乳業界から見た米国の新農業法 (豪州)





● 総論的には歓迎ムード


 今年4月に成立した米国の96年農業法 (以下 「新農業法」 という) について、 豪州では、 連邦政府をはじめ、 主要な農業関係団体が 「行政府の介入を極力排除 した、 より市場原理に近い内容である」 として、 表面的には歓迎の意向を表明し ている。  これは、 世界最大の農業国である米国が、 不足払い制度や価格支持などの従来 の保護主義的な制度を廃止して、 市場志向を強めるという大きな方針転換を決定 したことによって、 豪州が従来から主張してきた農産物の国内保護の廃止と自由 貿易体制への流れが、 国際的にさらに波及することが期待されるためである。

● 酪農関係者は懸念を隠さず


 その一方で、 市場志向を強めた新農業法が、 農産物の輸出大国である豪州にも たらす影響を懸念する声も少なくない。 特に、 酪農業界関係者の間で、 新農業法 を契機に、 これまで比較的内向きであった米国の酪農業界が、 本格的に海外市場 への参入を図るのではないかと懸念する声が強いようである。  豪州酪農産業協議会 (ADIC) は、 新農業法の実施による米国酪農の今後のシナ リオを次のように予想している。 1) 米国西部地区などの新興酪農地帯を中心に生乳生産が増加する。 2) 価格支持水準の引き下げにより加工原料乳価が低下するため、 乳製品製造コ ストが低減し、 国際競争力が強化される。 3) 国内の乳製品需要はすでに飽和状態にあり、 価格が低下しても大幅な伸びは 期待できないため、 生産の増加分は海外市場に仕向けることになる。 4) この場合、 経済発展が著しく、 乳製品需要の伸びが見込まれるアジア市場を ターゲットとする可能性が高く、 伝統的にアジアを最大の市場としている豪州 産乳製品との競争が激化する。

● アジア市場で競争が激化


 すでに、 豪州の酪農業界は、 95年以降、 米国が乳製品の輸出補助金制度 (DEIP) をアジア向けにも適用し始めたことをきっかけとして、 米国酪農を脅威に感じ始 めているが、 新農業法で、 DEIPの2002年までの継続が決まったことに、 さらに大 きな懸念を示している。  これは、 世界最大の生乳生産国である米国が、 この間に、ニュージーランド、 豪州に続き世界で3番目に低いといわれる生産コストを武器に、 アジア市場の開 拓を一層進め、 豪州にとって非常に手強い競争相手となると考えられるためであ る。  こうしたことから、 豪州酪農業界は、 今後、 ますます警戒感を強め、 米国酪農 の動向や国際市場への進出状況を注視していくことになるとみられる。
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