世界の飼料穀物の需給動向


◇絵でみる需給動向◇

○トウモロコシ、 小麦の先物相場が高騰 (米国)



● トウモロコシは5ドル台を記録


 米国で、 トウモロコシ先物相場の異常な高騰が続いている。 シカゴ商品取引所 (CBoT) では、 4月下旬、 一時的ながら、 史上初の1ブッシェル5ドル台を記録 した。 これは、 昨年同時期と比べると、 約2倍の水準である。 今回の価格高騰は、 過去に見られたような大口の投機に端を発した相場ではなく、 穀物在庫数量が世 界的な規模で決定的に不足するという客観的な見通しを背景としているだけに、 関係者も打つ手なしの状況であり、 相場の天井が見えない展開が続いている。  また、 米国農務省 (USDA) が4月上旬に発表した予測によると、 95/96穀物年 度末 (8月末) の米国のトウモロコシ在庫は、 前年度末の3千9百万トンから、 僅かに930万トンに減少し、 在庫率は4. 3%という記録的な低率になると見込ま れている。 これは、 米国の年間総需要量 (輸出量を含む) の僅か16日分に相当す る数量でしかない。 本年度の米国の厳しい穀物需給状況をみると、 秋に新穀が出 回る時期に至るまで、 米国のみならず、 世界の需要家にとって、 まさに、 綱渡り というに等しい調達努力を強いる状況が続くことが確実となっている。

● 生産者は作付けを急ぐ


 これに対し、 本年度の全米トウモロコシの作付け状況は、 USDAの調査によると、 4月末の時点で作付終了が約22%となっており、 前年の9%、 過去5年平均の16 %と比べると、 かなり早い出足となっている。 この背景には、 「少しでも早く収 穫して高値で出荷したい」 という生産者の意向が働いていることは、 間違いなさ そうだ。 ちなみに、 USDAによると、 本年度のトウモロコシの推定作付面積は、 全 米で7,990万エーカーと、 前年を12%程度上回るとされているが、 関係者の間で は、 この程度の増加では、 増収による短期の需給ひっ迫の解消というシナリオに は、 多くを望めないという見方が一般的である。  一方、 価格面では、 既に5ドルを超える相場に至ったことから、 実需によるこ れ以上の価格上昇は既に限界に達している。 従って、 今後、 新穀が出回り始める までの間の上げ相場の如何は、 投資家による投機資金の流入の有無が中心的な役 割を果たすのではないかと見られている。

● 小麦も在庫払底で急騰


 小麦の先物相場についても、 4月下旬には、 史上初めて1ブッシェル7ドル台 を記録するなど、 異常なほどの高値が続いている。 小麦の場合も、 トウモロコシ と同様に、 在庫の払底が価格高騰の背景となっている。 USDAの4月発表の予測に よると、 米国の小麦の年度末在庫量は、 前年の1,378万トンから、 40%も減少し て830万トンとなり、 在庫率は12.4%に低下する見通しである。  さらに、 USDAが5月初旬に公表した冬小麦の作況報告によると、 カンザス州等 の主要な生産地において、 冬季の水不足と冷害などにより、 実に48%もの地域の 作況が 「不良」 又は 「著しい不良」 とされたため、 供給の不足感を急激に強める 結果となった。 ちなみに、 民間の研究機関の予測では、 今年度の全米の冬小麦生 産量は、 約13.5億ブッシェルと、 78年以来の最低の水準になると見込まれている。  また、 小麦の場合、 トウモロコシとは反対に、 主産地における降雨の影響で、 今春の作付けのペースが、 例年より大幅に遅れている。 USDAの調査によると、 5 月初旬時点の小麦の作付け完了面積は約10%と、 過去5年平均の35%を大きく下 回っており、 このことが、 今秋の小麦の収穫に対する不安材料となって、 相場を 刺激する結果となっている。

● 世界需要が輸出を拡大


 以上、 米国の穀物需給ひっ迫について、 供給面からの要因に触れたが、 需要面 から最大の影響を及ぼしているのは、 アジア諸国の根強い輸入需要である。 特に、 高度経済成長を続けている東南アジア諸国では、 国民の食生活の向上と畜産物消 費の増加に伴い、 飼料向けを含む穀物への需要が急増している。 そして、 穀物の 国際相場がこれほど高騰しているにもかかわらず、 米国を中心とする地域から、 依然として旺盛な輸入を続けている。  これに対して、 米国内では、 飼料価格の高騰に伴って、 既に、 肥育牛のフィー ドロットへの導入頭数の減少傾向や、 経営状態の悪化した養豚農家の生産意欲の 減退傾向などの影響が徐々に現れつつあるが、 東南アジア向け等の好調な輸出が 依然として続いているために、 全体としての需要は衰えていない。 このため、 穀 物関係者の間では、 事態がこれ以上に深刻化した場合、 米国政府が穀物の輸出に 何らかの規制を加えるのではないかとの見方も出ているが、 グリックマン農務長 官は、 先週、 今のところそのような規制は考えていないと、 明確に否定した。  いずれにせよ、 今年度の米国の穀物需給は、 当分の間、 主産地の気象情報や政 府の対応措置、 それに、 投機筋の動きやアジア諸国の輸入動向から、 それぞれ目 を離せない緊張した状況が続くと見られている。


○プラスとマイナスが入り交じる今春の穀物生産 (中国)



● 史上最高の豊作にもかかわらず輸入を継続


 世界的に穀物需給がひっ迫し、 国際相場の加熱感が一段と強まる中で、 今やネ ット輸入国に転じた中国の、 今年の穀物生産状況や需要動向に対する関心が高ま っている。 95年には、 中国の穀物生産動向の指標となる糧食 (穀物の他に、 大豆 等の豆類やイモ類の一部を含む (約1割を占める) ) の生産量は、 前年に比べて 4. 5%増の4億6千5百万トンとなり、 史上最高の豊作を記録した。  しかしながら、 この高い増産率は、 天候問題や作付け面積減少等により、 94年 が不作となったことから生じたもので、 一昨年の生産量に比べると、 1.9%の増 加にとどまっている。 こうした中、 外国の農業専門家の一部からは、 中国が中・ 長期的には、 構造的な食糧不足に陥ると指摘する研究・見解が出されている。 こ れに対して、 中国の農業関係者は、 単収増加や農地の開発、 また流通ロスの減少 に努力することを通じて、 将来にわたって食糧自給を維持することが可能である とし、 構造的な供給不安説を否定している。

● 生産増を上回る需要増加が輸入継続の原因


 中国は、 史上最高の豊作にもかかわらず前年が不作であったこともあって、 95 年には、 2040万トンの穀物 (うち、 飼料穀物の中心となるトウモロコシは、 518 万トン (シェア:約25%)) を輸入した。 95年の新穀が市場に出回り始めた秋以 降も穀物の輸入が続いたが、 これは96年に入ってからも依然として継続している。 96年1−3月の穀物輸入数量は、 前年比約55%増の224万トン (うち、 食用が中 心の小麦が157万トン (シェア:70%)) となっている。 なお、 そのうち、 飼料向 けが中心で注目されるトウモロコシは40万トンで、 前年比約140%増と急増して おり、 依然として厳しい需給ひっ迫を裏付けている。 こうしたことが起こるのは、 このところの経済発展による所得向上により、 食用、 飼料用共に消費が急増した ために、 生産の増加が、 需要の伸びに追いつかないことが原因である。 したがっ て、 こうした現実面での供給不足が海外からの継続的な調達につながり、 中・長 期的な需給展望議論はさておき、 当面は、 国際需給のひっ迫要因の一つとなって いる。  中国は、 かって、 トウモロコシやコメを中心として、 有力な穀物輸出国の一つ であったことから、 これが輸入国に転じたことが、 加熱気味の国際市況に及ぼす 影響には、 軽視できないものがある。

● 容易ではないとみられる今後の増産達成


 次に、 国家の糧食生産計画についてみると、 95年の増産実績や穀物価格が依然 として高値で推移していることや、 (第九次五カ年計画の最終年である) 西暦2000 年の生産目標が5億トンであることなどから、 96年には幾分強気の生産計画が打 ち出されるのではないかとの予想もあった。 しかしながら、 現実には、 去る3月 の全国人民代表者大会 (全人代‥国会に相当) で発表された計画目標は、 95年の 生産量と同じ4億6千5百万トンにとどまった。 この全人代では、 同時に、 今後 の政策の方向付けとして、 農業テコ入れを国家の最重要課題として打ち出しただ けに、 生産目標が前年実績と同じ水準に設定されたことが、 一層目立つ結果とな った。 こうした事実からは、 現在の中国農業の実情からすると、 糧食の増産を達 成するには、 相当な困難を伴うものであることを窺うことができる。

● 基幹畜産部門の養豚では穀物消費が堅調


 一方、 国内消費の面では、 飼料向けの穀物需要は引き続き根強いものと予想さ れる。 これは、 畜産の基幹部門であり、 かつ食肉生産の4分の3弱を占める豚肉 部門において、 肉豚の飼養頭数が、 95年は前年比6.5%増 (国家統計局公報) と 前年の伸び率を1%上回り、 依然として増加基調にあることによるものである。 この増加基調は、 95年にはインフレ率が14.8%と (前年は21.4%)、 前年に比べ て大幅低下した中で、 肉豚の公的買付価格は27%上昇した (国内貿易部) ことに みられるように、 旺盛な国内需要を反映して、 通年では、 生産者価格が好調であ ったことによるものと考えられる。 したがって、 当面は、 飼料穀物への強い需要 が維持されるものと予想される。  なお、 物価の沈静化 (96年3月の小売物価上昇率は、 前年同月比7.7%) から、 今後、 生産者価格が伸びず、 養豚経営の収益が悪化した場合は、 飼養頭数の伸び が抑制される可能性はある。

● 飼料用消費抑制への動きと需要減退要素


 こうした需要状況に対処すべく、 中国共産党並びに国家の指導部は、 穀物節約 型の畜産経営 (作物の茎の飼料向け活用) の推進を提唱し、 その普及・指導に努 めている。 しかしながら、 この穀物節約プランは、 養豚産業にはあまり影響を与 えないと考えられる。 したがって、 牛肥育や牧羊部門へのこのプランの浸透が図 られるまでは、 当分の間、 その飼料用消費抑制効果には、 あまり多くを期待でき ないと思われる。  次に、 飼料需要減退要素の観点から、 家きん肉と家きん卵部門の状況について みると、 その市場価格は横ばいからやや弱含み傾向となっている。 これに対して、 その生産部門では、 コストに占める飼料の比重が高いため、 その採算性は、 次第 に悪化しつつある。 近年、 家きん肉は30%前後の、 また、 家きん卵はやや低いが 類似の増産傾向を示してきたが、 採算性の悪化から、 今後、 これらの生産の伸び が低下し、 「踊り場傾向」 を示すことが考えられる。 これらの、 豚肉に次ぐ比重 を占める重要畜産部門で、 穀物消費の伸び率が低下すれば、 その分、 需給圧迫が 軽減される可能性が出てくる。

● 作付け面積は増加したが早くも天候不安が


 国家統計局によれば、 今年の春播き糧食の作付け面積は、 前年比1%増の1億 1千万ha (長期供給計画を実現するためのボーダーラインとされる水準) となっ ており、 今年の収穫増に対する期待をもたせるものである。 なお、 糧食のうち最 も注目される穀物の作付け面積は、 前年比1.5%増とされている。 また、 農業振 興を最重要視する中央政府も、 一層の増産を支援すべく、 次のとおり、 積極的な 姿勢を示している。 (1) 農業予算の充実 (農業助成、 各種事業費は前年実績比+11.6%)、 内外から の農業投資の拡大 (2) 農業資材の価格上昇の抑制、 化学肥料の供給増加、 農業技術開発の振興 (3) 地方政府と協力した、 増産のためのモデル事業の推進 (トウモロコシ、 コメ、 小麦、 大豆、 綿花の5分野を重点) に取り組むと共に、 (4) 政府農業当局者が糧食の国家買付価格を20%引き上げる旨のコメント を行うなどして、 極めて熱心に生産刺激に取り組んでいる。  しかしながら、 一方では、 こうした取り組みに水を差すかのように、 現地報道 によれば、 北部・東北地方 (河北、 山東、河南、 山西、 陜西、 黒竜江、 吉林、 遼 寧の各省) の主要穀物地帯において、 早くも少雨 (平年の10〜20%の水準) の影 響が出始めており、 広大な面積で干ばつの被害が広がりつつあるとの情報がある。 さらに今後は、 大河川の流域にある華中・華南地方の穀物地帯では、 水源部での 融雪や中・下流域でのモンスーンによる増水に入ることから、 水害の発生をくい 止められるかどうかが今後の焦点となりそうだ。 北部・東北地方のトウモロコシ と共に、 華中・華南地方のコメの一部も飼料向けに供されているといわれており、 今後の気象状況・自然災害の発生状況に関しては、 特に注視する必要がある。
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