海外駐在員レポート 

EUのチーズ輸出と輸出補助金

ブラッセル駐在員 池田 一樹、 東郷 行雄



はじめに

 EUでは、 年間 600万トン弱のチーズが生産されている。 これは日本の生産量の
約200倍で、 生乳生産量の (1億2千万トン/年)の1/3以上がチーズ生産に使 
われている。

 生産量の約9割は域内で消費され、 一人当たりの年間消費量は15kgに達してい 
る。 なかでもフランスは20kgを超え、 その他多くのEU加盟国で10kgを上回ってい 
る (日本は2kg以下)。 

 域外輸出は約50万トンで、 国際市場でのシェアは約5割となっている。 また、9 
5年の輸出金額は15億ECU (2千5百億円) であり、 EUの農産物輸出額の3%に達 
している。

 このように、 チーズはEUの主力輸出商品の一つであるが、 この輸出力の背景に 
は、 輸出補助金制度がある。 チーズの国際価格を大幅に上回るEU産チーズは、 か 
つては域内価格の4割にも達した輸出補助金により、 輸出価格を安価に維持して 
きた。

 しかし、 ガットウルグアイラウンド農業合意 (以下 「ガット合意」 という。)に 
より、 この輸出補助金制度について、 交付総額および輸出数量ともにシーリング 
が設けられた (以下 「金額シーリング」、 「数量シーリング」 という。)。 EUでは、 
このシーリングの履行のため、 さまざまな対策が講じられてきている。

 今回は、 こういったチーズの補助金付き輸出をめぐる動きを中心に、 EUのチー 
ズ輸出の一般的状況にも触れながらレポートしてみたい。 

 

1 チーズの生産構造


 EUのチーズ生産量は表1、 2のとおりである。 

表1:チーズ生産量と輸出量の推移

  注:EU-12。ただし1995はEU-15
 資料:ZMP

表2:国別生産量および輸出量(1995年)

  注:ベルギーはルクセンブルクを含む
 資料:ZMP、EUROSTAT(輸出量)

 チーズを製造している乳業会社は約4千8百社となっている (1991年、EU−12)。 
このうち、 小〜中規模の会社が9割を占めるが (年間生産量が 100トン以下:46
%、 100トン〜1,000トン:42%)、 生産量は全体の14%を占めるに過ぎない。こう
いった中規模以下の企業の半数はイタリアに、 残りは主にフランス、 ギリシア、 
スペインに位置する。 一方、 年間生産規模1万トン以上の大規模企業は、 全体の
2.1%、 約100社に過ぎないが、 生産量は全体の57%にも達する。 国別に見ると、 
フランス38社 (総数864社)、 ドイツ34社 (同237社)、 オランダ11社 (同18社) で
ある。 特にオランダでは、 大規模化が進展しており、 1社当たりの年間平均チー
ズ生産量は3万4千トンとなっている (EU平均:1千トン)。 

2 チーズの輸出状況


 チーズの種類は、 区分によって数百種類ともあるいは2千種類を越すともいわ
れている。 これらの数多くはヨーロッパ各地の修道院で製造されていたものが起
源となって発達したものである。 このため、 各国に特産チーズがあり、 現在も百
種類を越すチーズが産地銘柄として名称の使用の保護を受けている。 また、 種類
によって、 風味、 性状、 用途も多種多様であり、 輸入国によりし好も異なってい
る。 そこで、 チーズの輸出国、 仕向国、 品目に注目してEUの域外輸出傾向をみて
みたい (図および表3、 4) 

◇図:チーズの種類別輸出豊凶('95)◇

表3:主なチーズ輸出国の主要仕向国(1995年)

 資料:EUROSTAT
  注:サウジ:サウジアラビア

表4:主なチーズの主要輸出国と仕向国(1995年)

 資料:EUROSTAT
  注:@チーズの種類は関税分類による
    Aチーズの種類の欄の( )内は輸出量
    B国名の横の( )内はシェア

 輸出量の1/4はプロセスチーズ、 3/4がナチュラルチーズである。 輸出プ
ロセスチーズの半分はフランスから積み出されており、 主にロシアや東欧、 中東
および米国向けである。 

 輸出ナチュラルチーズの半数は、 エダムチーズ (2割)、 フェタチーズ (2割) 
およびゴーダチーズ (1割) である。 エダムチーズはドイツおよびオランダが全
体の9割以上、 フェタチーズはデンマークが発祥地のギリシアをはるかに凌ぎ、 
全体の9割を輸出している。 ゴーダチーズはオランダが全体の7割を輸出してい
る。 主な仕向先は、 エダムはロシア、 フェタは中東、 ゴーダは日本やロシアであ
る。 

 国別の主力製品をみると、 デンマークはフェタチーズの輸出が全体 (ナチュラ
ルチーズ、 以下同じ) の6割である。 次いで、 マリボー等が1割を占めており、 
主に日本向けである。 ドイツはエダムが全体の約6割、 オランダはエダム4割、 
ゴーダ3割となっている。 イタリアは、 パルメザンやペコリーノといった特産品
の輸出が全体の6割を占め、 8割以上を米国とスイス向けに輸出している。 英国
は、 チェダーが約3割で、 主に日本、 エジプト向けである。 

3 チーズの輸出補助金と輸出許可制度


 (1) チーズ輸出補助金について

 チーズの輸出補助金は、 品目別、 仕向国別に設定されている (表5)。 

 補助金単価は、 日本向けで (4月1日現在) 域内価格の約1/4であるが、 ガ
ット合意開始直前には4割にも達していた。 

表5:チーズの輸出補助金単価例(96年4月1日)

 注1:ロシア、ウクライナ等の旧ソ連およびポーランド、チェコ等の東欧諸国
    合わせて27国を含む
 注2:ゴーダ、エダムはオランダ工場渡し、チェダーは英国倉庫渡し
 注3:《 》内は、ガット合意開始(95年7月)直前の単価
 注4:1ECU=143円で試算

 (2) 輸出許可および輸出補助金の事前確定

 チーズの輸出補助金の交付を受けるためには、 輸出許可証が必要である。 輸出
許可証は通常申請の受理後5日で発行されるが、 許可数量等がガットシーリング
を上回る恐れがある場合、 証明書の発行の停止や、 削減係数と言われる係数を用
いて申請量の一律カットが行われる。 

 輸出許可証の発行と同時に、 輸出補助金単価も確定される (許可証の発行日の
単価)。輸出許可証の有効期間は発行された月の翌月から起算して2カ月間である。 
この短い有効期間は、 相次ぐ輸出補助金の単価削減と相まって長期の契約に影響
を与えている。 

 輸出許可証が発行されると、 申請者は許可内容に従って輸出を行わなければな
らない。 例えば数量については、 許可量の98%以上の輸出が義務付けられる。 な
お、上限は気象条件などによる水分含有量の変化を勘案し105%に設定されている。 

 輸出許可証は、 許可に当たって特別の条件がない場合は他者へ渡すことができ
る。 なお、 他者に渡した場合には、 許可内容の履行に対する義務は当初の申請者
が負う。 輸出許可証の流通は、 思惑による過剰な輸出申請を抑制する意味からも
重要な仕組みの一つである。 ただし、 条件付きで許可品目の変更や仕向国の変更
もできる。 

 輸出許可証の申請に当たっては、 輸出補助金額の30%に相当する保証金の納付
が必要である。 保証金は、 許可に従った輸出が行われれば返還される。 

4 補助金付きチーズ輸出の状況


 金額シーリングおよび数量シーリング (以下 「ガットシーリング」という。) は、 
表6のとおりである。 

表6:ガット数量シーリング

 資料:EU委員会

 ガット初年度 (1995年7月〜96年6月) は、 半年を経過した12月の時点で、 許
可証の発行実績が既に数量シーリングの約6割に達し、 シーリングの履行が危ぶ
まれた。 このため、 EU委員会は、 輸出許可証の発行停止等の措置を講じ、 数量シ
ーリングの履行を図った。 

 この結果、 ガット初年度の輸出許可実績数量は数量シーリングとほぼ同量と言
われている。 一方、 金額シーリングは大幅な未達となったと言われている。 EUが、 
金額シーリングよりも数量シーリングの履行に苦慮している状況がうかがわれる。 

 ガット2年目の96年度に入っても、 輸出許可申請の勢いは衰えていない (表7)。 
輸出許可数量は2月中旬の段階で、 数量シーリングの7割を超える状況となって
いる。 このためEUは、 昨年度に続き様々な措置を講じている。 

表7:輸出許可証の発行状況(96年7/1〜97年2/14)

 資料:AGRAFOCUS
  注:バターにはバターオイルを含む

 以下、 チーズ輸出をめぐってEUが講じてきた主な措置について述べてみたい。 

5 輸出許可証の発行停止


 EU委員会は96年春から輸出許可証の発行を再三停止した。 ガット初年度の終わ
りに当たる96年5月から6月にかけては、 全てのチーズに対して4回もの発行停
止が行われている (停止期間:5/3〜9、 5/16〜31、 6/1〜4、 6/19〜
23)。 また、この合間に、 特定のチーズに対する発行停止措置も別途行われている。 

6 削減係数に関する改正


 削減係数を適用して、 申請数量を一律に削減した場合、 従来は係数が 0.8未満
であれば、 申請を取り消して、 保証金の返還を受けることができた。 ところが96
年6月以降、 この係数の条件が0.8未満から0.4未満に変更になった。 例えば、 7
トンの輸出枠を確保しようとする場合、 削減係数の適用を見越して10トン程度申
請したとする。 予想に反して適用された削減係数が0.5の場合、許可量は5トンと
なる。 5トンでは商売にならないので申請を取り消そうとしても、 保証金は返還
されない。 保証金を無駄にしたくなければ申請は取り消せなくなる。 

 この改正理由について、 EU委員会は 「輸出実績がガット数量シーリングに満た
なくても、 その差を翌年度に持ち越すことができない。 このため、 削減係数を使
ってシーリングぴったりに配分しても、 申請を取り消されてしまっては意味がな
くなる。 したがって、 申請の取り消しを防止する目的で改正を行った。」と説明し
ている。 名称も 「削減」 係数から 「配分」 係数に改正された。 しかし、 こういっ
た理由の他に、 保証金返還の条件を強化することで、 思惑による過剰申請を自主
的に抑制させようとする意図があることは否定できない。 なお、 この改正後はじ
めて使用された配分係数は0.13であった。 

7 輸出補助金の削減/撤廃


 95年7月以降、 チーズ輸出補助金の削減/撤廃が次々と行われた(表8)。 この
中で、 チーズ輸出の中心を占める 「その他の国(日本を含む)」 向けの補助金単価
についてみると、 ガット合意開始直前と比べて、 エメンタールが34%、 チェダー
が29%、 エダムが41%、 それぞれ引き下げられた。 しかしながら、 世界的にチー
ズ需要が好調なことと米ドル高とが相まって、 これまでのところ、 EUの輸出状況
に大きな変化はみられない。 しかし、 今後のさらなる輸出補助金の削減や、 為替
レートの動向如何によっては、 国際市場におけるEUのシェアに影響が及ぶことも
予想される。 

 輸出補助金単価の削減スピードを見ると、 単年度の金額シーリングの履行とい
うにはあまりにも急速で、 同シーリングと補助金の支出実績にはかなりの差が出
ているものとみられる。 この削減スピードは、 ガット合意に基づく輸入国の関税
引き下げスピードを遙かに上回っている。 

 ついては、 このことによる輸入価格の上昇により需要が減退することで、 補助
金付き輸出数量の抑制効果が期待されているが、 輸出補助金単価を削減するだけ
では直接的な効果はない。 有効な手段としては、 特定国向けの輸出補助金の撤廃
がある。 EU乳製品部門運営委員会では、 次の条件を勘案し、 特定国について輸出
補助金を削減/撤廃してきた。 

1)輸出補助金削減、 撤廃による価格上昇を負担するだけの経済力があること

2)輸出補助金削減、 撤廃により、 その地域へのEUからの輸出がなくなってしまわ
 ないこと

3)EU加盟国が平等に影響を受けること

 昨年3月以降ノルウエー、 カナダ、 ニュージーランド、 オーストラリアなど1
2の国や地域について輸出補助金が撤廃された。 さらに、 大市場である米国等に
ついても検討されている。 以下この動きについて述べたい。 

 (1) 米国向け輸出補助金の撤廃の動き

 米国向け輸出補助金の撤廃案は、 ガット初年度にデンマークやオランダから提
案された。 米国を主要輸出国とするフィンランド等は反対しているが、 これを除
くと、 米国は、 先に述べた輸出補助金削減/撤廃の条件を満たしている。 これま
でのところ、 撤廃にまでは至っていないが輸出補助金は大幅に削減されてきてい
る (表8)。 なお、 米国をターゲットとしている理由として「過酷なウルグアイラ
ウンドを押しつけた米国に対しては (税金を使って安く)供給しなくても良い」と
の声さえも聴かれる。 

 輸出補助金を削減してもEUからの輸出がなくならないとする根拠には、 米国の
経済力の他、 EU産米国向け輸出チーズについては、 いわゆる‘元祖’とか‘本家’
といった伝統的チーズとのイメージがあるので、 代替がきかないとする見方があ
る。 しかし一方では、 伝統を売り物にする製品にも、 輸入原料を用いて米国内で
製造されたものが出回っており、 これらは確実に価格競争に左右されることから、 
先行きを危ぶむ見方もある。 

 どちらの見方が正しいかはやがて明らかになるが、 いまのところ輸出補助金削
減にもかかわらず、 米国向けの輸出は順調であり、 1996年は前年を上回ったと発
表されている。 順調な輸出は、 昨年夏の米国内におけるチーズ価格の上昇、 米ド
ル高、 補助金の大幅削減以前に発行された輸出許可証 (補助金単価の事前確定証
明書) の利用が原因とみられる。 

 したがって、 輸出補助金削減の影響は今後に持ち越されているが、 これもドル
高の影響でかなり相殺されると予想されている。 こうしてみると、 偶然ともいえ
る要素もあるが、 これまでのところ米国向けの輸出補助金カットは功を奏してい
る。 

表8:チーズ輸出補助金単価の推移

 対象としたチーズは関税分類406のうちプロセスチーズ(3031950)、エメンタ
ールチーズ(9013900)、チェダーチーズ(90219900)、エダムチーズ(90239900)、
フェタチーズ(90319119)

(注):これ以降、チーズの種類にかかわらず、当該国向けチーズの輸出補助金
    は撤廃

 (2) 日本向け輸出補助金の撤廃の動き

 昨年後半、 EU乳製品部門運営委員会や関係団体の会議の席上、 日本向けの輸出
補助金を廃止すべきとの提案がフィンランドからなされた。 提案の理由は 「ガッ
トシーリングの履行には、 輸出許可証の発行停止や輸出補助金単価の削減よりも、 
輸出補助金の撤廃国を設けることが最も効果的である。 その点日本は、 チーズの
大量かつ純輸入国であり、 購買力もあり、 さらに、 関税を引き下げれば輸出補助
金廃止の影響も相殺される」 というものである。 フィンランドの主要輸出市場は
米国であり、 明らかに米国向け輸出補助金撤廃の動きへの対抗措置である。 その
後、 この動きは沈静化しているが、 米国向けの輸出補助金削減が着実に進む中、 
次のターゲットとして日本が再び浮上する可能性がなくなったわけではない。 関
係者からは、 次のような声も聴かれる。 「ガットシーリングの履行に当たり、今後
ぎりぎりの選択を迫られた場合、 EU委員会は次のような見解を取る可能性がある。 
すなわち、 日本をターゲットにすれば、 ただ一カ国について輸出補助金を撤廃す
るだけで、 大量の補助金付き輸出枠を捻出できる。 また、 原料用のバルクものチ
ーズについて、 オセアニアとはもう競争にならないので、 限られた輸出補助金を
使って、 より付加価値の高い商品を近距離の地域に供給したほうが得策であると
考えられる。」 

 また、 デンマークのチーズ輸出関係者は、 1996年下半期の日本向けチーズ価格
交渉を振り返って、 価格決定の主導権が既にオセアニアに移ったとの感想を漏ら
している。 

 日本は、 これまで輸出補助金により域内価格に比べ、 かなり安価にEU産チーズ
を輸入してきたが、 仮に輸出補助金が撤廃された場合には、 輸入価格は、 大幅に
上昇するとみられる。 

 (3) スイス向けチーズ

 EUとスイスとの間では、 1994年に発足した欧州経済地域 (EEA)の枠組みの中で、 
チーズの関税割当の導入、 輸入課徴金の削減等の交渉が行われていた。しかし、 1
992年12月にスイスが国民投票でEEAへの参加の拒否を決定したため、 交渉は振り
出しに戻った。 その後、 EUとスイスとの2国間で交渉が再開され、 96年7月から
一部の国境措置に関する合意が実施に移されている。 

 この合意によりスイス側は、 特定のチーズについて関税を撤廃あるいは削減す
ることになった。 ただし、 EU側が同様の措置を講ずることが前提である。 

 EU側は、 スイスがこれまでに関税を削減または撤廃してきた品目に加え、 今後
削減あるいは撤廃する品目について、 同様の措置を取ることとなった。 

8 輸出補助金交付対象チーズの成分条件の追加


 昨年11月から、 輸出補助金の交付対象のチーズの条件に、 新たに最高水分含有
量と最低乳脂肪含有率が追加された。 したがって、 最高無脂乳固形分含有量も規
定されたこととなる (表9)。 

表9:輸出補助金交付対象チーズの新条件について


 厳しいガット数量シーリングの下で、 水分にも輸出補助金を出すかのごとき基
準は改善すべきとの意見が強くなり、 改正に至ったものである。 

9 輸出補助金算定方式の抜本的改正


 本年2月に、 乳成分に応じて輸出補助金単価を算定するといった内容のチーズ
輸出補助金制度の画期的な改正が行われた。 これにより、 従来不透明であった単
価決定に一定のルールができたことに加え、 実際面では単価の削減につながった。 
新たな算定方式は次のとおりである。 

 (1) 基本的考え方

 エダムチーズの輸出補助金単価と乳成分を基準として、 チーズの成分単価を乳
脂肪約1.6ECU/kg (230円/kg)、 無脂乳固形分約1.2ECU/kg (172円/kg)と設定
した。 この単価と、 各チーズの成分 (表9) から、 補助金単価を算定することと
している。 

 さらに、 乳固形分が55%以上の場合は10%、 60%以上では15%、 65%以上では
20%を算定額に上乗せしている。 

 実際の単価決定に当たっては、 算定結果が従来の輸出補助金単価よりも高い場
合は据え置き、 低い場合に限って改正した。 

 (2) その他

 プロセスチーズや粉チーズについては、 上記の算定方法に従って算定した値の
70%を基準として設定された。 

 東欧諸国向けの単価は、 その他の国向けの単価の67%に設定された。 なお、 米
国向けについては、 上記の算定によらず、 従来の70%に設定された。 

 (3) 影響

 結果的に輸出補助金単価は据え置きもしくは引き下げとなった。 算定基準に用
いられたエダムチーズはゴーダチーズと並んでオランダの主力輸出商品であり、 
また、 ゴーダチーズも輸出補助金カットを免れたため、 オランダにはとっては概
ね好結果といえる。 一方、 デンマークの主力商品のフェタチーズは最大で−20%、 
マリボーは最大で−13%、 イタリアの主力商品のパルメザン等は−16%、 英国の
主力商品のチェダーは−8%となっている。 なお、 これまで大幅に削減されてき
たプロセスチーズの輸出補助金については、 今回の新算定方式では他に比べて削
減幅は少なかった。 

10 プロセスチーズの輸出補助金交付条件の変更


 EUでは、 輸出向けプロセスチーズの原料に輸入チーズを使用する場合、 この原
料チーズの輸入に当たっては関税が免除される措置が取られている (以下 「加工
貿易措置」 という。)。 

 従来、 この加工貿易措置の下に生産したプロセスチーズの輸出については、 輸
出補助金は適用されてこなかった。 しかしながら、 EU委員会は本年1月、 加工貿
易措置の下に製造された輸出用プロセスチーズであっても、 域内産原料部分につ
いては輸出補助金を交付することを決定した。 

 例えば、 輸入チーズ、 域内産チーズ/バター/脱脂粉乳を原料としてプロセス
チーズを生産したとする。 このプロセスチーズを輸出しようとする場合、 チーズ
に含まれる輸入チーズ部分は輸出補助金の対象外であるが、 域内産チーズ/バタ
ー/脱脂粉乳部分は対象となることとなった。 さらに、 補助金付きチーズ輸出と
見なされるのは域内産チーズのみであり、 バター/脱脂粉乳部分については補助
金付きバター/脱脂粉乳輸出に区分することとなった。 

 この改正により、 プロセスチーズの輸出に関して、 価格競争力は維持しつつも、 
補助金付き輸出を削減することが可能となる。 さらに、 増加が予想される域外産
チーズの輸入を利用し、 域内チーズ関連産業の維持を図ることも可能となる。 

 この措置を利用することにより、 輸出プロセスチーズ7万トンのうち、 1万4
千トンがバター、 7千トンが脱脂粉乳の補助金付き輸出に見なされ、 補助金付き
チーズとしての輸出はわずか1万4千トンにカットされるとの予想も出ている。 

11 終わりに


 世界貿易機関 (WTO)の理念からすれば、 輸出補助金は撤廃の運命にあるといえ
よう。 この場合、 昨年のEU産の主要なプロセス原料用チーズ (関税分類0406.90、 
TQ枠外) の日本の平均輸入価格が約420円/kgであったことからすると、 関税 (3
3.3%) および輸出補助金 (約100円) を考慮すれば、 輸入および国産のプロセス
原料用チーズの価格差は、 かなり接近してくると考えられる。 

 一方で、 EU産日本向けチーズ輸出量の変化、 国際価格の上昇、 日本のチーズ需
要の動向の変化にも少なからず影響が及ぶことになろう。 こういった意味からも、 
今後のEUのチーズ輸出補助金政策の動向は大いに注目されるところである。


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