(豚肉関連統合企業としての 「集団公司」 を訪問して)
去る9月の中国共産党大会の大会報告の中で、 農業部門においては、 生産・加 工・販売の結合強化による 「農業の産業化」 (文字どおりは、 農業の 「産業的管 理」 ) を国家の重要政策として提唱した。 これは、 急成長する経済全体の中で、 他産業に比べて零細で分散化した農業とその関連産業の結び付きを強化し、 発展 する市場経済への農業の適合力を高める政策の一環である。 その具体的目標は、 農業生産と農業関連産業 (生産資材産業、 食品加工業、 卸売市場、 流通産業など) との有機的結合を強化することによって、 合理的な生産/流通体制を構築し、 よ り高度な市場戦略を打ち出せるようにすることである。 その結果として期待されることは、 関連部門間での効率的な生産/市場情報の 相互フィードバックを可能にし、 また、 関連企業間の連携緊密化により、 (1)市 場の動向を反映した生産計画を可能にすると共に、 (2)売手と買手を効率的に結 び付けることによって、 生産→消費過程におけるロスを省くことにある。
食肉分野では、 85年の生産の自由化以前から、 公営の 「*肉連廠 (連合型食 肉工場) 」 方式が主たる生産様式となっており、 その意味では、 「部門間の結合」 に既に取り組んできたということができる。 そうした環境下においても、 食肉全 体の7割を占める豚肉が、 経済成長による需要の急拡大に反応して生産過剰とな ったことから市況が低迷し、 95年には公的介入による調整保管が実施された。 その結果、 食肉市場の安定・効率化を推進する案が検討され、 新時代にふさわ しい市場経済対応型の生産・加工・流通様式が模索されてきた。 そうした中、 食 肉分野でこれまで取られてきた政策は、 (1)指定工場(機能が整った優良工場)へ のと畜・加工の集中や、 (2) 近代的な卸売市場を整備し、市場取引を媒介として 生産者と加工・流通業との結び付きを強化すると共に、 情報伝達を効率化すると いうものであった。 (参考) 「*肉連廠」 (肉類連合加工廠) 地方行政府の商工業担当部門が中核となる食肉企業を経営すると共に、 その経 営計画と農家の生産計画を調和させ、 かつ、 生産資材の調達や製品販売において も便宜を図ることで成立する、 連鎖型生産方式 (コンビナート) における食肉工 場を言う。
指定工場へのと畜の集中や近代的な卸売市場の整備といった、 行政主導の取り 組みのほかにも、 「結合強化」 の新しい波としては、 肉畜生産→製品販売までを カバーするインテグレーターの出現がある。 そうした、食肉産業の新しい波を「見 る」 という意味では、 詳細なデータ・質疑応答は得られなかったものの、 去る9 月の世界食肉会議の公式視察先となった集団経営企業の状況を観察することは、 意義深いことと思われる。 この企業の経営方式におけるキーポイントは、 「集団公司(又は単に「…集団」)」 と呼ばれる、 改革・開放により急拡大した比較的新しい企業の経営・組織形態で ある。 集団公司設立の目的は、 一つの産業の各部門を統合することで、 規模のメ リットと環境変化への適応力の強化を追求する点にあり、 その点では、 欧米流の 持ち株会社と類似している。 一方、 その相違点は、 持ち株会社では、 企業家の支配意志が先ず存在して企業 群が形成されるのが一般的であるのに対して、 集団公司は、 それぞれ独立した企 業が、 大型化・効率化を求める市場ニーズへの対応目的でグループを形成し、 そ の中心に合資の又は業務提携の核となる統括企業を置くものである。 また、 持ち 株会社が他業種に亙って構成されることも多いのに対して、 集団公司は一つの産 業に関連する部門の結合 (食肉では肉畜の繁殖から食肉製品の販売まで) が一般 的であるという違いもあるようだ。
(1) インテ企業の中核には公営の既存肉連廠が 北京鯤鵬食品集団公司 (以下で 「鯤鵬公司」 という。 ) は、 食肉産業の近代化 を目指す北京市政府の肝いりで1994年2月に設立された、 極めて新しい総合 食肉企業である。 その意味では、 今日的な市場経済メリット追求型のインテグレ ーターとして、 「新しい波」 をよく体現している企業ということができよう。 鯤鵬公司の中核である食肉処理企業は、 北京市政府商業部傘下の豚肉製造工場 であった順義県 (所在地) 肉連廠である。 なお、 同肉連廠 (同公司の唯一のパッ カー部門) のほかに、 鯤鵬公司を構成又は傘下の業務単位としては、 鯤鵬原種猪 場、 順義県畜禽良種総場、 順義県山子〓畜牧場、 順義県楊鎮畜牧場、 北京霞光飼 料総公司などがある。 <鯤鵬公司の経営データ> (1元=約15円) 固定資産額 300百万元 総生産額 (付加価値生産ベース) 620百万元/年 総売上高 1,000百万元/年 従業員数 3,200人 豚と畜能力 100万頭/年 豚飼養頭数 8万頭 豚出荷頭数 20万頭/年 飼料生産量 5万トン/年 冷凍保管能力 10,000トン 輸送能力 300トン/日 なお、 100万頭のと畜能力に対して、 豚出荷頭数は20万頭 (種豚を含むと 思われる) と能力を大幅に下回っていることから、 現実には大量の肉豚が外部か ら調達されていることになる。 今回の訪問では、 肉豚の調達方法 (契約買付け、 一般市場調達の区別等) については特に説明はなかった (いずれにせよ、 北京市 郊外や隣の河北省では養豚が盛んである) 。
(2) 養豚から輸送までを有する 「完全」 統合 鯤鵬公司は、 肉豚の外部調達が多いものの、 パッカー部門を核として、 養豚、 飼料、 保管・輸送部門を加えた企業構造を持っており、 ある意味で完成度の高い インテグレーターということができる。 また、 製品群が多様なことや輸出も取り 扱うなど、 総合豚肉産業であるということも可能である。 したがって、 今日的な 国家重要政策である、 生・加・販の結合強化による 「農業の産業化」 政策を、 先 取りした事例ということもできよう。 なお、 機能別に整理した業務ユニットとしては、 と畜・加工場1、 養豚農場1 1、 飼料工場2、 食品販購ステーション13を保有している。 また、 他にも、 販 売網として全国に161 (香港を含む) 拠点を有するほか、 外国ではモスクワに も拠点を置いている (この拠点が自社直営か或いは単に提携先なのかは不明) 。 (3) 多様な商品群と良好な営業成績 また、 集団公司の特性の一つである多様性を発揮して、 製品の中心を占める豚 肉や同加工品 (中国式火腿・腸詰、 西洋式ハム・ソーセージなど) 以外にも、 そ の食肉製品・関連商品群は多様なものとなっている。 (1) 豚肉を飼養した冷凍食品 (餃子、 肉まん、 惣菜類) (2) 種豚 (原種、 交配種) (3) 種鶏、 有精卵 (4) 配合飼料、 飼料添加物 (5) 肉類製造過程で得られる精製物質 (油脂、 タンパク、 血粉、 骨粉など) 売上高、 付加価値生産額等以外には経営データが示されなかったが、 鯤鵬公司 は創立2年目の1995年には、 早くも全国10大食品企業に選ばれており、 食 品加工業部門では、 既に中国を代表する優良国有企業の一つとなっている。 なお、 他にも、 食肉産業における同様の集団経営の大型企業としては、 河南省 に本拠を置く双匯集団がある。 同集団の万会長によれば、 双匯集団は、 傘下25 企業を有しまた香港及び外国4個所に貿易会社を有する全国最大の食肉関連企業 とのことである。 また、 その年間と畜能力は、 豚200万頭、 牛30万頭、 また 食肉製品の生産能力は30万トンで、 いずれも鯤鵬公司 (牛は扱っていない) を 大きく上回っている。 (4) 豚肉工場、 養豚場視察における印象記 今回の訪問では、 豚肉工場 (順義県肉連廠) と養豚農場 (鯤鵬原種猪場) を視 察したが、 先ず、 豚肉工場 (生産能力等は既述のとおり) では、 ・と畜は、 電気ショックによるスタンニング方式。 直後の工程での喉切開による 放血。 ・と畜→枝肉ラインは、 近代的な天井レール方式である (湯はぎ工程を除く) 。 ・湯はぎ槽は、 単列の長径構造であり、 湯漬けになっている処理時間 (正確には 測れないが) が長目とみられる。 湯はぎ後は、 水洗浄、 残毛除去が行われる。 ・背割り後の分割は、 ボーニング・ルームのコンベア場で丸鋸盤により胴部、 後 躯に分割される。 カット位置は厳密に制御されておらず、 個体ごとに若干のブ レがみられる。 ・なお、 カットされる前に枝肉は冷却されておらず、 いわゆるホットボーニング である。 ・分割後は、 胴部、 後躯ごとにラインが分かれ部位ごとに整形される。 なお、 ボ ーニングルーム内部・装置器具の衛生状態は良好である。 ・水洗浄の時間が長いことや、 カット前に冷却されないことなどもあって、 枝肉 の水分量 (表面水も含めて) は多目とみられる。
次に、 養豚農場では、 繁殖部門 (肥育豚) の視察が許可されたが、 経営内容や技術的側面データが示 されなかったことから、 詳細に報告することは困難である。 なお、 印象面では、 豚舎概観 (レンガ造り:外気開放型) 、 その内部レイアウトや設備・装置は、 一 般に他の主要国においても見られるものである。 また、 農場内、 豚舎・周辺施設 の衛生・整頓状況は良好である。 なお、 この農場では母豚2,600頭を飼養し ており、 イギリス、 カナダ系の原種豚を年間20,000頭、 またリーンタイプ の肥育豚25, 000頭を出荷しているとのことであった。
中国では、 現在、 他の産業分野においても集団方式による企業経営が脚光を浴 びている。 これらは、 改革・開放に伴う自然発生的なものが多いとみられるが、 市場経済の現状に照らすと、 この経営形態は今日的な意義を持っているというこ とができる。 すなわち、 国土が広大で地域的な発展格差が大きく、 かつ、 巨大で多様な市場 経済を支える基軸となるべき産業資本の集積や、 効率的生産/流通システム・情 報ネットワークの整備が不十分であるため、 それを埋め合わせる企業組織の構築 が不可欠である。 したがって、 一つの産業の各部門が総合的能力を発揮できる仕 組みである集団経営は、 こうした市場環境下では重要な機能を果たすと考えられ る。 すなわち、 集団経営の統一的で視野の広い管理の下で、 各部門間での業務ロ スの減少が見込まれ、 かつ、 生産・加工・販売における規模のメリット追求と市 場情報の的確なフィードバックが可能となる点である。
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