EUの牛肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇

○消費の低迷続く、 EU牛肉市場


● いまだ1割以上の消費減


 ドイツの中央市場情報機関 (ZMP) によると、 EU域内の牛肉消費量は、 牛海綿 状脳症 (BSE) 問題の影響により、 現在も、 3月以前の水準より10〜15%も下回 って推移しているとされる。  これは、 消費が3〜4割も減少したとされる、 BSE問題発生 (3月下旬) 直後 から回復傾向にあるといえるものの、 依然として低水準であり、 EUの牛肉需給に 供給過剰という大きな影を落としている。 ZMPの予測では、 域内消費量の減少に よって生じる96年の牛肉供給過剰量は、 50万5千から88万トンにも達する可能性 があるとしている。

● 長期減退にBSEが追打ち


 今回の大幅な消費減退は、 BSE問題に端を発したものであるが、 その背景には、 食肉の消費動向の長期的な変化が潜在している。  近年の西欧社会で一般的にみられる動物性脂肪への忌避傾向や、 家きん肉など より 「軽い」 食材への嗜好の高まりなどによる食生活の変化から、 長期的にも牛 肉消費は減少傾向を示している。  EUの1人当たり平均牛肉消費量でみると、 89 年には23kgだったものが、 95年には20kgに減少している。  96年の同消費量について、 ZMPは18kgと予想しており、 今回のBSE問題が、 牛肉 消費の長期的な減退傾向を、 さらに加速する結果となることは避けられないとの 見方が強い。

● 急がれる消費者の信頼回復


 さらに、 BSE問題以外にも、 成長ホルモンの不法投与や動物愛護問題にみられ るように、 以前から、 牛肉の生産現場に対する消費者のイメージが低下していた。 これらの出来事を誇張して報道する一部マスコミの姿勢にも問題があるとされる が、 牛肉は、 消費者の手に渡るまでの間に、 何種類もの加工、 流通経路を経るこ とから、 店頭の牛肉からその 「素姓」 を確認できないという不安が、 長期的な消 費の減少につながっていたことも否定できない。  このため、 業界内では、 いかにして牛肉に対する消費者の信頼を取り戻すかが、 重要な課題となっている。 この課題に応えるためには、 生産者との契約生産を基 本に、 店頭に陳列される牛肉から生産現場まで溯ることが可能な流通システムを 構築し、 これを消費者にアピールする販売戦略が大切であり、 この認識は、 流通 業界に広く浸透しつつある。

● EU委はラベル表示を提案


 EU委員会は、 牛肉に対する消費者の不安を打ち消し、 消費回復を図ることを目 的として、 牛個体登録管理制度の改正と牛肉製品のラベル表示の提案をまとめた。  既に実施されている牛個体登録管理制度については、 内容の見直しと強化が図 られ、 耳標などの牛への装着、 ラベル表示される内容や移動記録の中央の電算機 による集中管理などが盛り込まれている。 ラベル表示については、 牛の出生地域、 性別、 肥育方法やと畜場所などが示され、 その方法や内容の確認については、 加 盟国の第三者機関が運営にあたるとされている。  現在のところ、 ラベル表示については任意、 個体登録について義務付けの方向 であるが、 ドイツ、 ベネルクス諸国、 フランスなどは表示についても義務化を求 めている。 牛肉に対する消費者の信頼回復を第一とするならば、 国の利害を超え て、 加盟国全体で、 業界挙げての努力が必要となろう。
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