マクドナルドがインドに進出



将来の成長を見越した投資


 牛を神聖な動物と尊ぶヒンズー教徒が多数を占めるインドに、 マクドナルドが 進出した。 同社のシンプソン副社長によると、 同社が進出を計画したのは、 イン ドが一連の経済改革を実行し始めた91年ごろとのことである。  インドの1人当たり国内総生産 (GDP) は350ドル程度、 中間層の収入は1 日100〜200ルピー (1ルピー=約3円) といわれ、 現状では国民の購買力 は高くない。 しかし、 9億人ともいわれる人口と、 年7%の経済成長率に伴う国 民所得の向上は、 外食産業にとっては大きな魅力となっている。 こうしたことか ら、 昨年は、 ケンタッキー・フライド・チキン (KFC) やピザ・ハットも、 幾多 の困難を乗り越えて進出を果たしている。

牛肉を除外し羊肉を使用


 マクドナルド社は、 世界95カ国に約2万の店舗を展開しているが、 インドへ の進出には、 相当な困難を伴った模様である。 最大の障害は、 ヒンズー教徒にと っては牛は神聖な動物であり、 食用に供してはならないとされているにもかかわ らず、 牛肉のハンバーガーが同社の主力商品であるという点である。  今回、 マクドナルド社は、 人口の80%をヒンズー教徒が占めている点を考慮 し、 すべてのメニューから牛肉を除外した。 さらに、 約1億人といわれるイスラ ム教徒にも配慮して、 メニューはラム、 白身魚、 野菜バーガーの3種類の品揃え とした。 同社にとっては、 初めての牛肉抜きハンバーガー店の誕生ということに なる。  現地法人の社長は、 「牛肉メニューを除外した結果、 店内で使用する材料は、 インドのどの家庭にも普通にあるものばかりとなった」 と特別なレストランであ ることを否定している。 しかし、 ハンバーガーに飲み物とフレンチポテトを付け たセット価格は77ルピー (約230円) であり、 国民の平均所得を考えれば、 今のところ誰もが気軽に入れるという価格設定ではない。

保守層の反発を乗り越えることが鍵


 もう一つの障害は、 宗教団体やナショナリズムを背景とした、 インド市場の閉 鎖的傾向であった。 彼らは、 外国企業、 特に多国籍企業のインド進出を文化的な 侵略と捉え、 外国企業の進出は、 機械やコンピュータなど工業面に限定すべきだ、 と主張するものが多い。 昨年6月にKFCが第1号店を開いた時は、 こうした反対 運動が行政当局をも動かし、 一時閉店を余儀なくされた。 今回は、 宗教団体等の 目立った動きは報じられていないが、 一部では抗議行動を準備しているとの指摘 もある。  インドでは、 宗教団体に代表される保守層の影響力が根強く、 国民の生活様式 の変化が急速に進むとは考え難い。 しかし、 経済成長や外国資本の進出に伴い、 生活様式も徐々に変化していくと思われる。 11月中には、 西部の主要都市ボン ベイに、 マクドナルドの第2号店が開店する予定である。 マクドナルドも、 1年 前に進出したKFCと同様に、 徐々にインド社会に定着していくものとみられてい る。
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