特別レポート  〔第9回世界ホルスタイン・フリージアン会議報告〕

農場廃棄物の管理

オーレ・クレイス・ハンセン デンマーク畜産委員会 ナショナルアドバイザー

デンマークの家畜糞尿処理の現状


 このセッションのテーマは 「農場廃棄物の管理」 となっており、牛の糞尿を「廃 棄物」 と定義しているようで、 何かそれを処理するのに費用がかかるものという 印象を受ける。 しかし、 デンマークにおいては、 糞尿をそのようにはみない。 我 々は、 それを有機肥料とみるが、 勿論、 一方では、 その処理の問題は興味あるテ ーマとなっている。  1994年現在で、 デンマークの酪農家は、 平均して経産牛:49頭、 農地面積:53 haを保有している。 経産牛1頭当たりの平均農地面積は1. 1haである。 農地面積 :53haのうち、 37ha (経産牛1頭当たり0.76ha) は茎葉飼料 (飼料ビート、 牧草、 穀類のホールクロップサイレージ、 或いはトウモロコシサイレージ) を栽培し、 残りの16haには販売用作物、 主として穀類と菜種を栽培している。  平均飼養頭数は、 毎年およそ3頭の割合で増加している。 これは、 多くの小規 模酪農家が酪農を止め、大規模酪農家 (約100頭) が徐々に増えている結果である。 100頭を超える牛群をみると、 経産牛1頭当たり1haの農地を保有しており、 茎 葉飼料生産のための農地面積も、 経産牛1頭当たりの面積にして、 平均牛群規模 の酪農家のそれと同レベルにある。 かくして、 デンマークにおける一般的状況は、 大部分の酪農家が牛の糞尿を自己の農場において肥料として利用できるというこ とである。  デンマークの環境政策は、 河川、 湖沼、 内水のみならず、 地下水の汚染を防ぐ ため、 農業からの養分の流出を最小限に抑えることにあった。 このため、 農場内 家畜糞尿の貯蔵能力、 施設に関する規制が行われてきた。 糞尿に対しては、 最小 限6カ月分の貯蔵能力が必要とされており、 大抵の農家は、 少なくとも、 9カ月 分の貯蔵施設をもっている。  デンマークの畜産農家は、 肥料の使途に関する記録を義務づけられている。 そ れには作物の輪作プランと肥料施肥計画も含まれ、 作物の養分必要量を農場内家 畜糞尿と購入肥料でいかに賄うかを記述することになっている。 農家は、 農場内 家畜糞尿から出る窒素に対する一定の最小限の利用率を満たさなければならず、 窒素の総施肥量はその必要量を超えてはならない。 牛を飼養している農家の場合、 この最小限の利用率は、 少なくとも40%となっているが、 当局は1997年の8月ま でにはこれを45%に引き上げようと計画している。  デンマークの酪農家の90%は、 農地1ha当たりの飼養家畜単位 (livestock un its)の制限に関する国の立法措置に適合している。 家畜単位は、 計算上の単位で、 我々は、 乳牛のスラリー (液状肥料) に含まれる作物向け養分の年間総量と定義 している。 窒素に関しては、 年間100kgである。 酪農家は、 現在1ha当たり2.3家 畜単位を認められている。 しかし我々は、 新立法措置の及ぼす影響を懸念してい る。  酪農家と近隣居住者 (非農家) との関係については、 特別の規制がある。 スラ リーは、 土、 日曜、 或いは祭日に、 都市地域、 夏期の別荘地帯、 或いは住宅を目 的とした田園地域から、 200m未満のところでは散布してはならないことになって いる。 液状の糞尿は、 出来るだけ早く、 なるべく12時間以内に何らかの物質と混 合されなければならない。 そのほか、 農家はスラリー散布を含め、 自分の日常業 務を近隣の希望に適応させる努力を要することは、 言うまでもない。 農家は好ま しい農業行為の不文律を求められており、 またそれに応えている。  スラリーの新しい散布方法は、 窒素の利用性を高めることが出来ると共に、 悪 臭問題を軽減できる。 例えば、 band-layingsystemという方法は、 スラリーを空 中に霧状に或いは噴射するのではなく、 土の中に直接ポンプで注入する。 スラリ ータンカーの上に据えつけた装置により、 地中に直接注入混合してしまうので、 窒素の蒸発を極めて少なくすることが出来る。 ただ、 この方法の問題点は、 非常 に強力なトラクターが必要になるし、 余分な時間がかかることである。  悪臭問題を直接根絶出来る方法として唯一知られている方法は、 糞尿を生物ガ ス生産に利用することである。 反応装置を通過させると、 問題の臭気は消滅し、 またスラリーに伴う多くの衛生的問題も消滅する。  デンマークの一部の農場では、 生じたスラリーを近くのバイオガスプラントに 輸送し、 処理している。 プラントで発生したガスは、 当該地方の発熱システムの 熱源として利用される。 農家は、 同量の処理済みスラリーを受取り、 それを肥料 として使用している。

デンマークにおける糞尿問題に関する現行措置


 デンマークにおける農場内家畜糞尿に係わる環境問題は、 農家がそれを肥料と していかに利用するかということではなく、 窒素が飲料水や表流水に高密度で溶 脱しないようにするということである。 これには、 窒素を最大限に利用すること と、 窒素の含有量に応じて、 農場内家畜糞尿の使用を制限することが含まれてい る。  現在の規制によると、 牛の飼養農家は、 1ha当たり、 2. 3家畜単位の糞尿を散 布することを認められている。 新しい立法措置は、 徐々にこれを下げて、 2003年 には、 1. 5家畜単位にしようとしている。 このことは、 現在の農家の40〜50%し かこの規制をクリアできなくなるということを意味する。 残りの農家の対策とし ては、 さらに農地を買い足すか、 借り足すか、或いは余剰糞尿の処理に関し、 他 の農家と文書を交わして協定を結ぶしか方法はないであろう。  窒素の利用については、 肥料の使途に関する記録の義務と、 散布の期間に関す る規制とを通じて、 法的に規制されている。 散布の期間に関する規制によると、 収穫時から2月1日まで、 液状糞尿を散布してはならないことになっている。 た だ、 一般的例外としては、 越冬草地、 或いは冬播き菜種の畑にあっては、 収穫時 から10月1日までとなっている。  これらの規制措置には、 バランスのとれた飼料設計と給与並びに糞尿中の正確 な窒素含量の測定義務も含まれている。  飼料給与に関しては、 我々は、 蛋白質の評価システムに取り組んでいる。 この システムは、 牛に対し、 牛の腸内で必要とされるアミノ酸と、第一胃内高分解性 の蛋白質或いは非蛋白態窒素化合物(NPN) の正確な必要量を給与するためのもの である。 このシステムの実施によって、 同じ乳量水準の搾乳牛に対する、 総摂取 蛋白質量を約10%削減できた。  我々は、 第一胃における余剰窒素量を必要最小限とするため、 第一胃内高分解 性の蛋白質量をさらに低下させようと考えている。 最近の研究では、 第一胃内の 蛋白質バランスは、 僅かにプラスでなければならないとされており、 これをゼロ にすると、 乳量に影響が及ぶという。  我々は、 酪農家の飼料給与を改善するため、 各飼料材料の純蛋白質とNPN含有 量に関する正確な情報を提供出来るような、 信頼度の高い測定法を開発しなけれ ばならない。 また、 今後は、 ある種の必須アミノ酸の必要量を調べる必要が生ず るかもしれない。  血液、 唾液、 尿、 牛乳のような体液は、 第一胃内における窒素の過剰を反映す る。 従って、 それらの体液を分析すれば、 当該牛がバランスのとれた飼料を給与 されているか否か明らかとなるかもしれない。  この点で、 しばしば検査されるのが牛乳で、 検出される牛乳中の尿素は、 飼料 給与の (計画ではなく) 実態をチェックする興味ある方法となるだろう。 牛乳中 の尿素検査は、 一部の国では実施されているが、 デンマークでは、 なお研究が必 要である。 尿素含有量の正確な測定は、 明らかに飼料給与のバランスを維持する ための良きバロメーターである。  牛が異なる種類の飼料を別々に摂取した場合、 牛乳中の尿素含有量は変動幅が 大きくなる。 牛乳中の尿素含有量が高ければ、 当該飼料のバランスが良くないこ とを示している。 即ち、 蛋白質供給量が高すぎ、 且つエネルギー供給量が適切と 考えられるか、 或いは蛋白質供給量は適切だが、 エネルギー供給量が低過ぎるか のいずれかと判断されよう。  牛乳中の尿素含有量の検査は興味深い。 というのは、 飼料給与プランのチェッ ク及び修正を行える可能性があるからである。 これはまた、 乳牛に最適な環境を 提供する可能性を生みだすと共に、 スラリーの窒素含有量にも影響を及ぼす。 飼 料給与のバランスが良ければ良い程、 スラリーにおける窒素含有量が低下する。  一方、 スラリーにおける窒素含有量を測定することは、 酪農家が1ha当たり散 布することを許されるスラリーの量を調整する可能性を与えるだけであって、 飼 料給与をいかに調整するかについては何らの情報も提供するものではない。  酪農組合等の組織は、 農地1ha当たり散布窒素量を制限するという、 法的規則 に反対している。  農家の作付け計画は、 当該農場において散布できるスラリーの量を決める1つ の重要ファクターである。 茎葉作物は、 1ha当たりの蛋白質生産量が多いので、 当然窒素施肥量を多くしなければならない。 しかも、 生育期間が長い。  大麦及び小麦は、 1ha当たり100〜110kgの窒素から蛋白質を生成する。 飼料ビ ート及び大麦のホールクロップサイレージ向け作物 (牧草の二番刈りが含まれる) は、 1ha当たり、 190〜210kgの窒素から蛋白質を生成する。 牧草のクローバーを 収穫すると、 1ha当たり250kgの窒素を土壌から奪うことになる。 同時に、大気中 から1ha当たり100kgの窒素の固定がなされる。  生育期間が長く、 その年の遅くまで窒素を多く吸収する飼料ビート、 トウモロ コシのような茎葉作物にあっては、 夏期期間中に出た有機窒素を活用することが 出来る。 それ故、 この種の作物では、 スラリーは肥料効率が極めて高い。  デンマーク国立研究センターの研究は、 茎葉作物の作付割合の高い農場の場合 には、 農場内家畜内糞尿の散布許容量の枠を広げるべきであるという1つの考え 方を確認させる内容のものであった。  穀類のみを栽培し、 年に1ha当たり100〜150kgの窒素肥料を使った場合には、 その排水には、 1リットル当たり15〜22mgの濃度で硝酸態窒素を含有する。 一方 飼料ビート及び牧草のみを栽培し、 年に、 1ha当たり300〜350kgの窒素肥料を使 った場合には、 その排水には1リットル当たり15〜22mgの濃度で硝酸態窒素を含 有することになる。  また、 穀類或いは菜種に、 豚のスラリーの170kgの窒素を投じた場合には、 牛 のスラリーの230kgの窒素を飼料ビート或いは牧草に投じた場合に比し、 およそ 2倍の濃度の硝酸態窒素が排水に含まれる。  従って、 それには糞尿散布規制の例外に関する科学的裏付けがあるように思わ れる。 糞尿散布の大部分を、 自家生産茎葉を給与された乳牛による糞尿でまかな っている農場は、 この規制を免除されるべきであろう。

要  約


 デンマークの牛飼養農家は、 通常、 全ての農場内家畜糞尿を肥料として利用す るに充分な農地面積を保有している。 環境的規制は、 特に窒素の溶脱を防ぐ意味 と解される。 我々は、 デンマーク農民のおよそ半数に問題をなげかける程度に、 この規制が厳しくなるだろうと予想している。  現在の努力目標は、 飼料効率の改善をめざし、 それによって糞尿中の養分含有 量を減らすことを目的としている。 農家が自分の農場に散布できる家畜糞尿の量 を決定するために、 農場を1つの完成した独立体としてみることが必要である。  如何なる決定も次のような情報に基づいて判断が下されるべきである:  −牛の、 実際の栄養必要量  −糞尿中の、 実際の養分含有量  −作物の、 実際の養分必要量  −作物の、 糞尿中窒素を利用する特殊能力  −糞尿の取扱い  さらに、 政府当局は、 当面する課題の解決に向けて努力している農家のために ならないような方法で、 規制に関する法令を制定するべきではないと考えている。
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