海外駐在員レポート 

タイ鶏肉の今後の需給動向

シンガポール駐在員 伊藤憲一、 外山高士



はじめに


 最近のタイの冷凍鶏肉の輸出数量は、 中国、 ブラジル等からの輸出の急増によ
り、 92年以降、 96年までは年々減少してきた。 経済成長に伴い上昇する人件
費などが鶏肉の生産コストを押し上げ、 安価な中国、 ブラジル等との輸出競争に
おいて劣勢となっていたが、 97年に入ると、 一転して、 輸出が増加し、 上半期
で約10%近い伸びとなった。 

 また、 鶏肉調製品の輸出は、 毎年度20%を超える大幅な割合で増加している。 
タイでは、 採算を度外視してまでも冷凍鶏肉の輸出を拡大するより、 むしろ、 こ
れまで培ってきた鶏肉加工技術を生かした鶏肉調製品を含む高付加価値製品の輸
出に主力を注いでいる。 既に、 タイ最大手の鶏肉輸出業者であるCP (シャロラン・
ポカパン) はもとより、 日系企業が、 日本向け商品開発の技術指導を行うと同時
に、 日本の需要に沿った商品の開発を更に進めてきている。 

 一方、 タイ国内では、 経済成長に伴う所得の向上により、 ウエットマーケット 
(伝統的な様式の市場)からスーパー、 屋台からファストフードなどへと着実に食
品の購買・消費形態が変化してきており、 それに伴って高度加工された鶏肉、 鶏
肉加工品などの食肉製品が豊富に出回り、 食生活の向上は目覚ましいものがある。 

 このため、 本報告は、 最近の通貨タイバーツの下落による経済の停滞はあるも
のの、 これまで順調に拡大してきた鶏肉需要を踏まえ、 今後の鶏肉輸出業者にお
ける冷凍鶏肉及び鶏肉調製品の輸出拡大策及びそれを取り巻く最新の状況につい
てレポートする。 


タイ鶏肉の生産動向


 (1) 飼養戸数及び飼養羽数

 最近のブロイラーの飼養戸数及び飼養羽数は、 表−1のとおりである。 飼養戸
数は、 95年の2, 980戸を底に、 96年は3, 846戸、 前年比129%
と大幅な増加となっている。 飼養規模別では、 95年までは規模別に大きな変化
が見られなかったが、 96年においては、 全戸数の1割強を占めていた1万羽規
模以上の農家が規模の縮小若しくは廃業等により減少し、 反面、 新規農家の参入
などにより2千から10千羽未満の中核的農家層が大幅に増加している。 しかし、 
飼養羽数については、 輸出数量の減少に伴い年々減少傾向を呈しており、 96年
は966百万羽、 前年比80%の大幅な減少となっている。 

表−1 タイにおけるブロイラー農家規模別戸数及び飼養羽数の推移

 資料:「Statistics Yearbook」(1993-1996),「Department of Livestock」
    タイ農業協同組合省

 (2) 生産状況

 最近におけるタイの国内生産は、 92年の726百万羽の出荷をピークに徐々
に減少してきたが、 94及び95年において種鶏及び原種鶏の輸入が大幅に拡大
したことにより、 ひなのえ付け羽数が96年後半から増加に転じ、 同8月からは
月当たり60百万羽を超えるまで増加し、 97年上半期には、 月当たり70百万
羽を超え、 前年同期を25%も上回る大幅な増加となった。 一方、 鶏肉生産は、 
95年から回復基調に転じ、 95年が631百万羽、 前年比102%、 そして、 
96年は687百万羽、 前年比109% (速報) と急速に回復した。 更に、 97
年上半期は、 406百万羽、 前年同期比129% (同) と大幅な増加となり、 農
家の生産意欲が拡大している (表−6参照) 。 この生産拡大の要因は、 国内にお
ける鶏肉及び鶏肉調製品の消費の拡大、 農家における生産効率の向上、 飼料の輸
入関税の引き下げ、 鶏の疾病の減少、 97年上半期の鶏肉輸出が好調であったこ
と等にあるとみられている。 特に、 米国などから新技術として冷房施設が導入さ
れ、 3月から5月にかけての夏季高温期における事故率が低下したことが、 生産
の拡大に寄与している。 

 表−2は、 出荷契約を締結している農家 (以下 「契約農家」 という。 ) 及び個
別農家におけるブロイラーの生産コストを見たものである。 92年における契約
農家と個別農家の1kg当たりの生産コストは、 ひな費の割高なコストにより、 契
約農家の方が1. 27バーツ個別農家より高いものであった。 しかし、96年は
逆に、 契約農家の方が1.03バーツ個別農家よりも生産コストが低くなってい
る。 これは、 92年は96年に比べ1万羽規模以上の効率的な大規模個別農家か
多かったことなどによるものとみられている。 

 また、 1羽当たりの生産コストに占める飼料費及びひな費の割合は、 各年にお
いて若干の増減はあるものの、 飼料費が約75%、 ひな費が約17%となってお
り、 この2種の経費で1羽当たりの生産コストの9割以上を占めている。 

表−2 農家形態別平均ブロイラー生産コスト

 資料:Statistics of Livestock Production and Trade Year 1996


タイ鶏肉の輸出動向


 (1) 冷凍鶏肉の輸出状況

 冷凍鶏肉の輸出数量は、 安価な中国、 米国、 ブラジル産の日本向け輸出の増加
により、 92年の175千トンをピークに年々減少傾向で推移してきた。 しかし、 
97年の輸出数量 (8月までの速報値、 以下同じ。 ) は、 94,002トン、 前
年同期比107.2%となり、 日本向けの減少傾向が続いているものの、 EU向け
の輸出が大幅に増加したことにより、 全体では久しぶりの大幅な増加となった。 

 また、 日本向け輸出数量シェアは、 92年の83%から96年は75%に、 9
7年は65%まで低下している。 一方、 EU向け輸出数量シェアは、 92年が9%
であったものが、 96年には17%、 97年は26%と更に大きくが拡大してい
る。 

 これは、(1)牛海綿状脳症 (BSE) 及び豚コレラの影響による鶏肉への消費のシ
フト、 (2)EUがタイに課していた付加関税の削減、 (3)EUによる中国産鶏肉の輸
入禁止措置などが要因とみられている。 

 一方、 日本向けもも肉の輸出価格は、 これまでの通常オファーがトン当たり2, 
500ドル/トン前後で推移していたが、昨年後半から下落し、最近は、 同1,6
00から1,700ドルとなっている。 この価格は、 中国産との競争に十分に対
抗できる価格である反面、 コスト的には大変苦しいものとなっている。 しかしな
がら、 胸肉を中心としたEU向け通常オファーは、 同2,600ドル前後であった
ものが、 最近は、 同3,200ドルまで上昇したことによりかなりの高収益をあ
げている。 

表−3 冷凍鶏肉国別輸出数量の推移

 注)資料:タイブロイラー加工輸出協会

 (2) 鶏肉調製品の輸出状況

 日本がタイから輸入している鶏肉調製品の輸出数量は、 92年度においては1
万トンを下回っていたが、 93年度以降、 日本における業務用、 外食産業等の需
要の拡大により、 年率で20%を超える大幅な増加となり、 96年度は3万トン
を超えている。 一方、 中国においても鶏肉調製品の対日輸出数量の拡大は目覚ま
しいもので、92年度には僅か1千トン程度であったものが、96年度には2.5
万トンまで拡大し、 タイにとって大きな脅威となった。 

 直近におけるタイからの鶏肉調製品 (半調製品を含む。 ) の輸出状況は表−4
のとおりである。 鶏肉調製品の日本向け輸出数量は、 年々拡大しているものの、 
その輸出数量シェアは95年が92%、 96年は91%、 97年は84%と年々
低下している。 他方、 EU向け輸出数量は95年には1.5千トン、 輸出シェア7
%と低調であったものが、 96年には、 主にオランダ、 イギリスへの輸出の拡大
により、 輸出数量は2.5千トン、 シェア9%まで拡大し、更に、97年は3.8
千トン、 シェア16%となり、 シェアが95年の2倍以上に拡大した。 なお、 最
近のEU向けの鶏肉調製品の輸出は、 胸肉を原料とした蒸し物を中心に輸出が増加
している。 

表−4 鶏肉調製品国別輸出数量の推移

 注)資料:タイブロイラー加工輸出協会


拡大する国内消費


 タイにおける鶏肉の国内消費は、 経済の高度成長に伴う収入の増大を背景とし
て、 外資系のコンビニエンスストア、 スーパーマーケット及びファストフード店
の増加により、 確実に増加している。 特に、 外食産業で販売されている鶏肉加工
品、 フライドチキン及びチキンナゲットなどの鶏肉調製品の消費が大幅に増加し
ていると見られている。 

 タイで鶏肉調製品をメニューに取り扱っている主なファストフード店は、 ケン
タッキーフライドチキン、 マクドナルド、 ピザハット、 ドミノピザ、A&W、 チェス
ターズグリル (CPの直営店) などの企業があるが、 最近、 バンコック市内にその
店舗が急増し、 鶏肉調製品の消費拡大に貢献している。 タイで代表されるファス
トフードチェーンにおけるフライドチキン及びチキンナゲットの価格 (97年9
月末日現在) は、 表−5のとおりであるが、 その価格は一般的なタイの他の食品
及び屋台などのメニュー価格と比較して、 決して安くはないが、 若者の嗜好に沿
った商品の開発・提供により、 又、 最近の若者の流行、 フッション性なども相ま
って、 これらの鶏肉調製品の消費が大きく伸びている。 

表−5 ファストフードにおけるチキン製品の価格

 注:1 単位:バーツ。1バーツ=約3.1円(10月末日)
   2 価格は、97年9月末日現在のもの

 一方、 当業界最大手のCP社は、 ここ数年に亘って積極的な国内販売戦略を打ち
出し、 系列小売店を通じた広域流通を確立させることを目指しており、 鶏肉をこ
の戦略の重要な商品の一つとしている。 また、 同社は、 オランダを拠点とするマ
クログループと共同でバンコク及び主要な都市において、 ディスカウント・スー
パーマーケットを開店し、 更に、  「セブン・イレブン」 のフランチャイズ権を単
独で取得するなど、 小売事業にも積極的に参入している。 このように、 これまで
冷凍鶏肉の輸出を主力としていた鶏肉輸出業者は、 価格競争の厳しい海外市場よ
り、 安定した卸売価格で販売でき、 比較的リスクの低い国内市場にこれまで以上
の関心を寄せている。 

 また、 チェンマイ、 パタヤなどの地方都市においても、 生ものから半調理品、 
加工品、 弁当及び総菜など幅広い食品を豊富に品揃えしたスーパーマーケットが
増加している。 主婦らは、 食肉、 内臓など生ものをウエットマーケットのみなら
ず、 スーパーマーケットにおいて好んで購入するようになり、 タイ消費者の食品
購買形態が大きく変化している。 それに伴って、 購入される食品は、 調理・加工
品などの増加といった変化が現れてきている。 特に、 鶏肉加工業者によると、 鶏
肉調製品のうち、 廃鶏などを主原料とした安価なチキンソーセージ類などが、 若
者に受け入れられ、 特に大きな伸びとなっているという。 

 その他の鶏肉消費の拡大の要因としては、 鶏肉が他の食肉よりも安価であった
こと及び以前に発生した豚コレラ、 炭疸などの様々な家畜の病気の影響などによ
り、 消費者は、 牛肉、 豚肉を敬遠し、 鶏肉にシフトしたものと見られている。 

 しかしながら、 通貨バーツ下落の影響により輸入資材の価格が上昇し、 コスト
高となっているが、 政府によるインフレ抑制の厳しい監視体制のため、 輸入資材
の価格上昇に見合うコストを販売価格に転嫁できず採算割れの状況となり、 経営
を圧迫している企業が多くなっている。 また、 来年から適用される1日当たりの
最低賃金は162バーツに決定され、今年に比べ金額で5バーツ、伸び率で3.2
%と低いものとなっている。 これらの影響で、 これまで順調に拡大してきた鶏肉
の消費は、 今後厳しい状況を迎えることが懸念されている。 

◇図:鶏肉生産量、輸出量及び価格の推移◇


新規市場の開拓


 タイの鶏肉輸出業者は新規市場の開拓を図るため、 国際標準化機構のIS O90
00の認証資格を取得し、 衛生的で高品質な鶏肉製品の生産に努力している。 

 サン・バレー、 バンコック・プロデュース、 チョッテイワット・インダストリ
アル・プロダクションの3社は、 いち早く同資格を取得し、 97年1月1日から
EU全域に鶏肉調製品缶詰の輸出が可能となった。 また、 8月には、 CPインターフ
ード、 バンコックプロデュース・マーチャンダイジング、 サンバレー、 セレボス
及びベター・フーズ・インターナショナル社が、 カナダへの輸出許可を取得し、 
これらの企業からカナダに初めて輸出される運びとなっている。 

 直近の情報によると、 タイ・マクドナルド社は、 自国の鶏肉業界の発展、 雇用
の促進などのため、 諸外国の関連企業に対し、 タイ産鶏肉調製品の輸入拡大を求
めている。 これにより同社への供給業者であるマッキー・フード・サービス (Mc
Key Food Services Co,) 社は、 97年9月に香港のファストフードチェーンへ
15百万バーツ相当のフライドチキンを輸出した。 更に、 シンガポール・マクド
ナルドは、 これまで使用していた米国産の鶏肉調製品を、 同年第4四半期から同
社製品に切り換えるとしており、 この取引額は97年は80百万バーツであるが、 
98年は3. 6億バーツを上回ると見込んでいる。 

 一方、 タイは、 豪州に対しても鶏肉調製品の輸出許可を以前から求めているが、 
未だに、 豪州からその許可を受けていないため、 自国の鶏肉産業を保護するため
の非関税障壁であるとして、 豪州の牛肉、 乳製品の輸入を見合わせるといった対
抗措置へと発展している。 


タイで生産される主な鶏肉調製品


 タイが輸出している鶏肉調製品は、 大きく分けて、 揚げ物、 焼き物、 蒸し物、 
ローストの4つのタイプに区分される。 

 揚げ物としては、 唐揚げ、 フライドチキン、 たった揚げ、 ミートボールなどが
主な製品である。 唐揚げは、 主原料の約9割がもも肉を使用し、 約1割が胸肉と
なっている。 殆どが日本向けである。 フライドチキンは、 揚げた鶏肉を冷凍処理
したものが多く、 主にファストフード向けとなっている。 

 焼き物としては、 炭焼き焼き鳥、 ステーキなどで、 焼き鳥の種類は、 つくね、 
もも、 ネギマ、 軟骨、 砂肝、 レバー、 皮などがあり、 鳥、 豚の内臓も含まれてい
る。 ステーキとしては、 胸、 ももステーキなどがある。 これまでステーキを製造
するには、 相当の設備投資を要するため、 特に、 CPなどタイの独擅場であったが、 
CPがタイと同種の施設を中国に設置し製造を開始しているため、 現在は状況が変
わってきている。 

 蒸し物としては、 蒸し鳥、 ロールキャベツなどがある。 胸肉を蒸した蒸し鳥は、 
主にオランダ、 ドイツなどのヨーロッパ向けに輸出されている。 ローストは、 ロ
ーストチキンなどで、 丸鳥、 もも、 胸肉などがある。 
【CPグループであるバンコックプロデュースマーチャンダイズパブリック社の
サラブリ鶏肉加工工場】
【スラポンニチレインフーズ社のスラポン加工工場】


競争相手国中国の鶏肉調製品生産動向


 これまで揚げ物の輸出についてはタイの独壇場であったが、 最近、 CP、 日系の
合弁企業などが中国において近代的な施設を設置し揚げ物などの製造を始め、 中
国産の対日輸出が増加している。 また、 その製品の品質は、 日本の技術指導及び
タイ企業のノウハウ等を導入して生産されていることから、 タイ製品と比較して
遜色のないものとなっている。 

 焼き物については、 簡単な設備投資により製造できるため、 人件費、 副原料費
が安価な中国が有利となっている。 また、 日本における居酒屋などの焼き鳥など
の串差しに対する要求は、 鶏肉ももだけではなく、 鶏の内臓、 野菜などを含む様
々な種類の串差しが要求される。 しかし、 タイ国内の内臓の価格は、 肉の価格と
同程度以上であり、 日本からのオファーでは採算が合わないため、 鶏肉を原料と
した焼き鳥以外の串差しの品揃えが難しくなっており、 中国が断然優位に立って
いる。 このため、 現在では、 日本が輸入する焼き鳥などの串差しの大半は中国産
が占め、 タイの輸出は減少している。 

 また、 ロールキャベツは、 中国におけるロールキャベツの製造コストが、 タイ
の半額程度であるため、 中国製品が価格的に優位となっている。 

 このように、 中国産鶏肉調製品の我が国への輸出は、 目覚ましいものがある。 
91年度に約1千トンであった輸出数量が、 5年後の96年度には、 25.3千
トンと実に25倍にも拡大した。 更に、 97年度では、 競争相手国であるタイの
輸出数量とほぼ同程度にまで拡大してきている。 

 タイはかなり以前に設備投資したことによる償却コストが進んでおり、 一時的
にはコスト面で有利と見られるが、 将来的には、 中国がタイより安価な人件費等
を生かした低コストにより、 タイより優位になってくると考えられる。 当面は、 
タイ、 中国とも鶏肉調製品の輸出はかなり高い伸びで推移するものと予測されて
いる。 

 しかし、 先頃、 中国税務当局が歳入不足の解消を図るため、 輸出税に相当する
輸出増値税 (輸出額の8%を徴収。 ) の徴収方針を固めたとの報道があった。 こ
れは輸出価格の高騰を招き、 中国の輸出競争力を低下させることとなる。 今後は
中国政府の様々な政策が、 中国鶏肉の輸出の増減に大きく影響すると見られる。 
また、 製造に当たって、 日本人の味覚にあった鶏肉調製品を製造するためには、 
小麦粉、 パン粉、 調味料などの副原料の安定した仕入先の確保も大きな課題とな
る。 幸い、 タイにおいては、 日系の製粉、 製パン企業などが進出しており、 比較
的容易に要求する副原料が入手できている。 

 更に、 今後、 中国国民の所得の向上により、 畜産物需要が拡大することとなっ
た場合には、 まず安価な鶏肉が消費され、 12億国民への供給に不足が生じるも
のと見られる。 更に、 2020年には中国の人口が16億人に膨れ上がるとの予
測もあり、 近い将来、 逆に輸入しなければならない事態に陥ることも十分に予想
される。 

表−6 鶏肉調製品国別輸入数量の推移

 資料:大蔵省「貿易統計」


おわりに


 タイは、 通貨タイバーツの下落による経済の建て直しのため、 国際通貨基金(I
MF) などから協調融資を受け入れた。 その融資には、 インフレの抑制、 付加価値
税 (VAT) 10%への引き上げ、 国内総生産 (GDP) の1%財政黒字計上、 政府の
支出の大幅な削減などといった厳しい条件が付された。 このため、 政府は、 様々
な支援・助成等の減少、 物価の監視、 賃金の抑制などといった対策を講じるため、 
タイの経済はかなり減速し、 国民所得の伸びも鈍化するものと見込まれる。 

 最近のタイの鶏肉加工業者は、 冷凍鶏肉の輸出拡大を図るため、 リスクを負っ
てまで中国、 米国などの国と輸出競争するよりも、 安定した卸売価格で順調に拡
大してきた国内消費に目を向けた方が経営上有利とのことから、 輸出向けから国
内向けにウエイトを徐々にシフトしてきたところであった。 

 バーツ安に伴う国内の物価は、 今のところ政府による物価の監視、 在庫品のタ
イムラグなどにより、一部の価格を除き、 VAT引き上げによる僅かな値上がりにと
どまっている。 しかしながら、 今後は、 鶏肉を含む多くの製品の価格を引き上げ
ざるを得ない状況が想定される。 このため、 鶏肉輸出業者は、 これまでのような
国内消費の拡大が今後見込めないとの判断から、 再び、 輸出向けに重点を置き始
めている。 

 輸出については、 日本向けの冷凍鶏肉が減少傾向を続けるものの、 EUによる中
国産鶏肉の輸入禁止がタイに有利に働いて、 昨年からEU向けの冷凍鶏肉の輸出が
拡大してきている。 なお、 EUの中国産鶏肉の禁止措置は、 98年後半まで続くと
見られており、 それまでの間、 タイのEU向け冷凍鶏肉には大きな競争相手もなく、 
継続して拡大すると見込まれている。 しかし、 鶏肉調製品の輸出は、 日本向けが
今後とも引き続き需要が拡大傾向であり、 EU向けについても、 数量は少ないが順
調に増加傾向で推移しているため、 今後、 更に増加していくものと見込まれる。 
また、 最近の東南アジアにおいては、 通貨タイバーツの下落により、 タイの鶏肉
調製品の輸出競争力が増してきており、 第3の鶏肉調製品市場として絶好の輸出
拡大の好機となっている。 この一時的な輸出競争力の増加のチャンスを的確に捉
え、 成功に結びつけることができれば、 タイの鶏肉調製品の輸出は大きく拡大す
るものとみられる。


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