飲用乳制度の改革議論高まる (豪州)



● 飲用向け生乳の流通・価格制度について公聴会を開催


 ニューサウスウエールズ (NSW) 州では、この5月より、 飲用向け生乳について、 生産枠の撤廃と、 その生産者乳価への行政介入の排除について、 業界から広く意 見を聴取する公聴会が開催されており、 その是非をめぐって、 活発な議論が繰り 広げられている。  現行の豪州の生産者乳価は、 飲用向けと加工原料向けの2本立てとなっている。 加工原料乳価については生産者と乳業メーカーによる自主交渉で決定されるため、 乳製品の輸出国である豪州ではその国際市況が強く反映される。 これに対し、 飲 用向けに関しては、 通年での安定供給などを目的に、 生産枠が設定され、 生産者 乳価は、 各州の行政機関によって決定されていることから、 安定的な乳価が約束 されている。  この市場規制措置については、 すべての州で実施されており、 その規制緩和に ついては州単位で検討されることになっているが、 最大の飲用乳消費地であるNS W州が、 他州に先駆けて公聴会を実施したことから、全国的な注目を集めることと なった。

● 生産者と乳業サイドで利害が対立


 生産者サイドには、 現行の市場規制措置が緩和された場合、 小売店など川下か らの価格支配によって、 現状では加工原料乳価の2倍近い現在の飲用向け乳価が、 加工原料乳並みに低下するとの懸念が強く、 現行制度維持との意見が大勢を占め ている。 特に、 飲用仕向け率の高いNSW州やクィーンズランド州の生産者には、粗 飼料依存型酪農により低コストで生産されるビクトリア州産生乳との価格競争に さらされるとの危機感が強い。  これに対し、 乳業サイドには、 ビクトリア州所在のメーカーを中心に、 規制緩 和を求める声が強い。 ビクトリア州でも、 生産者サイドには現状維持との意見が 支配的であるものの、 今月行われた同州の生産者団体の年次会合では、 現行の規 制を撤廃し、 州境を超えた飲用乳の広域流通を促進することによって、 現在1割 程度にすぎない同州の飲用仕向け率は大幅に増加し、 生産者にも大きな利益をも たらすとの見解も出されている。

● 最終報告は9月末日


 豪州酪農乳業界は、 80年代前半まで、 牛乳・乳製品の国内流通規制や、 加工原 料乳の価格支持など行政による擁護の下にあったが、 その後、 規制緩和や国際貿 易交渉などの進展により、 現行の飲用乳に関するものを除き、 行政介入は大きく 後退している。 それだけに、 飲用乳をめぐる規制緩和の動向は、 生産地域の移動 や乳業界の再編など豪州酪農乳業界の将来に大きな影響を及ぼすものとみられる。  NSW州による公聴会は、 6月いっぱい続き、 運営委員会による同州への最終的 な報告書の提出は9月30日となっているが、 飲用乳取引きをめぐる従来からの州 間の対立や、 次期州議会選挙が控えていることなどから、 関係者の利害は複雑な 様相を呈しており、 その行方が注目される。
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