96年の穀物生産量が上方修正される (中国)



● 1千万トン上方修正で前年比5%の増産を達成


 国家統計局は、 先ごろ、「1996年国民経済と社会発展に関する統計公報」 を公表 した。 その中で、 96年の糧食 (穀物 (食用+飼料用) に、 全体の1割前後の大豆・ イモ類を含む) の生産量を、 2年連続の記録更新となった今年初めの集計値であ る480百万トンを、 さらに10百万トン上方修正して、 490百万トンとした。 その結 果、 対前年比では、 5%の増産を記録したことになる。  なお、 中国の長期経済計画では、 2000年の糧食生産量目標を500〜490百万トン としているが、 96年の 「大豊作」 によって、 中国は長期計画よりも4年も早く、 その目標を達成したことになる。

● 政府は生産者対策として国家買付け量を増加


 このように、 史上最高であった前年生産実績を5%上回ったことから、 特に、 主要飼料穀物のトウモロコシの主産地である東北地方では、 販売・流通処理しき れない余剰分を生じ、 一部では、 貯蔵施設不足と価格低迷現象がみられるように なった。 これは、 糧食については、 近年ではその約3分の2は、 生産者が自ら流 通市場で販売する仕組みになっている (政府買付けは150百万トン前後か)ことや、 かねてから指摘されていた、 流通インフラの未整備から生じたものである。  このため、 中央政府は、 流通・貯蔵システムの整備に積極的に取り組む方針を 打ち出すとともに、 「即効性」 を念頭において、国家買上げ用資金を十分用意する よう地方政府を指導するなどの対策を講じた。 なお、 政府の積極姿勢を反映して 公的買付けは急増し、 今年第1四半期の買付け量は 118.5百万トンと、 前年同期 に比べて約25%増加している。

● 需給逼迫の解消でトウモロコシの輸出を再開


 今回の統計公報では、 穀物の品目別内訳は示されていないが、 トウモロコシに ついては、 早くも昨年末には、 前年より約5百万トン以上増えて、117百万トンを 超える (対前年比+5%) との予想が出されていた。 しかしながら、 今回の上方 修正や、 「近年にない好収穫」 (現地農業関係者) との情況判断を考慮すれば、 当 初予想をさらに上回る収穫が得られる可能性がある。 また、 そうした供給増加を 反映して、 トウモロコシの97年1月の全国平均価格 (農業部調べ) は1,230元/ トン (1元=約15円) と、 前年同月に比べて約27%下落している。 なお、 最大の 生産地帯である東北3省 (黒龍江、 吉林、 遼寧省) の単純平均価格は全国平均を 下回っているが、 前年同月に比べても約30%低落している。  この需給状況の軟化を象徴するかのように、 94年末から停止されていたトウモ ロコシの輸出商談が今年初めから再開されており、 今年第1四半期に実際に輸出 された量は、 既に24万トン (通関統計) に達している。

● 食肉の増産計画を支えるに十分な穀物の連続的増産


 連続豊作がもたらした糧食需給事情の大幅な改善を反映して、 ここ2年ほど国 内外でホットな論争となってきた、 世界の食料需給における 「中国の脅威」 議論 は、 現在ではほぼ沈静化している。 そうした状況下で、 近年の 「穀物不足」 の主 因とされた食肉生産の急増との関係についてみると、 2000年の長期目標である5, 200万トンは、 96年実績で既に5,800万トンと大幅に超過達成しており、 飼料穀物 の消費急増が窺える。 しかしながら、 95年の豊作の効果で、 この間にトウモロコ シの価格は低下している。  そうした中、 中央政府は、 食肉生産における穀物消費の低減を指導する一方で、 今年1月の中央農村工作会議では、97年の食肉生産目標を前年比7%増の6,200万 トンとした。 これについて、 過去の需給展開の例に照らせば、 昨年の連続豊作の 効果によって、 穀物需給への圧迫を生じることなく、 今年の食肉目標が達成され る余地は十分であると考えられる。

● 春穀物に若干懸念あるも、 飼料穀物への影響は軽微


 最後に、 97年の生産動向についてみると糧食の約4分の1を占める春収穫穀物 (6月までに収穫するもの) については、 昨年末の作付け意向面積が前年比2.2% 増と、 好調な滑り出しを示した。 その後の作柄等に関する詳細なデータは得られ ていないが、 春収穫穀物の主要生産地帯である北部地域では、 一部で水不足傾向 が出ており、 今後、 その作柄への影響に注目すべきである。 しかしながら、 春収 穫穀物の中心を占める小麦は、 元来乾燥への抵抗力が強いことなどから、 水不足 の影響は、 今のところ軽微なものにとどまるものと見込まれている。  また、 小麦は大部分が食用であるが、 仮に供給不足が拡大しても、 食生活の向 上などにより、 トウモロコシへの大規模な需要シフトが起こることは考え難い。 したがって、 現在でも輸入が続いている (第1四半期:35万トン) 小麦は、 仮に 供給不足が発生しても輸入拡大で対処することになることはほぼ確実で、 トウモ ロコシ中心の飼料穀物への代替需要は軽微なものにとどまるものと考えられる。
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