牛の個体識別および牛肉の表示規則を制定 (EU)



● 牛肉に対する消費者の信頼回復を期待


 EU農相理事会は、 3月19日、 牛の個体識別および牛肉の産地等の表示に関する 規則を決定した。 この規則の制定により、 牛の生い立ちを特定することが可能と なるとともに、 牛海綿状脳症(BSE) 問題に起因して関心が高まった、 牛肉の安全 性について、 消費者の信頼を回復できるものと期待されている。

● 耳標やパスポートによる個体識別


 今回決定された、 牛の個体識別規則の主要な項目は次のとおりである。 1 耳標による個体識別  98年以降生まれた牛は、 各国獣医当局が認定した耳標を両耳に装着する。 耳標 には国別、 出生農場および牛自身のコード番号を表示する。 耳標の装着時期は牛 の生後30日以内 (2000年以降は20日以内) とし、 実際の装着時期は加盟国が定め る。 2 パスポート  各国の獣医当局は、 牛の出生が届けられた後、 14日以内にパスポートを発行す る。 また、 牛がEU域内を移動する際には、 移入側の獣医当局は、 移出側にそれま での牛のパスポートを返却し、 新たにパスポートを発行する。 3 各農家の義務  農家は、 牛の個体登録状況を常に更新する義務を負う。 また、 個体登録状況の データベース完了後は、 牛が出生、 移動または死亡した場合、 15日以内 (2000年 以後は5日以内) に獣医当局に報告する義務を負う。 4 牛の個体情報のデータベース化  2000年までに各国が整備するものとする。 各牛のデータベースには、 個体コー ド番号、 性別、 品種、 母牛コード番号、 牛が飼養された全農場のコード番号、 出 生日、 移動日、 死亡日、 処分年月日が登録される。 また、 各農場のデータベース には、 農場のコード番号と農家の住所氏名が登録される。

● 牛肉には出生場所やと畜場所などを表示


 また、 牛肉の表示規則では、 以下の項目が表示されることとなった。 1 牛の出生場所 2 牛の育成期間 3 牛のと畜を行なった国または施設名 4 牛の性別、肥育方法や飼料関係、と畜年月日などが登録されているコード番号  ただし、 牛肉の表示規則の制定に当たっては、 その実施時期を2000年まで延期 することができることや、 国産牛肉を国内で販売する場合の表示規則の適用を加 盟国の判断に任せることなどの、 緩和・適用除外措置が盛り込まれている。 なお、 輸出国が未実施の期間において、 輸入国側から表示を求めることはできないこと になっている。  これらの措置が取られたのは、 BSE の多発国であるイギリスが、 原産地表示を 行なうことにより、 逆に国産牛肉離れを助長しかねないとの懸念から強く反対し たのに対して、 フランスなどは逆に、 消費者の信頼回復を急ぐため、 早急な導入 を求めたことから、 その妥協が図られたことによるものである。

● EU委員会、 政策決定の審議プロセスで農相理事会を提訴


 EU委員会は、 今回の牛の個体識別および牛肉の表示規則の法案審議に当たって は、 農相理事会とEU議会が共同審議するプロセスを提案した。 これは、 EU委員会 が過去の BSE問題の処理の仕方において、 牛肉業界の立場に寄りすぎるとの非難 を受けたことに対し、 消費者層を含めた幅広い意見を代表する議会を規則制定に 実質的に加えようとする意図によるものであった。 しかしながら、 最終的には、 農相理事会は、 単独で制定するプロセスを選択した。 これは、 農相理事会が、 重 要な政策決定に議会が参加する前例を作ることを嫌ったことによるものとみられ る。  このため、 EU委員会は、 この農相理事会の姿勢に反発し、 今回の規則の審議プ ロセスについて欧州裁判所への提訴を決定した。 なお、 その判決に至るには2年 は必要とみられるが、 今のところ、牛の個体識別および牛肉表示規則の施行日(97 年7月1日) への影響はないものとみられている。
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