◇絵でみる需給動向◇
EU委員会は、 先般、 「穀物・油糧種子・たん白質作物に関する現状と見通し」 と題するレポートを公表した。 これは、 92年に行われた共通農業政策(CAP) 改革 に関し、 特に穀物関連分野に絞ってその政策効果と長期的な見通しを総合的に評 価したものである。 同委員会は、 この中で、CAP改革が穀物の介入在庫数量を4年 間で3千2百万トンから2百4十万トンへと大幅に減少させたことを大きく評価 する一方で、 制度の複雑化等、 同改革が生起した新たな問題点も自ら指摘してい る。 また、 EUの農業関係者も、 これらの問題点や改革の効果等について、 一斉に 厳しい批判を寄せている。
EU委員会が自ら認めたCAP改革の問題点の第一は、制度の複雑化である。 穀物の 休耕制度は、 CAP改革以前に比べ、 休耕補償の適用タイプ、休耕違反に対する罰則 規定、 作目別の休耕補償料等の区分が大幅に多様化し、 行政手続きも極度に繁雑 化した。 また、 同じ休耕地でもかんがい設備の有無等で補償料支払いの設定が異 なる場合があるなど、 制度の適用に関する一貫性の欠如も指摘されている。
また、 CAP改革が環境保護の観点から粗放化を目指したにもかかわらず、休耕面 積に応じて補償が行われたことから補助金が大規模生産者に集中し、 1戸当たり 農地面積が拡大するなど、 逆に集約化を進める結果となった。 EUの農業関係者は、 このことを厳しく批判している。 これに対し、 EU委員会は、 大規模生産者がより多くの補助金を受けたことを認 めているが、 従来の価格支持制度の下では不透明だった農業補助の実態が、 新た な所得補償制度の下で顕在化したにすぎないと、 やや開き直った弁明を行ってい る。 しかし、 一方では、 同委員会も、 広大な耕作地を所有する裕福な農業者が多額 の補助金を受理するような制度は、 社会的な支持を失いつつあると記述するなど、 制度の根本的な問題点にも言及している。 ちなみに、 EU全体では、 農家純所得に 占める補助金の割合は、 93年の45%から96年には59%に上昇した。
さらに、 EUの農業関係者は、CAP改革の最大の目的である需給調整も、 現行の休 耕制度のままでは不十分だと批判している。 ちなみに、 今回のEU委員会の長期見 通しでは、 98/99来年度以降、 17.5%の最大休耕率を適用したとしても (97/98 年度は5%)、 EUの穀物耕作地面積は現状より5.7%減少するにすぎず、 2005/06 年度には、 生産性の向上により生産量が逆に5.9%増加すると見込んでいる。さら に、 UR合意で輸出が制限され、 域内の需要も伸び悩むことから、 同年度には、 介 入在庫が現在の20倍以上の5千8百万トンに達するとしている。 EU委員会による今回のレポートは、 今後の制度改革論議のたたき台になると思 われるが、 自ら厳しい指摘を行ったこともあって、 その動向が注目されている。
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