畜産業にも広がる煙による被害 (マレーシア)




● 深刻な煙 (ヘイズ) による影響

 インドネシアのスマトラおよびカリマンタン島での焼き畑などによって発生す
る煙 (ヘイズ) は、 毎年8月から10月頃にかけて、 南西風によって運ばれ、 シ
ンガポール、 マレーシアなどに少なからぬ大気汚染の被害を与える。 今年は、 さ
らに、 エルニーニョによる異常乾燥のため、 森林にも延焼したことにより、 例年
になく大量の煙が発生し、 周辺各国は、 大気汚染の大きな被害にさらされている。 
 シンガポールでは、 大気汚染指数 (PSI) が24時間以上300を超えた場合、 
学校を休校とするといったヘイズ対策要綱が定められている。 また、 マレーシア
においてもPSIを独自に改良した大気汚染指数 (API) が定められ、 監視体制を強
化している。 そうした中、 9月19日には、 サラワク州において、APIが非常事態
宣言の出される水準の600を超えるなど、 シンガポールよりも深刻な状況とな
った。 また、 当のインドネシアでも、 呼吸器疾患のため、 死者が出るなど、 ヘイ
ズは大きな国際問題に発展している。 


● 畜産にも広がるヘイズの被害

 このヘイズは人間ばかりではなく、 農業分野にも大きな被害を及ぼしている。 
マレーシアの農業調査機関がまとめた報告によると、APIが高くなるにつれて、 ヘ
イズが農業へ与える被害も拡大するとされている。 

 畜産分野では、 ヘイズにより汚染された空気が、 養鶏産業に悪影響を及ぼして
いる。 高密度のケージで飼養される鶏は、 煙中の多量の浮遊微粒子により、 呼吸
器系の疾患を引き起こして抵抗力が弱まるだけでなく、 呼吸困難に陥る場合があ
る。 特に、 体力の弱い雛は、 バクテリアに感染しやすい状況となっている。 また、 
鶏卵の生産量が、 ヘイズが原因と見られる採卵鶏の成長の鈍化や体調への影響か
ら、 5〜10%落ち込んでいる。 このため、 養鶏農家などでは、 防御策として、 
鶏の抵抗力を高めるためにビタミンを投与するなど、 被害を最小限に留める努力
を行っている。 

 畜産以外の農業分野においても、 ヘイズによる日照および酸素不足は、 植物の
光合成の過程に悪影響を及ぼしており、 米、 野菜、 パームオイルなどの生産量が
減少している。 また、 海中の酸素量が不足しているため、 水産養殖、 海洋植物に
も被害が広がっている。 

 ヘイズは、 毎年9月下旬から始まる北東のモンスーンに伴う降雨により、 焼き
畑等を原因とする火災が消し止められて収まるが、 今年はモンスーンの到来が遅
れていることから、 大きな被害となった。 なお、 最近では、 2ヶ月遅れで始まっ
たモンスーンによる降雨により、 ヘイズの原因となっている山火事は徐々に鎮火
しており、 ヘイズ被害は収束に向かっている。



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