運用改善を迫られる豚肉輸入 (フィリピン)



● UR合意より低い輸入実績


 フィリピンは、 94年のウルグアイラウンド (UR) 合意で、 畜産物の輸入関税化 を受け入れることになった。 しかしながら、 国内の法律整備に手間取り、 ミニマ ムアクセス数量 (MAV) などの設定は、 96年7月にずれ込んだ。 畜産物のうち、豚 肉については96年のMAVが49,985トン、 1次関税率30%、 2次関税率100%と設定 された。 しかし、 同国の96年の豚肉輸入実績は、MAVの10%以下という低い水準に とどまったと見られている。

● 対立する米国とフィリピンの主張


 この問題について、 米国は、 フィリピン政府が畜産物の輸入を事実上制限して いるとの疑念を持っており、 4月末から、 2国間交渉が行われている。  米国側は、 フィリピン政府が輸入許可証の発行事務を通じて、 意図的に豚肉な どの畜産物の輸入を抑制していると主張している。 その根拠として、(1)輸入許可 証の約80%が、 輸入豚肉の需要者ではない養豚業者に交付されたこと、(2)96年の 輸入許可証の交付が同年の10月になるなど、 同許可証の交付事務が大幅に遅延し ている事実を挙げている。  一方、 フィリピン側は、(1)輸入豚肉には、 国内産豚肉に比べて価格競争力がな い、 (2)生鮮志向が強い同国では冷凍豚肉は需要がない、という2つの理由を挙げ て、 米国側の主張に強く反発しており、 交渉は平行線をたどっている。

● 混迷を深める両国間関係


 フィリピンは、 畜産物の輸入関税化を行った当初、 安い輸入肉が溢れ、 国内の 養豚、 養鶏産業が壊滅的な打撃を受けるのではないかという強い懸念を持ってい た。 現地報道などによると、 この背景には、 UR交渉の過程でフィリピン農務省に よるMAVの算出に誤差が生じ、 MAVが本来よりも大きな値となったことがあるとい われている。 また、 一部では、 このことを、 輸入許可証交付事務の遅れに関連付 ける見方もなされている。  2国間交渉が続けられる中で、 この問題は、 両国間の外交関係に大きな影響を 与えるものとなりつつある。 米国の畜産業界は、 対抗措置として、 特恵関税の対 象国からフィリピンを除外するよう、 米国通商代表部に求めている。 また、 米国 議会農業委員会のメンバーが、 5月末にフィリピンを訪問した際、 ラモス大統領 との会談において、 冒頭にこの問題を取り上げるなど、 フィリピンの豚肉輸入制 度の運用改善を求める圧力は日増しに強くなっている。

● 注目される今後の動向


 最近の現地報道によると、 フィリピン農業大臣が豚肉などの輸入手続の改善に ついて検討するよう指示したとされており、 フィリピン政府は、 交渉妥結へ向け て大きく方向変換したものと見られている。  世界貿易機関 (WTO) の発足後、 貿易などに関する国際的なルールが、 以前に もまして厳しく適用されるようになった。 発展途上国といえども、 国際的な取り 決めを無視した安易な手法による国内産業の保護は難しくなりつつある。
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