EUの牛肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇

○EU全域に広がるBSEの波紋



● 深刻化する消費減退


 3月20日にイギリス政府が牛海綿状脳症 (BSE) とヒトの病気との関連性につ いての見解を発表して以来、 その影響はEU牛肉業界全体に波及している。 今回の BSE問題は、 牛肉業界に膨大な経済的損失を与えているが、 EU全体に共通して、 最も深刻な問題は牛肉消費の減退である。  牛肉消費は、 3月20日の発表を契機 として全加盟国で、 ほぼ一斉に減少したとされており、 加盟国によっては、 もは や以前の水準を上回って回復することはないのではないか、 との悲観的な予想さ え出ている。 また、 このような状況から、 肉牛価格は、 一部の国で前年同期を4 割近くも下回る状況と伝えられている。

● 減少幅はドイツで最大


 今回のBSE問題に関連して、 アイルランド食糧ボードが同国の主要輸出相手国 を対象に行った牛肉消費動向に関する調査によれば、 ドイツでの消費減退が最も 大きい。 ドイツの消費量は、 3月最終週の時点で7割減少し、 4月の第3週の時 点でも以前の水準の半分にも満たない状況となっている。  ドイツでは、 BSE問題が、 以前からセンセーショナルに報道される傾向にあり、 新たな見解が発表されるたびに、 同国では常にイギリス国内を上回る反響がみら れていた。 また、 ドイツの消費者は安全問題には 「非常に敏感」 とされ、 以前、 子牛へのホルモン投与が問題化した際には子牛肉消費が半減し、 その後も消費が 以前の水準に回復していない例もある。  ドイツでは、 1人当たり牛肉消費量が93年から95年までの間に約15%も減少し ているが、 そうした状況下で発生した今回のBSE問題は、 牛肉業界に大きな落胆 をもたらしている。  また、 EU最大の牛肉生産国であるフランスでも、 消費は3月20日を境に6割も 減少し、 その後も回復がみられないとされている。 これを反映して、 同国の成牛 と畜頭数は3月20日以降の3週間で、 4割前後減少したと伝えられている。  これに対してオランダやデンマークでは、 消費が以前の9割程度の水準にまで 戻ってきており、 徐々にではあるが回復の兆しが表れているものの、 イギリスを はじめとして、 イタリア、 スペインなどでも、 消費は以前の6〜7割程度までに しか回復していない。

● 自国産に傾く消費者


 ドイツやフランスなどでの消費動向において特徴的なことは、 消費者の牛肉離 れが、 特に輸入牛肉に対して顕著に表れていることである。 ドイツでは、 スーパ ーマーケットでの牛肉販売が8割も減少したが、 食肉専門店の方は、 販売量の減 少率はそれほどではなかったと伝えられている。  これは、 専門店の方が、 牛肉の出処について明確にアピールできることから、 リスクの少ない牛肉を求める消費者が、 専門店を通じて自国産牛肉を購入する傾 向があったためとみられる。  また、 フランスでは、 消費者対策として配布された自国産を示すラベルが、 牛 肉購入時の重要な選択基準となっており、 小売業者の多くは自国産牛肉に販売の 重点を置いているとされる。

● 先行きに大きな不安


 フランスとドイツはEUの二大牛肉消費国であり、 両国の輸入量は、 EU牛肉流通 量の約4分の1を占めている。 この両国を中心とした、 自国産牛肉重視の動きは、 EU域内の牛肉流通に少なからぬ影響を与えており、 特に牛肉生産の約85%を輸出 するアイルランドが多大な経済的損失を被っている。  また、 ドイツ、 フランスは、 反面では相当量を域内に輸出しており、 国産牛肉 へのニーズの高まりとは裏腹に、 輸出の減少から、 牛肉価格は低迷を続けている。  現時点では、 消費がどのくらいの期間で、 どこまで回復するか不明であり、 こ のまま消費減退が長引けば、 EUの牛肉産業に大きなダメージとなることは間違い ない。 アイルランドのように牛肉輸出への依存度が高い国では、 国家経済に与え る影響さえ懸念されはじめている。
元のページに戻る