調査レポート 

南米アルゼンチンの牛肉事情 国際食肉事務局・南米地域会議に出席して

企画情報部 安井 護

1 はじめに


 世界が小さくなったとはいえ、 南米は日本から見て、 ちょうど地球の反対側で、 アメリカ乗継ぎ便で片道20時間以上もかかる遠い国である。 牛肉の生産量が多く、 消費量も世界一と多いが、 口蹄疫 (注1) の汚染国であるため加熱していない牛 肉は米国や日本などには輸出できない等々、 断片的な知識はあったものの、 その 姿は北米やオセアニアのように広く知られてはいない。  昨年11月ウルグアイが米国への非加熱牛肉の輸出を認められ、 また、 アルゼン チンも米国の新たな衛生基準 (提案中) に合致すれば、 米国への輸出が可能とな るなど、 南米を巡る動きはこのところ急である。  このたび、 アルゼンチンで開催された国際食肉事務局・南米地域会議 (Inter- nationel Meat Secretariat, Regional Congress Argentina) に出席する機会を 得た。 会議の模様と併せて、 今回訪問したアルゼンチンと隣国ウルグアイの牛肉 産業の事情を今回と来月の2回に分けて紹介したい。

2 南米地域会議の概要


 会議は、 4月11日と12日の両日、 アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開か れた。 主催は国際食肉事務局 (注2) で、 2年に1度の世界食肉会議の間の年に 開催される、 地域ベースの会議である。 今回は南米の牛肉生産事情と輸出動向が 主な議題となった。 参加者は、 南米のアルゼンチン、 ウルグアイ、 ブラジル、 チ リ、 パラグアイのほか、 米国、 豪州、 NZ、 EUさらに中国など約600名。 日本から も7名が参加した。  開会に当たっては、 アルゼンチン農業漁業食糧省次官が挨拶し、 TV、 新聞でも 大きく取り上げられるなど同地では大きな注目を集めていた。 ● 初日の議論から
 初日は、 南米主要各国の口蹄疫撲滅対策の現状と撲滅後の市場展開をどうする かを中心に議論が進められた。 初日に行われたセッションは、 次の3つである。 ・南米の口蹄疫の現状 ・口蹄疫清浄化後の新しい市場展開 ・南米の牛肉生産性  南米では、 64年に悪化する一方の口蹄疫の状況を打開するため、 国を超えて家 畜衛生地域技術委員会 (COTERSA) が組織された。 その後、 組織は変わるものの、 同委員会を中心として、 南米での口蹄疫との戦いが長年進められてきた。 各国の 現状は次のとおりである。 アルゼンチン  国の家畜衛生機関であるSENASA (全国家畜衛生サービス) が中心となって、 全 国的な口蹄疫撲滅計画を展開してきた。 発生状況に応じて、 全国を5地域に分け、 定期的なワクチン接種、 監視、 家畜の移動規制等を実施し、 効果を上げてきた。  94年4月の2件が最後の発生となっている。 94年の発生件数は18件で、 85年か ら89年の平均167件に比べると激減している。  現在まで、 米国等の口蹄疫非感染国への非加熱製品の輸出は認められていない。 (詳細は後述) ウルグアイ  62年から口蹄疫撲滅対策を実施してきた。 永年の努力が実り、 90年6月以降、 発生していない。 94年6月、 ワクチン接種を停止。 95年11月、 ワクチン接種後、 1年間口蹄疫が発生しなかったことから、 米国は輸入を認可。 ウルグアイ産非加 熱牛肉が初めて米国に輸出され、 ウルグアイは牛肉輸出国として、 世界から 「一 人前」 として認められた。 (詳細は、 次月) ブラジル  86年から現行の撲滅計画を実施。 南部の州では、 発生が抑えられてきており、 2000年までの全土での撲滅を目指している。 かつては、 全国で年間に数千件もの 発生があったが、 昨年は600件までに減少している。 パラグアイ  65年から口蹄疫撲滅計画を実施。 94年9月の発生が最後である。 ワクチン接種 を継続中。 ● 2日目の主な議論
 2日目は、 米国、 豪州、 NZといった世界の主要牛肉輸出国の輸出戦略と、 ホワ イトミート (鶏肉等) の攻勢にレッドミート (牛肉等) がいかに対抗するかが主 要な議題であった。 この日行われたセッションは次の5つである。 ・主要牛肉輸出国の戦略 ・レッドミートの消費回復戦略 ・レッドミートとホワイトミート ・アジア・太平洋市場を巡って ・南米食肉市場への投資  日本でもおなじみの米国食肉輸出連合会 (USMEF) のセング会長、 豪州食肉畜 産公社 (AMLC) のケリン総裁 (代理) が、 両国の牛肉の輸出戦略について発表し た。 両者とも、 アジア・太平洋市場の重要性と将来性を指摘し、 期待を表明して いた。  アジアからは、 中国と日本 (前 三菱商事畜産部長 宮本 孝敏氏) がパネラ ーとして参加し、 それぞれの国の食肉事情について発表した。  会議が4月上旬の開催で、 BSE (狂牛病) が、 ホットイシューであり、 会場か らの質問はBSEに関するものが多かった。 今回の事件では、 豪州が有利になるの ではないかとの問いに、 AMLCのスピーカーは短期的には有利かも知れないが、BSE 問題が牛肉消費全体に与える影響を憂慮する旨、 コメントしていた。  また、 英国のパネラーが英国産牛肉等を輸出禁止としたEUの措置を科学的根拠 がないと非難したのに対し、 会場から逆に発生以来、 これまでの英国の措置が十 分でなかったとの反論があった。 しかし、 BSEによる牛肉の消費減退は、 食肉業 界にとって非常に大きな問題であり、 問題解決のため各国が協力すべきこと、 科 学的な解明が必要なことで会場は一致した。  牛肉消費量が世界最高水準のアルゼンチンでも、 消費者の 「健康志向」 から家 禽肉の消費量が近年増加し、 牛肉消費量が減少傾向にあるとの報告は、 興味深い ものであった。 牛肉消費量は85年の90kg/年・人をピークに激減しているのに対 し、 家禽肉は91〜93年の間に倍増し、 20kg/年・人となっている。 消費者のニー ズを的確につかむことと、 各種メディアを利用したPRの必要が議論された。 (注1) 口蹄疫 (FMD:Foot and Mouth Disease)  家畜伝染病予防法に定められた法定伝染病の一つ。 口蹄疫ウイルスによって起 こる偶蹄類 (牛、 豚、 羊等) の急性悪性伝染病。 感染力が強く、 流行が速く、 撲 滅が困難である。 日本は清浄国であり、 牛肉、 豚肉等は清浄な地域 (米国、 カナ ダ、 豪州、 NZ、 台湾等) からのみ輸入可能。 (注2) 国際食肉事務局 (IMS:International Meat Secretariat) 1) 設立等:1974年設立  本部はフランス・パリ  会長は Mr. Chris Oberst (英国食肉畜産委員会 MLC出身) 2) 目 的:家畜、 食肉産業のあらゆる分野の発展に国際的ベースで寄与 3) 会 員:各国の畜産関係企業や団体、 政府関係機関等   畜産振興事業団のほか、 米国食肉輸出連合会 (USMEF)、 豪州食肉畜産公社  (AMLC)、 ニュージーランド食肉公社 (NZMPB) 、 英国食肉畜産委員会 (MLC) な  ど。 94年6月現在、 世界各国の70以上の組織・機関が加盟。 4) 活 動:World Meat Congress等の開催、 IMSニュースレターの発行 5) World Meat Congressの概要   原則として2年に1回、 総会と同時に開催   会議の内容は、 世界各地のさまざまな分野を代表するコメンテーターが、 食  肉需給事情の説明、 食肉生産・加工技術の紹介等を行い、 会員相互の情報交換  を行う。   最近の開催地は次のとおり。 ( ) は、 開催年。 ロンドン (91)、 シドニー  (93)、 デンバー (95)、 次回北京 (97)

3 アルゼンチンの肉牛事情


● 国情
 会議後、 2日間であったが、 パッカー、 家畜市場等を訪問した。 非常に限られ た時間であったので、 南米の大国アルゼンチンのごく一部分を理解したに過ぎな いが、 日本、 豪州、 米国の事情と見比べながら、 アルゼンチンの牛肉産業を概観 してみたい。  国情は次表のとおりである。 表1 ──────────────────────────────────── 人口    面積   GNP      主な輸出品目 ──────────────────────────────────── 3,400万人 280万q2    2,800億ドル   燃料類、食用油、穀類、 (日本の  (8,200ドル/人、 油性作物、食肉(輸出額          7.4倍) 日本の0.26倍) に占めるシェア5.8%) ──────────────────────────────────── 資料:アルゼンチン大使館  16世紀はじめに、 スペイン人が渡来し、 インディオの住む土地を侵略したのが 国の始まりである。 スペイン系、 イタリア系移民が多く、 白人がほとんどで、 ヨ ーロッパ志向が強い。  20世紀初頭、 食料、 天然資源等をヨーロッパに輸出し、 世界でも有数の豊かな 国であったが、 第二次大戦後、 経済構造の転換が上手く行かず、 また、 政治的不 安定さも加わり80年代には、 数百パーセントのインフレが続くなど、 経済は大き く混乱した。  89年に大統領に就任した現メネム大統領は、 1ペソ=1USドルとし、 為替の安 定とインフレの収束を図るとともに、 政府機関の大胆な統廃合と、 国営企業の民 営化を進めるなど大規模な経済改革を断行した。 その結果、 95年のインフレ率は 2. 5%にまで収束し、 経済も安定してきた。    地域別の貿易関係は、 南米、 北米との取引が圧倒的に多いが、 EUとの取引も3 割弱を占めている。  95年1月からスターとしたメルコスール (Mercosur:南米南部共同市場) は、 ブラジル、 アルゼンチンを核として、 ウルグアイ、 パラグアイの4カ国からなる 共同市場である。 域内関税をゼロとし、 自由貿易が推進される。 域内人口は2億 人。 96年にはチリの加入が予定されている。 NAFTA (北米自由貿易協定) との連 携はもちろん、 ヨーロッパ志向が強いこともあり、 EUとの提携も模索している。 ● 肉牛の生産
 95年12月の牛の飼養頭数は、 55, 700千頭 (前年比6. 4%増) である。 品種は 英国種のアンガス、 ヘレフォードが主体で、 北部亜熱帯地方にはゼブ系の牛も多 い。 95年のと畜頭数は、 11, 639千頭でここ数年はほぼ一定である。  アルゼンチンと主要国の牛肉生産量 (94年) は、 次のとおりである。 表2 (単位:千トン) ────────────────────────────────────  アルゼンチン   ウルグアイ 米 国 豪 州  日 本 ──────────────────────────────────── 2,600(100) 368(14) 11,194(431) 1,839(71) 602(23) ──────────────────────────────────── 資料:USDA 注:枝肉重量、( )内アルゼンチンを100としたときの各国の割合  牛飼養農家戸数は、 223千戸 (88年) であるが、 50頭以下の農家が47%を占め、 意外と規模が小さいことに驚く。 逆に4, 000頭以上が0. 5%であるが、 頭数シェ アでは13%を占めている。  平均枝肉重量は、 210kg、 あるパッカーで日本は450kgだと言うと、 「日本の牛 は象みたいにでかいのか」 と驚いていた。 平均月齢は、 24〜30カ月である。  飼養形態は、 基本的に放牧、 グラスフェッドで冬場、 牧草が十分でないとき、 補助的に穀物などが給与される。 改良草地は少なく、 ほとんどが自然草地である。  一般的な土地利用は、 条件の一番いいところで穀物を栽培。 収穫後の土地をロ ーテーションして、 牛の肥育を行い、 土地条件がよくないところで繁殖を行って いる。 穀物の生産地にかんがい設備はなく、 そのため低コストだが、 自然の影響 を受けやすい。 日本にもとうもろこし、 こうりゃん、 大豆油かすなどを輸出して いる。 ● 生体牛の流通
 ブエノスアイレス郊外の公営Liniers家畜市場は、 毎週月〜木の4日間10, 000 〜12, 000頭の肉牛が取り引きされる世界最大家畜市場 (担当者談) である。 ア ルゼンチン国内での市場取引頭数の17%を占める。 昔は、 1日30, 000頭も取り 引きされたそうだが、 年々市場経由の頭数が減り、 農家とパッカーの直接取引が 増えてきている。 その理由は、 ・パッカーのマージンが少なくなり、 市場手数料を節約したいこと ・農家と直接、 情報が交換できるので、 肉牛の品質向上を図れること ・口蹄疫などの伝染病が発生したとき、 農家を特定できるので、 迅速な対応がと  れること  などにある。  市場を案内してくれた最大手パッカーCEPAのキャトルバイヤーは、 「5年前60 %あった市場での買い付けシェアは、 今は25〜30%に下がっている」 と説明して いた。 市場で出会った肉牛農家は、 パッカーに直接売るのがほとんどで、 市場に 出すのは経産牛だけだと言っていた。  市場での取引価格は全国紙に毎日公表されており、 パッカーと農家の直接取引 の値決めも、 市場価格に基づいて決められている。  セリは約30頭の群単位で行われ、 生体1kg当たりの価格で競られる。 群は出荷 者単位で、 基本的に同一品種、 同一年齢で、 肉付きが同じように分けられる。 永 久歯の数をチェックすることはなく、 見た目で判断しているとのこと。  ちなみに訪問した4月15日の国内向けブラックアンガス401〜420kgクラス (生 体重、 生後16〜18カ月齢) の相場は0. 91〜0. 95ペソ/kg (1ペソ=1USドル) であった。  市場へは前日搬入され、 取引の翌日、 と畜されるのが一般的である。 【「世界最大」のLiniers家畜市場】 【郡ゼリの様子、1群当たり20〜30秒で競られていく】 新聞記事の肉牛市況 【資料:LA NACION 注:Novillosは去勢牛 】 ● 牛肉の流通・消費
 アルゼンチンの1人当たりの牛肉消費量は世界のトップレベルであることはよ く知られている。 近年減少しているとはいえ年間56. 4kgもの牛肉をどのように 消費しているのか、 非常に興味深かった。  牛肉大国アルゼンチンでも、 消費量は86年の90kg/年・人をピークに大きく減 少してきている。 反面、 近年では他国同様、 ホワイトミート (鶏肉等) の消費が 増えており、 今後、 牛肉の消費減少傾向がどうなるのか。 生産の8割を占める国 内消費が減れば、 その分輸出に回さざるを得ない。 興味深いところである。  牛肉の消費形態はアサードと呼ばれるバーベキュースタイルが多い。 もともと 野外で行われていたアサードであるが、 アサード専門のレストランも多く、 毎晩 多くの客で賑わっている。 もちろん、 スーパーでもアサード用として大きな固ま りの骨付き牛肉を売っている。 ボンイン・ストリップロインの価格は、 バキュー ムパックの 「ブランド品」 が16ペソ/kg、 通常のパック詰め 「普及品」 が10. 99 ペソ/kgである。 ちなみに魚売場の広さは食肉売場の20分の1程度で、 高くて活 きの悪い魚が並べられていた。  滞在中、 何度かアサードを食べたが、 最初に内臓、 小腸 (日本のようにきれい に洗ってなく、 内容物はほとんど残っている。 )、 腎臓、 胸腺を食べる。 腎臓は かなりにおいが強く残っており、 一口食べただけで遠慮したが、 胸腺は柔らかく コクがある味でなかなか美味しかった。 内容物の残る小腸も、 あるパッカーのゲ ストハウスでごちそうになったときは、 新鮮なせいか美味であった。  調味料は基本的に塩コショーで、 焼き加減は 「べリーウェルダン」 である。  内臓を一通り食べるとチョリソと呼ばれるソーセージ (血入りのものもあり美 味) や肉に移る。 骨付きのまま焼いた長いバラ、 サーロインなどを食べる。 バラ は脂身があるのでどうにか食べられるが、 サーロインはこれがサーロインだと聞 かされるまでは、 モモかと思ったほどである。 滞在中、 できる限り多く牛肉料理 に挑戦したが、 歯ごたえがあり、 グラス臭のある牛肉がそのまま日本人の舌に受 け入れられるかどうか、 疑問に思った。 【伝統的なアサード、内蔵、骨付き肉を豪快に焼く】 ● 牛肉・肉牛の輸出状況
 アルゼンチンでは生産量の約2割が輸出に向けられている。 輸出業者は寡占化 されており、 トップ5のパッカーで54% (輸出額ベース)、 トップ10では76%を 占めている。 2位のSWIFTは米国の食品会社キャンベルの子会社であるが、 その 他は民族資本である。  EU、 米国の衛生条件に合致させるため一定の設備投資と従業員の教育が必要と なるためおのずと、 大企業が輸出に携わることとなる。 国内向けには、 マタリフ ェと呼ばれる業者が、 生体牛をと畜場に持ち込み、 処理してもらった枝肉又は四 分体等を肉屋に売りさばくのが伝統的な流通形態である。  95年の輸出量 (加熱製品、 コンビーフ、 内臓を含む。 ) は510, 767トン。 輸出 先は、 EUが40%とトップで、 その内訳はドイツ13%、 英国12%、 イタリア7%と なっている。  米国向けには、 現在まで非加熱製品の輸出は認められていないため、 加熱処理 された製品だけが輸出されている。 CEPAでは冷凍調理済み牛肉 (Frozen Cooked Beef) だけで33種類の製品を製造している。 スライスしたり、 ダイス状にした様 々な部位 (タン等の内臓を含む。 ) を、 1m程の円筒状の透明のビニールフィル ムに詰め、 ぶら下げて、 一定時間煮沸。 煮汁をとってから、 冷凍にしたものが多 い。 煮汁はビーフエキストラクトに利用される。  輸入した米国では、 パスタソースやピザのトッピングなどに利用される。 調理 済みといっても味付けがされているものは少ない。  アルゼンチンではドイツなどにチルドビーフも輸出している。 あるパッカーで、 シェルフライフについて質問したところ、 「輸送に28日間かかるが、 シェルフラ イフは120日なので問題ない」 との返答であった。 日本では、 量販店などでは製 造後30日未満の製品を要求しており、 30日を超えたものは値引きの対象になるこ ともあると説明すると、 「製品には自信を持っている。 必要であれば日本のユー ザーに説明にいってもいい」 との答えが返ってきた。 日本の消費者が牛肉に限ら ず食品すべてに求める鮮度、 品質の高さについて説明したが、 なかなか理解しが たいのだろう。  生体牛の輸出について、 触れておく。 93年の生体牛の輸出は7, 060頭であった ものが、 94年に近隣国との衛生条件が整備されたことから、 95年には331, 467頭 と飛躍的に増加した。 輸出先は、 パラグアイ、 ブラジル、 ペルーで、 68%はパラ グアイ向けである。 【円筒状のビニールフィルムに入れて牛肉は加熱処理される(CEPA社)】 【CEPA社の冷凍調理済製品】 ● 輸出パッカー
 アルゼンチンでは2カ所のパッカーを訪問した。 いずれもブエノスアイレス郊 外にあり、 と畜頭数は1シフトでそれぞれ1, 600頭と800頭である。  工場の内部は、 非常に衛生的で、 作業員の衛生管理も行き届いている。 と畜後 の枝肉処理をとてもていねいに行っているという印象を受けた。 剥皮処理は、 人 手と時間をかけてかなり丁寧に行われていた。 機械はあくまで補助的で、 電動カ ッターでかなり丁寧に剥皮していく。 「枝肉に傷をつけないため」 と説明された が、 訪問した2工場とも同様の作業をしており、 アルゼンチンの伝統なのかもし れない。 その後訪問したウルグアイのパッカーでは 「通常」 の剥皮処理であった。  反面、 脱骨・部分肉処理は、 かなり 「雑」 という印象を受けた。 例えば、 ヒレ をバキュームパックする際に、 長くてフィルムに入り切れないと二つ折りにする のである。 もしも将来、 日本向けに製品を作るとしても多くの技術指導が必要と 感じた。  格付けは、 以前は政府関係機関であるミートボードの職員が行っていたが、 数 年前に廃止された。 現在は、 SENASA (全国家畜衛生サービス) が認定した各パッ カーの職員が、 格付け (枝肉形状、 背脂肪の厚さ等を評価) を行うシステムにな っているが、 必ずしも上手く機能していないようだ。 年齢を知る上で必要な永久 歯の数を数えることもなく、 肉色、 脂肪色等は評価対象となっていない。

4 今後のアルゼンチンの輸出動向


● 対米輸出
 現在までアルゼンチンには、 米国への非加熱牛肉の輸出は許可されておらず、 両国政府間で交渉が継続中である。 これまでの交渉では、 米国は、 国土の広いア ルゼンチンをいくつかの地域に分け、 衛生状態のレベルに応じ、 地域限定で輸入 を認めると見られてきた。  しかし、 4月18日、 米国農務省 (USDA)は従来の家畜・畜産物の輸入規則を大 幅に改正する提案を行っている。 そのポイントは、 家畜伝染病に関する衛生状態 の判断を国ベースから地域ベースに変更することと、 各地域の衛生レベルを従来 の3つから6つに細分化することにある。 口蹄疫に限って言えば、 従来、 口蹄疫 が収束し、 ワクチン接種を停止した後1年間以上発生がない場合に、 はじめて輸 入が認められたものを、 ワクチン接種中でも、 最後の口蹄疫発生から1年間経過 すれば輸入が認められるという提案である。  アルゼンチンではワクチン接種は続けられているものの、 口蹄疫の最後の発生 は94年4月であり、 既に1年以上経過しているので、 地域限定でなく、 全土で対 米輸出が可能となる。 当然、 様々な衛生条件が課せられることは言うまでもない が。  この提案は今後各界の意見をとりまとめた上で、 実行に移されるが、 アルゼン チン産牛肉の対米輸出解禁は現実的なものとなったと言える。 なお、 ガット・ウ ルグァイ・ラウンド農業合意で、 米国はアルゼンチンに低率関税枠として30, 000 トンを与えることとなっている。  ただ、 米国ではキャトルサイクルがピークに向かっており、 生産量は増え続け、 肉牛価格は低迷している。 その影響を受け、 対米最大の輸出国である豪州の肉牛 産業は大打撃を被っている。 永年の懸案であった対米輸出が、 最悪の時にぶつか ろうとしているのは、 皮肉なことである。 ● 対日輸出
 将来の対日輸出の可能性はあるのだろうか。 経済的に考えてみたい。  まず、 現在でも輸出可能な加熱製品であるが、 これは牛肉の大和煮などの原料 として日本に輸入されている。 メーカーとユーザーが協力して製品開発を行って おり、 数量は大きく変化しないと考えられる。 表3−日本の加熱製品の国別輸入状況  (95年) ( 単位:トン) ──────────────────────────────────── アルゼンチン 豪 州 中 国 N Z ブラジル その他 計 ──────────────────────────────────── 574 556 466 296 218 78 2,188 ──────────────────────────────────── 資料:大蔵省「貿易統計」 注:水煮した牛肉(関税番号1602.50.910)である。  では、 現在輸入が認められていない非加熱製品はどうであろうか。 アルゼンチ ンの牛肉産業の強みは何と言っても、 豊富な草資源に立脚している点である。 手 をかけないから生産コストが低い反面、 生産性は非常に低い。 ということは、 裏 を返せば、 まだまだ伸びる余地が十分にあるということである。  しかし、 味にうるさい日本人にテーブルミートとして受け入れられるかどうか は疑問である。 グレインフェッド牛肉の生産は、 一部例外的なものを除いて行わ れていない。 穀物は輸出するほどあるのだから、 フィードロットを作ればいいの にとも思うが、 生産の8割が国内向けであるのに、 特定市場向けにグレインフェ ッド生産を行うのは得策ではないだろう。 生産量の6割を輸出する豪州が、 輸出 向けにグレインフェッド牛肉生産を行い、 苦労しているいい例がある。  可能性があると言われるフローズン加工用はどうだろうか。 輸出価格は68USセ ント/ポンド (95年平均、 FOB) で、 一方の豪州産F&Hは79USセント/ポンド (95年12月、 C&F)。 FOBとC&Fの違いを考慮すると必ずしも割安とはいえな い。 価格はあくまで平均値であるが、 現在、 豪州産牛肉がかなり低い価格水準に あることを考慮するにしても、 価格的に対日輸出競争力があるとは考えにくい。    また、 ドイツ向けに120日のシェルフライフの製品を輸出しているチルドビー フはどうだろうか。 日本までの航路は、 喜望峰回りで約40日かかっており、 日本 でのチルドビーフの流通状況を考えると、 輸出は現実的でない。

5 おわりに


 品質が日本向きでない、 価格的にも魅力が少ないからといって、 牛肉大国アル ゼンチンを無視するのは賢明ではない。 世界の穀物需給の見通しが非常に流動的 な今、 また、 経済発展が進むアジアでの牛肉需要の拡大が、 将来の世界の牛肉貿 易に与える影響等を考慮すると、 牧草それも自然草地に立脚し、 低コストで生産 拡大余地のある牛肉大国アルゼンチンの動向を注意深くウォッチしていく必要が ある。  以上、 アルゼンチンの肉牛生産事情について概観してきた。 次回は、 昨年11月 に念願の対米牛肉輸出を果たしたウルグアイの事情を紹介したい。 (注1) 数字の出典は、 Argentina Livestock andBeef Market Situation (96年     4月)で、 断りのない限り1995年のものである。 (注2) 数量は断わりのない限り枝肉換算数量である。 (注3) 1ペソ=1USドルである。
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