調査レポート 

中国における肉製品の生産、 流通、 および消費の現状 中国肉類食品総合研究中心



I. 中国における肉製品の概況


 中国における肉製品の加工については、 3000余年前にすでに文字による記載が 見られる。 西周 (紀元前1000年) の 「週礼」 (官制や儀礼をまとめた書) には 「食用に、 馬、 牛、 羊、 豚、 犬、 鶏の六畜を用いる」 と記載があり、 「礼記」 (戦 国時代:五経の一つ) には発酵肉製品の加工方法が記されている。 また、 北魏の 「斎民要術」 (西暦386年) には、 ソーセージ、 酒粕漬の肉、 豚の醤油煮、 焼き子 豚の製造方法が集められているし、 国内外にその名を知られた 「金華ハム」 は、 宋朝高宗の命名といわれている。 「随園食単」 には、 肉製品だけでも50余種が挙 げられているが、 その内容が豊富であること、 材料へのこだわりが深いこと、 調 味料がそろっていること、 調理法が繊細であることなど驚くべきものがある。 こ こにすでに当時行われていた民間の塩漬け製法、 乾燥製法、 焼成製法、 油揚げ製 法、 ソーセージ製法がまとめられている。 そして、 肉類加工は、 代々の皇帝の時 代、 一世紀一世紀を経て、 この科学の発展した今日に至るまで、 その輝きを失う ことなく連綿とその歴史を続けてきたのである。 それだけ、 肉類加工は強い生命 力を備えているということであろう。  19世紀半ばになって、 ソーセージ、 ハム、 ベーコンなどの西洋式の肉製品が相 次いで中国に入ってきた。 中国では、 まず西洋式のソーセージ類が受け入れられ、 続いて加熱済みの骨付きハム、 肉巻きが受け入れられた。 70年代の終わりに調理 済みハムが入り始め、 80年代の初めには、 欧州各国から西洋式肉製品加工設備が 大量に導入されたのに伴って、 調理済みハム、 乳化タイプのソーセージが広く普 及していった。 ベーコンは、 中国式ベーコンと似通っていたものの、 風味と食べ 方の上で相違があったため、 受け入れがやや遅れ、 近年大都市において普及して いるところである。 嗜好、 そして価格の問題があるため、 ドライソーセージや発 酵ハム類が一般家庭にまで入るのは、 21世紀に入ってからになるであろう。  中国の伝統的風味の肉製品は、 特産品だけでも500余種あり、 通常、 塩漬け製 品、 醤油煮製品、 薫製焼成製品、 乾燥製品、 油揚げ製品、 ソーセージ製品、 ハム 製品の7種類に大別される。 中国は、 面積が広く、 地方によって気候、 生産物と もそれぞれに異なるし、 少数民族も多く、 民族による宗教上の信仰の違い、 食習 慣の違い、 嗜好の違いは非常に大きい。 その結果、 中国の伝統的風味の肉加工製 品にも様々な特徴が見られるようになったのである。 1) 生の製品と火の通った製品の存在  塩漬け製品 (中国風ベーコン、 塩漬け肉)、 ハム製品 (金華ハム、 宣威ハム、 如皋ハム) は、 通常販売時には生製品であり、 消費者が購入した後火を通して食 べなければならない。 その他はいずれも火の通った製品である。 広東式ソーセー ジは、 以前は生で販売されていたが、 近年多くが火を通してから販売されるよう になった。 2) 加熱の媒体が異なる  醤油煮製品は水で、 油揚げ製品は食用油で、 焼成製品は高温の空気で加熱され る。 また、 鶏の塩包み焼き、 鶏の泥包み焼き等のように、 高湿で加熱されるもの もある。 3) 食感が全く異なる  醤油煮の肉は、 簡単に繊維が崩れるような歯触りでなければならないが煮崩れ てはならず、 脂身は多いが脂っこくてはならず、 薫製焼成肉は、 皮がばりばりで、 肉は軟らかいことが求められる。 また、 干し肉は噛みごたえがあること、 でんぶ は口に入るやとろけるようであることが求められる。 4) 用いられる香料が多種多様である  通常よく用いられる香料以外にも、 砂仁、 丁香、 白●、 山奈、 ●抜といった漢 方薬が用いられる。 その風味は極めて独特で、 脾臓・胃によく、 消化を助け、 血 の働きをよくし、 元気を出すといった健康面での効能も備える。 5) 味付けが豊富である  干し肉だけに限っても、 五香粉風味、 カレー味、 渋味かつ辛い味、 果汁味等多 くの品種がある。  中国の伝統的風味の加工肉製品を西洋式の肉製品と比べた場合、 香辛料と調味 料の点での最も大きな違いは、 西洋式では胡椒、 タマネギ、 塩を常用するのに対 して、 中国式では醤油、 酒、 砂糖を常用するという点である。  製品の形態の面では、 西洋式肉製品はパルマハムとウィルシャイアベーコンが ほぼ自然の形を保っている以外は、 ほとんど挽肉にしたものを腸や型に詰めてい るのに対して、 中国式肉製品は挽肉を用いることは比較的少なく、 畜類の肉はほ とんど大きなかたまりに加工を施しており、 鳥類はそのもの全体に加工を施して いる。  全体的にみて、 中国の伝統的風味の加工肉製品は特に製品の色、 香り、 味、 形 に重きを置いている。

II. 生産ならびに流通の現状


 10年前には、 中国の肉加工製品はほとんど全てが当時の商業部食品局の管轄す る各地の肉類連合加工工場、 あるいは肉製品加工工場で生産され、 そこからその 販売ルートを通してその地の市場へ送られていた。 販売者はほとんどが国営の副 食品商店であった。 1986年には全国の商業食品部門で18万トンの肉加工製品が生 産されたが、 大型、 中型の肉類連合加工工場の生産量が、 その71%を占めていた。 天津肉類連合加工工場、 北京肉類連合加工工場、 ハルピン肉類連合加工工場、 上 海龍華肉類加工工場等が、 いずれもその地の肉製品の主な供給業者であった。  その後、 経済改革が進むに連れ、 市場経済の要素が拡大し、 現在では、 肉加工 製品の生産はすでに様々な部門へと広がり、 特に数の多い個人経営商店、 かなり の実力をそなえた地方企業ならびに都市の集団企業などが、 相当の規模を備え、 影響力を持つようになっている。 たとえば、 山東得利斯集団 (郷鎮企業) は、 そ の工場をすでに北京、 長春、 深●といった地にまで進出させ、 1995年の肉製品の 生産量は3万余トン、 生産高は9. 5億人民元となっている。 もちろん最大の肉製 品工場は依然国営の食品体系に属する工場で、 たとえば、 河南●河肉連合加工工 場、 洛陽肉連合加工工場等では、 ハムの生産だけでも10万トン前後にのぼり、 世 界的レベルの大工場となっている。  こうした肉製品製造工場用の原料肉はそのほとんどが四川省の各と畜場から購 入されている。 ほとんどが分割された状態で供給される。 大規模肉製品加工工場 とと畜場との間の需要供給は通常固定した契約に基づいて行われている。 販売は 通常その地の消費市場に限らず、 冷蔵車で周辺の大都市へも運んで販売される。 ただ、 中小の工場ではほとんどがその土地での販売を行っている。 PVDC (ポリフ ィルム系のケーシング材) を用いて腸詰め生産される高温高圧の殺菌製品は、 常 温下での保存期間が比較的長いことから、 冷蔵施設の整っていない中小都市や広 大な農村部へと大量に販売されており、 かなりの利潤を挙げている。 現在、 主な 販売ルートは依然として生産工場が直接商店、 スーパーに出荷するというもので、 他の国のような肉加工製品配送センターはまだ出てきていない。  1995年の全国肉加工製品総生産量 (鳥類製品を含む) は、 60〜70万トン前後で あったと予想される。 中小肉製品加工工場では、 中国の伝統的風味の肉加工製品 の生産が依然として中心に行われている。 ただ、 80年代をはじめに、 ヨーロッパ、 アメリカ、 日本などから西洋式肉製品加工設備が大量に導入されたことを受けて、 80年代の半ばからは中国の伝統的風味の肉加工製品を中心とする状況に変化が見 られ、 大型の肉製品加工工場では、 西洋式肉製品の生産量がすでに50%に達して いるか、 あるいは50%を超えている。

III. 肉加工製品の価格と消費の動向


 現在肉加工製品生産に関する全国的な統計資料がないため、 その価格について 全面的且つ正確な分析を行うことは大変難しい。 以下2つの例を参考までに挙げ る。 1. S市の西洋式ハム製品の1994−1995年における平均取引価格
 歴年の製品価格に関する直接の資料がないため、 S市の西洋式ハムの平均取引 価格に関する一組のデータを分析することで、 近年来の価格変化の傾向を説明し よう。 S市の西洋式ハム類製品の1994-1996年における 平均取引価格 (人民元/トン) ──────────────────────────────────── 月 1994 1995 1996 ──────────────────────────────────── 1 10,286 13,270 14,447 2 10,290 12,900 14,447 3 10,157 15,286 16,470 4 10,600 13,572 5 10,753 15,858 6 12,266 14,583 7 11,675 13,000 8 12,500 13,302 9 11,558 13,870 10 12,674 13,671 11 13,837 13,463 12 13,737 13,230 ──────────────────────────────────── 年平均 10,837 14,250 ────────────────────────────────────  注:国内貿易部の「肉禽蛋情報」を資料とし、  筆者がこれを分析整理した。  上の表で明らかなように、 1994年と1995年の上半期に価格が顕著に上昇し、 1994年第4四半期は第1四半期から30. 96%の上昇となっている。 1995年下半期 には価格が元に戻る傾向が見られるが、 それでも1995年は依然1994年を31. 49% 上回っている。  平均取引価格に影響を及ぼす要因には次の2点が挙げられる。 (1) 製品の単価。 製品の価格がいずれも上昇するか、 あるいは大部分が上昇すれば、 平均取引価格 は上昇する。 反対の場合は平均取引価格は下落する。 (2) 高値商品あるいは廉価 商品が取引量に占める割合。 取引量の中心となるのが高値製品の場合、 平均取引 価格は上昇し、 反対の場合は平均取引価格が下落する。  中国における1995年の食品の市場価格は、 前年比で平均23〜28%上昇した。 肉 加工製品も例外ではなく、 原料、 副原料、 包装材、 エネルギー、 人件費いずれも それぞれに上昇した。 そこで、 肉加工製品が1995年に前年比で31. 94%上昇した 内訳は、 23〜28%は製品自身の価格の上昇、 その他の4〜9%は製品の等級の上 昇によるものであると考えられる。 つまり、 消費者が高級な西洋式ハム製品をよ り多く選択するようになったということである。  中国では、 西洋式ソーセージ類製品にはしばしば澱粉あるいは大豆蛋白が添加 され、 比較的多くの脂肪を含んでいる。 そこで、 価格は、 西洋式ハム製品より20 %前後低くなっている。 これに対して中国式の加熱肉製品は、 大部分が純粋な肉 製品であり、 その価格は西洋式ハムに比べ60%以上高くなっている。 しかし、 こ れら製品の価格変化の傾向は、 西洋式ハムと似通っている。 2. B市C工場の1989年以来のハムならびに焼肉の工場出荷価格 (人民元/kg)
 C工場は有名な小規模工場で、 その製品は品質が大変よく、 大きなホテル、 大 規模マーケット向けに、 また中国民間航空用として販売されている。 そのため価 格は、 B市の平均より高くなっている。  カントリーサイドハムならびにオーストラリアローストミートは、 以前から長 く生産されてきた製品で、 ローストロイン、 ロインハムは比較的新しい製品であ る。  B市では、 1994年までは政府の物価部門によって物価をコントロールされてい たが、 それ以降は市場によって価格が調整されるようになった。 つまりメーカー が自ら価格を確定するようになった。 以下の表でもわかるように、 1994年に価格 が自由化されると、 その年に早くも2回の価格上昇があり、 その上昇幅はかなり 大きかった。 しかしその後は安定してその時の価格水準を維持し続けている。 ──────────────────────────────────── 年度 カントリーサイドハム オーストラリアローストミート ローストイン ロインハム ──────────────────────────────────── 1989 14.95 15.50 1990 16.00 15.50 18.00 1991   16.00  15.50 18.00 1992 16.00 15.50 18.00 1993 16.00 16.50 19.00 17.00 1994 20.0/22.5 24.0/26.5 22.0/26.0 20.0/24.0 1995 22.50 26.50 26.00 24.00 1996 22.50 26.50 26.00 24.00 ────────────────────────────────────  中国では、 中国式の伝統的風味の肉加工製品、 または西洋式肉製品のいずれも 消費者に好まれ、 広く食されている。 大きな外国人向けホテルでは、 西洋式肉加 工製品は朝食には欠かせないものである。 家庭では肉加工製品はしばしば主菜、 あるいは酒の肴として、 あるいは野菜の付け合せとして用いられる。 レストラン では、 ローストダック、 焼き子豚といった数種類の有名な料理があるが、 通常肉 製品が主菜とされることは少なく、 正餐が始まる前に出される酒のつまみの前菜 として用いられることが多い。 そして、 学生や団体が郊外へ遊びに行く場合、 あ るいは旅行の途中の簡単な食事、 あるいはファストフード弁当の中にも、 肉加工 製品が他の簡単な主食と一緒に入れられているのがよく見られ、 それが決まった 形式となっている。 これは、 加熱肉加工製品のほとんどが栄養豊富で、 味も良く、 保存にも携帯にも都合がよいといった特徴を備えていることによる。

IV. 今後の推測


 中国は、 その肉類の総生産では世界のトップにあるにも関わらず、 個人の平均 食肉消費量は40キロに満たない。 地域間格差が非常に大きく、 中小都市や広大な 農村地帯はまだ相当低い水準に留まっている。 しかし2010年までにはかなり大き な発展が見られることが予想される。 一方、 加熱肉加工製品の生産量は更に低く、 1人平均1年0. 5キロにも満たない。 これは工業先進国で肉製品が肉類の総消費 量の20〜30%を占めているのに比べるとかなり開きがある。 もちろん、 中国人に は中国人独自の食習慣がある。 米を主食とし、 数々の美味な料理があって、 肉類 加工製品はその中の1つに過ぎないのであるから、 一部の西洋の国のように肉類 製品が主食となったり、 あるいは料理の中心となったりすることはあり得ない。 ただ、 今後は肉加工製品の生産量も肉類総生産の5〜10%、 あるいは更に高くな ることは考えられ、 そこに大きな発展の可能性が秘められているということがで きる。  本文は日本の 「畜産の情報」 雑誌 (海外編) のために書いたものである。 1996年4月22日 (注) 中国肉類食品総合研究中心:食肉科学と食肉加工技術の研究開発、 普及・ 教育を推進することを目的として、 わが国の協力により、 設立された研究センタ ーである。
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