特別レポート 

加速する米国豚肉業界の 構造変化と対日輸出

前食肉課 課長   伊藤憲一 前企画課 課長補佐 藤島博康



はじめに


 わが国の米国産豚肉の輸入は急速に拡大しており、 その輸入量は、 平成2年度
から7年度までの5年間に、 年率約20%の割合で増加している。 また、 昨年度に
引き続き本年度においても、 我が国で緊急輸入措置 (SG) が発動されたにもかか
わず、 輸入量は、 2月までの年度累計で、 前年同期に比べておよそ3割上回って
推移している。 従って、 国内産豚肉の供給減少分を、 主に米国産チルドが補うよ
うな状況となっている。 

 一方、 わが国の一部の加工メーカーは、 米国に大規模な豚肉生産基地を設け、 
日本向け輸出だけではなく、 米国における販売にも力を入れている。 また、 米国
の養豚業界は、 統廃合等による生産規模の拡大により競争力をつけ、 今後は、 日
本を含めたアジアを視野に入れた輸出を行おうとしている。 このように、 米国の
豚肉供給能力は、 益々高まっており、 今後、 世界の豚肉貿易は、 米国が中心とな
って行くように思われる。 このため、 本編では、 米国の豚肉生産動向を中心に、 
今後の米国豚肉業界の構造の変化と対日輸出動向について報告する。 

1 米国の豚肉生産動向


 米国における近年までの歴史的な豚肉生産動向は、 小誌 「畜産の情報海外編95
年9月」 に掲載した。 従って、 ここでは、 ここ数年の特徴的な出来事を中心に、 
米国養豚の現況についてふれてみたい。 

 米国の養豚は、 伝統的に、 コーンベルト地域においてトウモロコシとの複合経
営により営まれてきたが、 近年大きな構造変化を遂げつつある。 すなわち、 小規
模家族養豚の廃業分を取り込むようにして大規模専業経営による肉豚生産シェア
が拡大し、 また、 これに伴い、 生産地域も、 伝統的な生産地域から新興地域への
移行が続いている。 

 (1) 3%の経営体で全米飼養頭数の半数を保有

 米国での養豚経営の大規模化は、 急速に進んでいる。 米農務省 (USDA) 発表の
96年12月期の豚センサスによると、 全米の総養豚農家戸数は、 157, 450戸となり、 
前年同期より13%、 94年同期より24%の減少となった。 ただし、 これを飼養頭数
規模別にみると、 2千頭以上飼養の大規模層のみが前年同期より増加している。 

 このため、 今や、 2千頭以上の大規模層は、 その戸数シェアでは3%にすぎな
いにもかかわらず、 頭数シェアでは、 今回センサスで初めて過半数を超え、 51%
を占めるに至った。 なかでも、 5千頭以上の層は、 わずか1, 400戸ながら、 総飼
養頭数の33%を占めており、 少数の経営体による寡占化の進展を示している。 

 小規模飼養農家戸数の減少は、 94年の肉豚価格の低迷と、95年秋からの飼料(ト
ウモロコシ) の高価格により養豚農家の経営収支が悪化したことや、 少なからぬ
複合養豚経営が養豚部門を整理し、 トウモロコシ作を優先したことなどが、 大き
く影響したとされる。 このため、 96年12月期センサスでは、 小規模経営の減少と、 
大規模経営による生産拡大といった近年の傾向は、 より一層明確なもとなった。 

◇図1 養豚農家戸数と1戸当たり平均飼養頭数の推移◇

◇図2 飼養頭数規模別の戸数シェア◇

◇図3 飼養頭数規模別の頭数シェア◇


 (2) 西部や南西部へと新たな展開

 生産の大規模化とともに、 生産地域の移動も新たな局面を迎えている。 

 96年12月期豚センサスでは、 総飼養頭数は前年同期より4%の減少を記録し、 
90年以来、 同期センサスのなかでは最も低い水準となった。 また、 繁殖豚頭数も、 
前年同期より3%減少し、 大恐慌以来の低水準となった。 

 ただし、 これを州別にみると、 伝統的な生産地域である中西部を中心に多くの
州で総飼養頭数が前年同期より減少した一方で、 東部のノースカロライナ州をは
じめとして、 西部および南西部の、 ユタ州、 コロラド州、 オクラホマ州、 アリゾ
ナ州では、 10%前後の増加となった。 また、 西部および南西部では、 オクラホマ
州を除き、 繁殖豚頭数が、 いずれも前年同期より10%以上の高い伸びを記録して
おり、 これら地域での生産が今後も拡大傾向にあることを示している。 

 これらの西部及び南西部地域での飼養頭数は、 伝統的な生産地域と比較して、 
ここ数年著しい伸びが続いており、 新たな養豚地域として注目を集めている。  

 一方、 近年、 急激な頭数拡大が続いたノースカロライナ州では、 その反動とし
て、 養豚経営と地域住民との関係悪化を招き、 この結果、 同州における養豚への
法規制は、 ここ数年で急速に厳しくなっている。 このため、  「ノースカロライナ
の奇跡」 とまで称せられた同州の肉豚生産の拡大は、 今後頭打ちとの見方が広ま
っている。 

 このため、 西部および南西部での頭数拡大は、 大規模養豚が従来の生産基地で
あるノースカロライナ州やミズーリ州などから、 新たに西部や南部へと展開しは
じめたことを物語っていると指摘されている。 

表−1 96年12月期センサス飼養頭数上位10州および主要生産州

 資料:USDA「Hogs and Pigs」
 (3) 環境問題が進出の大きなカギ

 西部や南部への生産地域の移行をもたらす要因としては、 環境問題への州規制
レベル、 養豚インテグレーションへの法規制、 企業養豚への税制面などでの有利
性、 新興地域であるがゆえの防疫対策の容易さなど、 いくつか挙げられる。 

 しかし、 最も大きな影響を与えているのは、 やはり環境問題といえる。 米国で
は州法の独自性が強いため、 新たな養豚進出にあたっては、 州によって異なる各
種の規制レベルが大きな条件となっている。 養豚をめぐる米国での環境保護に関
する法規制や地域住民との軋轢は、 生産規模や人口密度などの関係で、 わが国の
事情とは多少異なるものの、 肉豚生産を抑制する大きな要因であるという点では
同様といえる。 

 全米養豚生産者会議 (NPPC) の環境サービス部長カブリエル氏によると、 現在、 
豚飼養頭数上位4州では、 いずれも環境問題が深刻化しており、 これらの州での
肉豚生産は軒並み頭打ち傾向にあるとしている。 また、 同氏は、 環境問題という
観点から、 今後、 生産拡大の余地が残されている地域は、 オクラホマ州、 テキサ
ス州、 ユタ州、 アリゾナ州などであるとしており、 新たな養豚の進出は南部や西
部地域に向かざるを得ない状況も背景にあるとみている。 

 (4) 子取り、 肥育の地域的な分業形態も増加

 生産地域の新たな展開とともに、 ここ数年で顕著になってきたのは、 生産形態
の変化である。 大規模企業養豚が新たな地域に進出する場合には、 新規進出地域
にて繁殖子取りを行い、 その子豚を従前のコーンベルト地域に輸送し肥育を行う
といった生産形態の変化を伴っているケースも多い。 このため、 アイオワ州には、 
離乳後間もない子豚が年間数百万頭単位で流入しているとされる。 

 州境を超えての子豚流通は、 家畜商を仲介として、 80年代あたりからみられて
いたが、 ここ1、 2年は大規模企業養豚が自ら定期的に、 大量に行うようになっ
たとされている。 

 この背景には、 と畜加工施設がアイオワ州を中心にコーンベルト地域に集中し
ていることや、 新興養豚地域では飼料 (トウモロコシ) 資源が少なくコーンベル
ト地域からの飼料輸送が必要なこと、 また温暖な南部や西部の気象条件が比較的
繁殖子取りに向いていることなど、 いくつかの要因が挙げられる。 

 しかし、 長期的にみて大きな影響を与えているのは、 やはり環境問題であると
みられる。 米国連邦レベルでの環境規制が年々強化される方向にあることに加え、 
ノースカロライナ州にみられるのと同様に、 西部や南西部の諸州でも、 当初緩や
かだった環境規制が、 今後、 生産の拡大とともに強化されることも予想される。 

 このため、 繁殖子取り、 育成や肥育の各ステージごとに、 地域的に分散した生
産形態は、 単に効率性の追求のみならず、 限りある養豚生産可能地域をより有効
に用いることを目的に、 今後も増加して行くものとみられる。 

 わが国とは比較にならない国土面積を有する米国ではあるが、 経営の大型化に
伴い、 環境問題を無視した養豚の無制限な拡大はもはや不可能の状況にあり、 今
後、 州の規制に応じて、 養豚生産の分業が増々拡大していくのではないかとみら
れる。 

2 と畜処理加工部門の動向


 (1) 集約化進む米国食肉業界

 周知のとおり、 米国でのと畜解体および部分肉処理は、 ほどんどがパッカーと
称せられる民間企業により行われており、 米国全体でのと畜頭数は、 わが国の5
倍以上に上る。 また、 1施設当たりの処理規模は、 近年の近代化、 効率化にとも
ない、 極めて大きなものとなっている。 

 このため、 近年、 米国のと畜加工分野では、 経営効率の向上や、 販売シェアの
拡大など目指し、 表―2のとおり、 牛肉部門を中心として急速に集約化が進んで
いる。 

 豚肉部門は、 牛肉部門ほどその集約化の程度は高くないが、 上位企業による既
存施設の買収などにより、 豚肉パッカー上位4社によると畜シェアは、 現在は5
割を超えているとみられる。 

 また一方で、 大規模企業養豚の進展は、 と畜加工部門にも影響を及ぼしている。 
例えば、 立地面では、 従来は、 主要養豚州であるアイオワ州を中心に、 と畜処理
加工を専業とするパッカーが立地していたが、 大規模経営による養豚未開地への
進出に伴って、 同州以外でのと場の新設や増強が相次いでいる。 また、 もう一つ
の影響としては養豚インテグレーターによる垂直統合への動きがある。 

表−2 上位4社によると畜シェアの推移

 資料:USDA「Concentration in the Red Meat Pcking Industry, Feb 96」
(2) インテグレーションの進展と現物取引の縮小

 垂直統合には、 大規模企業養豚がと畜に、 と畜企業が肉豚生産に、 協同組合が
一貫に関与するなどの種々のケースがある。 米国の豚肉業界では、 大規模企業養
豚の進展とともに、 これらがと畜に関与する形態を中心に、 垂直統合への動きが
加速されている。 

 また、 これに伴い、 従来の現物市場を介した生産者からパッカーへの肉豚流通
の割合は低下する一方で、 大規模企業養豚とパッカーとの長期契約などによる直
接取引きの割合が増加している。 

 USDAは、 94に、 食肉パッカーの寡占化に関する調査を行っており、 豚肉部門で
は、 肉豚生産頭数での上位45生産者と、 1日当たりと畜量で4千頭を超える上位
20パッカーを対象に調査が行われた。 

 この調査によれば、 上位19パッカーの現物取引きでの集荷の割合は86. 6%で、 
契約集荷や自らの生産などによる直接取引きは12. 9%だった。 また、 現物取引
きでの集荷のうち、 と畜場やパッカー指定場所での取引きが67. 8%を占め、 60
年代にほぼ唯一の流通経路だった競りなどによる生体市場での取引きは、 現在の
上位19パッカーの集荷チャンネルとしては、 わずかに2. 4%にすぎなくなってい
る。 

表−3 上位19パッカーの肉豚集荷経路

 資料:USDA「Concentration in the Red Meat Packing Industry, Feb 96」
  注:1 集荷契約はパッカーに引き渡すまでは生産者の所有、生産者契約は
     何らかの形でパッカーが当該豚肉の所有権を有する契約形態として区
     分される。
    2 98年の予測値は、調査において回答者が示した予測値
 一方、 上位45肉豚生産者から出荷される肉豚のうち、 出荷 (集荷) 契約条件下
で出荷される頭数は75%に上る。 USDAは、 この頭数が上位19パッカーの契約条件
下で集荷する肉豚頭数とほぼ同様の頭数であることから、 契約生産のほとんどが、 
大手パッカーと大規模経営との間で行われていると類推している。 

 また、 契約条件下での出荷は、 大規模経営のなかでもその規模が大きくなるほ
ど、 増加する傾向にあり、 45肉豚生産者のうち上位7者では、 90%が長期の出荷
契約、 9%が自らのと畜場または生産契約、 残りのわずか1%が生体市場などの
現物市場に出荷されている。 残りの38者では、 出荷契約での出荷は53%にとどま
り、 6%が自らのと畜場または生産契約により、 41%が現物取引きとなっている。 

表−4 上位45大規模生産者の豚肉出荷経路

 資料:USDA「Concentration in the Red Meat Packing Industry, Feb 96」
  注:中西部とは、イリノイ州、ミネソタ州、カンサス州、インディアナ州、
    ミズーリ州、ネブラスカ州、サウスダコタ州、アイオワ州、ケンタッキ
    ー州
(3) 生産者とパッカーそれぞれに直接取引きの重要性

 肉豚生産者での直接取引の割合が、 より大規模な生産者において高くなる点に
ついて、 USDAは、 パッカーと肉豚生産者の経営規模がともに大型化するほどに、 
それぞれ出荷と集荷を計画的、 安定的に行う必要性も、 高くなるためであると分
析している。 

 USDAによると、 45肉豚生産者のうちの上位7者の推定1日当たり出荷頭数は、 
2千〜4千頭となり、 残り38者の推定1日当たり出荷頭数である250〜1, 400頭
を大きく上回っている。 この上位7者の推定出荷頭数は、 パッカーの1施設1日
当たり平均と畜頭数に相当する。 

 このため、 出荷 (集荷) 契約の割合を増加させることは、 肉豚生産者にとって
も、 パッカーにとっても、 不安定な市場価格での取引きを回避し、 しかも売買経
費を削減できるなど、 双方の経営安定に大きなメリットがある。 

 94年の肉豚価格の低迷時には、 全米レベルでのと畜処理能力の不足が価格低下
を加速したとされる。 その後、 各パッカーのと畜場の新設や増築により、 と畜能
力が拡充される一方で、 生産頭数が減少傾向に入った96年後半からは、 各パッカ
ーとも施設の効率稼動から、 高値での肉豚集荷を余儀なくされているという。 

 このような現実からみても、 生産者、 パッカーともに大規模化するほど、 それ
ぞれの経営にとって安定的な物流は重要性を増すものと理解される。 

 また、 数年単位での長期の出荷 (集荷) 契約を用いることにより、 品質の向上
など肉豚生産段階に溯っての市場 (消費者) 戦略も容易となる。 これは、 集約化
が進むパッカーには販売シェアの向上、 肉豚生産者には、 品質などの規格取引き
による付加価値収入をもたらすものであり、 双方の長期的な経営戦略に少なから
ぬ利益を与えるものとみられる。 

 肉豚生産者の大規模化と、 と畜加工部門の集約化によって、 現物市場の縮小傾
向は今後も継続したものになるであろう。 

 (4) 新興養豚地域でより顕著な垂直統合への動き

 肉豚生産者とパッカーの結びつきは、 新興養豚地域でより顕著なものとなって
いる。 

 先のUSDAの調査によると、 ノースカロライナ州の大規模生産者を中心として、 
中西部以外の地域に立地する生産者は、 いずれも、 長期契約による出荷を最も、 
または次に有効な出荷経路と考えている。 これと比較して、 中西部に立地する生
産者の長期契約に対する意識は、 総じて低いとされる。 

 また、 一方で、 中西部に集中するパッカー上位19社のうち、 長期契約を重視し
ているのは8社にとどまっており、 パッカーの長期契約への意識は肉豚生産者の
それほどには高くない。 このため、 USDAでは、 垂直統合は、 中西部よりはそれ以
外の地域で、 またパッカーよりは肉豚生産者が中心となって誘発されていると指
摘している。 

 これまでと畜場が存在しなかったに等しい西部や南西部への大規模企業養豚の
進出は、 当初から、 肉豚生産施設と、 と畜施設の両方が計画されているケースが
多く、 より効率的な生産体系を目指し、 両者は養豚インテグレーションとして統
合関係にある例が多い。 

 牛肉産業にみられるように、 従来、 中西部の大手のと畜専業パッカーは、 経営
の力点をと畜加工とその販売に集中することによって、 高い経営効率を得、 大量
販売によるマーケットシェアの拡大により、 大きな利益を生み出しきた。 

 一方、 消費者ニーズを念頭に、 遺伝子段階から関与できる養豚インテグレータ
ーは、 より付加価値の高い製品で、 マーケットシェアを獲得する方向にある。 中
西部地域以外での、 こうした養豚インテグレーションの台頭により、 現物取引を
中心とする中西部のパッカーも、 販売シェアの拡大を目指し、 今後、 なんらかの
形で垂直統合への動きに追随せざるを得ないとの見方が強い。 

3 平均的な米国の豚肉とは


 我が国の量販店でも、 最近、 目にする機会が大幅に増えた米国産豚肉とはどの
ようなものか、 米国の消費動向と併せて、 米国豚肉の改良の方向をみてみよう。 

 (1) ラードから赤肉志向への転機

 15世紀に米国に始めて豚が導入されてから第二次世界大戦の終結に至るまで、 
豚は主にラードを取るために利用されていた。 しかし、 大戦後は、 消費傾向の劇
的な変化により、 急速に赤身肉へと需要は移行した。 

 ラードは、 ニトログリセリン、 石鹸、 食用油脂などに加工されていたが、 戦後、 
こうした需要は、 化学製品などの代替物の登場や、 植物油脂の消費増などにみら
れる健康志向を背景とした食生活の変化によって激減していった。 肉豚生産者ら
は、 このような変化の兆しを早くから見て取り、 1920年代には、 既に、 パッカー
や試験研究機関などの協力により 「ミートタイプ」 への改良の取り組みが始まっ
た。 

 1951年には、 USDAが豚肉格付け規格を制定し、 赤肉歩留まりに関心をもつよう
になった生産者やパッカーの要望に答えた。 また、 1954年の肉豚生産者団体 (65
年にNPPCに改名) の設立は、 この動きを一層押し進めることとなった。 

 80年代には、 大学などの試験研究機関を中心として、 統計遺伝学的な選抜育種
が確立され、 ランドレースや大ヨークシャーを中心に改良が行われてきた。 こう
した改良は、 繁殖性や産肉性など、 遺伝的な要素のなかでも生産効率と赤肉歩留
まりを重視したものであった。 NPPCによれば、 これまでの品種改良により、 現在
の肉豚の脂肪量は、 1950年当時と比較すると、 半減したとしている。 

 その一方で、 NPPCは、 それまでの消費者の豚肉へのイメージを一新するため、 
87年より 「ジ・アザー・ホワイト・ミート」 と銘打った消費拡大キャンペーンを
押し進めた。 これは、 健康志向への高まりとともに、 低脂肪、 低カロリーを強調
することによって、 消費量の増加が続く家禽肉 (ホワイト・ミート) にあやかっ
たものであり、 米国の肉豚の改良は、 赤肉歩留りに重点を置いて押し進められる
こととなった。 

◇図4 食肉の一人当たり消費量の推移◇


 (2) 赤肉志向による反動

 現在、 消費拡大と品種改良の方向は、 新たな転換期に差し掛かっている。  「ジ
・アザー・ホワイト・ミート」 の認知度は成人の85%にも達するとされており、 
業界内では、 これまでのキャンペーンが、 消費の減少傾向に歯止めをかけたとし
て、 評価する声も多い。 しかしその一方で、 この間の消費が横ばい傾向にとどま
ったことから、 一部には、 その経済効果について疑問視する向きもある。 

 また、 これまでのキャンペーンが、 消費者の健康志向を捉えるのには十分だっ
たものの、 豚肉そのものの品質や味という、 消費者が豚肉を選択する上で、 基本
的な動機に結び付く要素が欠如していたという反省も業界関係者には多い。 

 実際、 米国の量販店などで見かける豚肉は、 肉色や品質において、 幅が大きく、 
明らかなPSE (ムレ) 肉が、 通常の豚肉として販売されているケースもみられる。 
豚肉に対する消費者の概念は、 少なくとも視覚的な肉質という観点からは、 わが
国とは明確に異なるとの印象が強い。 

 (3) 肉質重視への転換

 現在、 NPPCは、 これまでの 「ジ・アザー・ホワイト・ミート」 に、 新たに 「ミ
ート・オブ・チョイス」 というコンセプトを加え、 消費者に豚肉の味、 肉質を訴
えるとともに、 肉質改良に取り組んでいる。 

 品種改良については、 NPPCが中心となって、 品種別に繁殖母豚の遺伝特性につ
いて客観的な評価を行うといもので、 95年には、 表−5のとおり各純粋種につい
て評価が行われた。 経済性、 産肉性といった、 従来の重点項目に加え、 ロース芯
の品質的な要素や、 食味に関する要素を細分化し、 品種間での肉質特性について
評価されている。 

 現段階では、 それぞれの純粋種についてのみの評価であるが、 今年から 「繁殖
母豚系統全国遺伝評価計画」 として確立し、 各品種登録協会や種豚供給企業に、 
F1を含む主要な系統について、 評価を得るよう参加を呼びかけている。 

 その評価基準については、 すべて客観的に、 かつ、 公正に実施し、 その結果に
ついては、 すべての生産者に提供するとしており、 種豚の選定に悩む生産者にと
って大きな手助けになるであろうと思われる。 

表−5 品種特性評価(抜粋)

 資料:NPPC
 (4) 今後は輸出市場をも視野に

 この他にも、 PSE豚肉排除のための努力も続けられている。 米国の研究結果で
は、 これまでの品種改良が、 背脂肪厚の低下やロース芯の拡充などの歩留まりに
重点を置いたことによって、 ストレス感受性遺伝子 (PSE肉の要因になるとされ
る) をも固定することにつながったとしている。 このため、 現在、 米国ではハロ
センテストによる同感受性遺伝子の排除が広く普及しており、 今後PSE豚肉の米
国での発生率は大きく低下していくものとみられる。 

 また、 同時に豚肉の格付け制度の拡充も図っている。 従来は歩留まりを重視し
た格付であったものを、 肉色やphなどの基準により肉質面での拡充を目指してお
り、 肉色については5区分であったものを、 わが国同様の6区分に細分化する方
向にある。 

 さらに、 NPPCは、 肉質改善の重要性について、 生産者への普及啓蒙も図ってお
り、 生産者向けパンフレットでは、 国内市場ばかりでなく、 輸出市場に適応した
品質の豚肉を生産することによって、 最終的には生産者にも大きな利益が還元さ
れると強調している。 

 このような、 米国豚肉業界の取り組みは、 明らかに輸出市場を意識したもので
あり、 わが国需要者の間で、 国産との比較において劣るとの声が多かった米国産
豚肉の品質が、 今後、 大きく底上げされる可能性は高い。 また関係者の説明は、 
十分にその意欲を感じさせるものであった。 

4 米国の輸出動向


 (1) 急増する豚肉輸出量

 96年の米国の豚肉貿易 (枝肉換算) は、 輸入量が前年比7%減の28万トンにと
どまった一方で、 輸出量は前年比23%増の43万トンに上った。 米国の豚肉輸出は、 
対日輸出の急増を背景に、 90年以降、 96年までの間に年率26%もの急激な勢いで
拡大している。 その一方で、 輸入量は徐々に減少しており、 95年には輸出量が輸
入量を上回り、 それまでの豚肉純輸入国から豚肉純輸出国に転じている。 

 このため、 輸出が、 米国豚肉市場に及ぼす経済的な効果も、 急速にその度合い
を高めているとされる。 米国食肉輸出連合会 (USMEF) によれば、 米国の卸売段
階の豚肉価額において、 豚肉や内贓品などすべての豚関連輸出製品の占める割合
は、 94年には6. 1%だったものが、 95年には8. 6%にまで上昇したとしている。 
これはまた、 1頭当たりの価額でみると、 11. 78ドルに相当するとしている。 

 輸出のもたらす経済効果については、 NPPCでも同様の見解を示しており、 輸出
の重要性は、 徐々に生産者にも浸透しつつある。 

 前述のとおり、 肉豚生産の大規模化の進展にともない米国の国内豚肉生産は長
期的には増加傾向にあるとみられることに加え、 国内消費量が横ばい傾向で推移
しているため、 生産の増加分は輸出に振り向けざるを得ないという事情もあり、 
米国豚肉業界の輸出志向は今後さらに高まる可能性が強い。 

◇図5: 米国豚肉需給の推移◇


 (2) 新たな市場としてアジア地域に期待

 USMEFでは、 現在の主要輸出市場である、 日本、 メキシコ、 ロシアの他に、 中
国、 香港なども、 戦略重点市場として位置づけ、 各種のプロモーションを展開し
ている。 

 なかでも、 その市場の潜在需要から米国業界では、 中国に注目が集まっており、 
今後の輸出拡大は、 中国向けの輸出によって左右されるとの見方もある。 また、 
米国業界全体のわが国への戦略としては、 既に見られるように、 ハム、 ソーセー
ジなどの加工品分野に、 一層のテコ入れが図られるものとみられる。 

 この他にも、 韓国、 フィリピン、 台湾といった国々が、 輸入品についてのアク
セス機会を拡大することによって、 新規市場として期待されており、 輸出市場と
してアジア地域には熱い目が向けられている。 

5 わが国豚肉市場における米国産豚肉


 最後に、 米国産豚肉へのわが国需要者の評価を整理するとともに、 国産豚肉に
とって課題と思われる点をいくつか挙げて、 本編のまとめとしたい。 

 (1) 米国産豚肉のメリット

 わが国の需要者からみて、 国産との比較において米国産にメリットがあるとさ
れる主な点は、 (1)品質や規格などにおいて斉一性がとれていること、 (2)特定品
目での供給がほぼ常時可能なこと、 (3)低価格であること、 などが挙げられる。 
これらは、 米国産輸入牛肉についても同様にいえることであり、 牛肉自由化以降、 
米国産のチルド部分肉が急速に日本市場での販売シェアを拡大させた背景ともな
っている。 

 わが国の米国産豚肉輸入は、 冷蔵部分肉を中心に拡大しており、 その多くはテ
ーブルミートとして小売用需要に向けられている。 米国産品にみられる、 部分肉
としての規格の斉一性と、 特定部位での供給能力は、 小売需要のなかでも、 特に
量販店にとって大きなメリットとなっている。 また、 多くの国産部分肉とは異な
り、 真空パックされた米国産豚肉は、 日持ちが良く、 店舗内でも比較的容易に管
理できるという利点もある。 

 わが国量販店では、 効率化や熟練労働力の不足から、 店舗内での部分肉処理作
業が省力化される傾向にあり、 パックを開封後、 直ぐにスライサーで処理可能な
米国産の規格と、 斉一性の高さは、 これらのニーズに適応したものといる。 また、 
大手量販店が全国規模で特売を行う場合には、 コンテナ単位での特定部位が要求
されるため、 1パッカー当たりの処理能力が桁違いに大きい米国産品が手当てさ
れることが多いとされる。 

 このような量販店を中心とした米国産チルドへの需要は、 輸入量の拡大に伴い、 
業務用や外食部門にも広がっているとみられる。 

表−6 1日当たり処理能力上位10社(96年2月現在)

 資料:米国食肉輸出連合会(USMEF)調べ
  注:1企業当たりの処理能力であり、1施設当たりではない。
 (2) 背景には生産規模の大きさ

 部分肉としての斉一性や、 特定部位での供給力の高さは、 米国の生産規模の大
きさが背景となっている。 米国の豚肉輸出量は、 近年、 急速に拡大しているもの
の、 全豚肉生産量に占める割合は未だ約6%と低い。 この点は、 台湾やデンマー
クといった、 対日輸出を行う他の競合国の事情とは大きく異なっている。 

 米国全体としてみれば、 日本向け輸出は、 その生産量のわずか数%にすぎず、 
また米国パッカーのと畜規模からみても、 日本向け製品の選別や特定部位での供
給はそれほど困難なことでないと推測される。 
 現在、 わが国に輸入される米国産豚肉は、 従来からの大手と畜専業パッカーと、 
新たに台頭してきた養豚インテグレーターによるものとに大別されるが、 規格の
斉一性や、 特定部分肉での供給力の高さは、 大規模大量生産を背景に、 大手と畜
専業パッカーのより得意とする分野であるといえる。 

 また、 先にみてきたように、 米国における肉豚生産部門と、 と畜処理部門は、 
垂直統合という派生を伴いながら、 ともに大規模化する傾向にあり、 米国全体で
みて、 これらの米国産のもつ利点は将来的にもさらに向上していくものと推測さ
れる。 

 (3) 今後の拡大が予想される差別化商品

 一方、 米国での養豚インテグレーターの進展とともに、 我が国の需要者のなか
には、 と畜専業パッカーの豚肉とは異なる、 より付加価値の高い豚肉の輸入を目
指す動きもみられる。 これらには、 生産段階から関与できる利点を生かし、 バー
クシャー種の導入や飼料の配合調製などによる肉質の改善や、 生産から販売まで、 
一貫した管理下での安全性を強調したものなどがみられる。 

 このような豚肉製品は、 既にわが国で販売されている例もみられるが、 まだ日
本市場での認知度が低いとして、 現在のところ実際の輸入には消極的な立場をと
る需要者も多い。 高付加価値商品の開発には相当のコスト増を伴うものの、 わが
国消費者には、 未だ米国産は国産よりも劣るとの認識が強く、 コスト増加分を販
売価格に転嫁できないという意見が大勢を占めているようだ。 

 しかしながら、 米国サイドでは、 養豚インテグレーターをはじめとして、 大手
専業パッカーの一部でも、 部分肉整形や重量規格などを米国内向け仕様とは別に
細分化するなどの例もみられ、 高付加価値とは呼べないまでも、 より日本市場に
適応した豚肉生産は、 現在、 対日輸出を行う多くのパッカーでみることができる。 
また、 現在の米国内での品質向上への取り組みや、 養豚インテグレターの販売戦
略よっては、 今後、 さまざまな高付加価値豚肉が日本向けに輸出される可能性も
ある。 

 (4) 国産豚肉の課題

 これらの米国産豚肉のもつメリットは、 同時に、 わが国の需要者から、 部分肉
としての規格に斉一性がない、 特定品目での集荷が困難であるなど、 国産品の扱
い難い点として指摘されるケースが多い。 

 また、 生産から消費までの経路がより明確である国産豚肉は、 食品の安全性と
して、 消費者に受け入れられる重要な要素の一つとなっているが、 この分野でも、 
米国産品は大きく改善しつつある。 米国では、 昨年7月に、 新たな食肉衛生管理
システムが導入されたことにより、 生産段階から部分肉までのトレーサビリティ
は大きく改善されており、 食品としての安全性については、 より客観的、 科学的
にアピールできる環境が整っている。 

 このようなことから、 輸入品と競合していく上での国産豚肉の課題としては、 
部分肉として斉一性や、 生産及び流通部門などにおける衛生面での改善などが挙
げることができる。 

 また、 今後の長期的な課題としては、 不需要部位の商品開発が挙げられる。 現
在、 わが国の豚肉需要は、 近年、 バラ肉需要が増加しているとされるものの、 依
然、 ヒレ、 ロース、 肩ロースに特化している。 しかし、 これらの需要部位の枝肉
価格に対するそれぞれの部分肉価格の比率をみると、 長期的には低下傾向にある。 
部分肉ごとの豚肉輸入数量が把握できないため正確な検証はできないが、 近年の
円高などにより、 輸入品のなかでもヒレやロースなどの高級部位の輸入量が増加
していることにより、 国産豚肉との価格の競合が生じていると予想される。 

 こうした高級部位の枝肉価格に対しての相対的な下落傾向は、 長期的な枝肉価
格の下落をもたらす可能性もあり、 ももなどの不需要部位での商品開発は急がれ
る重要な課題といえる。 

◇図6: 枝肉価格に対する部分肉価格の比率の推移◇

おわりに


 ここ数年、 日本企業の米国豚肉市場への進出が、 相次いで発表されている。 特
に、 昨年には、 わが国の食肉加工メーカーが肉豚生産分野での進出を行い、 大き
な話題となった。 

 このような状況は、 日本企業の豪州牛肉産業への進出が相次いだ、 輸入牛肉の
自由化前後の時期に似ているが、 当時進出した日本企業の多くが日本の牛肉市場
を念頭においていたのに対し、 今回の調査を通じては、 現在の日本企業の米国豚
肉業界への進出とその戦略は、 当時の様子とは異なるように感じられた。 

 現在、 米国豚肉業界に本格的に参入した日本企業にみられる共通した販売戦略
は、 まずは米国市場、 そしてより大きな国際市場を視野においた上で、 長期的な
見地から対日輸出を位置づけているとの印象が強い。 それだけに、 今後も、 輸入
品との厳しい競合が続くと予想される国産豚肉には、 その生き残りのために改善
すべき点が多いように感じられた。 

 また、 今回の米国調査で印象的だったもう一つの点は、 米国流を反映し、 米国
産豚肉のセールスポイントの多くが、 科学的、 また数値的に検証される点である。 
近年のわが国豚肉市場では、 種々の銘柄または差別化豚肉がみられるが、 それら
の多くは、 食味に焦点をおいているケースが多く、 視覚的、 客観的な尺度に乏し
い。 昨年来、 食品の安全性などに対する消費者のニーズが、 急速に増しているこ
とから考えても、 今後、 国産豚肉の差別化においては、 その評価の客観性が非常
に重要な要素になると考えられる。 

 ところで、 これを書き終えた数日後、 台湾において口蹄疫が発生し豚肉の輸入
が禁止された。 また、 EU域内においては、 豚コレラが発生しており域内では豚肉
が不足している状況にある。 このように、 今後、 世界の豚肉需給は、 かなり逼迫
した状況が続くものと見込まれる中にあって、 米国の豚肉生産及び輸出は益々優
位に立つものと予測される。 

 最後に、 この場を借りて、 今回の調査に協力いただいた多くの方々に、 心から
お礼を申し上げたい。 


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