頻繁に改 定されており、 必ずしも同一品目ではないものの、 1月に3回、 2月に4回、 3 月に6回、 4月に1回、 5月に3回の改定が行われている。  主に中東に向けられるブロイラー(中抜き、 冷凍品)の輸出補助金単価を見ても、 1年前の95年6月に100キログラム当たり38ECUであったものが、 今年5月には27 ECUになっており、 率にして3割近い削減となっている。 表9:最近の輸出補助金の推移 (単位:ECU/100s) ──────────────────────────────────── 品 目  CNコード 95年6月 96年2月 96年5月(現行) ──────────────────────────────────── ブロイラー(中抜き、冷凍) 02071210 38.00 30.00 27.00 7.00 8.00 7.00 ──────────────────────────────────── 注:上段の輸出補助金は、サウジアラビア等主に中東向けのもの 下段の輸出補助金は、アメリカ、東欧、上段の中東諸国以外向けのもの (4) 可変課徴金から関税化へ
 家きん肉の第三国からEU域内への輸入に対し、 国境措置の大きな柱であった可 変課徴金は、 95年7月から関税へ移行した。  具体的には、 ブロイラー (中抜き、 冷凍) の関税化前の可変課徴金水準は、 33. 06ECU/100kgであったのに対し、 95年7月の関税水準は43. 9ECU/100kgと関税 化前の水準をかなり上回っている。 この関税水準は、 ガット合意により、 2000年 までに毎年6%の削減が義務づけられており、 最終的には29. 9ECU/100kg水準 まで引き下げられる。 (5) その他の制度
ア 東欧諸国枠
 ポーランド、 ハンガリー、 チェコ及びスロバキア共和国、 ブルガリア及びルー マニアからの家きん肉、 卵製品の輸入に対して、 96年に69, 915トン以上の輸入 枠が設けられている。 この輸入枠による輸入に対しては、 関税が20%へ引き下げ られている。 イ ミニマムアクセス
 UR合意により、 2000年までに家きん肉の域内消費量の5%水準までEUの輸入量 を拡大するもので、 品目別には下表のように設定されている。 このうち、 95年の 1万8千トンの輸入枠は、 ガット油糧種子パネルの代償措置として家きん肉を含 む食肉に対し関税割当が行われていたものであり、 関税率は0%となっている。 表10:関税割当量 (単位:トン) ──────────────────── 品 目  95年 2000年 ──────────────────── ブロイラー(と体) 0 6,000 ブロイラー(カット肉) 0 4,000 ブロイラー(その他) 15,500 15,500 七面鳥 0 1,000 七面鳥(カット肉) 2,500 2,500 ──────────────────── 合 計 18,000 29,000 ────────────────────

3 家きん肉に関する関連規程等


(1) 種卵に関する規程
 種卵、 ひな (生体重185g未満) の取扱いに関して、 「種卵及びひなの生産及び 取引に関する理事会規則」 (75/782) が制定されている。 主な内容は次のとおり である。 1) 系統種卵生産業者、 種卵生産業者及びふ化業者は加盟国による登録が必要で あり、 業者には個別の登録番号がつけられる。 登録を行った加盟国は、 他の加 盟国及びEU委員会へ登録業者の登録番号、 名称及び所在地を通知する必要があ る。 2) 種卵は、 生産者によって、 個々の卵の表面に登録番号がつけられる。 3) 第三国からの輸入については、 種卵が収められてる容器に、 「原産国」、 「ふ化 用」 の表示のほか、 品種、 出荷主の名称及び所在地の情報が付されていなけれ ばならない。 4) 登録番号が無い種卵及びふ化前にふ卵器から取り出された種卵は処分されな ければならない。 5) ふ化業者は、 毎月、 品種毎、 分類毎にふ卵器に入った種卵数、 ひなふ化羽数 及び正常ひな羽数をそれぞれの加盟国へ報告するものとする。 6) 加盟国は、 5) の情報を受け取り、 集計した後、 EU委員会へ報告するものとす る。 7) EU委員会は、 6) の情報をとりまとめ、 加盟国へ通知するものとする。 (2) 家きん肉の衛生に関する規程
 生鮮家きん肉の衛生上の取扱いに関しては、 「生鮮家きん肉の取引に影響を及 ぼす衛生問題に関する理事会指令」 (71/118) 」 がある。 この指令には、 次のような内容が規定されている。 1) 家きん肉処理施設の区分  EUの家きん肉処理施設をそのと畜規模に応じて、 次の3つの区分に分類してい る。 <カテゴリー1> ・年間100万羽以上をと畜する主要な施設で、 ”Health Mark"という資格の登録が 行われる。 ・加盟国の機関によって指名された獣医師によると畜前の検査が行われ、 と畜後 も訓練を受けた施設の職員による衛生検査が獣医師の監督の下で行われる。 <カテゴリー2> ・年間15万羽以上の処理が行われる施設。 ・”Health Mark”の資格を得ることができるほか、 域内加盟国への販売が可能で あるが、 域外輸出はできない。 ・と畜前及びと畜後の検査が要求される。 <カテゴリー3> ・農家に併設された小規模な処理施設で、 理事会指令の適用を免除されている。 ブロイラーの場合、 年間処理量が2万羽以下。 ・施設が位置する同じ地域、 あるいは隣接地域の消費者、 小売店への販売しかで きない。 2) 衛生基準  同理事会指令 「71/118」 は、 家きん肉処理施設における、 と畜前、 と畜後の 衛生検査手順、 衛生証明、 輸送、 パッケージング等の衛生基準を定めている。 域 外からの輸入に際しては、 同指令の基準に適合したものだけが認められている。 3) 微生物の検査体制  また、 家きん肉処理施設における家きんと体の冷却方法や微生物の検査方法等 についても、 同理事会指令において規定されている。 4) 従業員の健康管理  さらに、 同理事会指令は、 家きん肉処理施設で家きん肉を取扱う従業員が病原 体の汚染源となる恐れがある保菌者である場合の作業従事を禁止している。 また、 従業員は健康チェックを行うことが定められている。 5) その他  サルモネラ菌等の人畜共通感染症の予防のための現行の管理プログラムは、「動 物や動物に由来する食品における人畜共通感染症を予防するための措置に関する 理事会指令」 (92/117) により94年1月からスタートしている。 モニタリングに より陽性が判明した群はと畜されるほか、 処分費用の50%はEU委員会から拠出さ れる。 また、 家きんペスト等法定伝染病に対する管理プログラムも実施に移され ている。 (3) 動物愛護  「動物の輸送時における愛護に関する理事会指令」 (95/29) は、 輸送時におけ る動物の愛護に関してとるべき措置について規定している。 家きん類も他の牛や 豚と同じくこの指令の対象となっている。  家きん類の場合、 飼料や水分の補給無しに行う輸送時間の上限を12時間と定め られている。 トラックへの積み下ろしのために要する時間は除外される他、 輸送 距離が50kmまで、 また農家間の輸送については適用されない。 (4) ホルモン使用
 81年7月、 EU理事会は、 「ホルモン作用を有する物質の禁止に関する理事会指 令」 (81/602) により、 ホルモン物質の家きんへの投与を禁止している。 これ以 外の増体目的のホルモンの使用についても、 88年1月から禁止されている。  第三国から輸入される動物や生鮮肉の残留ホルモン、 抗生物質等の検査は 「第 三国からの輸入に係る牛、 豚及び生鮮肉の衛生及び獣医学上の問題に関する理事 会指令」 (86/469) に基づき実施されており、 ホルモンについては88年1月から、 抗生物質等は89年から検査が開始されている。  こうした残留ホルモン等の検査に要する費用は関係業界が負担することとなっ ており、 検査機関が請求する最低料金等がEU理事会により定められている。 (5) 残留農薬
 86年7月、 EU理事会は、 畜産物の残留農薬に関して、 「動物に由来する食品に おける残留農薬の最高基準値の決定に関する理事会指令」 (86/363) を定めてい る。 食用に向けられる生鮮、 冷凍及び加工された家きん肉が対象となっている。 (6) その他
ア フォアグラの生産に関する規程
 フォアグラ生産用の家きん (アヒル、 ガチョウ) の取扱いに関しても 「生鮮家 きん肉の取引に影響を及ぼす衛生問題に関する理事会指令」 (71/118) を一部改 正した理事会指令 「80/216」 によりその取扱いが定められている。  これによると、 生産農家は一定の基準に基づき、 独立した処理室でと畜、 放血、 脱羽を行った後、 と体は直ちに加盟国による認定を受けた処理場へ運ばれ、 24時 間以内に内臓が除去されなければならない。 と畜前の衛生検査は、 育すう最終週 に行われる。 イ フランスのラベル・ルージュ家きん肉
 フランスのラベル・ルージュ家きん肉については、 今までも本誌で取り上げら れたことがあり、 詳細はそれに譲るとして、 ここではラベル・ルージュ家きん肉 に係る最近の話題を補充したい。  フランスでは、 このラベル・ルージュ制度や他の品質保証制度を管理するため に、 94年6月に 「農産物及び食品の表示及び証明に関する委員会」 が創設されて いる。  ラベル・ルージュは、 ”製品の特に優れた品質を証明するための表示”と定義 され、 家きん肉の他に食肉製品、 乳製品等様々な品目が対象となっている。  家きん肉は、 ラベル・ルージュ制度の中で最も重要な品目の一つで、 国内生産 量の20%、 消費量の31%がこの制度の対象となっており、 95年には200以上の銘 柄がラベル・ルージュの表示を認められている。 こうしたブランド鶏の卸売価格 は、 ブロイラーと比較して5割以上高いという調査結果も出ている。  なお、 EU委員会が先ごろ決定した、 特定の産地に由来する農産物を保護するた めの産地限定登録に関する理事会規則においても、 フランスが生鮮食肉として登 録した41品目のうち、 33品目がラベル・ルージュを代表する 「ルエ鶏」 や最高級 品として知られる 「ブレス鶏」 などの家きん肉により占められており、 フランス の家きん肉に対する差別化、 高品質化政策がうかがうことができる。
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