重慶の直轄市昇格は、 内陸部農業発展の契機に (中国)




内陸部では初めて、 4番目の直轄市


 3月上旬の全国人民代表大会 (全人代:国会に相当) で、 四川省の重慶市が、 
地方行政単位である 「省」 と同格の直轄市に 「昇格」 することが決定された。 同
市は、 北京、 上海、 天津市に次いで4番目の直轄市となるが、 人口は約3千万人
と、 既存3市をしのぎ全国最大である。 また、 既存3市が沿海部にあるのに対し
て、 同市は長江上流の内陸部に位置している。 今後は、 産業振興面での優遇が大
きい直轄市の性格を生かし、 内陸部発展の拠点作りが目論まれている。 

 改革・開放の背景にある、 先豊政策 (豊になれるものから先に豊になる) によ
り、 沿海部と内陸部の経済格差が拡大して不満が高まっているが、 今回の重慶市
の 「昇格」 は、 中央の内陸部重視姿勢を明確に示すと共に、 その経済発展の起爆
剤となることが期待されている。 

農業が基本産業の四川省と重慶市との関係


 一方、 1億1千3百万人と最大の人口を有するが、 重要工業都市である重慶市
を 「抜かれる」 の四川省の今後はどうであろうか。 同省は山地が多いが、 冬以外
は概ね温暖で湿潤な気候であることから、 国内有数の農業地帯である。 そうした
中、 重慶市には、 国防上の産業分散戦略から、 意図的に重工業都市として育成さ
れてきた歴史がある。 したがって、 四川省の中では特異な発展を遂げてきたとい
えよう。 しかしながら、 近年では、 経営不振が進む国有企業が多い故に、 経済・
社会問題や環境問題が深刻化してきた。 こうしたことから、 今回の措置は、 重慶
市には、 直轄市の利点を発揮しつつ国有企業改革の波に乗って不振から脱する機
会であり、 一方、 四川省にとっては、 同市の経済改革等への重い負担が軽減した
分、 農業の発展に資金・資源を集中できるというメリットを生ずると考えられる。 

再有力農業省の地位復権の契機となるか


 四川省は、 農業粗生産額で江蘇省、 山東省に次いで第三位 (全国30省・市) の
極めて重要な農業省である。 また、 畜産関連では、 以下のとおり重要な地位を占
めている。 

 しかしながら、 同省の農業は、 近年では、 需要急増と外国投資や資材調達が有
利で急成長した、 沿海部等の農業地域に押され気味であった。 それだけに、 農業
発展に集中できるようになれば、 四川省農業にとっては、 絶好の復権機会を得た
ということが出来る。 また一方では、 直轄市の 「特権」 を生かして国有企業改革
が軌道に乗り、 3千万人の需要を持つ重慶市が経済発展すれば、 同一地域での農
業生産と消費の密接な経済関係が醸成されることになる。 この密接な経済関係は、 
沿海部では既に実証された、 農業発展のための需要要素である。 

四川省における畜産物・資料の生産量及び全国に占めるシェア、順位

 (注)資料 中国統計年鑑 ( )内は、全国シェア

 

内陸部農業の発展の核にとの期待感も


 中国では、 流通基盤が不整備な状況下で、 主要消費地である沿海部から遠距離
であることが、 内陸部農業発展のネックとなってきた。 また、 経済の脆弱さから、 
生産性向上のカギとなっている、 化学肥料・新技術や基盤整備への投入不足が、 
その成長を妨げてきた。 しかしながら、 流通・消費と生産振興上のこの二つの問
題が解決すれば、 内陸部においても、 農業が急速に発展する余地が大きい。 また、 
核となる発展地域の形成は、 周辺地域の農業経済の活性化にもつながることにな
る。 このことは、 沿海部では、 既に上海市と江蘇省、 また、 北京・天津市と山東・
河北省の関係に見られるように、 既に実証済みである。 

 なお、 四川省の畜産部門で特に注目されるのは、 圧倒的に比重の高い豚・豚肉
部門であるが、 省都成都市には、 産地市場として中国で最も代表的な肉類卸売市
場があり、 近代化を通じて流通拠点としての基盤が整いつつある。 したがって、 
長江の舟運や内陸部鉄道輸送が近代化・活性化すれば、 沿海部の遠隔市場への流
通網も備えた、 内陸部の畜産発展の核としての拠点機能が期待されることにもな
ろう。 


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