駐在員レポート 

米国の牛乳・乳製品需要促進事業

デンバー駐在員 堀口 明、 藤野哲也
 米国の農産物の消費拡大、 知識普及、 調査研究などの事業の実施には、 法律の
規定に基づき生産者などから徴収した賦課金を原資として行われるチェックオフ
事業の制度があり、 それぞれの農産物の消費拡大などに大きな役割を果たしてい
る。 畜産物についても、 牛肉、 豚肉、 鶏卵、 牛乳・乳製品について個別の法律に
基づき運営組織や事業実施方法などが定められ、 所期の目的を達成すべく様々な
事業が展開されている。 今月は、 これらのチェックオフ事業の中から、 牛乳・乳
製品に関するチェックオフ事業をとりあげ、 制度の仕組み、 事業概要、 評価など
について報告する。

1. 牛乳・乳製品の需要促進事業の仕組みと事業概要


 牛乳・乳製品に関する消費拡大や調査研究などを行うチェックオフ事業は、 生 乳生産者から徴収された賦課金により実施されているものと、 牛乳の処理業者か ら徴収された賦課金により実施されているものとの、 2種類の事業がある。 それ ぞれの事業は、 共通する面が多いが、 制度としては別の法令により組織や運営方 法などが定められている。 (1) 生乳生産者による需要促進事業
 酪農生産安定法 (The Dairy Production Stabilization Act of 1983) は、 牛乳・乳製品の需要促進を行い、 生乳の余剰を減らすことにより酪農経営の安定 を図るこを目的とし制定された法律である。 具体的には、 生産者から事業の原資 として賦課金を徴収し、 これにより需要促進事業を実施することが定められてい る。 この法律が制定された80年代の初めの時期は、 それ以前の時代の加工原料乳 価の価格支持水準の引き上げなどにより、 生乳の過剰状況が問題となっていた時 期であった。 また、 この状況に対処するために実施された政府の乳製品買い上げ による財政支出の増大も、 解決すべき大きな課題となっていた。  需給の均衡を図るための対策としては、 支持価格水準の引き下げなどによる生 産調整対策が実施される一方、 この法律で規定する需要促進による需給調整の対 策が併せて実施されることになった。  酪農生産安定法は、 牛乳・乳製品の需要促進を行うため、 米国の48州 (アラス カ州とハワイ州を除く。 ) の生乳生産者から100ポンド当たり15セント (飲用向 け乳価との比較では、 その約1%に相当する。 ) の賦課金を徴収し、 これを原資 として牛乳・乳製品の消費拡大広告、 栄養知識普及、 などの事業を行うこととし、 この事業を実施するための組織として、 全米酪農振興・調査研究協会 (National Dairy Promotion and Research Board、 以下 「デイリーボード」 という。) を 設立することを定めている。 デイリーボードは、 全国段階での事業実施を行うこ ととされた。 一方、 州や地域の段階での消費促進事業などの実施については、 農 務長官から事業計画等の承認を受けた団体が地域ごとに実施することとされてい る。 事業実施の細部については、 法律の制定を受けて、 酪農振興・調査研究規則 (The Dairy Promotion and Research Order)が84年3月に制定された。  法令の整備された後、 賦課金の徴収が84年5月から開始されたが、 これ以外に は、 政府補助などによる資金源はない。 法律の規定は、 生乳生産者から賦課金を 徴収することの権限を与えるのみに留まっている。 この意味からは、 この事業は 生産者の自助努力による事業であるということができる。  生産者から徴収された賦課金は、 15セントの内の5セント部分がデイリーボー ドによる全国段階の消費拡大のための広告事業などに向けられ、 10セント部分が 州または地域で事業を実施する団体の事業費に向けられ、 同様の趣旨で、 それぞ れの事業のために使用される。 デイリーボードの95年の運用益を除いた賦課金に よる収入は、 7千750万ドル (約85億円)、 州または地域段階の団体の収入は、 1 億5千520万ドル (約170億円) であった。 これらの資金は、 約7割が消費拡大の ための広告宣伝に使用され、 残りが栄養教育、 広報活動、 市場開発、 製品開発、 調査研究、 輸出促進などの事業費と組織運営のための経費に使用されている。 (表1、 表2参照) (表1)デイリーボード事業の収入支出実績 (表2)州または地域団体事業の収入支出実績 ア. デイリーボード組織と事業概要
 法律の制定を受け、 事業実施の細部を規定した乳製品販売促進研究規則 (The Dairy Promotion and Research Order) は、 84年3月に制定され、 同年5月1 日に施行された。 この規則は、 事業実施組織や事業財源である賦課金の徴収方法 などについて定めている。 最初のデイリーボードの理事の任命が同年5月30日に 行われ、 生産者からの賦課金の徴収も、 84年の5月から開始された。 (ア) 理事会  理事会は、 デイリーボードの予算や事業計画を決定する意思決定機関となって いる。 デイリーボードの理事は、 米国の48州を13地区に分割し、 合計36名が任命 される。 候補者が地域毎に選出され、 任命は農務長官によって行われる。 理事の 任期は3年で、 2期連続で務めることが認められているがそれ以上の再任は認め られていない。  13地域それぞれの選出役員数は、 生乳生産量を基準として決定されており、 地 域別定員数は、 定期的に見直しが行われることになっている。 生乳生産量と賦課 金徴収額は一体のものであり、 地域代表としての理事の数が賦課金の負担割合と 結びついていた形になっている。  理事会は、 デイリーボードを運営するため、 会長、 副会長、 財務担当、 事務局 長を選出する。 また、 具体的な事業内容の検討については、 事業目的ごとに委員 会が設置され、 それぞれの委員会ごとに事業案や予算が検討され、 理事会で最終 決定される。 (イ) 事業実施と概要  デイリーボードは、 州及び地域組織の一般的な牛乳・乳製品の消費促進事業の 実施機関である酪農協会連合 (UDIA) と共同で94年3月にデイリー・マネジメン ト社 (DMI) を設立した。 DMIは、 共通の事業目的を持った2つの機関が広告事業 などを効率的に実施して経費の効率的使用を図ることなどを目的に設立されたも のである。 デイリーボードは、 事業計画や予算の承認を行うとともに事業結果に ついての責任を負う機関と位置付けらている。  DMIは需要促進事業などの実施について、 7つの分野に分けた目標設定を行い、 それぞれに委員会を設置し、 予算、 事業計画を作成し、 次のような事業を実施し ている。 1) 飲用牛乳委員会  米国における牛乳消費は、 健康問題への関心から乳脂肪分が嫌われ、 低脂肪や 無脂肪牛乳の伸びはあるものの、 全体としてはやや減少傾向で推移している。 (図1参照)  米国の生乳販売の約4割が飲用乳向けであり、 ミルク・マーケティング・オー ダー制度の下におけるクラス別乳価設定においては、 飲用乳価 (クラスI乳価) が最も高い乳価となっており、 飲用牛乳の伸びは酪農経営にとって重要な意味を 持つものであるといえる。  DMIは、 飲用牛乳の消費拡大事業については、 95年の第3四半期までは、 牛乳 が他の食品と良くマッチすることを宣伝する 「Milk. Help Yourself」 キャンペ ーンを実施していたが、 95年9月からは、 カリフォルニア州で成功を収めたキャ ンペーンをライセンス契約し、 全国展開している。 「Got Milk」 キャンペーンと 呼ばれるこの消費拡大事業は、 カリフォルニア州で飲用牛乳の消費拡大を行って いるカリフォルニア牛乳処理業者協会 (CMPB) が行っていた消費拡大広告で、様 々な状況設定の中でユーモアを交えて牛乳の重要性を訴える内容となっている。 「Got Milk」 キャンペーンは、 テレビコマーシャルを中心としたものであるが、 ラジオ、 広告ボード、 販促資材などを用いた消費拡大活動も行われている。 この 他の95年の飲用牛乳関係の事業としては、 学校の朝食における牛乳利用の促進を 図る事業などが実施された。 2) チーズ委員会  チーズは、 加工原料乳価の形成に最も大きな影響を持つ製品であり、 生産者の 受け取り乳価の面からは、 重要な品目と考えられている。 近年、 米国におけるチ ーズ需要は、 外食産業を中心として大きな伸びを示している。 (図2参照)  このようなことから、 チーズは消費拡大の優先品目と位置付けられている。 95 年の事業には、 25歳から54歳の女性を対象として、 忙しい現代社会において、 食 材としてのチーズの利便性を訴えるテレビ広告などが実施された。  バターの需要促進についても、 この委員会が担当して実施された。 近年やや変 化が見られるものの、 健康問題の視点からバター消費量の減少が続き、 需給ギャ ップが拡大していた。 (図3参照)  このような状況に対処して、 バターの需要拡大にも力が入れられてきた。 95年 の事業では 「バターでより良い休日を (Holday's are Better with Butter)」 の標語の下に日曜日の新聞でクーポン券を配布し、 消費拡大の事業が実施された。  また、 チーズ、 バターの両品目とも、 外食産業や食品加工産業向けにトレード ショー、 セミナー、 ダイレクトメールなどを利用して消費拡大を訴える事業が行 われた。  知識普及については、 インターネットにチーズを利用した調理方法などを紹介 するホームページ (http://homearts. com/dairy/cheese.htm) を開設し、 チーズに関する知識の普及と消費の拡大を図っている。 バターについても同様に、 ホームページ (http://www.realbutter.com) が開設されている。 3) 乳脂肪委員会  この委員会における活動は、 調査研究機関における牛乳・乳製品の栄養価値や 消費拡大対策に関する調査や研究などを支援する事業が中心となっている。 DMI は、 全米の12の大学により構成される6つの食品研究センターに対して資金援助 を行い、 牛乳・乳製品の栄養価値や消費拡大に関する研究を支援している。 各セ ンターからは、 毎年様々なテーマの研究報告が提出されている。 4) 販売環境開発委員会  この委員会は、 消費者の脂肪分やコレステロールなどへの関心から需要が減少 している状況に対処するため、 牛乳・乳製品のイメージを向上させる対策を担当 している。 具体的事業内容としては、 消費者の栄養問題に対する考えに影響力を 持つ医師、 教員、 マスコミなどに対して、 乳製品の栄養価値についての知識普及 の事業を行っている。 5) 産業広報委員会  この委員会は、 賦課金を拠出している生産者にチェックオフ事業の実施状況と 効果を報告するとともに、 乳業関係企業などにも事業の成果を紹介している。 ま た、 カルシウムの効用、 健康な食生活と乳製品、 bSTと食品の安全性など酪農乳 業業界の様々な問題に関して生乳生産者の立場を表明することや一般消費者など への広報事業なども担当している。 6) 輸出促進委員会  現在の米国の主要乳製品の輸出は、 乳製品輸出振興計画 (DEIP) や食糧援助計 画など政府の輸出補助計画を主体としたもので、 国際価格との比較から商業輸出 が主体となる段階には至っていない。 しかしながら、 関係者は輸出市場を将来の 有望市場として捉えており、 乳製品輸出拡大への努力が行われている。  DMIの95年の輸出促進事業の事業費は、 約140万ドルで、 全体の事業費の2%弱 にすぎないものであった。 しかしながら、 DMIは、 95年7月に関係業界などと協 力して、 米国産の牛乳・乳製品の輸出拡大を目的とする米国乳製品輸出協会 (US DEC) を設立した。 今後の輸出促進事業は、 USDECを中心としたものとなっていく と考えられる。 イ. 州または地域段階の組織と事業概要  酪農生産安定法に基づき、 チェックオフ事業を州または地域段階で実施する場 合の手続は、 全国段階とは異なり、 既存の酪農関係団体が事業計画を作成し、 毎 年、 農務長官の承認を得て事業を行うという方法が採られている。 95年にこのよ うな方法で事業を実施した団体は、 67団体となっている。 事業実施の承認を受け るための条件としては、 1) 牛乳・乳製品の消費を増大させる事業を行う、 2) 連 邦または州の実施する事業を除いては、 法律の制定される以前から活動実績のあ る団体が実施すること、 3) 主に生乳生産者の拠出する資金により活動している 団体であること、 4) 牛乳・乳製品の消費拡大のための広告・宣伝などの実施に 当たり、 個別ブランド商品を使用しないこと、 5) 政府の施策に影響を与える目 的で資金を使用しないこと、 が挙げられている。  州または地域団体による消費促進事業は、 それぞれの組織により独自に実施さ れるものが主体であるが、 他の州や地域の団体と共同で事業を実施したり、 事業 資金を効率的に使用するために、 DMIやUDIAと共同で実施される場合も見られる。 州または地域団体が実施している事業の中には、 カリフォルニアで行われていた 消費促進事業が全国段階の事業として取り上げられた例に見られるように、 事業 効果の面や地域に密着した内容という面でユニークな事業が実施されている。 (2) 牛乳処理業者による需要促進事業
 90年農業法の一環として制定された飲用牛乳販売促進法 (The Fluid Milk Pro motion Act of 1990) は、 減少傾向の続く飲用牛乳消費に歯止めをかけ、 需要の 回復を図るため、 生乳生産者の賦課金によるチェックオフ事業に加えて、 牛乳処 理業者による飲用牛乳の需要促進事業を実施することを定めた。  法律の規定により、 この事業を運営する主体として全国飲用牛乳処理業者販売 促進協会 (National Fluid Milk Processor Promotion Board 以下 「飲用乳ボ ード」 という。 ) が設立された。  この事業は、 48州 (アラスカ州とハワイ州を除く。 ) とワシントンDCにおいて 毎月50万ポンド (約227トン) 以上の飲用牛乳を販売している牛乳処理業者から1 00ポンド当たり20セントの賦課金を徴収し、 飲用牛乳の消費拡大、 栄養知識普及 などの事業を行うものである。  飲用牛乳販売促進法は、 この事業の開始以前に、 事業実施の是非について牛乳 処理業者の意向を問うための全体投票を行うことを定めており、 この規定により 93年10月に全体投票が実施された。 その結果、 7割以上の牛乳処理業者が事業実 施に賛成したため、 事業の実施が決定した。 この後、 12月に飲用牛乳規則 (The Fluid Milk Order) が施行され、 事業は実行段階へと進んだ。 当初、 この事業は 96年12月末までの実施と期限が定められて事業が開始されたが、 今年3月の全体 投票により事業継続についての支持が得られたため、 事業実施期間を延長するこ とが決まり、 今年4月に成立した96年農業法において2002年12月末までの事業実 施が定められた。 ア. 飲用乳ボードの組織  飲用乳ボードの事業は、 理事会によって運営されている。 理事会は20人の理事 により構成さている。 15人の理事は地域別に推薦され、 残り5人は、 全国ベース で候補者が選出される。 全国ベースで選出される5人の候補者については、 少な くとも3人は牛乳処理業者、 1人は一般市民から選出することとされている。 こ れらの候補者は、 農務長官によって理事に任命される。 地域別に選出される15人 の理事の数は、 牛乳処理量 (賦課金拠出額) を反映するものとなっている。 理事 の任期は3年で2期連続で務めることができるが、 それ以上連続して務めること はできない。 最初の理事は、 94年6月に任命され、 会長、 副会長、 財務担当、 事 務局長と4名の役員を選出した。 イ. 事業実施概要  前述のとおり、 飲用乳ボードによる需要促進事業は、 当初、 96年12月までの30 ヶ月間の実施を予定していた事業であったため、 事業資金として牛乳処理業者か ら徴収する100ポンド当たり20セントの賦課金についても、 94年の2月から7月 の6カ月間に限定して徴収されることとされた。 この間に徴収された賦課金の合 計額は、 約5千300万ドル (約59億円) であった。 (表3参照) (表3)飲用乳ボードの事業予算(94年7月〜96年4月)  事業実施に当たって、 飲用乳ボードは、 事業実施内容等を検討する事業委員会 と財務委員会を設けた。 事業委員会は、 その下に目的別にいくつかの小委員会を 設置している。 また、 実際の事業実施については、 飲用牛乳処理業者の団体であ る飲用牛乳財団 (The Milk Industry Foundation) の協力の下に行われる。  実施されている事業の内容について見ると、 飲用乳ボードはこれまで、 MilkPEP (Milk Processor Educational Program) と呼ばれるキャンペーンを展開してき た。 このキャンペーンは、 25歳から44歳までの女性をターゲットとし、 牛乳によ る口ひげを付けた有名モデルなどの写真や映像で牛乳のイメージアップを図ろう というものである。 また、 この広告では、 牛乳の栄養成分や栄養価値について述 べたメッセージを伝え、 知識の普及を図ろうとしている。 この広告は、 ターゲッ トとした女性を中心として一般消費者の持っている 1) 牛乳は健康に良くない、 2) 牛乳は子供の飲み物である、 3) 牛乳は、 時代遅れの飲み物である、 という間 違った認識を改めるのに役立ったと評価されている。  飲用乳ボードは、 この広告事業が大きな成功を収めたとして、 今後の事業にお いても、 対象ターゲットを広げ、 公告の内容を多様化するなどして事業を拡充し て実施する方針を決めている。

2. 米農務省 (USDA) の監督


 ここで紹介した2種類の需要促進事業については、 それぞれの法令の規定によ り、 USDAが事業の適正実施と資金管理などについて監督することとされている。  農務長官は、 事業実施内容や収入支出の状況など事業の全般について監督する ため、 1) 事業を管轄するUSDAの農業流通局 (AMS) の担当官を理事会や各委員会 の会合に出席させ、 事業が法令に沿った形で実施されているかを確認する、 2)推 薦された理事候補者を理事として任命する、 3) 広告の内容、 表現、 資材など事 業実施内容が、 法律、 規則、 USDAの施策などに反したものでないかを確認する、 などを行っている。  また、 USDAが、 前年に実施された事業の内容と事業効果について、 毎年7月1 日までに上下両院の農業委員会に報告することも、 USDAの事業の監督業務の一環 として位置付けることができる。  チェックオフ事業は、 事業に使用される資金が生乳生産者や牛乳処理業者から 徴収される賦課金のみであり、 民間組織により実施されている制度であるにもか かわらず、 法律制度として生乳生産者や牛乳処理業者から義務的に賦課金の徴収 していることから、 USDAの厳しい監督の下で実施されることとされている。

3. チェックオフ事業に対する評価


 個別企業の行うブランド商品の販売促進のための広告の効果は、 商品の売上数 量の変化や、 他社の同種の商品の売り上げ数量と比較することなどによりに把握 することができる。 これに対して、 一般的な需要促進事業は、 明確な判定基準を 見いだすことができないため、 効果を判定することが難しいのが実状である。 US DAは、 事業効果判定の比較対象として、 事業が実施されていなかった時期の販売 量を基準として取り上げ、 これと事業実施後の販売量を計量的に比較分析し、 事 業の効果についての報告を行っている。 また、 計量分析と併せて、 USDAは、 消費 者意識調査により牛乳・乳製品の栄養価値等についての認識の変化についての報 告も行っている。  一方、 USDAによる報告とは別に、 賦課金を負担している生乳生産者や牛乳処理 業者の事業効果に対する評価については、 全体投票の結果が事業に対する総合的 評価として表明されたものであるということができる。 (1) USDAの事業効果報告
 チェックオフ事業に関する2つの法律は、 USDAに、 毎年、 7月1日までに前年 の事業実施による効果などを上下両院の農業委員会に対して報告を行うことを義 務づけている。 この報告は、 USDAの経済調査局 (ERS)、 農業統計局 (NASS) の担 当官と大学の研究者により構成される評価委員会により取りまとめられている。 ア. 消費者の意識調査報告  消費者の意識調査報告は、 飲用乳ボードが行っているMilkPEP事業の一環とし て実施したアンケート調査の結果を分析して行われている。  飲用乳ボードは、 有名モデルなどを使った牛乳による口ひげを付けた写真の広 告を実施しているが、 この広告の実施の前後に行われたアンケート調査によれば、 成人の半数がミルク口ひげの広告を見たことがあるとしており、 この広告に一緒 に記載されていた牛乳の栄養についてのメッセージについても覚えているとの結 果が得られている。 また、 消費者の牛乳に対する認識として、 1) 牛乳は、 健康 によい、 2) 牛乳は、 特に女性の食生活にとって重要である、 3) 牛乳は、 骨を強 くするのに必要である、 4) 牛乳は、 年齢を問わず重要である、 とする意見を肯 定する人の割合が増加していることが報告がされている。 このような結果から、 USDAは、 事業が牛乳に関する栄養知識の普及などに役立っていると報告している。  しかしながら一方、 消費者は、 脂肪のとり過ぎの問題に大きな関心を示してお り、 牛乳をどれくらい飲むかを考えるときに、 栄養価値と脂肪摂取のバランスに 関心が持たれていることも報告されている。 このような牛乳消費に関する消費者 の態度は、 乳脂肪別の牛乳消費量の変化にも現れており、 84年の乳脂肪分別牛乳 消費量の割合が、 普通牛乳56%、 低脂肪牛乳39%、 無脂肪牛乳5%であったのに 対して、 95年におけるこの割合は、 それぞれ、 36%、 49%、 15%と消費割合が大 きく変化している。 イ. 計量分析結果の報告  USDAは、 牛乳の消費量とチーズの消費量について計量分析の方法により事業の 効果を分析し、 報告している。  それぞれの分析では、 当該商品の小売価格、 関連商品価格、 所得、 人口構成、 健康・栄養問題についての関心度、 など購買量に影響を与える様々な要因を考慮 して分析が行われた。  この結果、 牛乳については、 両団体の事業により、 84年9月から95年9月まで の11年間の通算で、 これらの事業が行われなかった場合と比べて3.8%販売量を 伸ばし、 95年9月までの直近1年間では、 4.2%販売量を伸ばす効果があったと の推計報告を示している。  また、 デイリーボードの実施している乳製品の消費拡大事業についても、 家庭 消費用チーズについて、 11年間に2.0%販売量を伸ばし、 95年9月までの直近1 年間では、 2.5%販売量を伸ばす効果があったとの推計報告を示している。  また、 USDAは、 全体としてこの事業により支出された資金の見返りは、 4.9倍 となっていると推計し、 報告している。  この報告に示された評価の妥当性を論議することは難しいものの、 USDAの報告 について検討するため開催された今年7月25日の下院農業委員会、 酪農小委員会 では、 この事業の実績を高く評価する意見が述べられている。 (2) 全体投票による生産者等の評価
ア. 生乳生産者の事業評価  デーリボードの需要促進事業については、 これまでに2回全体投票が実施され た。 乳製品販売促進研究規則は、 農務長官に、 事業実施後に、 生乳生産者の事業 に対する評価とその後の事業の取り扱いについて問う全体投票を、 85年9月30日 までに実施することを定めていた。 これにより85年の8月から9月にかけて実施 された最初の全体投票では、 投票者の90%近くが事業の実施に賛成し、 事業実施 に対する生乳生産者の高い支持が確認された。 また、 第2回目に実施された93年 8月の全体投票でも、 約71%の生産者が事業継続に賛成し、 事業に対する生産者 の支持が再確認された。 全体投票は、 農務長官が必要と認めたときまたは生産者 の10%の要求により実施されるものと規定されている。  過去2回の全体投票においては、 多数の生産者が事業の実施を支持しており、 現在のところ、 チェックオフ事業に対する支持率は高いものであるといえる。 し かし、 一部の生産者には、 裁判により事業の違法性を訴えるという動きも見られ る。 カリフォルニア州で全米最大規模の酪農経営を営む生産者が起こしている訴 訟は、 15セントの賦課金の強制的な徴収が、 憲法に違反するものであるとして、 これを憲法上の問題として争っている。 この生産者は、 事業の中止と過去に支払 った賦課金の返還を求めている。 この例に見られるように、 この事業については、 常に全体投票の実施を求める動きがあり、 すべてのチェックオフ事業に共通する ものであるが、 生産者が事業の実施についての考え方において一枚岩となってい る訳ではない。 イ. 牛乳処理業者の事業評価  牛乳処理業者による事業における全体投票に関する法律の規定では、 規則の施 行日前60日以内に、 牛乳処理業者により、 事前に事業実施の可否を問う投票を行 うこととされていた。 この規定に基づき、 93年10月に実施された全体投票では、 71.7%の牛乳処理業者 (牛乳販売量ベースでは76.7%) がこの事業の実施に賛成 した。 この結果、 93年10月に飲用牛乳規則が施行され、 94年6月に飲用乳ボード の理事が農務長官により任命され、 事業が開始された。  前述のとおり、 この法律では、 事業実施期間を96年の12月までとしていたため、 これまでには、 その後の事業継続の可否について、 再度、 全体投票によって牛乳 処理業者の意向を問う必要があった。 このため、 第2回目の全体投票が96年2月 から3月にかけて実施された。 この結果も、 64.9%の牛乳処理業者 (牛乳販売量 ベースでは70.8%) が事業の継続実施に賛成し、 今年末までであった実施期限が、 2002年まで延長されることになった。  今後の全体投票の実施は、 デーリーボードによる事業と同様に、 牛乳販売量ベ ースで全体の10%以上を販売する処理業者の要求があったとき、 または農務長官 が必要と認めたときに実施されると規定されている。  以上のとおり、 事業に対する支持率は低下しているものの、 2つの事業ともに、 現時点では高い支持を得ているということができる。

4. 今後の事業


 米国の酪農は、 畜産部門の中にあっては、 これまでは、 価格支持制度、 マーケ ティングオーダー制度、 輸出補助制度など、 多くの制度的な枠組みの中で生産が 行われてきた。 しかしながら、 96年農業法において方向が示されたとおり、 今後 においては、 制度や規制の枠組みを離れて、 生乳生産者の責任において自由な生 産が行われることになっていくと思われる。 そのような状況においては、 牛乳・ 乳製品の価格も、 需給関係を基本として決定されることになっていくものと思わ れる。 この意味から、 需要促進を図ることの必要性が増し、 チェックオフ事業の 役割もこれまで以上に重要になるとものと考えられる。
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