牛肉の安全性確保をめぐる放射線照射論議 (米国)




● FDA、 今年中に、 牛肉への放射線照射の是非に結論

 米食品医薬品局(FDA) は、 このほど、 今年中に、 牛肉への放射線照射に係る認
可問題に関して結論を出すことになると発表した。 

 牛肉に対する放射線照射に関する申請は、 ニュージャージー州のアイソメデッ
クス社がFDAに提出しているが、申請から3年以上経った現在も認可されていない。 
放射線照射は、病原性大腸菌O−157やサルモネラ菌等の殺菌が可能であるため、 
昨今、 大きな問題となっている牛ひき肉による食中毒防止に大きな効果をもたら
すとの期待が寄せられており、 関係者の注目を集めている。 


● O−157による牛肉のリコールが契機

 今年夏に発生した、 O−157に汚染された牛ひき肉の史上最高の回収(リコー
ル) 騒動は、 国民に食品の安全性確保対策充実の重要性を改めて認識させた。 そ
してまた、 この事件がきっかけとなって、 認可の是非が先延ばしにされていた牛
肉への放射線照射の是非をめぐる論議が高まっている。 

 放射線照射は、O−157やサルモネラ菌等の有害菌の殺菌効果が認められてい
るほか、 食品の保存期間の延長を可能にすることが知られている。 また、 放射線
照射は、 食品の害虫駆除や、 果実の成熟および野菜の発芽の抑制にも効果を示す
ことから、 米国では以前から広く応用されている。 


● 豚肉、 鶏肉への放射線照射はすでに認可済み

 畜産物に対する放射線照射については、 豚肉が86年に、 また、 鶏肉も92年
に、 それぞれFDAおよび米農務省食品安全検査局(FSIS) によって認可されている。 
しかし、 豚肉では、 これまで放射線の照射実績はなく、 また、 鶏肉についても、 
93年から、 一部の食品会社が小売り・外食向けを対象に放射線の照射を実施し
ているものの、 その数量は非常に限られたものとなっているのが実状である。 な
お、 放射線照射を行った食品は、 ラベルにその旨を表示するとともに、 指定され
たロゴマークを貼付することが義務付けられている。 


● 牛肉パッカーには 「慎重」 姿勢も

 牛肉への放射線照射に関して、 食肉処理会社 (パッカー) のほとんどは、 関係
機関が認可することを強く要望している。 しかし、 上位パッカーの中には、 放射
線照射の利点は認めるものの、 放射線照射に対する消費者の理解が得られるかど
うか不明であることや、 新たに放射線施設を設置することでコストが上昇するこ
となどから、 慎重な態度を示しているものもある。 

 なお、 89年に実施された米農務省経済調査局(ERS) による調査結果によれば、 
放射線照射によるコストは、 工場の製造規模により異なるが、 平均すれば1ポン
ド当たり約1.3セント (約3円/kg) から約4セント (約10円/kg) になる
ものと見込んでいる。 


● 放射線照射には、 消費者の理解と普及啓蒙が不可欠

 96年に実施された食品マーケッティング協会の電話聞き取り調査によれば、 
回答した消費者の47%が、 食品への放射線照射の目的等を知らないと答えてい
る。 これに対して、 放射線についての知識を持っている者のうち、 70%は殺菌
のために放射線を照射された食肉等を購入するかもしれないと回答し、 また、 5
8%が、 保存期間延長のために放射線を照射された食品を購入すると回答したと
されており、 放射線の照射に好意的な回答を寄せている。 

 しかし、 食品への放射線照射については、 放射線の安全性への危惧から、 消費
者団体を中心として反対意見も根強くあり、 今後の動向が注目される。 



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