遺伝子組み換え食品の表示問題で揺れる食品業界 (豪州)



● 世界的に賛否両論


 遺伝子組み換え農産物の安全性に対する消費者の関心が高まるのに伴い、 世界 的にその食品への表示問題が大きな議論となっている。  遺伝子組み換え農産物・食品に関する議論の構図は、 大まかには、 生産・加工 及び行政サイド対消費者・環境保護派という形になっている。 前者は、 これらの 産品は通常産品と同等であり、 安全性は確保されているので特段の表示は必要な いとの立場をとっている。 一方、 後者は、 (例えば牛海綿状脳症 (BSE)のように) 現在の科学水準で安全であっても将来的にも安全であると保証されたものではな く、 安全なものを求めようとする消費者には知る権利と選択の自由があるので表 示すべき、 また環境破壊につながる危険性から生産を厳しく制限、 あるいは禁止 すべきというものである。 このため、 議論は平行線をたどっている感があるが、 すでに欧州ではいくつかの国が表示の義務化、 輸入・生産の禁止などの動きを見 せている。

● 政府機関ガイドライン案を発表


 豪州では、 この問題に関しては、 今年2月初めに、 各種食品の安全性に関する 基準の作成・勧告等を行う政府機関 (Australia New Zealand Food Authority) が、 遺伝子組み換え食品の販売を原則禁止するとともに、 個別事例ごとに安全性 が確認され、 公聴会を経て承認されたものは例外的に販売可能とし、 また、 原料 として遺伝子組み換え農産物を5%以上を含む食品はその旨を表示することを義 務付けるという非常に厳しいガイドライン案を公表した。  このガイドライン案に対して、 豪州の大手食品加工メーカーが中心となって組 織した食品加工業界の中央団体である豪州食品評議会 (AFC)は、 遺伝子組み換え 技術によって生産された農産物・食品が通常のものと同等の栄養価、 組成である と認められれば表示は必要ないと主張している。 一方、 消費者団体は、 当該案の 表示規則等に大きなぬけ穴があるとコメントしており、 この案は両サイドから批 判を浴びている。

● 最終決定までには時間を要する模様


 上記のガイドライン案が最終的に決定されるまでにはまだ数カ月を要するとみ られているが、 このような中で、 先頃、 小規模の健康食品メーカーが自社の豆乳 に遺伝子組み換え大豆を使用していない旨の表示を行う計画を発表するなど、 加 工サイド内部に足並みの乱れも見られた。 たとえ、 表示が義務化されなくても、 一旦表示を行えば、 消費者からの要求がさらに強まり、 すべての食品に波及する ことを懸念するAFCは、 この企業に計画の再考を促している。  この問題は、 食品の製造サイドと消費者が情報・意見交換により理解・認識を 深め、 顧客ニーズとしての (任意の) 表示の在り方、 その場合のコスト負担など、 時間をかけた対話が必要だと思われる。
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