EUの牛肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○繁殖用雌牛の飼養頭数の動向



● 過去8年で大幅に増加した肉用経産牛


 経済協力開発機構 (OECD) は、 先般、 EU15カ国の肉用経産牛飼養頭数に関する
予測を発表した。 これによると、 96年には、 同頭数は、 1,139万頭に達したとみ
られており、 88年の730万頭から8年の間に6割弱も増加したとされている (た
だし、 95年から96年にかけては、 ほとんど変化していない)。 また、 国別にみる
と、 イタリアが7割、 スペインが6割、 また、 牛肉主要生産国であるフランスが
3割増加と、 それぞれ大幅に増加したのをはじめ、 ほとんどのEU加盟国で増加し
ている (なお、 95年には、 3カ国が新たに加盟したが、 頭数全体に占めるこれら
3国の割合は6%程度に過ぎず、 新加盟が大きな増加要因とはなっていない)。 

 

● 生乳クオータ削減や奨励金が増加の引き金に


 このように、 肉用経産牛の飼養頭数が顕著に増加したのは、 80年代の生乳クオ
ータの大幅削減の影響や、 それと補完的な関係による肉用繁殖雌牛奨励金 (肉用
牛生産への移行促進を目的に、 肉用繁殖目的の雌牛に支給) の効果が大きかった
ものと考えられる。 なお、 この奨励金については、 92年の共通農業政策 (CAP)改
革の際に、 支持価格の引き下げなどによる肉用牛経営部門の収益低下の代償措置
として、 93年から3年をかけて、 漸次、 単価の大幅な引き上げ (2.4倍) が行わ
れている。 

● 今後、 頭数は横ばい傾向で推移か


 さらに、 OECDの予測によれば、 今後5年間の肉用経産牛の頭数は、 わずかな増
減を繰り返しつつも、 ほぼ現行に近い水準で推移するとみられている。 その原因
としては、 92年の改革の際に、 肉用繁殖雌牛奨励金制度に、 交付対象頭数の制限
が加えられたことが挙げられる。 すなわち、 対象頭数が過去の実績の枠内に制限
されていることから、 94年以降、 単価引き上げの効果が次第に減衰するにつれて、 
同奨励金の経営刺激効果が薄まってゆくとみられ、 このことが、 飼養頭数の動向
に影響を及ぼすと考えられている。 

● 酪農部門が牛肉生産で大きな役割


 また、 酪農部門が子牛生産全体の約7割を担っているのが、 EUの牛肉産業の特
徴であり、 乳用経産牛頭数は、 肉用経産牛の約2倍に相当する2千2百万頭にの
ぼっていることから、 牛肉生産にも大きな影響力を有している。 OECDによれば、 
現行の生乳クォータ制度を固定的にみた場合、 乳用牛群の改良等により1頭当た
りの乳量は増加することから、 乳用経産牛頭数は、 今後、 年率1.5%を上回るペ
ースで減少すると見込んでいる。 なお、 現在、 EUでは、 生乳クォータ制度の改革
が一つの大きなテーマとされているが、 牛肉生産が酪農部門に大きく依存する構
造から、 この改革は、 牛乳・乳製品の需給のみならず、 牛肉生産にも少なからぬ
影響を及ぼすものと考えられる。 

● 中期的には供給過剰体質を内在


 乳用も含めて繁殖用雌牛の頭数レベルは、 今後の牛肉生産を予測する上で重要
な指標の一つとされるが、 OECDは、 今後の肉用経産牛の頭数はほぼ横ばい、 また、 
乳用経産牛はわずかな減少と予想している。 このような見通しから、 EUの牛肉需
給は、 牛海綿状脳症 (BSE) 問題に絡んで、 子牛の早期と畜奨励事業の進行やイ
ギリスで順次進められている30ヵ月齢以上を対象とした牛淘汰により、 短期的に
は抑制されるとみられる。 しかしながら、 繁殖雌牛の頭数があまり減少しないこ
とから、 中期的には潜在的な生産能力が、 ほぼ維持されるのに対して、 域内の牛
肉消費は緩やかな減少を続けるとみられることや、 主要な輸出先である旧ソ連地
域からの輸入需要の回復が期待できない現状から、 供給過剰に陥りやすいという
問題を内在しているといえる。 


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