EUの牛肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇

○EU全域に、 肉牛価格低迷の暗雲



● 3月下旬以降、 下落の一途


 EU平均の成牛価格 (域内市場参考価格、 以下同じ) は、 3月下旬以降、 一貫し て下落傾向にある。 5月は前年同月を10%下回り、 生体100kg当たり132. 9ECU (約1万8千円) まで値下がりした。  加盟国のうち最も下落幅が大きかったのは、 ポルトガルで、 前年同月を20%下 回ったほか、 イギリスで前年同月より18%下落したのをはじめとして、 イタリア を除き、 すべての加盟国で前年同月より10%前後の安値を記録した。  この成牛価格の下落の要因が牛海綿状脳症 (BSE) 問題にあることは、 疑う余 地はなく、 今や、 域内のほぼすべての肉牛生産者にとって、 BSE問題による経済 的な影響は、 共通のものとなったといえよう。

● 生産者支援への要求強まる


 消費者の牛肉離れはEU全体に及んでおり、 域内の消費量は、 BSEとヒトの病気 との問題に関してイギリス政府が見解を発表 (3月20日) して以来、 大きく減少 している。 消費量は、 現在、 3月20日直後の劇的な減少からは、 徐々に回復しつ つあるとされるが、 依然として低水準にとどまっている。  一方、 肉牛の価格は下落し続けており、 現地からの報道では、 各国の生産者の 窮状を訴える声が伝えられている。  このような状況から、 イギリス産牛関連製品の一部禁輸解除が審議された6月 4日の農相理事会では、 同時に総額6億5千万ECU (約880億円) の生産者補助金 の支出について議論された。 これは、 従来から生産者対策として実施されている 雄牛特別奨励金や繁殖雌牛奨励金に上乗せして支給するというものであったが、 ドイツ、 フランス、 アイルランドなど数カ国は、 金額について不十分とし、 増額 を強く訴えた。  なお、 EUレベルの対策として、 3月20日以降、 介入買入や、 輸出補助金の引き 上げなどを実施しており、 11万5千トンに上った介入買入だけでも2億6千万 ECU (約358億円) 以上を既に投じているとされる。

● イギリスに非難の声高まる


 現在、 イギリス産牛製品の全面的な禁輸解除問題をめぐっては、 科学的な見地 からの議論のみならず、 イギリスと他の加盟国間での政治的な攻防が繰り広げら れている。  一方で、 依然としてBSEの伝播メカニズムなどが未解明であり、 このようにBSE 問題対策の成立が長引くことによって、 価格下落による肉牛生産者の経済的な損 失は、 確実に拡大している。  特に、 イギリス以外の生産者には 「被害者意識」 が強く、 「イギリスはEUとの 政治的な対決に勢力を注ぐよりも、 根本的な問題解決の確立を急ぐべきだ」 など、 イギリスのBSE対策の遅れに非難の声が高まっている。
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