2000年以降の生乳生産クオータ制度を検討 (EU)



研究論文を材料に、 各国農相が意見交換


 EU委員会は、 共通農業政策 (CAP) の酪農分野の改革案を来年提出することと している。 9月末に開催された非公式EU農相会議では、 「酪農分野に注目した次 期貿易交渉におけるCAPのオプションについて」 (ダブリン大学Sheehy教授) と 題された論文を基に、 2000年以降の生乳生産割当 (クオータ) 制度改革の方 向について、 意見交換が行われた。  この論文では、 世界貿易機関 (WTO) 体制下での次期貿易交渉では、 さらなる 関税水準の引き下げが見込まれることから、 域内の農産物価格が一層低下すると したうえで、 将来のクオータ制度の案とそれらに係る考察が以下のように示され ている。

二重クオータ制では、 適切な輸出管理が必要


 まず、 現行のクオータ制度を維持し、 同時に域内の乳製品の支持価格も維持す る案については、 今後の関税水準の引き下げによる域外からの乳製品の輸入増加 を考慮すると、 その実現の可能性が低いとしている。 ただし、 今後も現行の関税 水準の維持により域内の乳製品市場の保護を図る場合には、 この案も考えられる としている。  次に、 現行のクオータ制度を維持するが、 乳製品の支持価格は引き下げる案で ある。 支持価格の引き下げは生産者価格に波及することから、 クオータ制度を維 持しようとする場合、 最も現実的な対応としている。 また、 支持価格の引き下げ は、 域内消費の増加をもたらすことから、 補助金付き輸出が減少し、 かつ域外か らの輸入が増加しても、 現行水準の生乳生産量を維持することは可能としている。  さらに、 従来のクオータの他に、 新たに輸出補助金を伴なわないクオータ (当 該生乳から生産された乳製品には、 輸出補助金を付けない。 ) を設定する可能性 を挙げているが、 この新しいクオータの設定に当たっては、 補助金付き輸出の乳 製品に悪影響を与えないような輸出管理が必要であるとしている。

廃止の場合には、 酪農家への所得補償的措置が検討課題に


 この論文は、 最後にクオータ制度の廃止案を挙げている。 クオータ制度廃止の 場合には、 生乳生産の急増が予想されることから、 この防止のため、 少なくとも 15%程度の大幅な支持価格の引き下げが必要となる。 また、 支持価格の大幅な 引き下げは酪農家にとって重大な問題であるため、 酪農家への所得補償的措置を 取ることが重要な検討課題となる。 一方、 反面では、 酪農業への新たな参入が容 易になるという利点が生じるとしている。

収れんしなかった各国の見解


 この非公式首脳会議での討議を通じての各国の農相の見解は、 さまざまであっ たと伝えられている。 オランダ、 ベルギーおよびフィンランドは、 クオータ制度 の維持と支持価格の引き下げ案に好意的であった。 これに対して、 イギリス、 ス ウェーデン、 デンマークは、 酪農家に対して所得補償的措置を取るという条件付 きで、 この案に好意的であった。 フランスは、 クオータ制度について具体的な検 討を行うのは時期尚早であるとしながらも、 今後の制度改革に当たっては、 酪農 家の所得を補償する必要性を述べている。 なお、 デンマークは、 輸出補助金を伴 わないクオータの設置についても好意的であり、 イタリア、 スペインはクオータ 数量の増加を求める姿勢が強かった。
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