海外駐在員レポート 

CAP2000:EUの酪農乳業政策の改革をめぐる動き

ブラッセル事務所 池田一樹、 井田俊二



1 はじめに


 EUの酪農乳業分野の共通農業政策 (CAP)は、 市場支持制度と生乳生産クオータ
制度が柱である。 

 市場支持制度は、 ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意 (以下 「ガット合意」 
という。) により、 関連補助金の削減等が課せられている。 また、生乳生産クオー
タ制度 (以下 「クオータ制度」 という。) は、2000年3月31日に実施期限を迎える。 
さらに、 99年からの世界貿易機構 (WTO)の農業交渉や中東欧諸国のEUへの加入と
いった課題が控えている。 

 こういったCAPを取り巻く環境の変化の中、 EU委員会は、 CAPの酪農分野の改革
の選択肢を本年中に提案することとしている。 今般、 その検討の基礎材料として、 
「農産物の長期需給見通し」 と酪農乳業の市場や制度について詳細に分析した「酪
農分野の現状と見通し」 という2つの報告を発表した。 

 一方、 EU農相理事会は、 5月末に非公式会合を開催した。 この際、 オランダ農
相は議長として、 議論のたたき台となる資料を提出したが、 この中で大幅な改革
は不必要との意見を述べており、 過半数の農相もこの趣旨に同意したと伝えられ
ている。 

 今後のEUの酪農乳業の方向を決めるCAP改革の動向は、大いに注目されるところ
である。 そこで、 今回は、 改革に向けて具体的に動き出した最近の状況について、 
議長が提出した資料の概要を報告することとしたい。 また、 この資料は、 需給の
見込みについては、 EU委員会の報告をベースにしている他、経済協力開発機構(OE
CD) の報告等を引用しているので、 これらの報告の関連部分についても、 後段で
触れることとしたい。 

2 議長資料の概要


(1) EU酪農の現状

 酪農は、 EUの農業で最も生産額の大きい分野であり、 農業総生産の約18.5%を
占めている (ルクセンブルク43.5%〜スペイン8.7%)。 

 生乳生産量は1億2千万トン、 乳用牛飼養農家は1千100万戸、 乳用牛頭数は2,
200万頭、 平均乳量は5,400kgである。 

 1戸あたりの平均飼養頭数は20頭で、 他の主要生産国に比べて、 かなり小規模
である。 加盟国別に平均飼養頭数をみると、 イギリスが最大規模で70頭、 最小規
模はスペインの4頭となっている。 

 EUの生乳生産量は、 世界の総生産量 (5億3,700万トン、 1996年、 FAO) の22.3
%を占めており、 シェア第2位の米国の12.7% (6,830万トン)を大幅に上回って
いる。 


(2) 需給動向

 需給動向については、 EU委員会の需給見通し等に沿って取りまとめられており、 
その概要は次のとおりである。 

1) 域内需給

 今後の生乳生産は、 ほぼ一定で推移し、 96年の1億2,160万トンに対して、2001
年には1億1,940万トンになると見込まれると述べている。 

 一方、 消費については生産に比べて流動的であるとしている。 バター消費は、 
最近は緩やかな減少が続いており (▲1%/年)、今後もこの傾向が続くとみられ
ているが、 減少率については若干の縮小が見込まれるとしている。 脱脂粉乳につ
いても消費の減少を指摘している。 これに対して、 チーズやヨーグルト等のフレ
ッシュものの消費は伸びており、 特にチーズ需要増加は顕著であると評価してい
る。 今後のチーズ需要については、 毎年1%の割合で2005年まで増加する見込み
であるとしている。 

 生乳過剰生産量については、 ほぼ一定で推移し、 96年の約930万トンに対して、 
2001年には900万トン、 2005年には940万トンと見込まれると述べ、 これらのはけ
口を国際市場に見つけなければならないとしている。 

2) 国際需給

 国際市場における乳製品需要は、 域内市場と対照的に、 今後毎年約百万トン程
度の増加が見込まれ、 主として非OECD諸国、 中でもアジアとラテンアメリカでの
増加が予測されると述べている。 

 一方、 需要の増加に対して、 どこでどのように生産が対応するかについては、 
様々な予測があるとしながらも、 生産制限措置を採用していない国が中心となる
ことは明らかであると断言している。 なお、 OECD諸国では、 生乳生産の約55%は
何らかの制限下で行われていると述べている (1991年には57%)。 

 また、 乳製品の国際価格の動向について、 OECDの予測を引用し、 チーズおよび
粉乳価格は、 96年水準で推移するが、 バター価格は徐々に低下するものと見込ま
れていると述べている。 ただし、 こういった予想価格は90年代初頭の価格を大幅
に上回っていると指摘している。 


(3) 政策について

 政策については、 クオータ制度を中心に次のように取りまとめられている。 

1) 需給への影響

 酪農乳業は、 CAPの中でも最も管理の行き届いた分野であると評価している。 

 需要面にあっては、 子牛飼料部門、 菓子、 アイスクリーム業界および学校への
供給促進や、 食糧援助といった政策によりその増加が図られており、 また、 輸出
補助金の交付も需要増加措置の一つとしている。 これらは、 牛乳・乳製品が競合
関係にある商品との価格競争力を維持するための措置、 あるいは市場政策の結果
積みあがった在庫を処分するための措置であると述べている。 

 生産面にあっては、 84年にクオータ制度が供給管理手段として導入された。 個
人のクオータを超えた場合は、生乳目標価格の115%の課徴金を支払わねばならな
いので、 生産者は個人クオータを超えてまであえて生産しようとはしない。 従っ
て、 クオータ制度は、 生乳生産を管理する上できわめて効果的な手段であると評
価し、 クオータの削減により、 生乳出荷量は83年に比べて8%減少したと述べて
いる。 

 これらの政策により、 需要増加および供給制限が図られてきている。 さらに、 
バターおよび脱脂粉乳の介入買い上げ措置により市場への供給量が調整されてき
ている。 この結果、 高い乳価が保たれ、 酪農家の所得の安定が図られてきており、 
酪農政策の最も重要な目的が果たされていると関連政策を評価している。 なお、 
不足払いのような直接所得補償制度は、 酪農乳業分野では措置されていないとも
述べている。 

2) クオータ制度導入の理由

 EUの生乳生産は、 70〜83年の間に年2%程度の割合で増加した。 これに対して、 
販売の増加率は生産増加率を下回る年0.7%程度であった。 このため、 EUは、短期
的措置としての在庫積み増しと並行して、 主として輸出の増加によって乳製品の
大規模なはけ口を見い出すこととなり、 70〜85年の間に輸出が急増した。 この際、 
内外価格差を埋めるために補助金が必要であることから、 関連支出も急増した。 
この財政コストの増加が、 クオータ制度の導入の直接の原因であり、 生産制限に
より、 関連支出の抑制あるいは悪くても安定化を目指したと述べている。 

 もう一つの選択肢は、 乳価を大幅に引き下げ、 生産増加の抑制または減産を実
現させるとともに、 輸出価格を引き下げようとするものであった。 しかしながら、 
社会的な見地、 また、 農村の活性維持といった観点から、 生乳生産に適さない地
域から酪農が消えてしまう可能性のある選択は受け入れられなかったと述べてい
る。 

 以上がクオータ制度の導入の理由であるとしている。 

3) クオータ制度の影響

 クオータ制度は、 酪農政策における財政支出の抑制という目的からすると、 十
分に満足できる制度であると評価している。 関連支出は、 85年の58億ECU(約8千
億円) から96年には36億ECU (約5千億円) に減少した。 酪農分野は、96年には農
産物産出額の18%を占めているが、 市場および価格政策関連支出の9%しか占め
ていない。 これは、 高い生乳価格を通じて、 財政負担の一部を消費者が負担して
いることと関係が深いと述べている。 

 酪農家の所得は、 クオータ制度が導入されて以来、 安定して推移しており、 ま
た、 上昇したことさえもあった。 この原因として、 酪農家のコスト削減や飼料価
格の低下だけでなく、 クオータ制度により乳製品価格が好調に推移したことを挙
げている。 さらに、 クオータ制度がなければ酪農が今日まで存続できなかった地
域で酪農が続いていることも、 制度の恩恵であると評価している。 

 一方、 クオータ制度の問題点も指摘している。 一つは、 生産上限量の設定によ
り、 加盟国間、 さらには酪農家間での総量の配分が必要となることである。 これ
は、 実行上多事多難であるばかりでなく、 公平を保つことも実に困難であると述
べている。 クオータ配分は、 できるだけ客観性を保つため、 実績に応じて行われ
ており、 例外はあるにしても、 配分は十分に厳格に行わなければならないとして
いる。 

 また、 クオータという 「生産権」 の付与が、 農家構造をある程度硬直化させる
とともに、 経済的に理想的とは言えない生産構造を生み出しているとも指摘して
いる。 これは、 通常、 生乳生産に関して比較優位にある地域での問題であり、 潜
在生産力が 「生産権」 を上回っているため、 「生産権」 は不足し、また高価になっ
ているとしている。 「生産権」 を購入しなければならない場合、生乳生産コストは
上昇することから、 クオータ制度導入以前には国際競争力のあった経営も、 導入
後数年間を経て競争力を失った可能性もあるとも指摘している。 

4) クオータ制度に対する 「欧州青年農業者会議」 の見方

 欧州青年農業者は、 非公式農相理事会の終了後、 クオータ制度について声明を
発表している。 この中で、 クオータの資産価値が高いことにより、 青年労働者の
酪農への道が阻害されていることを指摘しつつも、 クオータ制度の存続には賛同
している。 その理由として、 クオータ制度によりEU全域の生乳生産が維持されて
きたことや、 酪農分野の構造が比較的安定して推移してきたこと、 さらに、 中長
期的な計画が可能となっていることを挙げている。 

 ただし、 クオータ制度の改善点も挙げている。 まず、 土地の移動を伴わないク
オータの移動に当たっては、 一定割合を国の保留枠に組み入れ、 この枠は青年農
業者に優先的に配分するような新しい仕組みを提案している。 また、 早期離農制
度を全加盟国で採用し、 放出されたクオータも国の保留枠に組み込むことを提案
している。 

 次に、 リース等のクオータの一時的な移動には、 期限を設定するべきであると
主張している。 これは、 クオータは実際に生産を行っている酪農家のみが永続的
に所有するべきであるとの理由によるものである。 

 さらに、 自主的な出荷放棄について補償を与え、 放棄されたクオータを国の保
留枠に組み込むようにする制度も提案している。 


(4) ガット合意

 ガット合意については、 生乳換算で百万トンのアクセス量の増加と、 補助金付
き輸出量の21%削減の影響が大きいとしているが、 2000年のクオータについて、 
これらの影響量を削減する必要はないとしている。 

 その理由としては、 現状程度の生産量を維持しても、 高い輸出量が見込まれる
ことから、 在庫の増加がほとんど見込まれないことを挙げている (注:この他、 
EU委員会の需給見通しでは、チーズ需要の順調な増加が見込まれている)。 高い輸
出量が維持されると見込まれている理由としては以下の点を挙げている。 

1)ガット合意の数量の計算は、 過去の基準期間に基づくとともに、 4つの製品グ
 ループに分かれている (バター、 脱脂粉乳、 チーズ、 その他の乳製品)。バター
 の補助金付き輸出の削減は、 基準期間の輸出量がきわめて多かったため、 全く
 問題にはならず、 増加さえも可能であり、 また、 脱脂粉乳についても、 ほとん
 ど問題はない。 チーズ分野への影響は深刻であるが、 輸出パッケージの組み合
 わせを変えることにより、 生乳換算での総輸出量は、 増加させることも可能で
 ある。 

2)ガット合意の対象とならない補助金のない輸出、 すなわち、 補助の必要のない
 市場 (輸出補助金の撤廃による価格上昇を負担するだけの経済力のある市場) 
 への輸出を行うようにすればよい。 

3)輸出補助の対象を、 単位量当たりの乳成分含有量が最大の製品に絞り、 現行の
 合意の中で生乳輸出を最大限にすることで、 域内市場の負担を軽くすることも
 可能である。 

4)以上のような柔軟な政策の実行によって、 ガット合意の影響を無理のない範囲
 内に維持することができると考えられる。 

 また、 2005年においてもおおむね同様の輸出量が見込まれるものの、 マーケッ
トシェアは減少すると指摘している。 


(5) 2000年以降の状況

 2000年までは、 牛乳・乳製品市場には、 大幅な政策の見直しを迫るような重大
問題はないが、 2000年以降は、 中東欧諸国の加盟によるEUの拡大、WTOの次期交渉
が控えているとして、 以下のように取りまとめている。 

1) EUの拡大

 EUと中東欧諸国の市場組織が統一された場合、中東欧諸国の生乳過剰生産量(10
0万トン〜200万トン) のはけ口探しが問題となるが、 補助金付き輸出の制限から
困難であると述べている。 

 ただし、 こういった予測や市場統合といった前提については、 以下のとおりの
意見を述べている。 

ア これらの国々の経済は計画経済から市場経済への移行により疲弊している。 
 農業分野では特に畜産の打撃が大きく、 生産は大幅に減少した。 目下生産は、 
 多くの国々で再び成長に転じているが、 ほとんどの分野では、 依然として89年
 の自由化前よりも低い状況にある。 こういった状況からして、 生産が最近まで
 いわれていたような早さで回復するかどうかは疑問である。 

イ これらの多くの国々で今後大幅な構造改革が必要になること等を勘案すると、 
 EUの農業政策、 酪農分野についていえばクオータ制度を適用することが可能で
 あるのか、 あるいはそうすることがふさわしいのかということについて、 かな
 り疑問が生ずる。 

ウ EUの酪農政策は、 乳価に好影響を与えることで酪農家により良い所得を保証
 してきたが、 中東欧諸国の農業生産の脆弱な構造や大幅な構造改革の必要性か
 らすると、 ただ単に農業構造の改革に注目した政策のほうが、 所得支持政策よ
 りも適当と考えられる。 

 さらに、 拡大の影響が明らかになるまでの期間が重要であるとした上で、 2002
年までは拡大は起こらず、 その後、 統合された国々の農産物価格がEU並みになる
までには、 かなり長い移行期間が必要との見方が多いと述べている。 

2) 貿易交渉の新ラウンド

 市場アクセスと輸出補助金に関する新しい合意が、 ガット合意と同様であれば、 
国境措置が弱くなり、 また、 輸出補助金の交付が減少すると述べている。 

 国境措置の削減は、 内外価格差の縮小につながる。 これは、 クオータ制度から
価格安定機能を取り去ることになり、 市場組織の柱としての制度を直撃すること
になるとしている。 

 輸出補助の削減もまた、 酪農政策に大きな影響を持ち、 生産の相当部分が市場
支持制度下にあるため、 政策の改善がなければEUの生産はさらに削減を余儀なく
されると述べている。 また、 EUの販売が減少し、 マーケットシェアの減少にもつ
ながるとも述べている。 

 ここでもまた、 時間の重要性が指摘されているが、 経験的にみて、 交渉は長期
化し、 新たな貿易合意の実施は2005年以降になるのではないかと述べている。 ま
た、 その後、 段階的実施期間が、 例えば5年間措置されるのではないかとも述べ
ている。 

3) 結論

 将来の酪農政策について早期に検討を開始することの重要性を指摘している。 
その最大の理由として、 次期のWTO農業交渉を挙げている。ウルグアイ・ラウンド
では交渉中に貿易相手国の圧力下で政策の改善を行ったが、 好ましい交渉戦略で
はなかったとして、 今回は交渉に先立って、 将来の酪農政策に関する賢明かつ明
確な対策を決定するべきであるとしている。 

 また、 酪農家にとっては、 経営計画を検討するためにも、 将来の酪農政策の方
向についてはっきりとした、 かつタイムリーな情報を得ることが大事であるとし
ている。 

 さらに、 EUに加盟しようとする国が見通しを知ることも重要であるとしている。 

 最後に、 2005年までは、 政策の変更を強いるような状況はまず生じないとみら
れることから、 現行の政策を継続することは十分可能であると述べている。 

3 非公式農相理事会における各国の動向


 非公式農相理事会では、 ドイツ、 オーストリア、 ベネルクス3国、 アイルラン
ド、 スペイン、 ポルトガル、 フィンランドがクオータ制度の存続の立場をとった
と伝えられている。 一方、 クオータ制度の段階的廃止の立場をとったのは、 イギ
リス、 デンマーク、 イタリア、 スウエーデンで、 特にスウエーデンは速やかな廃
止を主張し、 その他、 数カ国がクオータの増加、 2重クオータ制度を主張したと
伝えられている。 

4 「長期需給見通し」 (EU委員会)


(1) EUに関する需給見通し

 EU委員会は穀類、 牛乳・乳製品および食肉について、 長期の需給見通しを発表
した。 これは、 1997年から2005年までの各産品の需給について、 次の2点を前提
として見通したものである。 

1)全ての制度は、 現行と同様または予測可能な変更内で運用される。 

2)輸入や補助金付き輸出に関するガット合意は、 完全に遵守されるとともに、 20
 01年から2005年までは、 ガット合意には変化がないものとする。 

 主要な牛乳・乳製品についての見通しは、 表1〜4のとおりである。 

 このように、 2005年と現在では生乳過剰生産量はほぼ一致しているが、 一方で
牛肉分野や穀物分野では今後在庫の増加が予想されている。 このため、 フィシュ
ラー農業委員も 「牛肉分野や穀物分野と比べれば、 酪農乳業分野では大改革の必
要性は薄い」 と語っている。 

表1 生乳需給見通し(EU15カ国)

 資料:EU委員会
 (注)1996年は速報値

表2 チーズの需給見通し(EU15カ国)

 資料:EU委員会
 (注)1996年は速報値

表3 バターの需給見通し(EU15カ国)

 資料:EU委員会
 (注)1996年は速報値

表4 脱脂粉乳の需給見通し(EU15カ国)

 資料:EU委員会
 (注)1996年は速報値


(2) 国際市場に関する需給見通し

 域内の需給見通しがEU独自の見通しであるのに対して、 国際市場についてはOE
CD、 米国農務省 (USDA)、 FAPRI (食糧農業政策調査研究所、 米国) の見通しが引
用されている。 乳製品分野については、 特に、 OECDの見通しが中心となっている。 
OECDによる1997年から2000年までの乳製品価格の見通しは以下のとおりである 
(表5)。 

表5 主要乳製品の国際価格の見通し

 資料:OECD
 (注)91-95年は平均値、95年は速報値、96年は推定

 見通し期間の乳製品の国際価格は、 バター以外は96年と同様の水準で推移する
と見込まれている。 

 乳製品を種類別にみると、 バターの国際価格は、 95年にはロシアの輸入需要が
急増したため、 急上昇したが、 その後96年には急落している。 価格低下の傾向は、 
今後も続くと見られるが、 その速度はかなり緩やかで、 2001年では、166USドル/
100kgと予想されている。 なお、 非OECD諸国では、生産の増加が消費の増加を上回
るため、 輸入需要は減少するものと見込まれている。 

 脱脂粉乳についても、 主に消費減少により、 非OECD諸国の輸入需要は、 減少す
るとみられている。 しかしながら、 OECD諸国で生産が大幅に減少するとみられる
ことから、 国際価格は横ばいで推移し、 2001年には196USドル/100kgと見込まれ
ている。 

 一方、 全脂粉乳は世界的に需要増加が見込まれ、 OECD諸国では年5.5%、非OECD
諸国 (旧ソ連の新独立国家を除く) では年1%の増加が予想されている。 このた
め、 国際価格は、 中期的には堅調に推移するものと見込まれるが、 今世紀末には
若干低下し、 2001年には、 199USドル/100kgと予想されている。 

 チーズ価格は、 OECD諸国における強い需要により中期的に安定して推移するも
のと見込まれている。 しかしながら、 輸出の増加により、2001年には216USドル/
100kg程度と若干低下するものとみられている。 

 このように、 乳製品の国際価格は、 90年代前半の価格を大きく上回って推移す
ると見込まれている。 この理由として、 ガット合意による補助金付き輸出の減少
と在庫の減少、 また、 東南アジアおよびラテンアメリカでの需要増加が挙げられ
ている。 


(3) 中東欧地域の生乳需給見通し

 ここでいう中東欧地域とは、 EUに正式に加盟を申請しているブルガリア、 チェ
コ、 エストニア、 ハンガリー、 ラトビア、 リトアニア、 ポーランド、 ルーマニア、 
スロバキア、 スロベニアの10カ国である。 見通しに当たっては、 これらの国々は
2002年にEUに加盟し、 生乳生産クオータの適用が始まるとともに、 価格は徐々に
EU並みになることを仮定している。 

 生乳生産予測については、 乳用牛飼養頭数が引き続き減少しており (95年およ
び96年)、 また、 生乳生産の回復が遅れていることから、特に2002年までは低目に
見込まれている。 その後の生産は、 クオータの導入により安定するものと見込ま
れている。 一方消費量については、 価格がEU並みになることにより、 国内消費の
増加が抑制されるとみられている。 この結果、 過剰生産量は、 2005年には2000年
の2倍の200万トンとみられている。 従って、 2005年の拡大EUの過剰生産量は、EU
15か国の過剰生産量である940万トンと合わせて1千140万トンと見込まれている 
(表6)。 

表6 中東欧諸国の生乳需給見通し

 資料:EU委員会

5 「酪農分野の現状と見通し」 (EU委員会)


 EU委員会は、 「酪農分野の現状と見通し」 の中で、生乳生産クオータと生乳生産
について、 効果と問題点を分析している。 これによれば、 クオータ制度の効果と
して、 まず、 生産の増加に歯止めをかけ、 さらに減少に導いたことを挙げている。 
この結果、 介入買い上げ規則の強化や、 バターおよび脱脂粉乳の支持価格の引き
下げと相まって、 80年にはEUの市場支持関連予算総額の41%を占めていた酪農分
野の支持関連予算を、96年には9.2%にまで減少させることができたと述べている。 
金額でみると36億ECUであり、80年の9カ国分の支出総額よりも少ない額となって
いる。 ただし、 それでもEUの酪農は構造的に生産過剰であるとし、 過剰分は、 市
場価格の約1/3に相当する費用をかけて輸出 (大部分は補助金付き輸出) や、 
域内での補助金付き販売 (約1,100万トン) に向けているとしている。 

 また、 クオータが土地に帰属していることにより、 条件不利地域、 特に山岳地
域や低開発地域での酪農の存続に、 大いに貢献していると評価している。 

 一方、 問題点としては、 他の生産制限措置と同様、 運用に当たって困難が多い
といった制度自体の性格を挙げている。 

 また、 CAPが保証している高水準の乳価により、クオータの価値が上昇した結果、 
クオータの入手を必要とする新規参入者や生産を拡大したい者にとっては、 生乳
生産における固定経費 (クオータを固定資産として購入した場合)や変動経費(短
期の貸借関係の場合) の上昇につながっていると指摘している。 また、 クオータ
取引は、 国により規制にかなりの幅があるが、 自由に取引させれば、 良好な経営
者が入手することとなるので、 経済的にみて好ましい配分につながる可能性があ
るとしている。 一方、 現役の酪農家側からみると、 クオータの売却や賃貸は、 た
なぼた収入になっていると述べている。 

 クオータ制度が、 その硬直性から構造調整を滞らせているといった批判に対し
ては、 経営の大規模化の一層の進行という重要な構造変化が起こっているとの見
方を示している。


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