調査レポート 

パッカーの寡占化と肉牛取引

デンバー駐在員 堀口 明、 舟田信寿


 米国の肉牛生産には、 飼養頭数の増加と減少を約10年ごとに繰り返すキャトル サイクルがみられる。 90年前後に飼養頭数減少の底を打ったキャトルサイクルは、 以後上昇に転じ、 頭数の増加が続いた。 これに伴い、 牛肉生産量も年々増加する こととなった。 牛肉生産量は増加しているものの、 近年、 米国においては、 消費 者の健康志向や鶏肉消費量の伸びに押され、 一人当たりの牛肉消費量は減少する 傾向が続いた。 このような需給関係による牛肉の供給過剰で、 肉牛取引価格も低 落し、 肉牛生産者の経営状況は苦しい状態が続いている。 肉牛の流通の面では、 80年代から、 食肉加工処理企業 (パッカー) の寡占化の進む傾向がみられるよう になり、 現在もこれが進展している。 パッカーの寡占化は、 生産者との肉牛取引 における力関係において、 パッカーに圧倒的に有利な状況をもたらしているとさ れている。 肉牛生産者は、 価格決定において、 市場支配力を背景として、 パッカ ーが不当に買い入れ価格の引き下げを行っているとの不満を表明し、 政府に実態 調査とこれに対する対策を求めていた。  今月は、 この問題に対処するために米国農務省 (USDA) が行った、 パッカーの 寡占化問題についての調査報告などから、 肉牛産業における寡占化の問題とこれ に対する対応の現状などについて報告する。

1. 食肉産業におけるパッカーの寡占化問題


 米国の食肉産業におけるパッカーの寡占化は、 前世紀末から今世紀初頭に、 シ ャーマン反トラスト法 (1980年制定、 独占と取引制限行為の禁止を規定)、 クレ イトン法 (1914年制定、 シャーマン反トラスト法を補充し、 差別価格の禁止を規 定)、 連邦商業委員会法 (1914年制定、 反トラスト法に対する違法行為の監視な どを規定) などの一連の反トラスト法関係法令制定の一因にもなったいわれてい るように、 古くから存在する問題である。 この当時は、 1921年に制定された食肉 の市場取引について規定した 「パッカー・ストックヤード法」 (市場開設者等の USDAへの登録・保証金の供出、 取引手数料、 支払方法、 会計記録の保管、 取引方 法の規定、 取引結果の報告などを規定) により、 その後の寡占化の進行が抑制さ れることになった。 80年代に入ると、 再び生産コスト低減を図るため、 パッカー は工場の大規模化・合理化を進め、 この過程において、 合併・統合などにより大 手パッカーの食肉処理シェアが拡大することとなった。 (表ー1参照)  80年代にみられた4大パッカー (IBP、 エクセル、 モンフォート、 ナショナル ビーフ) の食肉処理シェアの拡大傾向は、 90年代に入ってからも続き、 その結果、 生産者は肉牛の売り先が限定されることとなり、 肉牛取引において、 パッカー側 が圧倒的に優位な状況が出現しているとされている。 このため、 肉牛生産者団体 からは、 USDAなどの政府機関に対し、 このような実態を調査し対策を講じること を求める声が上がっていた。 (表−1)4大パッカーの食肉処理シェア推移      (単位:%) ──────────────────────────────────── 年 去勢牛等 羊・子羊 豚 ──────────────────────────────────── 80 36 56 34 81 40 52 33 82 41 44 36 83 47 44 29 84 50 49 35 85 50 51 32 86 55 54 33 87 67 75 37 88 70 77 34 89 70 74 34 90 72 70 40 94 82 73 46 ──────────────────────────────────── 資料:USDA、GIPSA、Concentration in the Red Meat Packing Industry

2. パッカーの寡占化問題に関する報告


(1) 寡占化問題の調査実施
 米国議会は、 92年度 (91年10月〜92年9月) 農業歳出予算により、 USDAに対し 食肉産業におけるパッカーの寡占化の問題の調査実施を指示し、 50万ドルの予算 配分を行った。 USDAは、 この調査を主に大学の研究者に委託して実施し、 今年2 月に 「食肉加工処理産業における企業集中化について (Concentration in the Red Meat Packing Industry) 」 とする報告を行った。 (2) 寡占化問題の調査報告
 USDAが発表したこの報告書は、 肉牛産業については、 ア. 市場取引実態 (肉 牛取引地域)、 イ. 取引価格の決定方法、 ウ. 事前供給確保の役割、 エ. パ ッカーの寡占化と価格への影響、 の4項目を、 養豚産業に関しては、 オ. 垂直 統合と肥育豚価への影響、 カ. 東部コーンベルト地帯における肥育豚取引、 の 2項目について報告している。 また、 これと併せて、 キ. パッカーの寡占化と 価格支配に関する文献調査を実施し、 合計7項目についての報告書となっている。 ここでは、 ア〜エの肉牛産業についての報告に示された寡占化等の問題について、 報告の概略を紹介する。  なお、 肉牛取引における価格決定は、 取引形態によって大きな違いがあるとさ れているが、 パッカーの肉牛購入は、 一般的には、 次のような方法によって行わ れており、 1) 〜3) を事前供給確保 (CaptiveSupplies) として4) の現物 (スポ ット) 取引と区分している。 1) 事前供給契約  と畜の2週間以上前に肥育農家と特定の肉牛について購入契約を結ぶ方法。 2) パッカー自社肥育牛  自己または契約フィードロットにおいて自己所有の肥育牛を供給する方法。 3) 供給取り決め  パッカーと肥育農家との間で、 1週、 1月または1年など特定期間に特定頭数 の肉牛を購入することを事前に取り決める方法。 4) 現物 (スポット) 取引  と畜までの期間が2週間以内の時点で直接フィードロットまたは家畜市場など から肥育牛を購入する方法 ア. 市場取引実態 (肉牛取引地域) について  報告では、 肉牛の取引地域を検討し、 取引地域間の取引価格の相違について検 証している。 これは、 ある地域においてパッカーの価格引き下げ行為により本来 の価格より低い価格での取引が強制されようとした場合には、 生産者は他の取引 地域への販売によりこれに対抗することができるとの考えに基づき、 その実態を 調査したものである。 調査の結果、 価格は指標となる主要肉牛産地の相場に連動 して動いており、 また、 他地域への販売の際に必要となる地域間の輸送経費を大 きく上回る程の価格格差はみられなかったとしている。 報告書ではパッカーの肉 牛買い入れを加工処理工場が所在する郡の郡境からの距離として75マイル (121 km)、 150マイル (241km)、 250マイル (402km) と3区分し、 それぞれの距離の範 囲内で、 全体の取引に対してどれだけの割合の取引が行われていたかを調査した 結果を示しているが、 主要生産地では8割から9割と大部分の場合150マイル (2 41km) 以内の地域で取引が行われており (別表2参照)、 この面からは、 パッカ ーの価格操作が行われたことを推測することはできないとしている。 (表2)肉牛買い入れ地域 ──────────────────────────────────── 肉買い入れ地域 地 域 ─────────────────────────────    75マイル以内(121km) 150マイル以内(241km) 250マイル以内(402km) ──────────────────────────────────── 東部 31% 52% 78% 北部中西部 64% 83% 94% 南部中西部 56% 90% 95% 西部 64% 90% 93% 合計 64% 82% 92% ──────────────────────────────────── 資料:USDA、GIPSA、Concentration in the Red Meat Packing Industry イ. 取引価格の決定方法  取引価格の形成が取引方法の違いに影響されるのか、 特に現物市場による買い 入れと事前供給確保の買い入れにより価格形成に相違があるのかを見極めるため、 パッカー20社、 43工場における契約1ロットの単位が35頭以上の去勢牛等の取引 (取引期間は92年4月5日から93年4月) について調査を行い、 その結果を次の ように示している。 (表3参照) ・現物市場における購入が全体の約8割と主体となっている。 ・事前供給契約による価格は、 現物市場価格より低価格になっているが、 供給取  り決めによる価格は、 これを上回っている。 ・価格決定は、 品種、 性別、 格付け、 均一性などの要因により行われていると考  えられる。 ・パッカーの寡占化による価格への影響は、 ほとんどみられない。 (表3) 肉牛の取引形態別価格決定方法 (単位:ロット) ──────────────────────────────────── 価格決定   事前供給  パッカー 供 給 現 物 合 計 方  法 契  約  肥育牛 取り決め ──────────────────────────────────── 枝肉重量 10,297 2,467 1,221 61,416 75,408 公式価格 2,931 792 14,663 15,184 33,570 生体重量 821 2,220 104 88,401 91,549 ──────────────────────────────────── 合 計 14,057 5,480 16,011 165,047 200,616 ──────────────────────────────────── 資料:USDA、GAPSA、Concentration in the Red Meat Packing Industry 注:取引の種類・価格決定方法が不明なものは、合計には含まれるが、内訳     にはふくまれないため、合計数字は、内訳と一致しないことがある。 ウ. 事前供給確保の役割  パッカーの事前供給契約や供給取り決めなどによる肉牛の確保は、 加工処理工 場の稼働率の向上による経営コストの効率化を主目的として行われていると考え られる。 92年4月から93年3月までの間の取引価格を取引方法別に比べた場合、 供給取り決めなどの事前供給確保の取引による取引価格は、 現物取引と比べてや や低いが、 その差はわずかであり、 この方法により、 パッカーが買い入れ価格の 低下を図ったものとはみられない。 パッカーは、 現物市場が上昇傾向のときには 事前契約などで事前供給確保の割合を増やしており、 これを価格変動対策として 利用していると考えられる。 エ. パッカーの寡占化と価格への影響  寡占化の問題は、 市場支配力を増強し、 価格支配が行われる可能性を高めると いう意味において重要な問題である。 この調査では、 各地域における寡占化の進 行度合いとその地域における取引価格の高低の状況にはほとんど関連性がみられ なかったとしている。 各地域の取引価格は、 全国平均価格に近いレベルで同様に 変動している。 全国的に事業を行っているパッカーが全国を対象に価格を支配す るような行為を行っていたかどうかは確認できなかったとしている。  今年2月に公表されたこの報告は、 生産者の間で最大の関心事項となっている パッカーによる価格支配の問題について、 寡占化の進行を認め、 「食肉処理業界 の現状は完全競争が行われる状態にはない」 としている。 しかし、 「パッカーに おいて違法な行為がなされていることを示す証拠は見受けられない」 と述べてお り、 生産者にとっては、 その実感から報告内容に不満の残るものであった。

3. 諮問委員会


 グリックマン農務長官も、 生産者がこの報告書の内容に満足していないことを 承知しており、 報告書発表の記者会見の席で、 「この報告は、 これまでに十分に 明らかでなかった様々な取引の実体を明らかにした貴重な資料である」 としつつ、 この調査が、 92年4月から翌年3月までの取り引きを調査対象としていることや、 価格支配の問題を焦点として実施されたものでなかったことを認めた。 さらに、 関係者の関心事項に答えるため、 農業関連産業における寡占化問題に関する諮問 委員会を設立し、 必要な調査を継続するとの声明を行った。  報告書の発表と同日 (2月14日) で設立された諮問委員会の委員には、 食肉関 係の諸部門から21人が任命され、 今年6月7日までに寡占化の問題についての報 告を行うことが要請された。 農務長官の調査継続の発表を受けて、 全国肉牛生産 者・牛肉協会 (NCBA) などの生産者団体は、 諮問委員会による調査継続を、 「実 態解明への第一歩」 として歓迎したのに対し、 パッカーの団体である米国食肉協 会 (AMI) は、 「USDAによる十分な調査結果によりパッカーの商行為が最近の肉牛 価格低落の原因ではないことが証明された以上、 更に調査を実施する必要はない のではないか」 と、 それぞれの立場の違いを反映した声明が発表されている。  2月14日に発足した諮問委員会は、 2月27日に第1回目の会合を開き、 各委員 の紹介とそれぞれの意見表明を行い、 その後の日程の打ち合わせを行った。 第2 回目の会合は、 3月25日から27日にかけてセントルイスで開催され、 実質的な審 議が行われた。 この会合では、 手紙などで寄せられた関係者の意見を検討や、 公 聴による関係者からの直接の意見聴取も行われた。 委員会はその後、 4月末に報 告書のとりまとめのための会合を開催し、 今回の報告書提出にいたった。 (1) 諮問委員会の報告
 諮問委員会による調査期間が、 報告書作成も含めて4カ月弱と非常に短かった こともあり、 資料収集などによる独自の調査は行われず、 過去のUSDAの調査資料 や大学の研究者などの論文などを再検討するとともに、 公聴会を開催して生産者 団体、 加工処理業界団体、 卸売業者団体、 農村地域団体、 環境保護団体、 動物愛 護団体等、 様々な分野の代表者や個人から直接に意見を聞くなどの方法により行 われた。 報告書はこれらによって集められた情報に基づいて作成され、 6月6日 に農務長官に提出された。  この調査において重要な位置を占めた公聴会での意見には、 パッカーの寡占化 ・大規模化により加工処理コストが削減され、 食肉価格を低減することができた とするものや、 パッカーとの供給契約により、 財政面での安定が保証され、 金融 機関からの借り入れが行いやすくなったなど、 現状に対し肯定的な意見もみられ た。 しかし、 肉牛生産者の意見の大勢は、 寡占化の進行により大手パッカーとの 取引において、 個々の生産者は圧倒的に不利な立場にあることや、 子牛生産農家 の経営離脱が地域社会の崩壊につながっているなど、 深刻な現状を訴えるものが 多かった。 公聴会等で示されたいくつかの意見を次に紹介する。 (2) 公聴会等に寄せられた意見
ア. 寡占化の状況 ・パッカーの寡占化が過度に進み、 これにより不当な家畜取引価格の引き下げが  行われており、 取引制度に信頼が置けない状態になっている。 ・肉牛産業のみならず、 農業の各分野において寡占化が進み、 これらの企業は市  場支配力を悪用している。 ・最近の家畜取引価格の低落の主要因が、 供給過剰によるものであることは認め  るものの、 価格低落は、 その要因によるとみられる低落以上のものとなってい  る。 ・パッカーから取引価格を報告しないことを条件に市場価格を上回る価格での買  い入れを提示された。 このような取引は、 市場取引価格を基準として一定公式  により取引価格を決定する方法で行う取引の価格形成に反映されない。 イ. 肉牛取引について ・パッカーの寡占化による価格支配で取引価格が低く抑えられている。 ・取引内容や取引価格についての情報提供が不十分であり、 公表のタイミングも  遅い、 情報を有効に利用できるよう、 幅広く迅速な取引情報の公表を望む。 ・取引において、 パッカーの優位性が圧倒的であるため、 公聴会の場等でパッカ  ーを批判する意見を述べることにより、 今後の取引に悪影響がでる心配があり、  多くの肉牛生産者は意見を述べることを差し控えている。 ウ. 地域社会に対する影響について ・肉牛生産農家、 特に子牛生産農家の経営離脱により、 農村地域経済の停滞、 学  校の閉鎖、 地方税収の減収、 地域住民の移転など、 農村地域の崩壊につながる  状況が生まれている。 ・公害問題など、 農村地域の生活の質を落とす問題が発生している。 ・地域社会を守るため、 財政的に困難な肉牛生産者に対する救済策を早急に実施  してもらいたい。  公聴会におけるこれらの意見等は、 肉牛取引と価格形成の実状を説明している もので、 パッカーがこのような状況に対して責任があると断定できる証拠となる ものではないが、 生産者の実感を感じとるには十分な資料であるといえる。 (3) 諮問委員会による提言
 諮問委員会は、 既存資料の分析や公聴会における意見を検討し、 肉牛産業にお ける寡占化の問題について、 次のような提言を行った。 提言は、 全体では86項目 に渡るものであるが、 ここでは、 その一部を紹介する。 ア. 反トラスト法などの関連法令による監視  諮問委員会は、 現行法令による寡占化の防止を前提とし、 関係法令の内容を点 検する。 その後、 これらの法令を適用して問題解決に務めることとし、 次のよう な提言をしている。 ・パッカーの統合・合併については、 競争を阻害することがないかなど、 その影  響を監視する。 ・寡占化問題を監視するための組織・人員体制を充実させる。 ・農務長官は、 現行法に基づく企業の監視体制を再点検し、 この結果を報告する。 ・取引において被害を受けた者が提訴等を行いやすくする環境を整える。 イ. 肉牛取引情報関係制度等の改善  諮問委員会は、 取引が複雑化している状況にあって、 反トラスト法に違反した 行為があったかどうかを検証することは非常に困難になっているとして、 現実的 な対応策としては、 取引の全般についての情報を、 可能な限り迅速かつ正確に取 引に関与する当事者に提供し、 公正で信頼される市場を形成することが必要であ るとして次のような提言をしている。 ・枝肉評価により、 一定の方式でプレミアムを付けたり値引きしたりして取引価  格を決定する取引についても報告の対象とする。 ・パッカーのすべての取引について、 事前供給契約などの取引形態別の取引結果  や、 プレミアムの付加・値引きの行われた取引を区分した取引結果などを、 速  やかに当事者双方から報告を受ける制度を確立し、 報告の遅延や不正確な報告  には罰金を課す。 ・枝肉評価による価格決定方法に関し、 プレミアムの付加や値引きについて、 US  DAが評価の参考となる一般基準を作成する。 ・等級別の価格情報提供を充実させる。 ・取引指標価格の充実を図るため部分肉先物取引の実施を推進する。 ・食肉及び食肉製品の輸出入の状況を速やかに報告する。 ・農家価格と小売価格の比率を正確に把握するため、 小売価格情報の報告制度を、  調査対象品目を増やすことなどによって、 拡充する。 ウ. 垂直的な業務提携関係  諮問委員会は、 パッカーと生産者との事前供給契約などによる垂直的な業務提 携について、 流通コストの削減、 品質の改善、 食品の安全性向上などの面で大き な貢献をしていると評価した上で、 次のような改善の提言を行っている。 ・契約におけるそれぞれの当事者のリスク負担や利益分配などについて双方がそ  の内容を明確に認識できるように手助けする公的な仕組みをつくる。 ・現物取引以外の取引で用いられている用語 (例えば、 「事前供給確保」 など)  の意味を取引の一般用語として明確に定義する。  以上は、 諮問委員会における多数派の意見として提言されたものであるが、 委 員の中には提言の内容が不十分であるとの考えを持つ者もおり、 多数派の提言は 寡占化の問題に対する対策として消極的すぎるとして、 パッカーの肥育事業への 参入の原則的な禁止やリスク回避目的以外の事前供給契約の禁止などを提言し、 取引の報告についても、 より詳細な取引記録を報告することを求めるなどの考え 方を報告書の中で少数意見として表明している。 公聴会で意見を述べたある家畜 ブローカーは、 「少数意見の方が肉牛産業全体の多数派意見を代表している」 と 述べており、 提言を基にした今後の対応策の検討が円滑に進められるか疑問の残 る点である。 委員会報告で全体の意見を統一できなかったことは、 肉牛産業にお ける意見の相違を反映しており、 この問題の複雑さを表すとともに、 今後の対策 についての合意形成の難しさをも表しているといえる。  この報告を受けたグリックマン農務長官は、 多数意見とともに少数意見も尊重 して今後の対策を検討していくことを表明しており、 USDAの対応に注目していく 必要がある。 また、 同長官は、 法務省の反トラスト問題担当部局にもこの報告書 を提出するとしている。

4. 寡占化問題に対する今後の対応策


 諮問委員会から報告を受けた農務長官は、 USDAの関係部局に指示を行い、 具体 的な対応策の検討に入るものと思われる。 行政府としては、 現行法令を前提とし た対策を検討していくものと思われるが、 その中心は、 報告書の提言の中心でも ある反トラスト法関係法令による企業活動の監視と肉牛取引関係情報の公表の問 題に集約されるものと思われる。  行政府において検討される一方、 議会においても、 畜産物取引価格の報告につ いて規定した法案の提出が行われている。 下院において法案提出を行ったのは、 ジョンソン下院議員 (民主党、 サウスダコタ州選出) で、 「96年競争的畜産物市 場法」 (The Competitive Livestock Markets Act of 1996)の提出を行っている。 この法案では、 畜種別に、 それぞれ全国のと畜頭数の5%以上を取り扱う企業は、 家畜取引の内容と取引価格を取引後24時間以内にUSDAに報告することや、 これら の取引情報をUSDAが一般に公表することを定めている。 また、 輸出取引に関して も、 週に1, 000ポンド以上の食肉を輸出した企業は、 5営業日以内に報告を行う ことなどが規定されている。 また、 農務長官が反競争的行為を規定し、 これに該 当する価格決定公式を用いるなどの反競争的取引を制限することなどが規定され ている。 ジョンソン議員の法案が成立すれば、 事前に価格を取り決めることや一 定の公式に基づく価格決定方式などができなくなり、 また、 パッカーの肉牛生産 活動も制限されることになる。 全国肉牛生産者・牛肉協会 (NCBA) を始め、 各州 の肉牛生産者団体の多くは、 自由な取引を規制する内容であるとして、 法案に反 対の立場をとっている。 また、 上院においても、 プレスラー上院議員 (共和党、 サウスダコタ州選出) により 「96年パッカー・ストックヤード改善法」 (Packers and Stockyards Improvement Act of 1996) の法案提出がされており、 下院案と 同様に、 輸出入取引を含めた家畜・畜産物取引について、 それぞれの売買当事者 に取引内容をUSDAに報告させることなどを規定している。 今後の寡占化問題をめ ぐる対応策は、 議会と行政の両サイドで検討が進められていくものと思われ、 こ の動きに注目していく必要がある。
元のページに戻る