海外駐在員レポート 

EUにおける豚肉の民間在庫補助制度と輸出補助金制度の概要について

ブラッセル駐在員 池田 一樹、 東郷 行雄



 本レポートでは、 EUの豚肉産業の価格支持制度の中心的役割を果たしている民
間在庫補助制度の仕組みを紹介するとともに、 ガット・ウルグアイラウンド合意 
(UR合意) に基づく補助金付き輸出数量の削減が実施に移されている中での最近
の豚肉の輸出補助金制度の動向について報告する。 

1. EUの豚肉市場価格支持制度について



 豚肉の価格支持制度の円滑な運営のためには、 域内15カ国の市場価格の動向を
把握することが求められる。 EUでは介入買い入れや民間在庫補助制度の発動の基
準となる 「基本価格」 が設定されており、 この基本価格に対して各国の代表的な
家畜市場における取引価格である 「参考価格」 が各国平均、 EU平均として算出さ
れ、 発動の際の目安となっている。 

(1) 基本価格 (Basic Price) 

 基本価格は、 生産者の望ましい利益を確保するとともに、 生産過剰につながら
ない安定した市場が形成される水準を前提に設定される。 毎年、 農相理事会にお
いて価格パッケージの一部として決定され、 7月1日からスタートする年度に適
用される。 96/97年度基本価格は、 前年度据え置きで150.939ECU/100kgと設定
されている。 

(2) 参考価格 (Reference Price) 

 参考価格は、 域内豚肉市場の市況を表す最も代表的な価格である。 EUの参考価
格は各加盟国の指定市場 (と畜場) で形成された豚枝肉価格 (=参考価格) の加
重平均価格として算出される。 

 なお、 各加盟国は、 これら国内で形成される豚肉価格等について、 EU委員会へ
毎週報告することとなっている。 

◇図:EUにおける最近の基本価格と参考価格の推移◇

 

2. 民間在庫補助制度とその運用状況等について



(1) 民間在庫補助制度とは

 民間在庫補助制度の発動用件は、 介入買い入れの発動の際と同じ要件となって
おり、 EUの参考価格が基本価格の103%を下回り、 またその状況が継続される場
合に、 供給過剰となっている豚肉を市場から一時的に引き上げ、 価格の回復を図
ることを目的として発動できることとされている。 しかし、 これまでの発動は、 
参考価格が常に基本価格を大きく下回っていたことから、 EU委員会の豚肉部門運
営委員会による域内の需給動向を勘案した上での判断によるところが大きい。 

 EU委員会が、 域内の豚肉価格低迷の際に、 介入買い入れより民間在庫補助を採
用する理由としては、 (1)保管後の豚肉を放出する際、 民間の判断に委ねた方が
市場価格への影響をより少なく放出することが可能であること、 (2)保管されて
いる豚肉が自己名義であることから、 品質の保持にも最大の関心を払えること、 
(3)補助対象者が一定の契約条件の範囲内ではあるが、 自らの判断で、 特定の豚
肉、 保管期間の選択が可能であること、 (4)保管期間終了後の豚肉の処分が自由
であることなどが挙げられている。 

(2) 制度の根拠法

 この制度の根拠法として、 「豚肉の民間在庫補助のための一般規則を定めた理
事会規則 (2763/75)」 および 「豚肉の民間在庫補助のための細則を定めた委員
会規則 (3444/90)」 が規定されている。 これらの規則に基づいて、 各加盟国は
国内法を整備し、 国内における具体的な実施方法を定めている。 

 ここでは、 イギリスの介入機関であるインターベンションボードが、 この制度
のために作成した 「実施規則」 を中心にして、 民間在庫補助制度の概要を紹介す
ることとしたい。 

(3) 制度の仕組み

ア. 官報による告示

 EUの豚肉の参考価格が基本価格の103%を下回って推移した場合等、 域内の豚
肉価格の回復を図る必要があると認められる場合、 EU委員会の豚肉部門運営委員
会は民間在庫補助制度の発動を決定する。 

 この決定は、 EU官報 (Official Journal) に告示される。 告示される内容につ
いて、 95年11月の発動の際告示された官報 (95年11月24日付 「豚肉の民間在庫補
助の特別条件に関する委員会規則2722/95」) を例に取ると、 同官報には

(1) 今回の決定に基づく民間在庫補助制度の開始日 (発動日) を95年11月27日
  とすること。 

(2) 保管期間および対象となる品目ごとの補助単価を次の通りとすること。 (筆
  者注) 

 介入買い入れの際の補助金額の決定方法については、 理事会規則 「2763/75」 
において規定されている。 一つは官報に告示の上入札で決定する場合と、 この事
例のように前もって補助単価をEU委員会が決定の上、 告示される場合の2通りが
ある。 しかし、 通常は後者の方法が取られる。 

 このケースでは、 半丸枝肉を3カ月間冷凍倉庫へ保管 (搬入、 搬出、 保管等す
べての経費は契約者負担) すると、 1トン当たり278ECU (約3万5千円、 124円
/1ECUとして計算) の補助金が交付される。 この制度へ参加しようとする者は、 
この補助金額と実際にこの保管期間に自ら負担しなければならない経費を比較し
て参加を決めることとなる。 

 また、 保管期間の延長または短縮がなされた場合、 1日当たり、 または1月当
たりの単価が告示されており、 この単価に基づき補助金が計算されることになる。 

(1) 品目ごとの最低契約数量を骨抜きの場合10トン、 その他の場合15トンとす
  ること。 

(2) 契約保証金の額を補助金総額の20%とすること。 

(3) 輸出のための保管期間の短縮規定は適用しないこと。 

 EU委員会規則 「3444/90」 では、 EU域外への輸出を前提として契約保管期間満
了前に、 保管倉庫から対象豚肉を搬出することができることとされているが、 こ
の告示ではこの規定を適用しないこととしている。 

表1:EU委員会規則「2722/95」に基づく補助単価

イ. 各国介入機関と食肉取引業者との間の契約締結

 EU委員会により民間在庫補助制度が発動されると、 各加盟国の介入機関は、 契
約相手方となる一定の資格を有する食肉取引業者と、 当該制度の実施に係る契約
を締結する。 契約の単位は、 官報に告示された最低契約数量を満たすものでなけ
ればならない。 

 契約内容の概要は次の通りである。 

(1) 対象となる製品

・と畜前の少なくとも2カ月間はEU域内で飼養され、 保管開始前10日以内にと畜
  されたものであること。 
・保管される食肉は、 生鮮で正常品であること。 
・放射能の含有率が一定レベル以下であること。 
 (対象となる豚肉は、 生鮮の状態で重量が計測され、 冷凍で保管される。) 

(2) 食肉取引業者の資格

・家畜、 食肉部門で少なくとも12カ月間事業を継続している個人または法人で、 
  かつ当該加盟国当局により登録されていること。 
・保管対象となる豚肉のための適切かつ利用可能な保管施設を当該加盟国内に有
  していること。 

(3) 契約の内容

・搬入、 保管する豚肉が条件に見合った適切なものであることの契約者 (食肉取
  引業者) による宣言
・保管される豚肉の品質に関する記述
・保管倉庫への搬入の期限
・保管期間
・重量単位当たりの補助金額
・契約保証金額
・保管期間の短縮、 延長に関する条項

(4) 契約上の義務

・契約者は、 自らの責任と負担において契約に係る豚肉を一定の期限まで保管す
  ること。 
・契約に定められた保管期間、 保管数量により豚肉を保管すること。 
・保管期間中の保管豚肉を加工してはならないこと。 
・保管豚肉を他の製品と交換してはならないこと。 
・保管豚肉を他の保管倉庫へ移動してはならないこと。 
・倉庫業者、 介入機関に対し搬入、 搬出に係る情報を提供すること。 
・保管豚肉のロット (荷口) 単位の識別が容易であること (保管パレットごとに
  ロットのマーク付け、 搬入日、 契約番号、 総重量が表示されていること)。 
・保管されている個々のカートン (ピース) ごとに、 生鮮状態時のネット重量、 
  契約番号、 内容に関する記載、 国の機関等による保管豚肉の記録や確認のため
  の調査を認める旨の記述が記載されているラベルを貼付すること。 

ウ. 契約保証金の納付

 食肉取引業者は、 契約の締結に当たり交付対象となる補助金総額の20% (EU規
則では、 30%を上回らない範囲となっているが、 今回の発動では20%と規定され
ている) を、 現金、 銀行振込、 支払保証付き小切手または保証書のいずれかの方
法により提出する。 

 保証金は、 契約上の要件を果たし補助金の受給資格が満たされた場合に解除さ
れる。 

エ. 豚肉の保管倉庫への搬入

(1) 豚肉の保管倉庫への搬入は、 契約締結後28日以内に完了しなければならな
  い。 

    搬入が28日を超えた場合、 超過10日間までは契約を無効とせず、 契約保証
  金が没収される。 

 (超えた時点で、 契約保証金の15%を没収、 以後超過日1日ごとに8.5%を没収
  する。) 

(2) 補助金の算定基準となる生鮮 (冷蔵) 時のネット重量の計測は、 

・豚肉が凍結される保管倉庫において
・凍結施設が保管倉庫とは別の場所にある場合は、 凍結施設において
・骨抜き豚肉の場合は、 除骨を行う食肉処理施設において
・と畜場で発行された重量表示に係る書類によって、 行われる。 

(3) 契約上の保管開始日は、 当該契約に基づく最終ロットが保管倉庫へ搬入さ
  れた日の翌日とする。 

(4) 搬入された豚肉の重量が、 契約重量を下回っている場合、 下回った割合に
  応じ補助金は減額される。 

    なお、 豚肉の保管重量が契約重量の80%を下回った場合は、 補助金の交付
  対象とならず、 契約保証金も全額没収される。 

オ. 保管状況の確認

(1) 加盟国は、 しかるべき機関を指定の上 (イギリスの場合は、 MLC:英国食肉
  家畜委員会)、 当該機関による豚肉の保管状況のチェックを行う。 

(2) 契約者は、 チェック機関の求めにより、 個々の契約ごとに、 すべての関係
  書類および保管豚肉に関する次の項目が確認できるようにしなければならない。 

・保管豚肉の所有者
・保管倉庫への搬入日
・保管豚肉のカートン (ピース) 数、 重量
・保管豚肉の荷姿等

(3) 契約者または倉庫業者は、 保管豚肉に関して、 個々の契約ごとに次の項目
  が確認できるようにしなければならない。 

・契約対象である保管豚肉の識別
・倉庫への搬入日および保管期間の最終日
・半丸枝肉数、 カートン (ピース) 数、 重量
・倉庫内の保管場所

(4) 保管状況確認のためのチェックは次の時点で行われる。 

・保管倉庫への搬入が完了した時点によるチェック (契約条件に適合しているか
  どうかをチェックするが、 終了後保管豚肉にシールが貼付される場合もある。) 
・保管期間中における、 事前の通告なしの中間チェック
・保管期間最終週におけるチェック

 これらのチェックに要する費用は契約者の負担となる。 

カ. 実施状況のEU委員会への報告
 各加盟国は、 本制度の実施状況について、 次の情報をテレックス、 またはファ
ックスによりEU委員会へ報告する。 

(1) 毎週、 月曜日と木曜日:契約締結した保管豚肉の数量
(2) 毎週、 木曜日までに:前の週の契約締結に係る保管期間ごとの品目別数量
(3) 毎月:品目ごとの倉庫への搬入数量
(4) 毎月:品目ごとの保管数量および保管期間終了となった品目毎の数量
(5) 毎月 (保管期間が短縮または延長された場合):改訂された保管期間ごとの
  品目別数量等

キ. 保管期間について

 保管期間は、 通常4カ月といわれているが、 これまでの発動では3カ月から8
カ月の間でその都度設定されており、 95年11月に発動されたこの例では3カ月お
よび4カ月の保管期間となっている。 

(1) 契約上の保管開始日は、 当該契約に基づく最終ロットが保管倉庫へ搬入さ
  れた日の翌日となる。 

 (例:1月15日に搬入が完了した場合、 保管開始日は1月16日となる。) 

(2) 保管期間が終了して、 倉庫からの搬出が可能となるのは、 保管終了日の翌
  日となる。 

 (例:10月27日保管開始、 保管期間6カ月の場合、 保管終了日は翌年の4月27日
  で、 搬出が可能となるのは4月28日からとなる。) 

(3) 保管期間満了前の搬出について

 保管期間満了前の搬出 (輸出向けの搬出を除く) について、 イギリスの介入機
関は次のような事態を想定した規定を設けている。 

・保管豚肉が盗難にあった場合
・保管豚肉が食用として適格でなかったことから、 レンダリングされた場合

 これらの場合の補助金の計算方法は、 保管重量が契約重量を下回った場合の計
算方法に準拠して行われる (契約重量通りの搬入が行われた豚肉が、 保管期間中
に保管重量の15%に相当する豚肉について盗難にあった場合、 契約重量の85%し
か契約を履行できないこととなる。 この場合、 補助金は保管重量の2分の1しか
交付対象にならず、 また契約保証金の15%が没収されることになる。 ・・・コの
補助金の支払いについての項を参照)。 

ク. 保管豚肉の輸出のための搬出について

(1) EU委員会規則 「3444/90」 は、 保管開始後2カ月間の保管期間が終了した
  場合、 契約者は保管している豚肉の全部または一部について、 新たな加工をす
  ることなしにEU域外へ輸出することを条件として、 契約上の保管期間の満了前
  であっても保管倉庫から搬出することができるとしている (EU域外への輸出の
  他、 船舶、 航空機の食糧として、 また域内に置かれている国際機関や軍事基地
  への食糧供給もこの対象となる)。 また、 搬出された豚肉は60日以内に輸出さ
  れなければならない。 

(2) この場合、 契約上の保管期間は、 保管倉庫から搬出された日の前日、 また
  は搬出がなされていない場合輸出が許可された日の前日をもって、 終了する。 

(3) 補助金の総額は、 保管期間が短縮された割合に応じて減額される。 

(4) 95年11月に発動されたこの例では、 輸出のための保管期間の短縮を認めて
  いないことから、 上記の規定は適用されない。 しかし3カ月または4カ月の保
  管期間が終了すれば、 その後の処分は契約者の判断で自由であることから、 当
  然輸出も可能となる。 

 (参考) 

 この例では、 仮に保管期間満了前の輸出のための搬出が認められていれば、 95
年11月27日に開始されてから、 2カ月後の96年1月27日が2カ月間の最低保管期
間の要件を満たす日となることから、 翌1月28日からEU域外への輸出が可能とな
る。 しかし、 EU委員会はこの規定を適用しなかったことから、 最短でも輸出が可
能となるのは3カ月の保管期間終了後で2月28日からとなる。 96年3月からの日
本向け輸出量が急増した背景の一つといえる。 (表3参照) 

ケ. 契約の締結期限について

 民間在庫補助制度の契約締結の締め切り日 (発動の終了日) については、 同制
度の開始日と同様に官報により告示される。 

 EU委員会は、 同制度への過度な申し込みが生じる恐れが出たことから、 96年2
月9日付 「民間在庫補助制度の適用に関する特別条件を定める委員会規則 (249
/96)」 により、 同年2月10日から16日までの間のEU委員会規則 「2782/95」 の
適用の中止 (この間における参加申請書の受付中止) と、 同年2月9日付で提出
された同制度への参加申請書を拒絶する旨の官報を告示した。 

 その後、 EU委員会豚肉部門運営委員会の意見に基づき、 同制度の実施が豚肉市
場に良好な効果をもたらし、 豚肉価格の安定が見込めることとなったことを背景
として、 EU委員会は、  「豚肉の民間在庫補助制度の契約締結申請の締め切りに関
するEU委員会規則 (269/96)」 を官報に告示し、 契約締結の締め切りを96年2月
16日と決定した。 

 これにより、 96年2月16日までに契約締結が認められた対象豚肉について、 3
カ月または4カ月の保管期間終了後に補助金が交付されることになる。 

コ. 補助金の支払いについて

(1) 補助金の交付申請は、 契約保管期間終了後6カ月以内に、 契約相手方であ
  る介入機関へ提出しなければならない。 

(2) 介入機関は、 補助金交付申請書の受領後遅くとも3カ月以内に補助金を支
  払う。 

(3) 補助金は、 実際の保管重量に基づき計算される。 なお、 保管重量が契約重
  量を下回った場合、 その下回った割合に応じて次の補助金の減額等の取り扱い
  がなされる。 

<保管重量が、 契約重量の90%以上の場合>

 下回った割合に応じて、 補助金額が減額される。 

<保管重量が、 契約重量の80〜90%の場合>

 補助金は、 当該搬入重量の2分の1に対して支払われる。 また契約保証金につ
いても不足した割合に応じ没収される。 

<保管重量が契約重量の80%未満の場合>

 補助金の交付対象とならず、 契約保証金も全額没収される。 

(4) 保管重量が契約重量を上回っている場合は、 その上回っている部分は補助
  の対象とならない。 

 なお、 保管期間が3カ月を超えた後、 契約者は一定の担保を提供した上で、前
払金を請求することができる。 

(4) 制度の運用状況等

ア. 発動に関する動きと発動の時期について

 現在、 デンマークをはじめとしてEU主要豚肉生産国は、 EU委員会に対し民間在
庫補助制度の発動を要請している。 EU委員会は今のところこの要請を受け入れて
いないが、 日本への輸出が事実上ストップしている現在の域内の豚肉需給動向等
からすれば、 発動の可能性は高いものとみられ、 やはりその場合前回発動 (95年
11月〜96年2月) の場合と同様に保管豚肉の日本への輸出を視野に入れて決定す
ることが考えられる。 

 発動の場合、 EU委員会は日本のセーフガード (SG) 措置が解除される時期を考
慮に入れて決定するものと思われる。 しかしながら、 仮にこの解除される時期を
97年7月とした場合、 1カ月間の日本への輸送に要する期間を考慮し、 発動によ
る保管期間を3ないし4カ月とすると、 一つの選択肢としては2月中の発動が考
えられるが、 このケースは後述するようにドイツ、 オランダで発生した豚コレラ
により大量の豚肉の買い上げが実施されることになり、 域内の豚肉需給動向に影
響することが必至とみられたことから2月中の発動は見送られている。 

 また、 保管開始後2カ月を経過した時点で輸出のための早期搬出の規定が適用
される場合は、 発動のタイミングは2月よりさらに遅らせることが可能であり、 
この場合は3月が発動の目安となろう。 

 しかし、 EU委員会は現在、 日本のSGシステムに関し世界貿易機関 (WTO) にお
いて日本政府との二国間協議中であり、 またEU側がこの協議を要請した背景の一
つとして、 EUから日本への月間の輸出量が極めてアンバランスになることを指摘
(月ごとの輸出量が、 SGが発動されていない94年の場合は年間輸出量の5.7%から
11.3%の間で推移していたものが、 SG発動下であった95年は、 同0.2%〜28%と
ぶれが大きくなり、 96年はさらにそのぶれが大きくなるとみられ、 混乱をきして
いる・・・2月11日付EU RAPID REPORT) している。 今回の発動が日本への輸出
を想定して発動されるとなると、 保管対象となった豚肉の集中的な輸出が行われ
ることとなり、 EUとしてもアンバランスな輸出に一部加担していると受け取られ
かねない恐れもある。 

 また、 EUの民間在庫補助制度が日本を含む域外への輸出を前提に発動された場
合、 第三国への輸出に間接的にしろEUの補助金が使用されることになり、 UR合意
に違反するのではないかという指摘も一部からでており、 こうした状況の中での
今回の民間在庫補助制度の発動は、 EU委員会にとって難しい選択を迫られそうで
ある。 

イ. オランダ等の豚コレラ問題と発動との関連

 97年に入りドイツ、 オランダの主要生産地域で発生した豚コレラに関し、 防疫
上の措置とは別に、 EU委員会は両国併せて95万頭に上る介入買入れを決定したほ
か、 さらにオランダはこのほかに80万頭の同様の介入買入れも発表した。 

 これらが実施に移されると、 EUの豚肉需給動向に影響を与えることは必至とみ
られ、 この民間在庫補助制度の発動そのものに関しても見直しが必要になってく
ることも考えられる。 

ウ. 最近の豚肉輸出に関する動向について

 最近におけるEU産豚肉の域外輸出に関する動きを整理してみた。 

 まず、 95年についてであるが、 この年はUR合意実施がスタートした年であり、 
EUからの主要な豚肉の輸出先であった日本がこの合意に基づき初めて95年11月か
ら96年3月までの間のSGを発動した。 この間域外への主要な輸出先を失ったEUの
豚肉は、 同年11月に開始された民間在庫補助制度 (翌年の2月まで実施) により
一時的に吸収され、 SG解除後の4月以降の日本への輸出に仕向けられたものとみ
られる。 

 また、 続く96年には、 同年3月に発生した牛海綿状脳症 (BSE) 問題により牛
肉から豚肉への代替需要が生じ豚肉価格が高騰したことから (7月に再び日本側
のSGが発動され域外への輸出量が減少したものの) 、 域内の豚肉需給がタイトに
なった結果、 豚肉の仕向先が域外から域内指向へ変わって豚肉の輸出圧力が低減
され、 民間在庫補助制度の発動に至らなかったものとみることができる。 これは、 
この間の豚肉の輸出補助金が 「0」 (ゼロ) に改定されたという政策面からも裏
付けられる。 しかし、 牛肉消費の回復に伴い豚肉需給が緩和してきた年末には、 
デンマークから発動要請が出されている。 

 97年に入ると、 主要国による民間在庫補助制度の発動要請をはじめ、 日本のSG
が6月まで継続されることが確実視される中で、 1月から2月にかけて発生した
豚コレラ問題に対する市場介入措置として豚肉の大量買い上げが決定されたこと
から (これら買い上げの対象となった豚肉は食用として供されない)、 これをき
っかけとして再び域外への輸出圧力が弱まる方向に働くことも考えられる。 

 このように、 EU委員会にとっては加盟各国からの民間在庫補助制度の発動要請
が強まってきていた中での域内の当面の需給調整が、 昨年のBSE問題に続いて、今
度は豚コレラという予期せぬ問題の発生により部分的にしろ需給ギャップの解消
が図られることとなる意外な展開も予想される。 

 (参考) 

 EU委員会規則 「2722/95」 に基づき、 95年11月から96年2月までの間に実施さ
れた民間在庫補助制度の実施状況は次の通りである。 

表2:民間在庫補助制度への国別品目別申し込み数量および承認数量

(注)1.ドイツ市場価格情報センター(ZMP)調べ(単位:トン)
   2.( )内は承認数量
   3.このうち、保管機関を3ヶ月とするもの:31,471トン(71%)
               4ヶ月とするもの:12,864トン(29%)

表3:保管豚肉の倉庫からの搬出計画(96年3月13日現在で取りまとめられたもの)
注)1.ドイツZMP調べ(単位:トン)
   2.民間在庫補助制度へ申し込みのあった保管豚肉について、96年3月13日時点で倉庫からの搬出計画 
     が把握できた範囲で作成されたものである。倉庫からの搬出時期は、保管開始日により特定できるが、
     契約者がいつの時期に搬出を行うかということに焦点を置いてこの制度を利用したかを見る上で興味
     深い。
   3.下段のEUの豚肉輸出量は、保管豚肉の搬出計画との比較をするために、EU(デンマーク)からの日
     本を含む域外への輸出量を示した。
     95年は、EU15カ国からの3月〜6月間の域外向け及び日本向けの豚肉(関税コード「0203」)
     の輸出量である。また、96年はEU15カ国の貿易統計が未公表のため、デンマークからの同期間に
     おける域外向け及び日本向けの輸出量とした。


表4:最近の豚肉の民間在庫補助発動実績

(注)1.MLC、BER資料
   2.( )内は、保管期間(月)

 

3. 豚肉の輸出補助金制度とその運用状況等について



(1) 制度の概要

 EU域内の輸出業者が、 豚肉の市場価格がEU水準を下回るEU域外諸国への特定の
豚肉輸出を行う場合、 国際市場におけるEU産豚肉の競争力を持たせるため、 輸出
補助金制度が適用される。 輸出補助金は、 EU委員会の豚肉部門運営委員会におい
て通常3カ月ごとに設定されるが、 市場の状況によりいつでも変更することが可
能となっている。 しかし、 近年輸出補助金が本来の目的から外れて政治的要因に
より決定されることが多くなる等の中で、 その後のUR合意に基づき、 95年7月か
ら輸出補助金の水準や対象となる豚肉の数量が制限されることとなった。 

(2) ガット合意に基づく豚肉の輸出補助金の削減約束

●表●

(3) 輸出ライセンス制度の導入について

ア. 導入の経緯

 UR合意に基づき、 輸出補助金の対象数量、 総額の削減約束を履行するために、 
95年7月1日から従来任意であった輸出ライセンスの取得が義務付けられた。 こ
れにより、 輸出補助金が事前に決定された輸出ライセンスを取得した者以外は輸
出補助金制度の対象とならなくなった。 輸出ライセンス制度導入については、「豚
肉部門における輸出ライセンス制度の導入のための細則を定めたEU委員会規則(1
370/95)」 に規定されている。 

イ. EU委員会規則 「1370/95」 の概要

(1) 輸出ライセンスの有効期間は、 発行の日から発行月の2カ月後の最終日ま
  でとする。 

(2) 輸出ライセンスは毎週月曜から金曜の間に申請ができる。 申請者は少なく
  とも12カ月間豚肉の貿易に携わっている者でなければならない。 

(3) 輸出ライセンスは、 申請日の翌週の水曜日に発行される。 

(4) 輸出ライセンスの取得に当たっては保証金を提出しなければならない。 保
  証金の額は、 品目ごとに定められている。 

   ・保証金の例:半丸枝肉や骨付きのハム、 ロイン等部分肉は、 3ECU/100kg
                 当たり。 ベリーは同2ECUとなっている。 

(5) 輸出ライセンスの発行が、 通常の輸出量を上回る恐れがある場合は、 EU委
  員会は次の措置を取ることができる。 

・削減係数の設定による申請数量の削減
・未審査の輸出ライセンスの発行拒否
・最高5日間 (必要に応じ延長が可能) の輸出ライセンスの申請受付の一時停止

(6) 削減係数が80%未満で設定された場合、 官報に当該削減係数が告示された
  後11日間は輸出ライセンスは発行されない。 告示から10日目までの間に、 申請
  者は申請を取り下げるか、 当局が必要と認める場合において早急な発行を要請
  することができる。 

(7) 申請者は、 申請数量が25トン以下の場合、 早急な輸出ライセンスの発行を
  要請することができる。 

(8) 輸出ライセンスの譲渡はできない。 

(4) 制度の運用状況等

(1) 輸出補助金は、 ほぼ3カ月ごとに改定されるが、 表5の通り96年に入って
  からは頻繁な改定が行われている。 

    輸出補助金は、 本来EU域内における余剰農産物の国際市場へのはけ口とし
  て、 国際市場における競争力を持たせることを狙いとした制度といえるが、 96
  年に行われた頻繁な引き下げ改定は、 この狙いとは反対に同年3月に端を発し
  たBSE問題の影響により、 牛肉消費が激減しその代替として豚肉消費が増え、域
  内の豚肉価格がデンマークでは過去5年間の最高値を記録するなど高水準に推
  移したことから、 豚肉の仕向先を域外への輸出から域内市場へ誘導する必要が
  生じたためとみられる。 

    特に、 6月から12月にかけての6カ月間は、 加工品等を除く豚枝肉、 部分
  肉の輸出補助金リスト上のすべての品目の輸出補助金が 「0」 になったことは
  注目に値する。 

(2) 95年におけるEUから日本への豚肉輸出量 (関税コード 「0203」) は、 141,12
  0トンとなっているが、 このうち関税コード 「02032955」 (ベリーを除く骨抜き
  冷凍部分肉) の品目が占める量は135,298トンと、 全体の96%を占めておりこ
  の品目に輸出が集中している。 

(3) 関税コード 「02032955」 (ベリーを除く骨抜き冷凍肉部分肉) の輸出補助金
  は、95年2月1日付適用の輸出補助金リストでそれまでの7ECU/100kgから「0」 
  に改定され、 同4月25日適用分からはこの品目そのものがリストから撤廃され
  現在に至っている。 この撤廃は、 補助金付き輸出数量をUR合意に基づく削減約
  束数量の範囲内に納めるための措置の一環といえるが、 見方を変えるとこの品
  目が撤廃の対象となりやすかった背景があったということもできる。 

表5:豚肉の輸出補助金の推移
(豚肉)

(豚肉加工品、食肉調整品)

資料:EU官報「2346/96」、EUROSTAT
(注)1.単位:ECU/100s、」(豚肉)の表にある品目はすべて冷凍品
   2.(豚肉)(豚肉加工品、食肉調整品)ともにEUから域外諸国及び日本
     への輸出量は、95年の数値。
   3.(豚肉)の表中( )内の数値は、EUから域外諸国への輸出量にしめ
     る日本向け輸出量の割合。
   4.(豚肉加工品、食肉調整品)の表中関税コード(上4ケタ)の主な品
     目は次の通り
      「0210」は塩蔵、塩漬けし、乾燥またはくん製した豚肉
      「1601」はソーセージ等
      「1302」は豚肉等の食肉調整品
   5.EU官報に記載される輸出補助金対象リストは、上記関税コード8ケタ
     の他に、さらに品目を区分した。
     3ケタのプロダクトコードが付加されているが、輸出量との関係上関
     税コード8ケタの品目を使用した。
   6.この後、97年2月18日適用の輸出補助金リストにおいて、関税コード
     「16010099」(ホットドッグ等)および「16024919」(ランチョン
     ミート等)の輸出補助金が「0」に改訂されている。

 

4. おわりに



 現在、 EUの豚肉の自給率は、 100%をやや上回る水準となっているが、 加盟国
別にはデンマークのように自給率が400%を超え日本等域外輸出に活路を求めて
いる国がある一方で、 オランダのように輸出の大半を域内向けとしている国があ
る。 また、 ドイツのようにEUの豚肉生産量の2割を占める最大の生産国でありな
がら自給率は8割を下回り、 周辺国から大量の子豚を輸入している国があるなど
その実態は一様ではないものの、 EUの豚肉産業は加盟国間で相互に補完しあう域
内自給型産業という見方ができる。 

 また、 消費面においては、 豚肉はEUの食肉消費量全体の4割を占め、 牛肉、 家
きん肉と比較してもその消費量は2倍となっているなど、 食生活に占めるウェイ
トは極めて高い。 

 しかし、 こうした豚肉・養豚産業に対するEU委員会の政策的関与は、 同じ畜産
である牛肉産業や酪農産業と比較するとそれほどの重みは持っていない。 現在、 
豚肉の共通市場制度の下では、 直接的な価格支持対策として介入買い入れ制度と
民間在庫補助制度が設けられているが、 介入買い入れ制度については特殊な事例
を除いて近年ほとんど発動されていないのが実状であり、 これらの制度は、 基本
的には養豚産業が持つ周期的な需給変動に対応するためのものであるといえよう。


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