海外駐在員レポート 

米国の畜産物需給長期見通し −その前提条件を中心に−

デンバー駐在員 本郷秀毅、 藤野哲也



はじめに


 米農務省 (USDA)は、 毎年、 「農業観測会議」 を開催して国内の短期的な農産物
の需給見通しを明らかにするとともに、 将来の方向などについて、 ゲストスピー
カーから意見を聞く会議を開催している。 今年の会議において、 USDAは、 昨年4
月に成立した96年農業法の政策変更を踏まえて、 2005年までの農業全般に関する
長期見通しを示した。 

 その内容は、 グリックマン農務長官が 「およそ75年にわたるこの会議の歴史に
おいて、 私ほど米国農業の見通しがとても明るいと自信を持って言えた農務長官
がいたであろうか」 という言葉に集約されるかもしれない。 この明るい展望の背
景には、 海外からの強い需要、 96年農業法に基づく農産物の作付けの自由化、 自
由貿易市場の拡大およびさらなる経営体の経済効率の追求が挙げられる。 

 今月は、 USDAが示した2005年までの長期見通しの中から、 畜産物の需給に関す
る部分について、 その後の状況変化を踏まえて紹介する。 

1. 長期見通し作成の前提条件


 この長期見通しは、 USDAの各部局の委員から成る農業観測委員会によって取り
まとめられものである。 同委員会では、 農業制度の枠組みや経済などの一定の前
提条件の下で、 今後の需給状況などについて観測を行ったとしている。 

これらの前提の中には、 

・米国及び海外のマクロ経済状況 (2005年まで年平均3%の成長率) 
・米国の農業と貿易政策 (96年農業法を2005年まで適用 (農業法自体は96年から
 2002年までの基本政策)) 
・米国の輸出補助計画に係る資金規模
・外国の経済、 農業・貿易政策の動向
・米国と海外の農業生産性の動向
・気象条件 (異常気象を除く) 

などが含まれており、 これらについて、 起こりやすい状況を想定 (貿易政策等に
ついては、 原則として現状を踏襲) しつつ、 10年間の見通しを作成している。 こ
の見通しは、 USDAが、 米国農業予算額の支出見込みや政策決定等の際に利用する
もので、 毎年見直しがなれることになっている。 今回の見通しは、 96年11月時点
における諸条件を基礎として作成されたものである。 

2. 畜産物需給の長期見通しの概要


 畜産物需給の長期見通しの概要は、 別表のとおりとなっている。 

 まず、 酪農では、 離農による搾乳牛頭数の減少傾向は継続するものの、 1頭当
たりの泌乳量の増加により、 生乳生産量は年1%前後の伸びで増加するものとみ
られている。 

 牛肉については、 牛飼養頭数が今後減少に向かうため、 生産も減少傾向で推移
するが、 2000年以降に生産は増加に転じるものとみられている。 なお、 輸出につ
いては、 伸び率は鈍化するものの、 引き続き増加傾向で推移するものと見込まれ
る。 

 豚肉の生産量は、 99年まで一貫して増加傾向で推移するものとみられている。 
また、 輸出量も日本向けを中心に増加傾向で推移するものとみられている。 なお、 
長期見通し作成後の台湾における口蹄疫発生により、 生産、 輸出量とも、 特に短
期的には、 この見通しよりさらに増加することが見込まれている。 また、 今後、 
インテグレーションがさらに進展すると見込まれている。 

 ブロイラーの生産量は、 今後とも引き続き増加傾向で推移し、 また、 輸出、 消
費量ともに堅調に推移するものと見込まれている。 生産量の伸びは、 2000年以降
にはやや減速するものの、 それでも年3%前後の増加基調で推移するものとみら
れている。 

畜産物需給の長期見通し

 資料:USDA「LONG-TERM AGRICULTURAL PROJECTIONS TO 2005」

3. 畜産物需給全般に影響を及ぼす要因


 (1) 食肉の輸出量は過去6年間で7倍強

 まず、 貿易面では、 食肉の輸出量が、 96年には6年前と比較して7倍強という
脅威的な伸びを示したところであり、 この傾向は今後とも続くものとみられてい
る。 この旺盛な輸出需要が食肉の国内価格を押し上げているものの、 依然として
国際競争力のある価格水準が維持されている。 

 (2) 飼料価格の変動が家畜の生産サイクルを左右

 95年及び96年の天候不順による記録的な穀物価格の上昇は、 96年の畜産物全体
の生産サイクルに大きな影響を及ぼした。 これは、 家きんに素速く現れ、 また、 
肉豚にも1〜2年間影響を及ぼすものと見込まれる。 加えて、 牛肉部門には3年
〜5年にわたって影響を与えることになろう。 今後、 飼料価格は、 記録的な高値
となった95年、 96年より下落し、 また、 飼料生産量も回復するとみられる。 併せ
て、 インフレの緩やかな進行 (実質可処分所得の着実な増加)、 緩やかながらも
堅調な国内需要、 安定した収入の伸び、 そして、 海外からの強い輸入需要が生産
者に利益をもたらすことにより、 食肉全体の生産量は増加するものとみられる。 
しかし、 長期見通しの後半には、 飼料価格の値上がりから、 食肉生産のペースは、 
特に牛肉及び豚肉を中心として、 緩やかなものになろう。 

 (3) 家きん肉が食肉消費に占めるシェアを拡大

 可処分所得の増加に伴う食肉の実質価格の低下により、 消費者の食肉購入に対
する支出負担が軽減されるため、 長期的に食肉購買量は増加するものとみられる。 
食肉消費の伸びは、 人口増加率を上回り、 一人当たりの年間食肉消費量は、 2005
年までに小売り重量ベースで225ポンド (約102kg) に達するものとみられる。 家
きん肉は、 他の食肉に比べ生産コストが安く、 価格も安いため、 消費量と支出額
の両面において、 食肉全体の中で大きなシェアを占めるものとみられる。 

◇図1:1人当たり年間食肉消費量の推移◇

4. 畜産物等の品目別需給予測


 (1) 牛乳・乳製品

(1) 生乳生産量は着実に増加 

 搾乳牛頭数は、 規模拡大のペースが離農による頭数減少分を埋め合わせること
ができないという、 これまでの長期的な減少傾向に沿って緩やかに減少し、 2002
年以降は900万頭を下回って推移するものとみられる。 しかしながら、生乳生産量
は、 1頭当たり泌乳量の向上により着実に増加するとみられている。 粗飼料の生
産回復を受けて、 98年には前年を約1.6%上回るものとみられているが、逆に濃厚
飼料価格の上昇を受けて、 その後伸び率は鈍化し、 年1%程度の低い伸びに止ま
るものと見込まれている。 生乳生産量は、 2003年以降、 1,700億ポンド (約7,700
万トン) を超えて推移するものと見込まれる。 

◇図2:生乳生産量と搾乳牛飼養頭数の推移◇

(2) 96年農業法の成立が生産意欲を高める

ア 価格支持制度の廃止

 まず第1に、 乳製品の価格支持制度における加工原料乳の支持価格を、 96年の
100ポンド当たり10.35ドルから99年の9.90ドルまで毎年15セント引き下げ、 制度
自体を99年末に廃止する。 乳製品価格支持制度は、 政府機関である商品金融公社 
(CCC) がバター、 脱脂粉乳、 チーズといった乳製品を買い上げる制度で、 加工用
の生乳価格を一定価格以上に支持するためのものである。 2000年からは、 この制
度に代わってローンレート制度が開始されることになっている。 ローンレート制
度では、 乳製品について生乳換算100ポンド当たり9.9ドルに相当する単価で、 CC
Cから乳業会社等が融資を受けることができることとなっている。 

イ 賦課金の廃止

 第2に、 90年農業法下において、 酪農家は、 92年から95年までの4年間、 生乳
100ポンド当たり11.25セントの賦課金を徴収されていたが、 この賦課金徴収制度
が、 96年4月30日をもって廃止された。 なお、 96年の生乳生産量が前年を上回ら
なかった場合には、 生産者からの請求に基づき徴収された賦課金が還付されるこ
とになっていたため、 4万を超える酪農経営体に総額約1,640万ドル (約19億円) 
が支払われることになった。 この賦課金の還付制度は、 実質的には、 生産者の生
乳生産を抑制する役割を果たしていた。 

ウ マーケティング・オーダー地域の統合

 第3に、ミルクマーケティング・オーダー地域の整理統合が行われる。すなわち、 
現在32あるマーケティング・オーダー地域を10から14のオーダー地域に整理統合
することになる。 現在、 農業市場部 (AMS)において統合についての検討を重ねて
おり、 先般5月に、 11への地域統合案が示された。 今後、 この案についての議論
が行われることになるが、 オーダー間のプール乳価の格差是正の役割を果たすも
のと期待されている。 

(3) 1頭当たり泌乳量は着実に増加

 搾乳牛1頭当たりの泌乳量は、 bSTの投与等により今後とも増加するが、2000年
以降濃厚飼料価格の値上がりからその伸びは鈍化し、2005年には19,775ポンド(約
8,970kg) になるものと見込まれる。 bSTは、 94年に認可された成長ホルモン剤で
あるが、 2005年までには、 35%を超える搾乳牛に使用されることになるとみられ
る。 しかし、 最近の濃厚飼料価格の値上がり等を反映して、 当初見込まれたほど
その普及は進んでいない。 このため、 その使用見込みは大幅に下方修正され、 97
年の使用見込み割合は、 昨年の32%から16%に半減している (図3)。 

◇図3:1頭当たり泌乳量とbSTの使用割合の見直し年次別変化◇

(4) 生産地域は北部から西部へ

 北部地域では低コスト生産が可能な大規模経営の増加、 そして、 西部地域にお
ける生乳生産の継続的拡大から、 離農経営者の減産分を補うことになるとみられ
る。 北部から西部への生産地域の移動などの構造変化は、 今後も継続するものと
みられる。 

(5) 需要は引き続き増加

 実質価格の低下、 所得の向上、 人口の増加などにより、 牛乳・乳製品需要は増
加するとみられる。 チーズ需要は今後とも増加するものとみられるが、 その伸び
はいままでよりは鈍化するものと見込まれる。 また、 乳脂肪や無脂固形分につい
ても、 加工食品の原材料として引き続き需要が見込まれる。 

(6) DEIPの最大限の活用に期待

 乳製品の内外価格差は、 徐々に縮小しつつあるものの、 商業ベースでの乳製品
の輸出は非常に限定されたものとなっている。 乳製品輸出奨励計画 (DEIP) によ
る乳製品輸出は、 ガットで譲許された最大数量まで達するものと期待されている。 
ただし、 乳製品の国際価格の高騰などから、 DEIP支出については、 95年7月から
実質的に休止状態となるなど、 その予算消化率が低くなっているのが現状である。 

 (2) 牛肉

(1) 牛群拡大は次世紀から

 子牛生産量の減少やメキシコからの輸入素牛の減少から、 素牛供給は98年まで
減少するものとみられる。 

 繁殖経営における収益性の低迷により、 今世紀末まで牛群は拡大に転じがたい
ものと見込まれる。 98年には母牛1頭当たりの収益が好転するが、 牛群の拡大を
もたらすには十分ではないものと見込まれる。 また、 繁殖めす牛の更新が進むの
も98年以降になるものとみられる。 この結果、 98年1月現在の繁殖めす牛の飼養
頭数は、 前年を約4%、 また、 肉用牛全体でも約3%下回るものとみられている。 
牛飼養頭数は、 2000年以降、 約9千7百万頭で安定的に推移するとみられる。 個
体の大型化や牛の長期肥育によると畜時体重の増加により生産量は増加し、 規模
縮小の要素を部分的に相殺するものとみられる。 

◇図4:牛飼養頭数の推移◇

(2) 当面、 生産は減少傾向

 牛肉生産量は、 繁殖経営の収益悪化による繁殖めす牛のとう汰を反映して、 97
年には、 前年をわずかに下回るものと見込まれる。 しかし、 繁殖めす牛のと畜頭
数は、 大幅に増加した96年よりは減少し、 逆にフィードロットからの肥育牛のと
畜頭数は増加するものとみられる。 98年には、 肥育牛および繁殖めす牛のとう汰
に伴うと畜頭数とも減少し、 前年を約4%下回るものと見込まれる。 同様の傾向
は99年も続くと考えられる。 2000年から2005年には、 生産量は除々に回復するが、 
人口増加率よりは低い伸びになるものとみられる。 牛肉生産量は、 フィードロッ
トで肥育させた去勢牛および未経産牛の比率が高まるものと見込まれる。 

◇図5:牛肉需給の推移◇

(3) 育成期間は長期化

 肥育素牛は、 穀物価格が比較的高価格となるため、 これまでより育成期間が長
期化され、 出荷体重は増大するものとみられる。 肥育牛は、 セレクト級またはチ
ョイス級への格付けを狙って枝肉重量は緩やかに増大するものと見込まれる。 フ
ィードロットにおける導入体重が増加することから、 飼料給与量が減少し、 牛肉
1ポンド当たりの飼料穀物要求量は減少するものと見込まれる。 

(4) 粗飼料基盤の拡大により生産が弾力化

 肉牛生産部門と農産物生産部門については、 次世紀においても十分な土地基盤
が確保できるものと見込まれる。 これに加えて、 96年農業法における生産弾力化
契約対象農地においての採草が可能となることから、 粗飼料生産量は増加するも
のと見込まれる。 また、 併せて、 3千万エーカー (約12百万ヘクタール) を超え
る農地が、 土壌の流出防止などを目的としている土壌保全留保計画 (CRP)の対象
地として継続契約されるとみられるものの、 干ばつや洪水といった非常時には、 
今後とも採草が認められるものと見込まれる。 以上のような粗飼料の生産量の増
加要因と、 子牛の育成期間の長期化により、 粗飼料の給与量と子牛の出荷時期に
柔軟性を維持できるようになろう。 例えば、 牧草不足時には、 肥育素牛を早期に
出荷することにより、 牛群の維持を容易にできるようになるものと見込まれる。 

(5) 子牛肉の生産は引き続き減少

 子牛肉の生産量は、 2005年まで減少していくものとみられる。 子牛肉生産は、 
特定の仕様の下に飼料給与された、 体重の比較的重いものが生産の主流になると
みられる。 搾乳牛頭数の減少により、 乳用子牛の生産頭数が減少するものと見込
まれる。 また、 肥育素牛の価格が上昇すると見込まれるので、 乳用子牛について
も、 フィードロットへの流通が主体となり、 子牛肉に仕向けられる割合は減少す
るものとみられる。 

(6) グレインフェッドの輸出を拡大

 米国が、 恒常的に牛肉の純輸出国に転じることができるのは、 牛群の再構築が
行われる次世紀に持ち越されよう。 牛肉の貿易については、 ガット・ウルグアイ
ラウンド合意等、 自由貿易への努力が引き続き行われるであろう。 米国は、 グレ
インフェッド牛肉の主要供給国としての地位を確保するものと見込まれる。 これ
らの牛肉は、 ステーキ用またはロースト用として、 主に環太平洋諸国向けを中心
に輸出量が伸びるものとみられる。 EUにおける牛海綿状脳症 (BSE)や日本での病
原性大腸菌O−157による集団食中毒等、 牛肉の安全性への関心が高まっている中、 
米国はHACCP (危害分析重要管理点監視方式)によりその優位性を確保するとみら
れるが、 輸入国の消費者動向に少なからぬ影響を受けるものと見込まれる。 豪州
やおそらくニュージーランドも、 この地域への輸出を増加させるが、 グレインフ
ェッド牛肉の生産は限られたものであり、 輸出の中心はグラスフェッド牛肉にな
るものとみられる。 

(7) 牛群の縮小により輸入も増加

 米国の牛肉輸入量は、 国内の牛飼養頭数の減少により、 豪州、 ニュージーラン
ドを中心にハンバーガー向けなどの加工用がわずかに増加するものとみられる。 

 (3) 豚肉

(1) 急速に進むインテグレーション

 養豚部門は、 今後、 経営体と加工業者がそれぞれ生産管理等を行う垂直統合の
関係が加速するものとみられる。 96年の養豚経営体数は、 157,450であったが、こ
れは前年に比べて13%の減少であり、 90年と比較すると41%も減少したことにな
る。 一方、 2千頭以上の大規模経営体のシェアは3.1%にもかかわらず、頭数シェ
アでみると51%を超えている。 今後10年間においては、 これらの大規模で効率的
な経営を行う生産者が豚肉生産のシェアをさらに拡大することになろう。 競争力
の低下や環境要因等による小規模経営の急速な離脱と、 大規模経営への生産集中
による構造変化は、 米国においても急速に進展しているといえよう。 

◇図6:豚飼養頭数の推移◇

(2) 台湾の口蹄疫発生等により生産は反転増加

 豚肉生産量は、 枝肉ベースで96年の172億ポンド (約780万トン) から、 2005年
までには200億ポンド (約907万トン) に増加するとみられる (注:台湾の口蹄疫
の条件を除いた観測)。 肥育豚価格が高水準で推移することや、飼料価格の値下が
り、 これに加えて97年3月に発生した台湾の口蹄疫により、 台湾からの日本向け
輸出が停止したことから、 米国内の増頭意欲はさらに高まっており、 USDAの5月
の予測では、 98年の生産量は前年を7%上回るものと見込まれている。 99年につ
いても同様に、 生産量は増加するものと見込まれる。 2000年以降の飼料穀物の価
格上昇により、 農家収益は減少し、 豚飼養頭数と豚肉生産量の伸びは緩やかにな
るものと考えられるが、 台湾の口蹄疫の回復状況いかんで、 生産量が変動するも
のと見込まれる。 

◇図7:豚肉需給の推移◇

(3) 輸出見通しを大幅上方修正

 米国は、 純輸出国として重要な地位を占めることになろう。 豚肉輸出量は増加
傾向で推移するものの、 逆に、 輸入量はわずかに減少するとみられる。 豚肉の輸
出量は、 台湾の口蹄疫発生に伴う日本向け輸出が大幅に増加するとみられている。 
4月に公表されたUSDAの輸出予測によれば、 口蹄疫発生により、 日本向けの97年
の輸出量が枝肉ベースで2億7千万ポンド (約12万トン) 上乗せされるとの見通
しを示している。 この結果、 当初見通しと比較すると、 97年は26%増 (約13万ト
ン増)、 98年は46%増 (約23万トン増) となる。 米国の豚肉輸出は、主に環太平洋
諸国及びメキシコ向けを中心に、 今後も増加するものとみられる。 

 豚肉の輸入量は、 枝肉ベースで5億ポンド (約23万トン) から6億5千万ポン
ド (約29万トン) 程度になるものとみられるが、 カナダやデンマークなどの主要
輸出国の生産状況や、 為替の変動などによって、 年ごとの変動が見込まれる。 た
だし、 デンマークからの輸入は、 オランダを中心とした豚コレラの発生により、 
当初予測よりも相当減少するものと思われる。 

 (4) 家きん肉

(1) 低コストおよび健康志向による需要拡大

 家きん肉生産量は、 食肉消費全体の中でシェアを伸ばしているブロイラーの生
産増加により、 引き続き増加するものとみられる。 家きん肉は、 他の食肉に比べ
て価格が安いため、 結果的に1ドル当たりの購買可能数量が他の食肉より多くな
る。 家きん肉産業は、 積極的な市場開発を続け、 脂肪が少なく、 簡便性のある製
品の販売促進に力を注ぐものとみられる。 また、 七面鳥も、 加工度の高い製品の
国内外の需要により、 生産の拡大が見込まれる。 

◇図8:ブロイラー需給の推移◇

(2) 生産は緩やかに拡大

 ブロイラー生産は、 96年の飼料価格の値上がりにもかかわらず、 需要増から価
格が好調に推移したため、 一定の収益を確保した。 97年は、 飼料価格の値下がり
から、 収益性は引き続き好調さを持続するものとみられる。 98年、 99年には、 牛
肉生産量が減少することから、 ブロイラー生産のさらなる増加要因になるものと
みられる。 その後の家きん肉生産量は、 ブロイラー産業が確実な利益を得るため
に生産調整を行うとみられることから、 近年の生産拡大のペースよりは緩やかに
なるものとみられる。 また、 家きん肉の実質価格は低下するものと思われる。 実
質飼料価格が低下する90年代後半は、 生産拡大により家きん肉の収益が維持され
るものとみられる。 しかし、 2000年以降は、 実質の飼料コストが横ばいになるこ
とから、 収益性も低下すると見込まれる。 

(3) 垂直統合はさらに進展

 家きん肉の生産コストは、 インフレによる物価上昇があったとしても、 現状程
度で維持できるとみられる。 家きん肉産業は、 高度の技術と垂直的統合による効
率的な生産規模の確保等を通じて、 経営の改善を図ってきた。 今後も、 垂直統合
の動きに伸展はみられるものと考えられるが、 過去10年間のように、 これらが著
しくコストの削減に結びつくような展開にはならないと思われる。 

(4) ブロイラー輸出は引き続き堅調

 家きん肉輸出量は、 他の生産国との厳しい競争にさらされていることから、 緩
やかな増加にとどまるものとみられる。 しかし、 ブロイラーについては、 もも肉
を中心に、 米国の実質価格の低下により、 輸出量が大幅に増加するものと見込ま
れる。 旧ソ連向け輸出は、 97年をピークとして減少していくものとみられる。 

 (5) 鶏卵

(1) 安定的な生産・消費

 家庭消費用の鶏卵生産量は、 収益性があまり良好でないことから、 それほど増
加しないものとみられる。 一方、 ブロイラー生産の拡大に伴うふ卵用鶏卵の生産
量が、 その増加の大きなウエイトを占めるものとみられる。 

 消費者は冷凍食品等の簡便性のある食品を求める傾向にあるため、 調理済み食
品の原材料として使用される鶏卵は、 需要の拡大が見込まれる。 また、 朝食の外
食化傾向が進むことにより、 鶏卵を食べる回数が増えることが見込まれ、 その消
費はさらに伸びるものと期待されている。 

 鶏卵の卸売り価格は、 消費者物価上昇率よりは低いものの、 上昇傾向で推移す
るものと思われる。 鶏卵は、 品質格差が少ないことから、 市場の競争が激しく、 
生産コストぎりぎりでの販売になるものとみられる。 

◇図9:鶏卵需給の推移◇

(2) 輸出は限定的

 米国の鶏卵輸出量は、 多くの国において生産が過剰気味で推移するため、 大き
な変動はないものと見込まれる。 ただし、 日本向けを中心とした粉卵や香港向け
の殻付卵の需要は今度とも伸びるものとみられる。 なお、 世界の輸入需要の動向
については、 多くの国において自給体制が整っているため、 変動は少ないものと
みられる。 

 (6) 飼料穀物

(1) 作付面積は過去最大に

 飼料穀物の作付け面積は、 97/98年度に最大を記録し、 その後も好調な需要に
支えられ収益性の確保が期待されることから、 その水準は2005/6年度まで維持
されるものとみられる。 トウモロコシの作付けは、 2005/6年度まで8千万エー
カー (約3,250万ha) を上回って推移し、特に2002/3年度には8千2百万エーカ
ー (約3,330万ha) に上るものみられる。 

 米国の飼料穀物生産量は、 2001年までに記録的な増加となることが見込まれる
が、 トウモロコシがその増産のほとんどを占めることになるとみられる。 トウモ
ロコシの生産量は、 記録的な生産量となった94/95年度の約101億ブッシェル(約
2億5千6百万トン) を2001/2年度までに記録し、2005/6年度には約107億ブ
ッシェル (約2億7千2百万トン) になるものと見込まれる。 

◇図10:トウモロコシ需給の推移◇

◇図11:トウモロコシの作付け面積と価格の推移◇

(2) 価格は99年を底にV字反転

 飼料穀物価格は、 生産量の増加により低下傾向で推移するが、 99年以降は、 需
給の引き締まりから価格は、 値上がりに転じるものとみられる。 

(3) 輸出は東南アジア向けを中心に増加

 飼料穀物の輸出は、 発展途上国での所得上昇に伴う畜産物需要の増加を背景に
増加するものとみられる。 トウモロコシの輸出量は、 97年から2005年までに35%
増加するものと見込まれる。 輸出国としては、 中国やインドネシア、 フィリピン
といった東南アジア諸国向けの輸出が著しく伸びるものとみられる。 

(4) 在庫率は7.9%まで減少

トウモロコシの在庫は、 99年から2005年まで8億ブッシェル (約2千万トン) を
下回って推移するものとみられる。 需要量が生産量を上回って推移することから、 
在庫率は98年以降減少し、 2005年の在庫率は、トウモロコシで7.2%、 飼料穀物全
体でも7.9%まで減少するものとみられている。 

終わりに


 96年農業法は、 これまで約60年間にわたって行われてきた米国農業政策の根幹
である不足払い制度を廃止し、 生産者の作付けを自由化した。 また、 米国農業の
中でも最もセンシティブな部門とされてきた酪農についても、 価格支持制度が廃
止されることとなった。 このような政府関与の縮小により、 米国の生産者はこれ
まで以上に市場志向性を高めることとなろう。 

 他方、 ガット・ウルグアイラウンド農業合意の下で食肉の純輸出国に転じつつ
ある米国の農業は、 これまでにも増して輸出志向型に転換しつつある。 これまで
厳格な国境措置と価格支持制度により保護されてきた酪農も、 今や価格支持制度
を廃止し、 米国乳製品輸出協議会 (USDEC) を設けるなど、輸出志向型への転換に
向けて準備を整えつつある。 

 米国の農業政策と畜産物需給の動向は、 次期ラウンドにおける交渉の基礎の一
つとなることから、 その動向を引き続き注視していく必要があろう。

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