増産基調が続く食肉生産 (中国)




● 10%伸びた96年の食肉生産量



 1月末に国務院 (内閣に相当) が招集した中央農村工作会議では、 96年の食肉
の総生産量速報値 (畜種別内訳は未公表:2月末現在) は、 5千8百万トンと報
告された。 95年の総生産量が5千3百万トン弱であることから、 96年の実績は前
年を10%強上回っている。 また、 4年連続で二ケタ台の増産を記録したことにな
る。 

 近年中国では、 改革・開放による経済成長に伴う所得の向上に触発されて、 食
肉の需要が増加し、 それに刺激される形で食肉生産も急増した。 その結果、 93年
には国民一人当たり食肉供給量が30kgを超え、 96年では我が国の水準 (約45kg:
平成7年) を上回る、 48kgとなっている。 また、 94、 95年と連続で前年比117%
と急増したことや、 95年には、 今世紀末目標の5千2百万トンを既に上回ったこ
とから、 関係者の間では、 96年の生産量がどの程度になるのかに、 早くから関心
が集まっていた。 そうした状況下においても二ケタ台の 「成長」 を維持したこと
は、 食肉の生産現場では、 依然として根強い増産意欲が続いていることを窺わせ
る。 

<食肉生産量、主要食肉のシェアの推移>

(注)資料:93〜95年の統計は中国統計年鑑

 

● 豚肉価格は弱含み、 鶏肉は堅調、 牛肉は低調



 また、 4年連続の10%を超える増産傾向の下で、 91年→96年の5年間の比較で
みると総生産量は85%も増加している。 そうした供給急増の状況下で、 主要食肉
の価格動向は、 全体の2割弱を占める家きん肉価格 (鶏肉でみると) が堅調であ
るのに対して、 7割を占める豚肉価格は弱含み、 また8%前後を占める牛肉価格
は低調に推移している。 

<主要食肉の96年12月の価格動向>


 次に、 畜種別の市場動向をみると、 

(1) 全体の7割を占める豚肉は、 その圧倒的 「普及度」 の故に、 生産急増の影
  響を吸収できるだけの需要の伸びがなく、 95年には早くも価格低落が顕著とな
  った。 その結果、 同年夏には出荷調整や豚肉の調整保管が行われた。 現在でも
  市場価格は低迷から完全には脱し切っておらず、 96年12月下旬価格は、 依然と
  して2年前の水準以下である。 

 (参考:94年12月下旬 成都市場 10.2元/kg 上海市場 10.7元/kg) 

(2) 家きん肉は、 近年、 豚肉以上の生産伸び率を示している。 鳥肉は、 中国で
  は一般にハレの食材的な意味合いがありかつ消費シェアも小さかったことから、 
  所得向上により需要が急伸し、 生産急増により価格への影響を吸収していると
  いえる。 なお、 ブロイラーを中心に輸出が好調 (96年の冷凍家きん肉輸出量は
  約25万トン (通関統計) で、 対前年比+50%超) であることも、 価格下支えの
  要素となっている。 

(3) 牛肉は、 近年、 家きん肉をさらに上回るペースで生産が急増した。 家きん
  肉よりも、 さらに消費シェアが小さいため、 所得増大による需要刺激効果が極
  めて大きかったことから、 95年までは、 価格は概ね堅調に推移してきた。 とこ
  ろが、 消費の急伸が沿海部に偏っていることから、 全体としては、 その後次第
  に生産急増の影響を吸収することが困難となり、 96年には下落に転じたものと
  考えられる。 

● 97年は抑制気味ながら7%の増産目標



 そうした中、 先の中央農村工作会議では、 97年の食肉の生産目標が6千2百万
トンに設定された。 これは、 96年の生産実績に比べると、 約7%の増加に相当す
る。 この目標水準は、 近年の食肉生産の趨勢から判断すると、 表面的には、 抑制
気味の目標設定ということができる。 しかしながら、 その伸び率は決して低い水
準ではなく、 かつ一人当たり供給量も50kgを超えることから、 必ずしも順調局面
にない食肉の市場価格への影響が注目される。 台湾の同供給量が約76kg (95年) 
であることからすれば、 中国人の食生活の上では、 まだ吸収の 「余地」 が大きい
と考えられる。 しかしながら、 (1)経済が一時の加熱状況を脱して安定成長に転
換しつつあること、 また、 (2)これまでの消費の伸びが急激であったことの反動
等から、 需要の伸びが増産分を吸収できるか否かが、 97年の市況動向を予測する
上での焦点となりそうだ。 

● 政府は品質向上と市場整備に取り組む



 政府は、 直接的な需給調節対策として、 豚肉では、 95、 96年に、 公的組織を通
じて出荷調整や調節型備蓄保管を実施した。 これに対して、 食肉の消費・流通対
策としては、 (1)品質・規格の向上や衛生面での改善・規制強化に乗り出すなど、 
「供給潤沢後」 の消費者対策を打ち出すと共に、 (2)生産・流通・消費の各部門で
の情報不足を、 過剰出荷や市況乱高下の主因の一つと捕らえ、 卸売市場整備と市
場情報の公開に優先的に取り組む方針を既に明らかにし、 一部は既に実行に移さ
れている。 しかしながら、 こうしたソフト面での関連対策が、 実際に効果を表す
には、 時間が必要である。 したがって、 97年の増産による市況圧迫の状況如何ん
によっては、 肉類の輸出圧力が、 一層高まることもあり得ると考えられる。 

● 増産目標を支える95、 96年の穀物連続豊作



 近年の穀物需給の逼迫は、 食用需要の増加と共に、 食肉生産の急増による飼料
用消費の急増によりもたらされたものであるとされる (94年の不作も一要因)。 
しかしながら、 穀物生産が、 95、 96年と2年連続の豊作となったことから、 需給
の逼迫は、 (小麦を除いて) 今のところ大幅に解消している。 特に、 飼料穀物の
中心を占めるトウモロコシについては、 96年は5百万トンを上回 (5%前後の増
産) る増産となった模様で、 世界の穀物関係者の間では、 近いうちに輸出国に転
ずるとの観測がなされているほどである。 

 こうした需給事情をベースとして、 97年の食肉生産と穀物需給との関係を予測
すると、 次のとおりである。 すなわち、 10%増産となった食肉生産 (96年) の大
部分を賄った95年産穀物は、 前年に比べて4.8%の増収であった。 また、 97年の
食肉生産を賄うべき96年産穀物は、 95年に比べて約3%の増収であった。 このこ
とから、 97年には、 食肉の増産が目標の7%程度に収まれば、 飼料穀物の需給逼
迫が再び起こることは、 あまり想定できないと考えられる。 


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