牛肉産業の現状と見通しを発表 (EU)



● 酪農に次いで比重の重い牛肉部門

 EU委員会は、 このほど、 今後のEUの牛肉関連政策の方向を検討するに当たって の基礎となる報告書である、 「牛肉分野の現状と見通し」 を発表した。この報告書 では、 EUの牛肉部門の生産高 (農家受取り額ベース) がEUの農産物全体の11.9% を占め、 酪農部門に次ぐ第2位の重要な部門であるとしたうえで、 市場、 政策の 現状や2005年までの需給見通しを次のように述べている。  まず、 最近の総生産量は、 年間約8百万トン弱 (枝肉換算、 EU15カ国:以下同 じ) であり、 フランス、 ドイツ、 イタリア、 イギリスの4カ国が全体の3分の2 を生産している。 一方、 総消費量は約750万トンであり、一人当たりの牛肉消費量 は20kgとなっている (96年の牛海綿状脳症 (BSE) 問題の再発以前:なお、豚肉は 40kg、 家きん肉は19kg)。  また、 最近の輸出量は、 百万トン (生体牛の枝肉換算を含む) を上回っており、 牛肉が大部分を占めているが、 生体での輸出も増加している。 これに対して、 輸 入量は40万トン前後となっている。  牛 (乳用牛+肉用牛) の飼養農家戸数は、 約2百万戸 (総農家戸数は780万戸) である。 飼養戸数は、 80年代半ばから年5%のペースで減少しているが、 生乳生 産割当 (クオータ) 制度の導入後、 乳用牛の飼養戸数の減少のペースが急速にな っている一方で、 肉用繁殖牛の飼養戸数は増加している。 クオータ制度の導入以 前、 飼養戸数の構成比は、 乳用牛が10に対して肉用繁殖牛は4であったが、 最近 では1対1に近づいてきている。 このように、 肉用牛経営の比重が徐々に高まっ てはきているが、 依然として生産される牛肉の3分の2は、 乳用種 (兼用種を含 む) の牛から生産されている。

● 今年度の財政支出額は過去最高に

 牛肉部門の支持制度は、 国境措置、 介入買い上げ、 輸出補助金といった市場制 度と、 頭数割で交付している各種奨励金制度を柱としている。 92年の共通農業政 策 (CAP) 改革では、 市場支持価格 (介入価格) を引き下げる一方で、奨励金の単 価を引き上げるとともに、 新たな奨励金制度も導入した。 これらの制度の運営に 必要な経費は、 90年代はじめには40億ECU (約5千2百億円) を超え、農業関係の 価格支持関連予算の14%を占めていたが、 同CAP改革後は減少した。 しかし、最近 では、 BSE問題に伴う各種対策の実施により増加傾向にあり、 今年度は、過去最高 の支出額になるものと予想される。

● 介入在庫量は、 さらに増加の見込み

 今後の市場動向については、生産面では96年から実施されたBSE対策の一環であ る子牛と畜奨励事業などの効果により、 98年、 99年には20万トン程度の減産が見 込まれるが、 その後は牛群の拡大などから生産が回復すると予想される。 これに 対して、 消費量は、 今年の7月の牛肉の産地等表示制度の導入や、 今後の衛生対 策の進展などの効果により、BSE問題がもたらした大幅な減少状態からは回復する ものの、 その問題発生以前の水準に回復することは困難とみられている。 この結 果、 昨年、 BSE問題で8千トンから40万トンにまで急増した介入在庫量は、2005年 までには、 さらに150万トンにまで積み増しされる可能性がある。  なお、 前述の需給の見通しに基づき、 今後、 供給過剰が慢性化し、 牛肉価格が 低下すると予想されることから、 EUと他の主要輸出国との価格差は、 縮小すると 見込まれている。 しかしながら、 縮小してもその差は依然として大きいため、 引 き続き、 補助金付きの輸出が必要になるとみられている。
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