動物愛護、 各国で異なる飼養管理基準 (EU)





● 多くの畜種で愛護規則を実施


 EUでは、 豚や採卵鶏、 子牛などの家畜に対しても、 動物愛護の観点から、 その 飼養基準などを定めた幾つかのEU指令が採択されている。 EU指令は、 加盟国の国 内法に組み込まれて実施規則となるが、 その基準値等は、 EU指令が定める範囲で、 各国の裁量に任されている。 豚の飼養基準を例にとってみると、 91年11月に 「豚 の愛護のための最低基準に関する理事会指令91/630」 が採択され、 それに基づ き、 94年1月までにEU各国は順次国内法への組み入れ手続きを実行し、 それぞれ の国内実施規則を施行した。

● 生産コストの格差を生む基準値の違い


 豚舎の環境規則を例にとって、 ドイツとオランダの規則を比較してみると、 異 なった基準が定められている。 EU指令では、 豚舎の空気循環、 温度、 湿度といっ た環境基準については、 「豚に対し無害であること」 という表現になっているが、 オランダでは、 この指令の文言が、 そのまま国内の実施規則の中に取り入れられ ている。 それに対して、 ドイツでは、 豚房の温度 (生後10日目までの子豚の場合 は、 最低30度の温度が必要) やガス濃度 (1立方メートル当たりの最高アンモニ ア濃度は、 20cc) など、 具体的な基準値が定められている。  また、 豚舎内の照度については、 オランダが、 EU指令のとおり、 午前9時から 午後5時までの間は、 最低12ルクスと定めているのに対し、 ドイツでは最低50ル クスと定めている。  このため、 ドイツなどでは新たな設備投資が必要であり、 その結果、 飼養環境 基準の違いが生産コストの格差につながるケースが多くなるとみられる。

● EU当局は、 基準値の調整に動く


 このように、 基準設定における加盟国間での差異は、 基本的には、 その国が動 物愛護に対してどのように取り組んでいるかを反映するものである。 しかしなが ら、 それは同時に、 各国の家畜生産者にとっては、 コストに差異をもたらすこと から、 EU域内市場における価格競争力を左右することにもなる。  EU委員会は、 97年10月1日までに、 EU指令に対する科学獣医委員会の専門家に よる意見を取りまとめ、 農相理事会に報告することになっている。 今後は、 各国 で幅のある基準値をどのように調整するかをめぐり、 各国の思惑が複雑に絡んで、 紆余曲折があることが予想されている。
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