特別レポート 

南米主要国の肉牛/牛肉事情

企画情報部 調査役 野村俊夫 総務部 調査役 粂川俊一



 10月中旬から下旬にかけて、 南米4カ国 (ブラジル、 パラグアイ、 アルゼン
チン、 ウルグアイ) を訪問し、 そのうち、 アルゼンチン、 パラグアイの肉牛生産
の状況を視察する機会を得たので、 その概要を報告したい。 また、 ブラジル、 ウ
ルグアイについては、 生産施設等の視察は行わなかったが、 現地での情報および
資料をもとに概況を取りまとめた。 


1. はじめに


 南米諸国は、 過去十数年間、 極めて特殊な経済状況に置かれていた。 例えば、 
ブラジルは、 80年代から90年代の初頭にかけて、 過度の経済保護政策と生産
の非効率化に起因する財政赤字の拡大により巨額の対外債務を背負い、 極度のイ
ンフレが発生するなど、 未曾有の経済混乱に見舞われた。 この経済混乱は、 他の
南米諸国にも影響を及ぼし、 産業への投資が全般に滞り、 社会資本の整備が大幅
に遅れたほか、 農業の面でも生産の伸び悩みを余儀なくされた。 

 90年代に入ってからは、 各国が経済政策を刷新したことなどにより、 状況は
全般に安定に向っている。 このため、 農業への投資も、 過去数年、 増加する傾向
にある。 しかし、 南米各国は、 植民地時代からの大土地所有制度を色濃く残して
おり、 富裕な大土地所有者はリスクを伴う投資を嫌う傾向にあるため、 生産合理
化がなかなか進まない側面を有している。 

 なお、 アルゼンチン、 ブラジル、 パラグアイ、 ウルグアイの4カ国は、 95年
1月、 南米共同市場 (メルコスール) を発足させた。 これにより、 域内の関税は、 
段階的に撤廃されることとなった。 さらに、 チリ、 ボリビア等も加盟交渉を行な
っており、 南米域内のこうした経済自由化の動きは、 域外への農産物輸出拡大の
可能性とあいまって、 大いに注目されるところとなっている。 


2. アルゼンチン


 (1) 肥沃な土壌の農業大国

 アルゼンチンは南米第2の国土面積 (日本の約7.5倍) を有し、 中央部には
パンパと呼ばれる肥沃な平原を擁している。 このため、 かつてはヨーロッパの穀
倉として位置付けられ、 農畜産物の輸出で大いに繁栄した。 

 同国は、 国土が南北に広がっているため、 その気象条件も、 北部の亜熱帯性高
温多湿地域、 乾燥気候のサバンナ地域、 南部は寒帯性気候の氷河に覆われた地域
まで、 実に多様である。 

 ラプラタ川に面した首都ブエノスアイレスから西に広がる内陸地域はパンパと
呼ばれ、 比較的温暖な気候と年間を通じた適度の降雨に恵まれた一大農業地帯と
なっている。 パンパの面積は国土の約20%を占め、 同国の穀物生産の約8割が
この地域に集中しているほか、 良質の牧草を利用して肉牛生産の中心地ともなっ
ている。 

 同国の人口は、 約3,300万人と南米で2番目に多い。 その殆どがスペイン、 
イタリア等からの移民の子孫であり、 ヨーロッパ系住民が9割以上を占めている。 
また、 大都市の街並みを見た限りでは、 ヨーロッパの都市にいると錯覚するほど、 
西欧的な特徴が色濃く現れている。 

 同国も、 他の南米諸国と同様、 80年代には経済が混乱し、 最悪となった89
年には、 年率5000%ものインフレとなって正常な経済活動が困難な状況とな
った。 しかし、 91年に固定為替制度 (兌換法) を導入し、 経済の立て直しを図
った結果、 インフレ率は一桁に低下し、 経済状況が大幅に改善された。 これに伴
って農業を含む産業への投資も増加しており、 今後は一層の経済発展が期待され
るところとなっている。 
【良質な牧草地に放牧される肉牛】

(2) ヨーロッパ種中心に5, 700万頭飼養

 アルゼンチンでは、 約5,700万頭の牛が飼養されている。 これは、 国民1
人当たり約1.7頭の割合である。 同国の肉牛生産をパラグアイ、 ブラジル等と
比較した場合、 基本的な違いとして言えることは、 牛の品種がヨーロッパ種中心 
(パラグアイ、 ブラジル等は熱帯種) であることと、平均出荷月齢が若いことであ
る。 

 もちろん、 同国内でも、 自然条件が厳しいために、 熱帯種牛の粗放的な放牧し
か行えない地域もある。 しかし、 少なくとも、 今回視察した範囲では、 すべてア
ンガス、 ヘレフォードなどのヨーロッパ種、 またはそれらの交雑種の牛が飼養さ
れていた。 

 また、 肥沃な土壌で草地管理を行なっているため、 牧草の栄養価が高く、 牛の
増体が良い。 さらに、 オーツ麦などを冬季の牧草不足時に補助飼料として給与し、 
牛の増体を維持するよう工夫している経営も多く、 1日当たり平均0.5kgの増
体が確保されていた。 

 従って、 肉牛の出荷月齢も若く、 パラグアイやブラジルでは出荷までに4〜5
年を要するのに対し、 2年前後で400kg以上に仕上げて出荷されている。
【補助飼料としてオーツ麦などを給与】

 (3) 若齢出荷で肉質は良好

 このことは、 肉質の面で歴然とした違いとなって現れている。 パラグアイ等の
牛肉に比べ、 アルゼンチンの牛肉はかなり柔らかく、 かつ、 肉汁に富んだもので
あった。 ちなみに、 今回の訪問先で、 現地の人に、 南米の中でどの国の牛肉が一
番旨いかとの質問を発したところ、 異口同音にアルゼンチンとの回答を得た。 
 なお、 今回視察した中には、 仕上げ用の穀物肥育を行なっている経営はなかっ
た。 しかし、 国内の穀物生産が潤沢であることから、 今後、 輸出を意識した場合
には、 こうした生産が現実化する可能性も否定はできない。 

 一方、 価格面では、 生体重1kg当たり約1米ドルとのことであった。 生体重4
00kgに仕上げて販売すれば、 1頭約48千円となる。 平均枝肉重量は約210
kgであるから、 肉牛農家からの生体販売時における、 加工費用抜きの枝肉価格を
概算すると、 約230円/kg程度となる。 品質の面をどのように評価するかにも
よるが、 これは、 国際的にも充分通用する価格水準と言えるのではないだろうか。 

 (4) 年間約50万トンの牛肉を輸出

 アルゼンチンでは、 年間約255万トンの牛肉が生産されている。 そして、 こ
のうち、 約50万トンがEU、 南米諸国および米国に輸出されている。 

 ただし、 同国では、 1930年代以来、 口蹄疫の発生が見られていたため、 加
工肉 (煮沸肉など) を除く牛肉の輸出は大幅に制限されていた。 しかし、 同国は、 
ここ数年、 口蹄疫の発生を抑止できたことから、 国際獣疫事務局(OIE) によって、 
本年5月、 ワクチン接種清浄国として認定された。 これに伴い、 米国は、 本年度、 
同国産牛肉に対して2万トンの関税割当枠を設定し、 実際にその輸入を開始した。 
このため、 今回、 現地の肉牛関係者は、 約60年ぶりに待望の対米牛肉輸出が再
開されたとして、 今後への期待を大いに高めていた。 

 (5) 大豆、 トウモロコシとの複合経営

 今回は、 ブエノスアイレスから約700km北西に位置するコルドバおよびその
約200km南にあるリオ・クアルトを中心に、 いくつかの牧場を視察した。 そこ
で最初に受けた印象は、 土壌が非常に肥沃であるということであった。 パラグア
イなどの熱帯性の赤色土壌に対し、 この周辺の土壌は、 色も黒く、 かつ、 弾力性
に富んでいる。 これは、 広大な畑と牧草地が続いていたこともあって、 我が国北
海道の十勝平野を想わせるものであった。 

 この周辺の農場は、 平均300〜500haの耕地面積を有し、 大豆、 トウモロ
コシ、 ソルガムなどの耕作と、 牧草による肉牛生産を複合して経営している。 基
本的な農地の利用方法は、 2年間牧草地にして牛を放牧し、 2年間は作物の耕作
を行い、 次の1年間は休耕するという5年サイクルとのことであった。 

 経営的に見た場合には、 肉牛専業よりも作物との複合を行なった方が収入が多
く、 肉牛専業のみの場合、 1ha当たり150〜180ドルの収益にとどまるのに
対し、 作物との複合経営の場合には同200〜250ドルの収益を得られるとの
ことであった。 

 なお、 収益の多い作物耕作を専業とせずに、 肉牛生産を組み合わせることのメ
リットとしては、 農地の地力を保存できることのほか、 作物の作柄や価格の変動
に対するリスクを分散できること、 また、 作物の残さ (刈り取り後のトウモロコ
シの茎など) を肉牛生産に利用できることなどを挙げていた。 実際、 トウモロコ
シ等の収穫後の耕地には多数の牛が放牧されており、 効率的な経営ぶりがうかが
えた。 

【訪問した農家。母親と息子(後継者)】


3. パラグアイ


 (1) 亜熱帯性気候と赤色土壌

 パラグアイは、 ブラジル、 アルゼンチンおよびボリビアに囲まれた内陸国であ
る。 国土面積は約40万平方キロ (日本の約1.1倍) であるが、 国民人口は約
470万人と極めて少ない。 

 国民の大部分は、 先住民 (グアラニー族など) とスペイン人との混血である。 
人口の9割以上は国土の東半分、 それも首都アスンシオンを含む主要3都市周辺
に集中している。 

 同国は、 ブラジルの南東部 (サンパウロ等のある主要地域) とほぼ等しい緯度
に位置しており、 気候は基本的に亜熱帯性であるが、 内陸であるため気温の変化
が激しい。 夏季は猛暑となり、 冬季は霜が降りることもある。 

 同国の中央には、 ラプラタ川の上流に当たるパラグアイ川が国土を東西にほぼ
2分する形で流れている。 同川の東西では気候風土がかなり異なっており、 東側
は緩やかな丘陵地帯で熱帯性の森林などが多くなっているが、 西側は平坦な乾燥
地域で主に広大な草原地帯 (野草地) となっている。 

 農業は、 パラグアイ川とその支流の両岸50〜60kmの幅に広がる比較的肥沃
な土壌の地域で専ら行われており、 大豆、 トウモロコシ、 綿花等が生産されてい
る。 ただし、 その土壌は熱帯特有の赤色であり、 水はけが極端に悪く、 雨が降る
とどうしようもなくぬかるむうえ、 乾燥すると途端に堅まってしまう。 この熱帯
性の赤土土壌は、 農業生産の面で、 大きなハンディとなっている。 

 ちなみに、 今回視察したのは同国東側の主要な農業生産地域であったが、 同国
北西部のチャコ地方と呼ばれる広大な乾燥地帯はさらに厳しい自然条件下にあり、 
極めて粗放的な牧畜生産を行なう以外、 農業生産には不適とのことであった。 
【赤土土壌の草地に放牧される肉牛】

 (2) 熱帯系在来種を約800万頭飼養

 パラグアイでは、 ネローレと呼ばれる熱帯系の在来種 (こぶ牛) を中心に、 約
800万頭の牛が飼養されている (国民1人当たり約1. 7頭の割合) 。 また、 
同国は、 これらの肉牛から、 年間約22万トンの牛肉を生産している。 生産され
た牛肉は主に国内で消費されているが、 全体の1割程度が周辺諸国に輸出されて
いる。 

 ネローレは、 体色、 体型ともにブラーマンに良く似た牛であるが、 ブラーマン
より耳が小さく、 垂れ下がっていない。 また、 四肢はブラーマンより長めで、 身
のこなしが軽く、 熱帯の背丈の高い草地における飼養に適しているとのことであ
った。 

 同国では2ヵ所の牧場を視察したが、 いずれもネローレまたはブラーマンの熱
帯種に、 産肉能力を向上させるべくヨーロッパ種のアンガスまたはリムジン等を
かけ合わせて飼養していた。 しかし、 ヨーロッパ種は高温多湿の気象条件や害虫
に弱いので、 熱帯種の遺伝形質を、 最低でも25%は確保しなければならないと
のことであった。 

 ちなみに、 同国を訪問したのは日本で言えば4月後半に当たる時期であったが、 
日中の気温は35〜36度に達し、 かなりムシ暑かった。 同国の農業地帯は、 一
般に湿度が高く、 降雨量も多い。 このため、 牧草地を造成しても管理を怠ると短
期間で熱帯性の植物が生い茂り、 ブッシュから森林へと化する。 このような条件
下で肉牛を飼養するには、 どうしても熱帯種の遺伝形質の確保が必要と思われた。 
【熱帯種(ゼブー系)の種雄牛】

 (3) 日本人経営の牧場を視察

 なお、 同国で視察した牧場は、 20年以上前に、 日本企業が投資して開拓した
牧場であり、 現在も日本人の従業員によって運営されていた。 かつて、 同国が経
済混乱と政治不安に陥った時は、 周辺の小作農民に農地を不法占拠されるなどの
苦労も味わったそうであるが、 現在は、 農場面積4,700ha、 肉牛飼養頭数は
4, 500頭という堂々たる経営規模になっている。 

 ちなみに、 同牧場では、 専門の農業コンサルタントに相談するなどして、 草地
改良と管理をかなり入念に行なっている。 このため、 一般の農場に比べて肉牛の
飼養効率はかなり良く、 1ha当たり約1頭の割合で放牧し、 約2年半で生体重4
00kgまで仕上げている。 しかし、 管理の良くない改良草地や自然草地に放牧す
る場合には、 放牧密度はこれよりかなり低下し、 かつ、 飼養期間も長期化してい
るとのことであった。 

 (4) 肉牛販売価格は約4〜5万円/頭

 肉牛は、 生体重が平均300〜500kg、 枝肉重量は200〜230kg程度で
出荷されている。 その販売価格 (邦貨換算) は、 生体重1kg当たり約1米ドルで
あるため、 1頭当たり約4〜5万円になるとのことであった。 

 このように肉牛の販売価格が低く、 飼養期間が長いことから、 同国の肉牛経営
はかなりの規模でないと専業として成り立たない。 肉牛専業経営を行なうには、 
一般に、 最低300頭以上の牛と、 500ha以上の草地が必要と言われていた。 

 また、 同国の肉牛経営は、 我が国と異なり、 肉質よりも増体の良さが鍵となる。 
しかし、 一般に飼養されている牛は在来種を基にした雑種であるため、 同条件の
下で飼養しても、 増体にかなりのばらつきが生じる。 今回、 訪問した牧場では、 
かつては周辺の農家から素牛を購入して肥育経営のみを行なっていたが、 あまり
にも牛の個体差が大きいため、 8年ほど前からは、 一貫経営に切り替えたとのこ
とであった。 

 (5) 食生活は牛肉中心

 同国でアサードと呼ばれる牛肉料理を食する機会を得た。 岩塩や香辛料をまぶ
した牛肉の塊を炭火または薪で焼く。 牧場にはアサード専用のレンガ作りの大き
なかまどがあり、 底に火のついた炭を置き、 燃えにくい材質の木材で串刺しにし
て焼き上げる。 焼き上がった牛肉は、 大変に香りが良く、 食欲もそそられる。 し
かし、 日頃から柔らかい牛肉に慣らされた我々にとっては、 いかんせん肉質が堅
く、 量も多かった。 

 ちなみに、 パラグアイの国民1人当たり年間牛肉消費量は、 60kgを超えてい
る。 牛肉とともにキャッサバ芋なども食べるが、 基本的には牛肉が主体の食生活
である。 首都アスンシオンのスーパーで牛肉の小売価格を調査したところ、 ヒレ
肉が約900円/kgと高かったが、 その他は総じて300〜500円/kgの範囲
で販売されていた。 
【アサード料理】


4. ブラジル


(1) 多様な自然と農業生産

 ブラジルは、 南米全体の約半分の面積 (日本の約23倍) を占め、 人口も1億
6千万人と南米で一番多い。 また、 同国民は世界中からの移住者によって構成さ
れているため、 文化や肌の色も含めて極めて多様な人々が混在している。 

 同国は、 アマゾン川流域の広大な熱帯雨林を有することで有名であり、 その気
候も全般に高温多湿であると思われがちであるが、 実は、 アマゾン川流域 (北西
部) を除く地域、 特に、 北東部から中西部にかけては、 セラードと呼ばれる広大
な乾燥気候地域 (サバンナ) となっている。 

 こうした乾燥気候地域では、 従来、 自然草地を利用した粗放的な牧畜生産のみ
が行われていたが、 近年は、 灌漑技術の導入により、 大豆やトウモロコシの主要
な生産地帯として発展しつつある。 

 一方、 同国南部は、 温帯性の耕地農業に適した地域となっており、 人口が集中
しているという利点もあって、 各種の穀物生産のほか、 酪農生産なども発展して
いる。 

 さらに、 熱帯雨林地域の集約的農業生産、 コーヒー豆等商品作物の大規模生産
など、 ブラジルの農業は、 その人種構成と同様に極めて多様である。 
【ブラジルとパラグアイの国境の町。豊富な農産物等が取引きされている】

 (2) 肉牛飼養頭数は1億5千万頭

 ブラジルでは、 約1億5千万頭の牛が飼養されており、 南米で最も多い (国民
1人当たり約1頭の割合) 。 飼養されている牛の種類は、 クリオーリョまたはネ
ローレと呼ばれる熱帯系の在来種 (こぶ牛) が80%以上を占めている (残りは、 
主に南部地域で飼養されているヨーロッパ系品種) 。 

 肉牛の飼養形態は、 基本的に自然草地をそのまま利用した放牧飼養である。 こ
れらの自然草地では、 牧養力は非常に低く、 平均するとほぼ5haに1頭の割合で
しか飼養できない。 また、 乾季には牧草が不足して体重が一時的に減少してしま
うため、 出荷体重 (生体300〜400kg、 枝肉重量200〜230kg) に達す
るまで4〜5年の期間を要する。 自然条件に即した生産方法ではあるが、 一方で
は単位面積当たりの経営効率が低く、 また、 生産される牛肉の肉質が極めて硬く
なることも避けられない。 

 同国の牛肉生産量は、 93年には約490万トンに達したとされており、 年々
増加しているものの、 ブロイラー等に比べるとその伸び率は低い。 これは、 熱帯
雨林の保護や砂漠化の防止策で放牧地としての利用がほぼ限界まで達し、 肉牛生
産の発展が一段落したためとされている。 従って、 今後は、 これまでのような生
産増加は望めない可能性が高いと言われている。 

 (3) 穀類、 豆類が比較的多い食生活

 同国では、 シェラスコと呼ばれる牛肉料理を食した。 岩塩をたっぷりまぶした
牛肉の塊を串刺しにし、 大型の暖炉のような設備で薪を燃やしながら焼き上げる。 
内臓を含めたいろいろな部位が焼かれており、 それぞれ価格も異なるが、 ブラジ
ルでは牛の背中のこぶの部分が最も好まれ、 かつ、 価格も高いとのことであった。 
 
 焼きあがった牛肉塊は、 串刺しのままでテーブルに運ばれる。 この時、 食べる
人は、 切り取る部分や、 その分量を指示し、 自らもナイフとフォークを使って、 
その切り取り作業を手伝う (従って、 上手く指示できないと、 巨大な牛肉の塊を
前にして脂汗を流すこととなる) 。 

 この料理から想像できるとおり、 ブラジルの牛肉消費量は多い。 1人平均では
年間約30kgで、 我が国の3〜4倍に達している。 しかし、 今回訪問した他の南
米諸国 (いずれも1人年間60kg以上を消費) と比べるとかなり少ない。 これは、 
他の諸国と比べてブロイラーなど牛肉以外の食肉の消費量が多く、 また、 キャッ
サバ、 トウモロコシ、 フュージョン豆などの穀類、 豆類の消費も多いため、 食生
活が牛肉にそれほど偏っていないことが影響していると思われる。 


5. ウルグアイ


 (1) 国土の8割を放牧利用

 ウルグアイは、 国土面積17.6万平方km (日本の約半分) で、 ブラジルとア
ルゼンチンの間の南緯30〜35度 (日本の丁度反対側) に位置する国である。 
アルゼンチンとブラジルに挟まれて、 国全体がなだらかな丘陵地帯となっており、 
標高が最も高い地点でも海抜500m余りである。 

 人口は約315万人と極めて少なく、 多くはスペイン、 イタリア系の移住者な
いしはその子孫である。 このため、 殆どの住民はヨーロッパ系住民であり、 この
点、 アルゼンチンと良く似ている。 

 ウルグアイは、 国全体がなだらかな丘陵地帯となっているうえ、 大河 (ラプラ
タ川) によって運ばれてきた肥沃な土壌であり、 夏場の平均気温は23度程度、 
冬場でも10度を下回ることは少ない温暖な気候で、 かつ、 年間1,000mm程
度の適度な雨量がある。 このため、 国土の実に8割 (約15万平方km) が家畜飼
養のための放牧地として利用されており、 まさに、 畜産を中心産業とする牧畜国
家である。 ただし、 草地改良を行なった場合にはコストが見合わないため、 放牧
地の大部分は自然草地のままで利用されている。 

 (2) ヨーロッパ種中心に1千万頭飼養

 同国の牛飼養頭数は、 96年現在、 約1千万頭である (国民1人当たり約3頭
の割合) 。 89年には深刻な干ばつに見舞われ、 飼養頭数が大幅に減少したが、 
近年、 ようやく回復した。 また、 96年の牛と畜頭数は、 約184万頭であり、 
約40万トンの牛肉が生産された。 1頭当たり枝肉重量は、 単純平均で、 約22
0kgとなる。 生産された牛肉の約半分の20万トンは、 EUや、 中東、 ブラジル、 
米国等に輸出され、 残りは国内で消費されている。 従って、 国民1人当たりの牛
肉消費量は、 世界でもトップレベルであり、 年間約64kgに達している。 

 飼養されている肉牛は、 アルゼンチンと同様にヨーロッパ種のものが多く、 肉
牛の生産サイクル等もアルゼンチンに近い。 従って、 肉牛が比較的若齢で出荷さ
れるため、 牛肉の肉質も、 南米の中では、 かなり柔らかい部類のものであった。 

 同国には、 約5万戸の肉牛飼養農家があり、 平均農地面積は300ha強、 肉牛
の平均飼養頭数は、 約200頭である。 肉牛の平均販売価格は、 アルゼンチンよ
りも若干低く、 去勢牛で、 0. 7〜0. 8米ドル/生体kgとのことであった。 
従って、 仮に、 生体重500kg、 枝肉重量350kgの大型牛に仕上げて販売して
も、 1頭当たり34千円程度にしかならず、 経営としては、 かなり苦しいとのこ
とであった。 

 また、 同国は、 南米では第一の羊生産国でもあり、 牛の2倍に当たる2千万頭
の羊が飼養され、 約8万トンの羊毛が生産されているほか、 約55千トンの羊肉
も生産されている。 

 (3) 衛生的な輸出向け食肉加工工場

 同国では、 全部で26ヵ所ある輸出向け認定と畜場のひとつを視察した。 同と
畜場は、 1日当たり牛900頭、 羊3, 000頭を処理できるとのことであり、 
と畜から、 解体、 パッキング作業まで含めて、 全体で480人の従業員が働いて
いる。 また、 衛生条件の厳しいEUに輸出していることもあって、 全体的に、 衛生
面での設備は充分に行き届いている印象であった。 

 同と畜場で処理される肉牛は、 平均生体重480〜520kgで、 と畜時の平均
月齢は約3年であった。 ちなみに、 10年程前までは、 4〜5才齢の牛が多かっ
たが、 肉牛生産者の収益性の問題から、 近年は若齢で出荷される傾向にあるとの
ことであった。 
【衛生管理の良いと畜処理場】

 (4) 肉牛の季節生産が弱点

 同国の牧畜生産は、 自然草地への放牧を主体とした粗放的な牧畜生産であるた
め、 と畜頭数の季節変動が著しい。 このことは、 と畜場を経営する上で問題とな
るほか、 牛肉の輸出を拡大する場合にも、 大きな弱点になる可能性がある。 

 ちなみに、 同国は、 南米の中で、 チリとともに、 ワクチン不使用口蹄疫清浄国
の認定を受けており、 対米牛肉輸出を既に行なっているほか、 本年10月からは、 
対日輸出も可能な状況となった。 アルゼンチンに比べると、 牛肉の生産、 輸出規
模は小さいものの、 今後の動向が注目されるところである。 


6. おわりに


 今回の視察で最も印象が強かったのは、 南米の遠さと、 その広さであった。 

 日本からブラジルに行く場合、 航空機で、 往路は2日間、 帰路は (日付変更も
あって) 足掛け3日間を要する。 日本から米国の西海岸まで到達しても、 未だ、 
その先の方が遠いのである。 地球の裏側と言えばそれまでであるが、 人間の移動
はともかくとして、 物流の面でも、 この距離は現実的に厳しい壁となるのではな
かろうか。 

 また、 南米では、 気候帯が異なる程の距離を、 航空機を乗り継いで移動したが、 
地図の上では、 広い大陸のほんの一部を回ったに過ぎなかった。 この大陸には、 
ブラジルのセラード、 アルゼンチンのパンパ、 さらにはコロンビア平原など、 肉
牛の主産地でありながら、 その現状について我々が知り得ていない部分が非常に
多い。 世界の肉牛生産に大きな位置を占め、 牛肉の国際貿易に影響を及ぼす可能
性が高いこの地域について、 今後、 我が国の肉牛/牛肉関係者も、 大いに注視し
ていく必要があろう。



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