EUの牛肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○BSE問題発生から1年、 苦悩続くEUの牛肉産業



発生頭数は減少傾向に


 昨年3月に、 イギリス政府が牛海綿状脳症 (BSE) とヒトのクロイツフェルト・
ヤコブ病との関連性を示唆する発表を行ったことに端を発した BSE問題は、 その
後、 約1年が経過した。 発表以来、 この問題は消費者の牛肉に対する信頼を大き
く損なわせるなど、 EU域内ばかりでなく、 世界の牛肉需給にも、 少なからぬ影響
を及ぼした。 

 イギリスでBSEが最初に確認された86年以来、 今年の3月中旬までに、 EU及び
スイスのBSE発生総頭数は、 17万7千頭に上った。 発生頭数は、 93年の3万7千
頭をピークに減少傾向にあるものの、 96年は9, 973頭、 97年にも3月19日までに
1, 351頭確認されており、 根絶の難しさを物語っている。 

イギリスの牛とう汰頭数は130万頭を超える


 イギリス政府は、 BSE 防疫措置の強化策として、 感染確立が他のグループより
高い考えられている30カ月齢以上の牛のとう汰を順次実施しており、 3月中旬ま
でに130万頭以上の牛が処分された。 さらに、 昨年6月のEU首脳会議で合意され
た、 BSE患畜と同一時期、 同一農場で生まれた牛の選択的とう汰計画は、 手続き
に手間取ったことから実行開始が遅れていたが、 本年3月から実施に移されてい
る。 なお、 これらのとう汰計画に要する費用は、 97年には4億ECU (約580億円) 
に達するとみられている。 

50万トン弱に達した介入買入れ


 EUの牛肉消費は、 豚肉、 鶏肉との競合激化や、 一部における健康志向の高まり
により、 長期にわたって緩やかな減少傾向で推移してきたが、 今回のBSE問題に
よって、 消費者の牛肉離れに一層拍車がかかる結果となった。 また、 牛肉需要の
低迷は、 枝肉卸売価格に顕著に反映された。 市場価格の指標となる若齢雄牛の枝
肉価格 (グレードR2とR3のEU加重平均価格) は、 昨年7月には、 前年同月を12%
下回る2. 49ECU/kg (約360円
/kg) にまで下落し、 96年を通しても前年比で6. 4%下回った。 

 このような牛肉需給を背景として、 EU委員会は、 93年下期以降は実施していな
かった牛肉の介入買入れを昨年4月から開始した。 そして、 本年3月までの1年
間の介入買入数量は、 ドイツの14万トン、 フランスの10万トンをはじめとして、 
EU全体では49万6千トンに達した。 

 こうした状況下で、 昨年後半以降の枝肉価格は、 イメージダウンにより減退し
た需要が一部回復したことや介入買入れ措置の効果もあって上昇傾向に転じてい
る。 2月の若齢雄牛の枝肉価格は、 2. 80ECU/kg (約405円/kg) と、 回復に向
かっている。 しかしながら、 BSE問題発生前の前年2月と比較すると、 依然とし
て7%程度低い水準にとどまっている。 

子牛のと畜奨励事業の拡充で生産を抑制


 さらに、 EU農相理事会は、 96年10月、 牛肉消費の落ち込みによって生ずる需給
ギャップを埋め合わせるため、 子牛と畜奨励事業を拡充強化した。 これにより、  
(1)生後20日齢以下の乳用雄子牛のみを対象としていたこの事業に肉用雄子牛が
追加されるとともに、  (2)子牛平均と畜体重 (加盟国別) の85%以下で子牛 (雌
雄) を処分した場合に奨励金を交付する事業が新設された。 さらに、 加盟国は、 
その全てがこれら2つの事業のうち少なくとも1つを採用しなければならないと
された。 

 なお、 この子牛と畜奨励事業により、 3月中旬までにイギリスの51万5千頭を
はじめとして、 EU全体では71万頭の処分が行われた。 

 このように、 イギリスの牛とう汰計画に加え、 子牛と畜奨励事業の推進によっ
て、 96年に4%減少したと畜頭数は、 97年にはさらに2%減少し2, 822万頭にな
ると見込まれている。 今後は、 これらの牛肉生産の抑制と需要の回復によって、 
EUの牛肉需給ギャップは徐々に解消に向かうものと予測されている。 


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